黒猫の王と最強従者【マキシサーヴァント】

あもんよん

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第五章 闇ギルドと猫耳の姫君(プリンセス)

第十一話「イリスの真実」

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「失敗したとはどういう事だ!!」

目の前の机にドンッ!と拳を振り下ろし、公爵は怒りを露わにした。彼の目の前ではそんな公爵の気持ちなど微塵も理解していない風の男が、優雅にグラスを傾けていた。

「どういう事と言われても、それだけの事ですよ」

さも当たり前のことを聞かれたから答えましたというその態度が、益々公爵の怒りに油を注いでいく。

「貴様!ブラックオパール!!お前はもう成功したも同然だと、この前言ったじゃないか!!これで、もし奴が生きて現れたらどうしてくれる!!」

あまりの怒りにゴフッゴフッと咳き込みながら、それでも怒りの収まらない公爵は言葉を続ける。

「貴様!あまり調子に乗るなよ!!私がその気になれば…」
「貴方がその気になれば…何です?」」

公爵の言葉に被せてブラックオパールの冷えた声音が響く。

その声を聞いた公爵はハッとすると、怒りに駆られてつい余計な事を口走った事に気付いた。

「あ、いや、そういう訳では・・・」

僅かな沈黙がその場を支配するが、直ぐにブラックオパールはいつもの調子で公爵に話しかけた。

「公爵閣下。今回の件はもちろん、こちらの落ち度です。当然、後始末はちゃんとやりますから、心配しないでください」

ブラックオパールがいつもの物言いに戻った事に内心安堵した公爵だが、先程までの怒りが完全に収まった訳でも無く、

「事が露見すれば、儂もお前もお終いなのだからな」

と嫌味を言う程度には気持ちを持ち直した。

「そうですね。重々承知しております。では、また終わりましたらご連絡しますので、今日はお引き取りを」

有無を言わさぬ男の圧力に顔を引きつらせながら、侯爵はその部屋を後にした。



部屋に残されたブラックオパールは手にしたグラスを机に置くと、立ち上がって扉にカギをかけ、部屋の隅にある本棚へ向かった。

本棚の前に立ったブラックオパールが上から三段目左から三番目の本を引き抜くと、ガラガラと音を立てて本棚が右へスライドし、その奥に扉が姿を現した。その扉を開けて中に入るとそこは元居た部屋とほぼ同じ大きさの執務室のような作りになっていた。

窓は無く、完全に外界から切り離されたようなその部屋は、先程までの華美な部屋とは対照的にあまりモノが無く寧ろ殺風景な印象を与えた。

男が部屋の片隅に置かれた実用的だが比較的大きな机に向かって座ると、それを待ち構えたように荒い画像が空間に浮かび上がる。

「それで、状況はどうなっている?」

「カーネリアンの反応が消えました」

ブラックオパールの目の前の画像には黒いフードで顔を隠した人物が映し出されていた。

声音から女性と思われたが、抑揚も感じられない話し方は機械仕掛けの人形と話しているかのごとくであった。

だが、ブラックオパールはそんな事には頓着せず、質問を重ねていく。

「確かヤツには補助が付いてたはずだが、そちらはどうなってる?」

「申し訳ございません。ジュエリーのクラス以上の方の動向しか追えないのです。今回補助に当てられた人員はまだストーンクラスで名も与えられていなかったので」

「そうか。例のサンプルも渡してあったな?」

「はい。場合によっては今回そのテストも行う予定となっていました」

「ふん…俺と奴は同期でな。あいつ自身の力もそうだが、与えられた道具を使う事にかけては俺より上だ。まぁ、事情があって俺が先に上に上がったんだが、ヤツが簡単にやられるとは考え難いがな…」

しばし自身の考えに沈んだ男の返答を待つように、画面の中の人物は沈黙を保つ。

暫く何事かを頭の中で巡らしたブラックオパールは改めて画面へ視線を向けると、いくつかの指示を画面の中の人物へ与えた。

「カラードメンバーズの方のお手を煩わせ、大変申し訳ございません。」

「気にするな。今回の件は、そもそも俺の処の不手際が発端だ。ちゃんと尻ぬぐいはするさ」

そう言って男はやおら立ち上がると、

「一応、最悪を想定しとかなきゃな」

等と呟きながら部屋を後にした。先程まで中空に映し出されていた映像は、いつの間にか跡形もなく消え去っていた。



夜の森には多くの危険が潜んでいる。

狼をはじめとする獰猛な夜行性の動物は言うに及ばず、追剥や盗賊の類が根城にするのも森である。

だが、最も警戒すべきは夜の住人たる魔性のモノたちであろう。

グールやゾンビ、またレイスなどの死霊の類が徘徊し、生きとし生けるものを死の世界へ誘おうとその姿を森のそこかしこに見せるのだ。

通常、冒険者ならともかく普通の人間は森での野宿などしない。自分の身を守る術を持たぬ人間が夜の森に迷い込んだら、翌日には間違いなく屍を晒しているか、夜の住人の仲間になっているであろう。

そんな状況でイリスが森での野宿を望んだのは、自分の話をアリス以外の誰にも聞かれるわけにはいかなかった事、そしてアリスの力を信じたからに他ならなった。

アリスも状況は理解していたので、昼間にイリスに使った防御膜を大きめに作って本日の野営場所を定めた。目の前には焚き木の火がゆらゆらと揺れていた。

「何から話せばいいんだろう?・・・」

いざ話そうとすると色々な思いと複雑な事情が思い起こされ、イリスは話のきっかけを掴めないでいた。

「何でもいいんですよ。順を追わなくてもいいです。自分で分かる範囲で話してください」

アリスにそう促され、イリスはポツポツと話を始めた。

イリスは本当はやはり女の子で、あの人さらい連中につかまっていたのから逃げ出した所をアリスに助けられたのだと言った。

「今はある方法を使って姿を変えてるんだ」

と言うイリスの言葉を聞いたアリスは、

「では、本当の姿を見せてもらえますか?」

そう告げた。

アリスの言葉に頷いたイリスは、

「うん、今から見せるよ」

そう言いながらその指に嵌められた指輪を抜き去った。

次の瞬間、イリスの体が強烈な光に包まれ、そのシルエットは一気に変化を遂げた。

光が収まった時、そこには先程までの子供ではなく、一人の大人の女性が佇んでいた。少しブカブカだった衣装は、その成長を無理やりに押し込めるようにパツパツに張り詰め、その双丘はさながら二つのメロンがそこにあるかの如きボリューム感だった。背もアリスより頭一つ分高くなり、その胸とは対照的にスレンダーでスタイル抜群の肢体を見せつけた。

どちらが年上かと言われれば、見た目は明らかにイリスであっただろう。

予想外の変化を遂げたイリスの姿とその胸元にアリスの視線は釘付けとなった。

タロは、何度かイリスと自分の胸元を行き来するアリスの視線をニヤケながら見ていたが、不意に絶対零度の視線を向けられ、ダラダラと冷や汗を流しながら下を向いた。

少し気を取り直したアリスは、

「子供かと思っていましたが、もう成人した女性だったのですね」

そうイリスに言葉をかけたが、当のイリスはキョトンとした表情を浮かべると、

「何言ってるの、アリス?俺、まだ12歳だよ?まぁ、もう何日かで13歳だけどね」

と、何故か照れた笑いを浮かべた。

イリスの姿を上から下までしっかり2往復眺め回したアリスは、

「どこからどう見ても大人の女性ですが?」

と、内心の葛藤を抑え込みイリスに問いかけた。

「あぁ、それはね…」

そう言いながらイリスは頭に巻いた布を取り去ると、自分の体の秘密を全てさらけ出した。

長いロングヘアーだったイリスの頭頂部付近にはピクピクと可愛らしく動く二つの猫耳が見えていた。

「成る程、そう言う事でしたか」

イリスの猫耳を見たアリスは、納得したように頷くと、改めてイリスに視線を合わせた。

「獣人族は人族より身体の成長が早いらしくて、12歳ぐらいで大人の姿と変わらないくらいまで成長するんだって。よく知らないけど」

「そうらしいですね。私も良くは知りませんが…」

イリスの答えに相槌を打ちながら、アリスは次第に表情が強張るのを感じた。

目の前のアリスの微妙な変化に気付いたイリスは変な顔をして

「アリス、どうかしたの??」

と問いかけた。アリスの後ろでは、先程黙らされた彼女の主人たる黒猫が、ワクワクした表情で従者の様子を伺っていた。

イリスと自分の身体的特徴で落ち込んでいたら慰めてやろうと待ち構えていたタロは、ここぞと思いアリスに話しかけた。

『アリス、残念だったな。でも心配するな。スタイルや胸の大きさでその人物の良し悪しが決まるわけでは無いからな!アリスは何の心配もせず…』
「タロ様。何か仰いましたか?」

自分の言葉に被ってきたアリスの冷えた声音を聞いたタロは、得意になってアリスを慰めると思われる言葉を吐いていたその口の動きを止め、恐る恐るアリスを見やった。

そこには般若の表情を浮かべた彼の従者がタロを見据えていた。

「私は今の私で充分ですし、おっぱいもこれで満足ですが何か?」

タロは石化の視線を浴びたかの如く、その後しばらく口を開く事は無かった。

「アリス、猫に何言ってるの?大丈夫??」

タロとアリスが会話をしているなど思いもつかないイリスは、若干不安になりながらアリスを気遣った。

「ゴメンなさい。普段はこの子と二人だけの旅だから、つい人と同じに話しかけるんです」

そう言って曖昧に答えを返すと、改めてイリスに向き合った。

「それで、話はこれだけではないんでしょう?」

そう促されたイリスは話を続けた。

辺りにはホーホーという夜行性の猛禽類の声が聞こえていた。
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