黒猫の王と最強従者【マキシサーヴァント】

あもんよん

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第五章 闇ギルドと猫耳の姫君(プリンセス)

第十三話「方針」

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イリスの長い独白が終わったのは、夜半を少し過ぎたぐらいだっただろうか。

目の前でユラユラを揺れる焚き木の炎を見つめるイリスの姿は、純愛に生きるその言葉とは裏腹に、男を惑わす魅力を存分に見せつけていた。

「それで、一つ質問をしたいのですが?」

話を聞いて暫く黙っていたアリスが唐突に尋ねた。

「いいよ。何?」

「その結婚の約束をしたのはいくつぐらいの時ですか?」

「え、俺が四歳の時の話だけど?」

イリスの答えを聞いてこめかみを引きつらせながら笑顔を張り付けるアリス。

「相手の子はいくつぐらいだったんですか?」

「たぶん、同じぐらいじゃないかな?聞かなかったけど、背丈はあんまり変わらなかったし」

「そうなんですか・・・」

その答えを聞いてしばし沈思するアリスの様子を、訝し気に見つめたイリスは、

「何?どうしたの?」

と問いかけた。

アリスは改めて目の前の女性に視線を向けると、

「これ、白馬の王子さまは本当に王子様だったパターンでは?」

と告げた。

一瞬何を言われたか分からなかったイリスだが、すぐにアリスの言わんとするところを察し、「あの男の子が皇太子様だった、的な?」

とアリスに問うた。

「そのとおりです」

現実にそんな事あるんですね~な雰囲気がアリスから醸し出されたが、次のイリスの言葉で打ち砕かれる。

「それ、ないよ」

一瞬、自分の妄想に囚われかかったアリスだったが、即座に現実世界に引き戻された。

「なんでそう断言できるんですか!?」

アリスはそうイリスに反論したが、当のイリスは冷静に答える。

「だって、皇太子様って俺より十歳以上年上だって言ってたよ。なんか、すごい有名な人なんでしょう?」

そう言われたアリスも獣王国の皇太子の噂を思い出していた。

曰く、獣王国の歴史を塗り替える男。曰く、彼の御代になれば獣王国はかつてない繁栄を遂げる、等。表現は数え上げれば枚挙にいとまがないが、どれもその能力の高さを称賛するものばかりだった。

だが、確かにイリスの言う通り、その年齢は明らかにイリスよりもだいぶ上であった。

あからさまにがっかりしたアリスを見て、

「そんな恋愛小説のような事、実際にあるわけないじゃん!アリス、本の読みすぎ」

とイリスは揶揄った。

アリスは少し頬を膨らませたが、すぐにいつもの調子を取り戻すと、

「では、本当にどこの誰だか分からない男の子の事を待つ、という事なのですね」

そうイリスに問いかけた。

アリスに問いかけられたイリスは、少しはにかんでうつむくと、

「俺、実際に自分がこんな気持ちになるって思わなかったけど、あいつのお嫁さんになりたいって、本当に強く思うよ!」

そう言って、目に強い光をたたえてアリスに向き直った。

「分かりました。それで、どうするつもりですか?」

イリスの覚悟を感じたアリスは、今後の方針を訪ねた。

「うん。まず家に帰る。勝手に飛び出しちゃったけど、やっぱり父様達と話をして、ちゃんと家と縁を切ってもらう事にするよ。そしたら、辺境伯の娘ではなく普通の町娘なんだから、王家に嫁ぐなんてできないでしょう?」

イリスはあっけらかんと宣うが、普通は貴族家にとってそう簡単な事では無い。

「イリス。あなた、簡単に言ってますけど、それ、そんなに簡単な事では無いですよ?そもそも家の後継ぎとかの問題もあるでしょう?」

アリスにそう窘められたが、当のイリスは気にも留めなかった。

「あ、それは平気平気。だってうちの家を継ぐのは二歳下に弟がいるし、妹もあと二人いるからね。あの子たちには負担かけるけど、お姉ちゃんの事応援してるって言ってくれてたし」

そう言って能天気に笑うイリスを見つめるアリスは、、こめかみに手を当てて深いため息をついた。

いつの間にかアリスの肩口に復活したタロは、

『まぁ、取りあえずコイツの家に行ってみなければ始まるまいな』

とつぶやいた。

主の言葉にアリスは、

「そうですね」

と、半ばあきらめともつかない返事を小さく返した。

「じゃ、アリス、家に俺が無事に帰れるように俺を守ってください」

改めて、自分の要望をアリスに伝えたイリスは、深々と頭を下げた。

「分かりました。ちゃんと報酬は払ってもらいます」

「えぇー!?金取んのー!?」

予想外の言葉を聞いたとばかりに目を見開くイリスに、

「当たり前です。この世の中、タダより高いものは無いんですよ?働きには相応の報酬を払うのは、当然です」

とアリスはしたり顔で告げた。

「出た!大人の理屈!」

「大人の理屈じゃありません!当然の摂理です。ちゃんとお友達価格にしてあげますから」

一体いくらボラれるのかと戦々恐々の表情でいたイリスであったが、

「しょうがないな。分かったよ。家に戻ったら、自分の宝石とかあるから、それあげるよ」

そう言って妥協した。

アリスとイリスのやり取りを興味深く見ていた黒猫はアリスの手腕を褒めたつもりだったのに、

『流石、守銭奴だな!』

と、言葉を選び間違えて再び塩の柱に変えられた。

そんなアリスと黒猫のやり取りをボンヤリ眺めていたイリスは、

「アリスは占い師なんでしょう?俺の事、占ってよ」

とおもむろに言い出した。

「有料ですよ?」

「まぢで守銭奴?」

「殴りますよ?」

「死ぬんで勘弁してください」

いつの間にか丁々発止のやり取りをするようになった二人は、本当の姉妹のように見えた。

少し手のかかる弟や妹を持つ感覚とはこういうものかも知れないとアリスは感じていた。



「このカード・・・」

結局、この先の運命を占うならと、アリスが取り出したのはタロットカードだった。

地面に敷き布を敷いて、アリスはそこにカードをめくって置いていく。

「なになに??なんか、いいカード?」

タロット占いなど初めてなイリスは、興味津々でめくられるカードを見ていく。

そんな中、アリスは置いた一枚のカードにくぎ付けとなる。

そのカードは【世界】。 月桂樹で形作られた輪とその中央に描かれた人物が特徴的なそのカードが場に出てきた。

「今回の縁談、受けたら大団円みたいですよ」

そう言ってアリスはイリスの顔を見た。

「はぁ~?そんなわけないじゃん!!アリス、ヘボ占い師なんじゃないの!!」

アリスの言葉を聞いてあからさまに嫌な顔をしたイリスは、口をとがらせてアリスに言葉を反した。

「失礼な事を言いますね。まぁ、でも、占いとは本来、そのまま進むとこうなるからどうすべきかを考えましょうね、という指針のようなものですから、信じる信じないはそれぞれの自由ですからね」

「なんだよ、それ~・・・」

アリスの言葉に釈然としないものを感じながらも、イリスはアリスの続く言葉を待つ。

「縁談を受け入れれば、大団円。そして真の愛を得る」

アリスは、次に現れた【女帝】のカードを見ながら言葉を続ける。王冠を被り玉座に腰掛け黄金の錫杖と紋章が入った盾を手にしている女性の絵が描かれるこのカードは、恋愛や結婚での幸福や家族の形成などを意味していた。

「ただし、それを得る前には障害が立ちはだかる・・・」

そう言って、アリスが最後に場に出したカードの不気味さに、イリスは一瞬言葉を失う。

場に出てきたカードは【死神】。巨大な鎌を持った骸骨が描かれるカードを見つめたイリスは、視線をアリスに向け、

「これは・・・?」

と問いかけた。

「イリスの幸せを奪うために、死がやってくる。つまり、誰かがあなたの命をねらっているという事です」

アリスの言葉を聞いたイリスはゴクリと喉を鳴らすと、

「アリス、助けてくれるんでしょう?」

と不安そうな表情を見せた。

それを聞いたアリスは、不敵な笑みを浮かべると、

「誰に口を利いているんですか?私があなたをみすみす殺させるような真似をするものですか」

そう言ってイリスに笑いかけた。

アリスの言葉を聞いたイリスは、屈託のない笑いを浮かべると、

「でも、縁談を受ける事はあり得ないから、やっぱりアリスの占いはヘボなのかもね」

そう憎まれ口をたたいて笑った。



その夜。既に夜明けも近かったが、イリスが眠りに落ちたのを確認して、タロとアリスは、今後の事について話した。

『しかし、運命とはよく言ったものだな。どこでどう繋がっているものか。存外、運命の女神どもが面白おかしくする為にやっているのかもしれんが』

話が終わり、しばし眠りにつこうとした時に、タロはしみじみと語った。

「そうですね。ここでこの指輪の持ち主に出会うとは思いませんでしたし、イリスの家に行ったら、彼のその後の運命が分かるかもしれませんね」

タロの言葉を聞いて、アリスも過去を懐かしむように話す。

黒猫主従は、かつて出会った獣人の若者を思い出しながら、短い睡眠を取るために横になるのだった。
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