黒猫の王と最強従者【マキシサーヴァント】

あもんよん

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第五章 闇ギルドと猫耳の姫君(プリンセス)

第三話「ならず者たちの災難」

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3人の目の前に現れたのは、見るからに怪しい風体の男達だった。

『……なんか変なのが湧いたぞ?』

20人はくだらないと思われるその集団を見たタロは素直な感想を口にする。

タロに続いて汚物を見るような視線でその集団を見たアリスは、視線を先ほど助けた子供に移すと、

「・・・あなた、何か関係があるんですか?」

と問いかけた。

顔面を青くさせてその男達を見やっていたイリスと名乗った子供は、アリスに話しかけられている事に気づくと慌てたように答える。

「し、知らない!お、俺は関係ないぞ!!」

イリスがそう答え終わらないうちに、男達の中央から一人の巨躯が進みでて目の前の三人組(?)に話しかけた。

「ようやく見つけたぜ、お嬢ちゃん」

その男の問いかけに訝しげな表情を返すと、アリスは口を開いた。

「お嬢ちゃん?・・・誰の事を言ってるのですか?」

アリスの問いを聞いた男は、そこで初めてアリス 達の存在に気づいたと言わんばかりの態度を示し、鼻を鳴らして喚いた。

「ふん、お前が連れてるその小娘に決まってるだろうが!!」

男の言葉を聞いたアリスは、イリスを見やってこう聞いた。

「……あなた、女の子だったんですか?」

確かに女の子と言っても通用しそうな容貌だが、頭に布を巻きつけ全体的に薄汚れた印象を与える見た目とぞんざいな言葉遣い、とても「お嬢ちゃん」という言葉とは結びつかないイリスだったため、アリス達は男の子だというイリスの言葉をそのまま受け取っていたが、男は確かにイリスを女の子だと言った。

アリスの問いかけを聞いたイリスは、ビクッと体をふるわせたが、

「ち、違う!俺は男だ!そ、そいつが勘違いしてるだけだ!!」

と、男の言葉を否定した。

イリスの反応に一瞬目を細めたアリスだったが、男に向き直ると再び口を開いた。

「……と、言ってますが?」

特段の感情を込めずに発せられた言葉が気に障ったのか、男は声を荒げた。

「ふざけるな!そいつはお嬢ちゃんで間違いねーんだよ!そもそもそいつは俺たちのモノなんだから、大人しくこちらに渡せ!」

「得体の知れない人に渡せと言われて、はいそうですかとはいきませんね。欲しければ取り戻してみてはどうですか?」

体格的には自分の数倍は体重がありそうな大男に対して、あまりに不遜な態度を見せる目の前の少女を一瞬まじまじと見つめた男は、今度は落ち着いた声音でアリスに話しかけた。

「おい、ねーちゃん。悪い事は言わんから、見なかった事にして立ち去れ。そうすれば危害は加えん」

だが、その男の言葉を聞いた仲間と思しき連中からは非難の声があがる。

「お頭!なーに言っちゃってるんですか!?こんな上玉、ついでに攫っちゃいましょうよ。お楽しみが増えるってもんだ!」

「そうですぜ、お頭!最近はこのガキのせいで女の所にもしけ込めなかったし、こちとら色々溜まってるんですよ!丁度いいじゃねーですか!」

いやらしい笑みを浮かべた男達も、明らかに数日は風呂にも入らずこの森の中を彷徨ったであろう事が伺え、少し離れたアリス達の処へも饐えた臭いが漂ってきた。

普通の少女であれば、今の会話からこの後の自身の運命を想像し恐怖で震えるところだと思われるが、当のアリスは特に興味も無さそうに先程と同じような汚物に向ける視線で男たちを見ていた。

そんなアリスの様子に若干訝しいものを感じつつ、男たちの頭目は叫んだ。

「馬鹿か、お前らは!こんな乳もあるかないか分からんような小娘のどこが良いってんだ!?とにかく今回の仕事を終わらせる方が大事なんだよ!余計な手間かけて、これ以上仕事遅らせるわけにはいかねーんだ!」

組織の長たるもの、たとえそれがどの様な組織であっても部下を束ねる長にはそれなりのものが備わっているらしく、恫喝された部下と思しき面々は情けない叫びをあげた。

「えぇ~!?そりゃないっすよ!おかしらー!!」

もっとも、部下を束ねるには飴と鞭が必要なのはどこの世界でも同じであり、その事は人を使う立場であれば自ずと気づく摂理である。

即ち、この頭目も仕事の内容と手段はともかく部下たちをちゃんと手なずける手段は理解しているようで、飴を用意する事も忘れなかった。

「このガキのお守りだけでも手一杯なんだ!終わったら俺が女の手配はしてやるから、今は我慢しろ!」

「えっ!?マジっすか!?」

「じゃ、我慢しますよ!その代わり、特上の女、頼みますぜ!!」

頭目の言葉を聞いた荒くれ集団はひとしきり歓声を上げると、先程までとは違う雰囲気をまとって自分たちの獲物に視線を向けた。

「分かったよ!……って事で、ねーちゃんは帰っていいぜ」

ひとしきり話がついたと分かったところで、巨躯の男はアリスにそう告げた。

一方のアリスは特に表情を変える事無く話を聞いていたが、タロをして『あ、あいつ、やっちゃった』と思わせる程の静かな怒りが充満していた。

もっとも、その事に気付いているのはタロしかいないのだが……。

「……何故か一方的に話が終わってるようですが、そちらだけで納得されても困りますね」

そう言いながら、アリスが短い詠唱を静かに唱えると手元に小さな魔方陣が生まれた。

だが、その事に気付くのは傍らにいる黒猫と後ろに隠れていたイリスのみであった。

「しかも、何やら私に対して失礼な物言いもあったようですが、その分の代償は体で払ってもらいますよ?」

小娘と侮った男たちの一人が進み出てアリスにちょっかいをかける。

「なんだ、ねーちゃん。男日照りか?それならオレ達がたっぷり相手してやるよ。仲間は20人はいる。最後まで持つか分からんがな!」

そう言いながら下卑た笑いを浮かべてアリスの足元から顔までをゆっくり一瞥すると、手に短刀を取り出しその刃をゆっくりと舌で舐めてアリスに突き出した。

「見た目相応に下品な物言いですね。出来るならやってみてはどうですか?」

アリスはそう言いながら先程の魔方陣で手元に取り寄せた短いダガーを右手に取り出した。

「おい!アリス!相手を焚きつけてどうするんだよ!!」

どう見ても腕力で相手になりそうにないのに、相手を挑発する言葉を発するメイド服の少女にイリスは焦って声をかける。

「どうもしませんよ。相応の相手をするだけです。」

そんなイリスの焦りとは裏腹に、アリスは表面的にはいつもと変わらず、感情を見せることもなく淡々とイリスに答えた。

「それと、私の名前はねーちゃんではありません。私の名前はアリスです」

「なんだ、ねーちゃん。やる気か?」

アリスの態度と手元に武器を取り出した様子を見た男たちは、小娘が高々ダガーを手にしたぐらいでいかほどの事が出来るものかと半分馬鹿にしながら、先程アリスに短刀を突き付けた男がアリスへ向かって1歩踏み出した。

「どうも学習能力が無いようですね。そんな飾りのようなオツムなら必要無いですよね?」

自分に向かってくる男にそう声をかけるとアリスは動いた。

そして次の瞬間には、男の首筋にダガーの刃を当てて、ほんの少し皮膚を切った。

首筋にはわずかに血が滲んだが、男が自分の状態に気づくのに一瞬の間があった。

「えっ?……ひっ!!」

男はその場に尻もちをつくと、あわてて仲間の元に駆け戻り、アリスに怒声を浴びせた。

「このアマァ!!何しやがる!!」

しかし、そんな男の声にも特に興味も見せず、アリスはそこにいる男たち全員を睥睨するように見回した。

「お頭、コイツやる気ですぜ!」

「……せっかく逃がしてやるって言ってんのに、しょうがねーなぁ」

男たちの頭目は頭をボリボリとかきながらため息をつくと、ひと際大きな声で男達に指示を出した。

「お前ら、さっさと終わらせるぞ!少しは腕に自信があるようだが、数で押し込んでコイツも攫って好きなだけ嬲ってやれ!!」

「ヒャッホー!久しぶりの女だ!おい、お前ら、余計なキズつけんなよ!」

「大の大人がこの人数なんだ。こんな小娘相手になるかよ!」

「おい、順番は後で決めんだから、抜けがけすんなよ?」

男達は既にこの後のお楽しみが約束されたものと確信し、厭らしい笑みをその顔に浮かべて口々に好き勝手な事を言い合っている。

一方、アリスの肩口に乗ったタロは、

『アリス。一応は子供の前という体だ。血は流すな』

とアリスに告げた。

「かしこまりました」

主人の意を理解したアリスは、イリスに向き直ると、

「あなた、少しそちらでじっとしててくださいね」

そう言うや、イリスを少し後ろに下がらせてその子を囲うように地面に何を投げつけた。

イリスを中心として正三角形の形に打ち込まれたその何かは、「ヴォン」という音とともに透明な膜のような物を瞬時に展開させた。

「あなた、少し邪魔なのでここを動かないでください。その範囲から出なければ安全ですから」

「え?これって・・・?」

イリスは自分の周りに突き立って淡い光を出している3つの筒のようなものと、その筒から三角錐のように展開されている淡い色の膜のようなものを見た。

恐る恐るその膜のような物に触れようと手を伸ばしたが、特に阻害されることもなく、手は膜の外へ飛び出した。膜は特に破れることもなく、手を戻すと元の状態へ戻った。

中からは外との境界が分かるように色がついているが、外からは透明で特に何かがあるようには見えない状態だった。

「簡易の防御陣のようなものです。展開時間は短いですが、外部からは何も侵入できません」

アリスの言葉を聞いたイリスは、半信半疑ながらその場にじっとしている事を選択した。

一連のやり取りを見ていた男達の頭目は、その目に警戒の色を浮かべてアリスに問いかけた。

「……お前、魔法を使うのか?」

「さあ?どう思います?」

男の問いかけに答えながら、アリスは手にしていたダガーを軽く放り投げた。

するとダガーは光の粒となってその場から消え失せた。

「お前らぁ!!気を引きしめろ!コイツ、魔法を使うぞ!」

魔法を使うことの出来る人間は限られている、という事はこの世界に生きるものなら誰でも知っている事である。

そんな希少な人間に、目の前にいるこんな小娘が含まれる事に舌打ちをしたい気持ちを抑えつつ、頭目の男は部下たちに注意を促す。だが、男の内心の焦りとは裏腹に、部下たちは若干の戸惑いはあっても大勢は変わらないと楽観的な空気が流れていた。

「こんな小娘が魔法だと?なんの冗談だよ」

「しょうがねぇ。お前ら、手足の1、2本は折っても構わねぇから、顔にはキズをつけるなよ!」

「まったく、余計な手間かけさせやがって……」

それは、魔法という普段あまり身近に感じることが無い特殊な技能、という程度の認識しか持たない者が殆どだったという事と、そうは言っても所詮は目の前にいる小娘のする事なんだから、最後は数で押し切れるという甘い考えからくるものだった。

頭目の男は過去の自分の経験から、相手の見た目とその人物が使う魔法に関連性がない事を知っていたが、それを未経験のものに分かれというのは酷な話かもしれなかった。

そんな男達の様子を見ていたアリスは、

「何を警戒してるのか知りませんが、あなた方程度に魔法なんか使いませんよ?」

そう言って再び小さく呪文を詠唱すると手元に魔方陣が現れた。

「でも、数が多くて面倒なのでこちらを使います」

アリスがそう言っている間にも、魔方陣から現れた光の粒は一か所に集まり、アリスの巨大なハルバートをそこに顕現させた。

「……なんだ、そりぁ?」

頭目の男は巨大な斧を装備した自分の背丈よりも大きいハルバートなど見た事もなかった。

それを、自分よりもかなり小さい一人の少女が地面に突き立てていた。

「何処からそんなもん引っ張り出したぁ!!」

先程までの少し弛緩した空気はもうどこにも存在しなかった。

頭目を除く男たちも、それまでそんな武器を見た事が無かったし、そもそもそんな巨大な武器も目にする事は無かった。

あんな物を小娘が扱えるわけがないという淡い期待は、アリスがハルバートを片手で振り回して見せた為、露と消えていた。

「どこから出したかなんて、今のあなた方に何か関係がありますか?」

そう言って妖艶な笑みを浮かべたアリスを見ながら、タロは

『頼むからほどほどにしてくれよ……』

そう言って、アリスの肩から飛び降りた。

「それでは、始めましょうか?」

そう言うが早いか、アリスはハルバートを片手に男たちの中に踊りこむのであった。
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