黒猫の王と最強従者【マキシサーヴァント】

あもんよん

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第五章 闇ギルドと猫耳の姫君(プリンセス)

第六話「奇妙な同行者」

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「それで、首尾は?」

よく通る男の声は、反面、感情を感じさせる抑揚もなく、あまりこの事に対する興味が無いように感じられた。男の目の前には陽炎のような揺らめきがあったが、そこには質の悪い絵画のような映像が映し出されていた。

「やはり、今回の仕事は一介の人さらい連中には荷が重かったようだ。こちらで代替手段を講じた」

映像に映し出されていたのは、ゴサロの前に現れたフードの人物の一人だった。

「連中はどうした?」

フードの人物の言葉を聞いた男は、特別な感慨も感じられない言葉で淡々と言葉を継いだ。

「ボス以外は処分した。ボスにはこちらで用意した手駒で仕事を全うしてもらう。失敗すればそちらも処分し、我々が直接手を下す。問題あるまい?」

「あぁ、特に問題は無い。よろしく頼む」

人の生き死にの話をしているとは思えない淡々とした業務連絡に、男の近くのソファーに座っていた人物は喉を鳴らした。

「全ての片が付いたらまた連絡する」

映像に映る人物がそう言うと、それまでそこにあったゆらめきは一瞬で消え失せた。

男はソファーの人物に向き直ると、先程までとは全く違った普通の声音で

「最終的に奴らが手を下すなら時間の問題だ。しばらくは待っていただきましょうか」

そう言って手元のグラスを口元へ運んだ。今日開封した30年物の蒸留酒の香りがあたりに漂う。

「あなたも一杯どうかな?香りといい味といい、最高の味わいですよ」

そう言って瓶を掲げて見せたが、ソファーの人物は首を横に振った。

「ブラックオパール。お前はそう言うが、実際にこの目で首尾を見るまでは安心できん。とても酒を食らっているような心持にはなれん!」

ブラックオパールと呼ばれた人物・・・この男こそがゴサロをこの世界に引き込んだ張本人であり、今回の仕事をゴサロ達に割り振った当事者でもあった。

片や、ソファーに座る人物は・・・

「侯爵閣下。仕事は急がせてるが今すぐに結果が出るわけでもありませんよ。むしろ、ゆったりとした気持ちで結果を待った方がいいと思いますがねぇ」

侯爵と呼ばれた男はキッと目の前の男を睨むと、

「だいたい、お前があんな下手を打たなければこんな事には成らなかったのだ!」

そう言って鼻息荒くブラックオパールに詰め寄った。

「まぁ、確かに最後に下手を打ったのはこちらだが、そちらの情報にも不備があったじゃないですか。お互い様なんですよ、今回は」

そう言って悪びれもせずに言葉を返したブラックオパールは、再びグラスを傾けた。

「それに、あれは不可抗力だったと思いますよ。まぁ、警戒されて当然と言えば当然なんですからね」

過日の出来事を思い返し、男は更に言葉を継いだ。

幾ばくかの沈黙が流れたのち、

「今、ここで悩んでも仕方ないでしょう。結果が出たらお知らせしますから、今日はお引き取りを」

そうブラックオパールに促された侯爵はのろのろと立ち上がると出口へ向かった。

途中立ち止まった侯爵は先程まで話をしていた男に振り替えると、

「ワシ等は一蓮托生だ。裏切るなよ?」

そう言って部屋を出た。

侯爵の居なくなった部屋で再びグラスを傾けた男は、

「・・・一蓮托生ねぇ」

そう言いながら黒い笑みを浮かべた。



前夜遅くに眠りについたイリスは、眠い目を擦りながらベッドから身を起こした。

「お早いお目覚めですね?」

未だ覚醒には程遠いイリスだったが、アリスの冷えた声音に一瞬で覚醒すると声のした方と窓の外を瞬時に見回した。外には麗らかな日差しが差しており、日は既に中天に差しかかろうとしていた。

アリスはと見れば、既にいつものメイド服に身を包み、優雅に紅茶を嗜んでいた。

「・・・待った?」

「いえ、それ程でもありません。身支度を整えて朝食を頂き、この子の身だしなみを整えた後に少し本を読んで、今は紅茶をいただいているので、大した時間ではありませんよ」

ニッコリと笑いながらそう告げるアリスの姿に、内心怖気が走る程恐怖を感じながら、

「申し訳ありませんでした!」

と言ってイリスは深く頭を下げて謝罪の言葉を述べた。

しっかり一拍置いたのち、

「・・・昨日、明日は早いといいましたよね?とりあえず、今日は朝食抜きです」

そう告げられたイリスはガバッとはね起き、

「えぇーっ!?そんなー!」

と抗議の声を上げたが、

「自業自得です。早く準備をしてください。出ますよ」

そう返され、渋々準備を整え始めた。

『コイツの分の朝食はさっき持ってきたじゃないか?』

いつまでも起きてこないイリスの為に、パンだけは宿屋の主人から分けてもらった事を知っているタロは不思議そうにアリスに尋ねた。

それに小さな声で答えたアリスは、

「自分の行動によってどういう結果がもたらされるかは、身をもって体験しなければ分かりませんから、ね?タロ様。分かりますよね?」

と言ってタロに微笑みかけた。

イリスの事を聞いたはずなのに、婉曲的に自分の話をされている感じがしたタロは、

『なるほどな・・・』

などと言いつつ、そそくさとその場を離れた。

準備の整ったイリスに一頻り説教したアリスは、分けてもらったパンをイリスに渡して手早く朝食を済まさせると、揃って宿屋を後にした。

「それで、あなたはどうするんですか?」

「えっ?」

「『え??』」

成り行き上、昨日は同じ部屋に泊まったが、特段行動を共にする理由も必然もなかった為、アリスは軽い気持ちでこの後どうするのかをイリスに聞いたつもりだったが、疑問形で返され、タロ共々思わず聞き返してしまった。

「・・・その・・・アリス達はどうするの?」

「私達はここから北にある都市国家連合に向かおうと思ってます。本当はもう着いてるはずだったのに、何故か道に迷ってしまって・・・」

アリスの言葉を聞きながらふいっと横を向くタロを横目に見つつ、アリスはイリスに答えた。

それを聞いたイリスは何かを考えてる風であったが、やおらアリスに向き直ると、

「分かった。じゃ、俺も付いていくよ」

と言い出した。

それを聞いたアリスは、

「あなた、家族とかいないのですか?」

と問いかけた。

「いや、家族はいるけど家には戻れないって言うか、出来ればこのまま知らない土地に行きたいって言うか・・・」

どうにも要領を得ない返答だったが、事情がありそうな事は初めから分かっていたし、アリスがタロに目配せをすると、諦めたようにタロは頷いた。

「付いてくるのは構いませんが、自分の食い扶持は自分で稼ぐんですよ」

そう言われたイリスは一瞬目を輝かせたが、すぐに怪訝な表情を浮かべた。

「・・・自分の食い扶持ってどうやって稼ぐの?」

その答えを聞いたアリスは頬をヒクつかせながら、

「今までどんな生活をしてたか知りませんが、働かざる者食うべからず、と思ってください。仕事が無いなら、私の仕事の手伝いをしてもらいます」

と断言した。

「えぇー、どんな事させられるんだよー!」

と非難の声を上げたイリスだったが、アリスから

「じゃ付いてこなくて良いんですよ?」

と言われ、渋々協力を了承するのだった。



それから数日、北へ向かう二人と一匹の姿があった。

少しでも人がいる場所に来ると、アリスはいつも通り辻占の看板を掲げて人々を占った。

普段と少し違ったのは、常であれば軒を借りた先の主人をサクラに利用する事が多かったが、ここ暫くはイリスがその役割を担っていた。

初めこそ、その大根役者振りに頭を抱えた黒猫主従だったが、回を重ねる毎にアリスとの自然なやり取りを身につけて問題無く役割をこなすようになっていた。

「なぁなぁ、俺ってこんな感じで何かを演じる事に才能あるんじゃないかなぁ?」

半分ニヤケながらそう聞いてくるイリスの言葉を、

「はいはい、そうですね」

と適当な相槌を打ちながら聞き流すと、

「明日から暫く人里を離れます。今日は買い出しに行きますよ」

そう促した。

「ちぇー、人の話を全然聞いてくれない・・・買い出しって、好きなもん買ってくれんの?」

自分の問いかけに全く打てあってくれないアリスに少しむくれた表情を見せたイリスだが、買い出しと聞いて表情を一変させた。

「バカな事を言ってないで片付けを手伝ってください。時間はかぎられているんですよ」

アリスの言葉がお気に召さなかったのか、若干不満げな顔をしつつもイリスは手伝いを始めた。

タロはアリスの傍によるとそっと声をかけた。

『アリス、気づいているか?』

そう声をかけられたアリスは主人を振り返る事なく小さな声で答えた。

「はい、数日前からまとわりついていて鬱陶しいです」

アリスの答えを聞いたタロは納得したようにうなづくと言葉を続けた。

『・・・つまり釣り出しをする、という事か?』

「はい。目的は分かりきっていますが、色々確認する必要があるかと思います」

そう答えたアリスは片付けを手伝うイリスに視線を移した後、タロと二人で頷きあった。

この翌日、黒猫主従と訳ありの子供の一団は、再び森の中へと足を踏み入れた。
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