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第五章 闇ギルドと猫耳の姫君(プリンセス)
第十四話「獣人国」
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アルタニス大陸の北東部に位置する【ヌオロ獣王国】は、大陸で4番目に大きな領土を有する国だった。
その国は、名前が示す通り、獣人が支配する国だったが、その成り立ちは複雑だった。
一言で獣人と言っても、その種族は多種多様を極める。
かつて獣人族は大陸のあちこちに種族ごとの集落を形成し、山で狩猟生活を主とするものもいれば、水棲の種族は水辺の近くで漁などをしながら暮らしていた。
また、その姿は同じ種族の中でも個体差があり、人族と見た目がほとんど変わらない顔をしているものもいれば、頭は完全に動物のそれというものもいた。顔が人族と変わらないものも頭には基本獣耳があったし、体は比較的人族のそれと大差なくしっぽの有無がある程度だった。
そういう意味では、人族も含め人種の一形態という見方は出来るのである。
だが当初、人族は獣人族を人種と認めず、魔物と同類とみなしていた。
従って、獣人を見つければすぐさま討伐隊を組まれて追い立てる、もしくは最悪の場合集落皆殺し等という事が各地で行われた。
個人の身体的能力は、人族よりも獣人族が勝っていたが、技術力や何よりもその個体の総数を含めた総合力は圧倒的に人族が上であった。
各地に散らばっていた獣人族は、次第に追い立てられ、大陸の北方へと逃れた。
人族が国家を形成し、覇権を争うようになってからも、獣人族は人族の共通の敵として討伐対象である事は変わらなかったのである。
原因の一つは、言葉の問題があった。
人族は、それぞれの地域や国で使う言語が異なったが、大陸共通で使う共通語も存在した。
当然、獣人族にも独自の言語はあったが、そもそも人族は獣人族が言葉を使っている事を知らなかった。
また、獣人族はそれぞれ種族同士で言語が異なり、獣人族同士での意思疎通も困難であった。
その為、獣人族は人族だけでなく、他の獣人族とも争う事となり、更にその数を減らしていったのであった。
獣人族の運命も風前の灯と思われたその時、一人の獣人が立ち上がった。
彼の名はハキームと言い、獅子人族のとある族長の息子だった。
幼い時より聡明を謳われ、どちらかと言えば力がモノを言う獅子人族にあって、彼は頭脳で皆を敬服させていた。
ハキームは常々獣人族が置かれている現状を憂え、何とか改善出来ないかを考えて、ある時ついに行動を開始する。その時、彼はまだ16歳だった。
ハキームがまず行ったのは、族長である自分の父親も巻き込み、いくつかの部族に分かれていた獅子人族を一つの勢力にまとめ上げた事である。
過去にも部族をまとめる動きはあったが、それは力による他部族征服であり、結果複数の部族に大きな被害を出すのみで成功した事は無かった。
ハキームは武力ではなく、獣人族の置かれている危機的状況を各部族で話し、現状を打破し人族に対抗するためには獣人族の力を一つに纏めるしかないと熱く語った。
その実現の第一歩として、獅子人族の統一部族を作り上げようとぶち上げたのである。
初めは難色を示していた部族長達も、今の状態が続けばいずれはジリ貧であると感じていたため、不承不承協力する事に同意した。
その際、若干16歳のハキームが全体の代表者とされた。
これにより、獅子人族は獣人族の中で頭一つ抜けた力を持つ勢力に成長した。
次にハキームは他の獣人族へも対話による獣人族連合の設立を呼びかけた。
これに先立ち、ハキームは獅子人族以外の言葉を学び、自分の言葉で各獣人族の部族を回った。
時には口先で自分達を騙そうとする詐欺師と罵られる事もあったが、ハキームは臆する事なく自分の信念を語った。
この時ハキームが話したのは、大陸の北東方面にあるクヌート地方と呼ばれた未開地に獣人族の支配する国を作る、というものだった。
それまで他の部族を併呑して勢力を強めようと考える者はいたが、獣人族が治める国を作ろうと言ったのはハキームが初めてだった。
ハキームがこの地に獣人の国を作ろうとしたのにはいくつかの理由があった。
理由その1:結果として獣人が追い詰められた場所に近かった為、獣人族の参集を促しやすいと考えたから
理由その2:未開地で人族の手が入っていなかったから
理由その3:高い山々や、入江を持つ天然の漁場など、各獣人種族の生活環境を整えるための下地があったから
理由その4:地形が半島状態で大陸と繋がる部分が比較的狭く、敵が攻めて来た時に守りやすいと考えたから
他にも上げればいくつかの理由はあったが、大きくはこの4つが決め手となって彼の地に国家建設を行おうと考えたのである。
ただ、ハキーム以外の獣人達は、自分たちが国を作るという事を具体的にイメージ出来なかった為、当初この国を作ろという話は夢物語として捉えられ、各獣人族の反応は芳しくなかった。
しかしこの事態を激変させる出来事が起こった。
大陸北方にその頃存在した【ザキマ王国】という国がクヌート方面を自国の領土に組み入れようと、武力投入を行ったのだ。
【ザキマ王国】はその当時、大陸北方で比較的影響力のある国家だったが、あまり領土が大きくなかった事と、天然素材を手に入れる場所としてまだ未開地であった隣接地であるクヌート地方を併呑しようと画策したのだった。
この事に獣人族の各部族は大恐慌に陥った。
これまでの経験上、戦っても勝てる見込みは薄く、相手の軍隊に見つかれば討伐されるのは分かり切っていたが、既にここから逃れられる場所もなく、ただ座して死を待つのみという空気が全体を覆った。
この時、ハキームはすべての獣人族、全ての部族に檄を飛ばして共闘を訴えかけた。このまま座して死を待つよりも、自分たちの運命を変えるべく戦うべきだと。
更に、獣人族は決して人族に劣らない優秀な種族である事、この戦いを通じて獣人が魔物とは別物である事を人族に知らしめる事、そうする事が自分たちの未来を切り開く事になる事などを併せて強く働きかけた。
各部族はハキームの呼びかけに昼夜を問わず話し合いを続けたが、多くの部族では方針が決まらず時間だけが流れていった。
業を煮やしたハキームは、態度を決められない部族に決断を促すためある作戦を考える。
この時点でハキームの元には、自分の種族である獅子人族の他に協力を申し出ている部族が複数あった。
ハキームはその中から選抜隊を選りすぐり、敵へ奇襲作戦を敢行する事としたのだった。
選抜された人員はハキームも含めて100名。
だが、相対する【ザキマ王国】の軍隊は5000人を超える大軍であった。
人数の違いから自殺行為だと反対する意見が噴出したが、ハキームの考えた作戦はいわゆるゲリラ戦であった。
選ばれた獣人族はそれぞれの特性を活かし、神出鬼没にザキマ軍を脅かした。
夜襲に始まり、鳥人族による高高度からの岩落とし攻撃、森の中でのブービートラップなど。
それまで正規の軍隊が体験した事の無い攻撃を昼となく夜となく繰り返した。
ザキマ軍は何も無い未開地を占領するだけの簡単な仕事だったはずが、これまで味わったことのない種類の攻撃に晒され、その士気は日を追うごとに加速度的に低下した。
一方、ハキームの言葉に半信半疑だった各種族の責任者たちは、人間の軍隊を翻弄し打撃を与えていくハキーム達100人隊に快哉を送り、次々にハキームの元へ協力の申し出をしていった。
そして、ほぼ全ての部族がハキームの元に集まったのを機に、彼はザキマ軍へ最初で最後の決戦を挑むことにした。
それはその当時の人族の戦の作法に則った予告戦であった。
即ち、場所と時間を設定し決戦に臨むというもので、当然相手方への通告を必要とした。
ハキームはそれまでに習得した人族の大陸共通語を使って書面をしたため、鳥人族を使って敵軍陣地へ投下させた。
ザキマ軍は最初何がもたらされたのか分からなかったが、その中身を知るや始めある種の恐慌状態に陥り、その後怒りに猛り狂った。
つまり、今まで魔物の一種と考えていた連中が知性を持っていた事。
そして自分たち人族の言葉を使って人族の戦の作法に則り、自分たちに戦いを挑んできたこと。
そして、ここ暫くの自分達への攻撃が散発的なものではなく、体系だった作戦行動だったことを知ったためであった。
得体のしれない攻撃ならともかく、正面からのぶつかり合いであの獣どもに負けるわけがないと高を括ったザキマ軍は、バカな連中とあざけりながら決戦の場所へと進んだ。これまでのように神出鬼没の攻撃をすれば、あるいは自分たちを撃退できたかもしれないのに、身の程知らずにも正面決戦を挑んできた愚か者と皆が思っていた。
だが、その考えは決戦当日打ち砕かれる。
これまでに散々に打ちのめされていたザキマ軍はおよそ3500の兵力であったが、その地に集まった獣人族の兵力はそのおよそ10倍にも及んだ。
獣人は男女の別なく、個人の戦闘力は高い。そして、人族に比べ青年に達する年齢も早く、13歳で成人と扱われた。
その為、その時集まった兵力のうち、およそ半数は女性と成人間もない男女だったが、ザキマ軍にそれが分かろうはずもなく、勝負は一瞬で決着した。
戦いの中でザキマ軍の将軍も討ち死にし、軍は散り々になってその場を逃れた。
結局、この地を逃れて故国へ生還したものは3桁もいなかった。
この結果にザキマ王国内は大いに揺れ、更なる討伐隊を派遣する案も検討されたが、隣国の蠢動によりその案は却下された。
この事は、ハキーム達獣人にとっては幸運であった。
この戦いは【ハキームの戦い】と呼ばれ、獣人の中では知らぬものはいない英雄譚として語り継がれた。
また、ハキームと共に初めに戦った100人隊は【ハキームの100人隊】と呼ばれ、その後、獣人国を支える要としてそれぞれが重要な役割を与えられるのである。
戦いを終えた獣人達は、全ての部族の賛同の元、ハキームを王と頂き獣人国を建国する事を誓った。
この時、ハキームは全ての獣人達にある事を伝えた。
それは、自分たちは人族と争うために国を作るのではなく、人族と共存するために国を作る、という事だった。
始めこの事に反発する意見が無かったわけでは無いが、戦いは戦いを生む負の連鎖であり、これから獣人族が長く繁栄していくためには人族との協力が不可欠である事と併せて、獣人族に危害を加える存在に対しては断固として戦うというハキームの決意がが語られると、多くの部族と獣人達がこれを歓迎した。
これにより、この戦いの数日後には【ヌオロ獣人国】の建国が宣言された。
これに併せて、各国へは建国宣言書と国交樹立へ向けての交渉を行いたい旨の書面が大陸共通語で記されて送られた。
獣人が知性を持った種族であった事に各国は一様に驚きを隠さなかったが、その反応は様々で、今後の対応をどうするのか意見が割れる国が多かった。
そんな中、いち早く獣人国との国交交渉に臨む国が二つ存在した。
大陸最古の国の一つである【ティラーナ聖王国】と、その頃少しづつ影響力を増しつつあった【セントーリ教国】の二つである。
二国はハキームの元へ特使を派遣し、建国の祝いと今後の関係について話し合われ、あまり時を置かずに友好条約と交易条約を締結した。
この二国の対応が起爆剤となり、多くの国が獣王国との国交について交渉を行った。
だが、獣王国近隣の各国はむしろ逆の立場を取ったため、そこから暫くは獣王国に取って試練の年月が必要だった。
ただ、聖王国をはじめとするいくつかの友好国が出来たことも大きく作用し、その後の獣王国の発展を大きく助けるのである。
そして、獣人に知性がある事が分かった事で、別の問題が浮かび上がる。
それが奴隷の問題であった。
特に不法奴隷の問題は、その後長くそして大きな問題として横たわり、今も完全な解決には至っていない。
獣人国は確固たる地位を築いたが、人族と獣人族の真の相互理解はまだまだ道半ばであった。
その国は、名前が示す通り、獣人が支配する国だったが、その成り立ちは複雑だった。
一言で獣人と言っても、その種族は多種多様を極める。
かつて獣人族は大陸のあちこちに種族ごとの集落を形成し、山で狩猟生活を主とするものもいれば、水棲の種族は水辺の近くで漁などをしながら暮らしていた。
また、その姿は同じ種族の中でも個体差があり、人族と見た目がほとんど変わらない顔をしているものもいれば、頭は完全に動物のそれというものもいた。顔が人族と変わらないものも頭には基本獣耳があったし、体は比較的人族のそれと大差なくしっぽの有無がある程度だった。
そういう意味では、人族も含め人種の一形態という見方は出来るのである。
だが当初、人族は獣人族を人種と認めず、魔物と同類とみなしていた。
従って、獣人を見つければすぐさま討伐隊を組まれて追い立てる、もしくは最悪の場合集落皆殺し等という事が各地で行われた。
個人の身体的能力は、人族よりも獣人族が勝っていたが、技術力や何よりもその個体の総数を含めた総合力は圧倒的に人族が上であった。
各地に散らばっていた獣人族は、次第に追い立てられ、大陸の北方へと逃れた。
人族が国家を形成し、覇権を争うようになってからも、獣人族は人族の共通の敵として討伐対象である事は変わらなかったのである。
原因の一つは、言葉の問題があった。
人族は、それぞれの地域や国で使う言語が異なったが、大陸共通で使う共通語も存在した。
当然、獣人族にも独自の言語はあったが、そもそも人族は獣人族が言葉を使っている事を知らなかった。
また、獣人族はそれぞれ種族同士で言語が異なり、獣人族同士での意思疎通も困難であった。
その為、獣人族は人族だけでなく、他の獣人族とも争う事となり、更にその数を減らしていったのであった。
獣人族の運命も風前の灯と思われたその時、一人の獣人が立ち上がった。
彼の名はハキームと言い、獅子人族のとある族長の息子だった。
幼い時より聡明を謳われ、どちらかと言えば力がモノを言う獅子人族にあって、彼は頭脳で皆を敬服させていた。
ハキームは常々獣人族が置かれている現状を憂え、何とか改善出来ないかを考えて、ある時ついに行動を開始する。その時、彼はまだ16歳だった。
ハキームがまず行ったのは、族長である自分の父親も巻き込み、いくつかの部族に分かれていた獅子人族を一つの勢力にまとめ上げた事である。
過去にも部族をまとめる動きはあったが、それは力による他部族征服であり、結果複数の部族に大きな被害を出すのみで成功した事は無かった。
ハキームは武力ではなく、獣人族の置かれている危機的状況を各部族で話し、現状を打破し人族に対抗するためには獣人族の力を一つに纏めるしかないと熱く語った。
その実現の第一歩として、獅子人族の統一部族を作り上げようとぶち上げたのである。
初めは難色を示していた部族長達も、今の状態が続けばいずれはジリ貧であると感じていたため、不承不承協力する事に同意した。
その際、若干16歳のハキームが全体の代表者とされた。
これにより、獅子人族は獣人族の中で頭一つ抜けた力を持つ勢力に成長した。
次にハキームは他の獣人族へも対話による獣人族連合の設立を呼びかけた。
これに先立ち、ハキームは獅子人族以外の言葉を学び、自分の言葉で各獣人族の部族を回った。
時には口先で自分達を騙そうとする詐欺師と罵られる事もあったが、ハキームは臆する事なく自分の信念を語った。
この時ハキームが話したのは、大陸の北東方面にあるクヌート地方と呼ばれた未開地に獣人族の支配する国を作る、というものだった。
それまで他の部族を併呑して勢力を強めようと考える者はいたが、獣人族が治める国を作ろうと言ったのはハキームが初めてだった。
ハキームがこの地に獣人の国を作ろうとしたのにはいくつかの理由があった。
理由その1:結果として獣人が追い詰められた場所に近かった為、獣人族の参集を促しやすいと考えたから
理由その2:未開地で人族の手が入っていなかったから
理由その3:高い山々や、入江を持つ天然の漁場など、各獣人種族の生活環境を整えるための下地があったから
理由その4:地形が半島状態で大陸と繋がる部分が比較的狭く、敵が攻めて来た時に守りやすいと考えたから
他にも上げればいくつかの理由はあったが、大きくはこの4つが決め手となって彼の地に国家建設を行おうと考えたのである。
ただ、ハキーム以外の獣人達は、自分たちが国を作るという事を具体的にイメージ出来なかった為、当初この国を作ろという話は夢物語として捉えられ、各獣人族の反応は芳しくなかった。
しかしこの事態を激変させる出来事が起こった。
大陸北方にその頃存在した【ザキマ王国】という国がクヌート方面を自国の領土に組み入れようと、武力投入を行ったのだ。
【ザキマ王国】はその当時、大陸北方で比較的影響力のある国家だったが、あまり領土が大きくなかった事と、天然素材を手に入れる場所としてまだ未開地であった隣接地であるクヌート地方を併呑しようと画策したのだった。
この事に獣人族の各部族は大恐慌に陥った。
これまでの経験上、戦っても勝てる見込みは薄く、相手の軍隊に見つかれば討伐されるのは分かり切っていたが、既にここから逃れられる場所もなく、ただ座して死を待つのみという空気が全体を覆った。
この時、ハキームはすべての獣人族、全ての部族に檄を飛ばして共闘を訴えかけた。このまま座して死を待つよりも、自分たちの運命を変えるべく戦うべきだと。
更に、獣人族は決して人族に劣らない優秀な種族である事、この戦いを通じて獣人が魔物とは別物である事を人族に知らしめる事、そうする事が自分たちの未来を切り開く事になる事などを併せて強く働きかけた。
各部族はハキームの呼びかけに昼夜を問わず話し合いを続けたが、多くの部族では方針が決まらず時間だけが流れていった。
業を煮やしたハキームは、態度を決められない部族に決断を促すためある作戦を考える。
この時点でハキームの元には、自分の種族である獅子人族の他に協力を申し出ている部族が複数あった。
ハキームはその中から選抜隊を選りすぐり、敵へ奇襲作戦を敢行する事としたのだった。
選抜された人員はハキームも含めて100名。
だが、相対する【ザキマ王国】の軍隊は5000人を超える大軍であった。
人数の違いから自殺行為だと反対する意見が噴出したが、ハキームの考えた作戦はいわゆるゲリラ戦であった。
選ばれた獣人族はそれぞれの特性を活かし、神出鬼没にザキマ軍を脅かした。
夜襲に始まり、鳥人族による高高度からの岩落とし攻撃、森の中でのブービートラップなど。
それまで正規の軍隊が体験した事の無い攻撃を昼となく夜となく繰り返した。
ザキマ軍は何も無い未開地を占領するだけの簡単な仕事だったはずが、これまで味わったことのない種類の攻撃に晒され、その士気は日を追うごとに加速度的に低下した。
一方、ハキームの言葉に半信半疑だった各種族の責任者たちは、人間の軍隊を翻弄し打撃を与えていくハキーム達100人隊に快哉を送り、次々にハキームの元へ協力の申し出をしていった。
そして、ほぼ全ての部族がハキームの元に集まったのを機に、彼はザキマ軍へ最初で最後の決戦を挑むことにした。
それはその当時の人族の戦の作法に則った予告戦であった。
即ち、場所と時間を設定し決戦に臨むというもので、当然相手方への通告を必要とした。
ハキームはそれまでに習得した人族の大陸共通語を使って書面をしたため、鳥人族を使って敵軍陣地へ投下させた。
ザキマ軍は最初何がもたらされたのか分からなかったが、その中身を知るや始めある種の恐慌状態に陥り、その後怒りに猛り狂った。
つまり、今まで魔物の一種と考えていた連中が知性を持っていた事。
そして自分たち人族の言葉を使って人族の戦の作法に則り、自分たちに戦いを挑んできたこと。
そして、ここ暫くの自分達への攻撃が散発的なものではなく、体系だった作戦行動だったことを知ったためであった。
得体のしれない攻撃ならともかく、正面からのぶつかり合いであの獣どもに負けるわけがないと高を括ったザキマ軍は、バカな連中とあざけりながら決戦の場所へと進んだ。これまでのように神出鬼没の攻撃をすれば、あるいは自分たちを撃退できたかもしれないのに、身の程知らずにも正面決戦を挑んできた愚か者と皆が思っていた。
だが、その考えは決戦当日打ち砕かれる。
これまでに散々に打ちのめされていたザキマ軍はおよそ3500の兵力であったが、その地に集まった獣人族の兵力はそのおよそ10倍にも及んだ。
獣人は男女の別なく、個人の戦闘力は高い。そして、人族に比べ青年に達する年齢も早く、13歳で成人と扱われた。
その為、その時集まった兵力のうち、およそ半数は女性と成人間もない男女だったが、ザキマ軍にそれが分かろうはずもなく、勝負は一瞬で決着した。
戦いの中でザキマ軍の将軍も討ち死にし、軍は散り々になってその場を逃れた。
結局、この地を逃れて故国へ生還したものは3桁もいなかった。
この結果にザキマ王国内は大いに揺れ、更なる討伐隊を派遣する案も検討されたが、隣国の蠢動によりその案は却下された。
この事は、ハキーム達獣人にとっては幸運であった。
この戦いは【ハキームの戦い】と呼ばれ、獣人の中では知らぬものはいない英雄譚として語り継がれた。
また、ハキームと共に初めに戦った100人隊は【ハキームの100人隊】と呼ばれ、その後、獣人国を支える要としてそれぞれが重要な役割を与えられるのである。
戦いを終えた獣人達は、全ての部族の賛同の元、ハキームを王と頂き獣人国を建国する事を誓った。
この時、ハキームは全ての獣人達にある事を伝えた。
それは、自分たちは人族と争うために国を作るのではなく、人族と共存するために国を作る、という事だった。
始めこの事に反発する意見が無かったわけでは無いが、戦いは戦いを生む負の連鎖であり、これから獣人族が長く繁栄していくためには人族との協力が不可欠である事と併せて、獣人族に危害を加える存在に対しては断固として戦うというハキームの決意がが語られると、多くの部族と獣人達がこれを歓迎した。
これにより、この戦いの数日後には【ヌオロ獣人国】の建国が宣言された。
これに併せて、各国へは建国宣言書と国交樹立へ向けての交渉を行いたい旨の書面が大陸共通語で記されて送られた。
獣人が知性を持った種族であった事に各国は一様に驚きを隠さなかったが、その反応は様々で、今後の対応をどうするのか意見が割れる国が多かった。
そんな中、いち早く獣人国との国交交渉に臨む国が二つ存在した。
大陸最古の国の一つである【ティラーナ聖王国】と、その頃少しづつ影響力を増しつつあった【セントーリ教国】の二つである。
二国はハキームの元へ特使を派遣し、建国の祝いと今後の関係について話し合われ、あまり時を置かずに友好条約と交易条約を締結した。
この二国の対応が起爆剤となり、多くの国が獣王国との国交について交渉を行った。
だが、獣王国近隣の各国はむしろ逆の立場を取ったため、そこから暫くは獣王国に取って試練の年月が必要だった。
ただ、聖王国をはじめとするいくつかの友好国が出来たことも大きく作用し、その後の獣王国の発展を大きく助けるのである。
そして、獣人に知性がある事が分かった事で、別の問題が浮かび上がる。
それが奴隷の問題であった。
特に不法奴隷の問題は、その後長くそして大きな問題として横たわり、今も完全な解決には至っていない。
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勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
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色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
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