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第五章 闇ギルドと猫耳の姫君(プリンセス)
第二話「助けられた子供」
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悲鳴を聞きつけたタロとアリスが辿り着いたのは、切り立った崖の上だった。
「助けてー!落ちるー!!」
声の主を探せば、崖の先端から横に這えた木の枝に何者かがぶら下がっているのが目に入った。
『あれは何をやってるんだ?』
ぶら下がっている本人の悲痛な叫びとは裏腹に、タロは緊張感の感じられない声音でアリスに問いかけた。
「大方、あそこに生えてる木の実を取ろうとして足を滑らせたんじゃないですか?」
見れば、崖の先端には1本の木が生えており、そこには数個の木の実が成っているのが見えた。
「た、助けてー!!」
わざわざあんな所の木の実を取らなくてもと思ったタロとアリスだったが、あまり放っておいて落ちでもしたら寝覚めが悪くなると思い、タロはアリスに指示を出す。
『あんまり悠長にもしてられんようだから、アリス、助けてやれ』
「かしこまりました」
タロの言葉にその人物を助けようと動き出したアリスだったが、当の助けを求めている人物は何を思ったか、目に入ったアリスにこう叫んだ。
「おい!そこの女!!俺を助けろ!!」
そのセリフを聞いたアリスは、ピタリと動きを止め、タロの方を振り向くと、今来た道を引き返しながらタロに話しかけた。
「……タロ様、今日はホントにいい天気ですね。久しぶりに心が洗われるようないい気分です」
方や、今まさに自分の運命が風前の灯になっている人物は、自分の方へ進んでいた少女が踵を返して戻っていく様を目にして慌てふためいて再び叫んだ。
「おい!!聞こえてるんだろ!!俺を助けろって言ってるだろ!!!」
しかし、そんな叫びもどこ吹く風のアリスは、さらにタロに話しかける。
「あぁ、あちらから何だか小川のせせらぎが聞こえてくるようですね。タロ様、あちらへ行ってみましょうか?」
この場からその姿を消そうとしている言葉を聞いた要救助者は、顔面を蒼白にさせながら改めてアリスへ声をかけた。
「……そこの奇麗なお姉さん!!助けてください!!」
その言葉を聞いたアリスは能面のような表情でその言葉を吐いた人物を一瞥すると、
「……初めから素直にそう頼めばいいんですよ」
と言って再び助けに動き出した。
『……お前も大概だな……』
一連のやり取りを見ていたタロは、小さくため息をつくと独りごちた。
「助かったよ!ホントにありがとう」
アリスが助けた人物は、10歳ぐらいと思しき子供で、頭にはターバンのように布を巻きつけ全体的に薄汚れた風貌をしていたが、実際数日は水浴びもしていないであろう臭いが辺りに立ち込めた。
背丈はアリスよりも幾分か低いが、アリス自体もあまり体が大きくない方なので年齢相応と思われた。
自分の鼻をその長い尻尾で抑えながら何気なくその子供を見ていたタロだが、ふと違和感を覚えた。
(んっ?この子供・・・)
訝しげに子供を見ていたタロは、その指に一つの指輪が嵌っている事に気づいた。
(!……なるほど。そういう事か)
自身の疑問が解けたタロは、アリスに何気なく視線で自分が気づいた事を伝えようとした。
視線と尻尾の動きで指輪の事を教えようとしてみたが、アリスは不思議そうに小首を傾げた。
鼻先を子供の指先方向へ向けて声を出さずに『みろ!』と促してみても、猫の微笑ましい姿を愛でるかのごとき笑顔を返すだけである。
若干イラッとしながら、注意を引く意味でウインクをしてみたら、ウインクを返された。
『お前なーっ!』
突然爆発した主人を不思議そうに見つめたアリスは、
「突然怒り出して、どうしたんですか?」
と小さな声で聞いた。
『俺が気づいた事をお前に教えようと……』
「あ、指輪の事なら気づいてます」
タロはアリスにそう返されて一瞬固まると、『俺の苦労はいったい……』と思わず項垂れた。
「猫ちゃん、どうしたの?なんか黄昏てるけど・・・?」
その子供はタロの様子が気になったのか、アリスに問いかけてみたがその返答は淡白なものだった。
「気にしなくて良いですよ。たまにあんな風になるんです」
アリスの言葉に益々うなだれる黒猫を見て、
「あ、そうなんだ・・・なんだか不憫に見えるのは何でかな?」
等と言いながら、その子はアリスに向き直ると改めて礼を述べた。
「まぁいいや。助けてくれて、ほんとにありがとうね。俺はイリス。よろしく」
「イリスと言うのですか?私はアリス、この子はタロです」
『よろしくな』
いつの間にかアリスの肩の上に戻ったタロもニャーと声を上げた。
「アリス?俺の名前と一文字しか違わないんだな」
イリスはそう言って驚きの表情を浮かべたが、アリスもまた、
「イリスというのですか?女の子みたいな名前ですね?」
と、自身の疑問を素直に口にした。
その言葉を聞いたイリスは苦笑を浮かべると、
「ははは、よくそう言われるよ」
そう言って何気なく視線を逸らした。
まだ子供の風貌だが、女の子といっても通用する線の細い見た目と整った目鼻立ちは、アリスには及ばないものの見るものが見れば思わずその視線を奪われる容姿であった。
その様子を見たアリスとタロは無言で頷き合ったのだが、イリスが視線を戻した時には、既に何事もなくいつもの二人だった。
イリスは少しもじもじとしていたが、意を決してアリスに視線を向けるとこう言った。
「それで、もし良かったらなんだけど、何か食べるものを持ってないか?ここ2日程、食事らしい食事をしてないんで……」
それを聞いたアリスは、崖の先端に生えている木とそこに成っている木の実を見やると、
「で、あの木の実を取ろうとして足を踏み外した、という事ですか?」
そう言ってイリスに視線を戻した。
「そうだよ。さっきも言ったように、暫くまともに食ってなかったからさ。危なくあの世行きだったけどね」
アリスの問いに答えた子供は、悪びれもせずアリスにそう答えるとニカッと笑った。
「厚かましいですね。先ほどの物言いと言い、親の顔が見てみたいです」
アリスの鋭い視線に若干うろたえながらも、先程の自分の言動を顧みて、
「悪かったよ!俺も焦ってたんで、つい口汚い言葉を使っちゃったんだ。ホント、ごめん……」
と素直に謝罪の言葉を口にした。
その様子を見ていたタロは、苦笑を浮かべるとアリスに、
『アリス、それぐらいでいいだろう。食料を分けてやれ』
と言って取りなした。
主人の言葉に無言でうなずいたアリスは、手持ちの荷物をまさぐり、いくつかの塊を取り出すと、
「こちらも携帯食料はあまり持ち合わせてないので、あまり多くは分けられませんよ」
そう言いながらその子に手渡した。
取り出したのは得体のしれない黒い塊だったが、「アリスバー」と勝手に名付けているアリス特性携帯食だった。
見た目はグロテスクだが、干し肉をベースに様々な野菜や果物のエキスなどを練りこんだ代物で、栄養価は満点で味も良いというモノだった。
いかんせん見た目が悪いのが玉に瑕で、アリスとタロ以外で率先して食べようという奇特な人物はこれまで現れなかったのであった。
「なんだよ、これぇ……食えんの?」
「嫌なら無理に食べなくていいんですよ」
「いやいや、食います!食います!!」
見た目にかなり引いたものの、目をつぶって一口食べると、予想外に旨いという事を知ったイリスは、アリスに手渡されたそれを瞬く間に完食した。
「びっくりした!見た目がヒドイ分、味の衝撃が半端ないよ!」
「見た目が何ですか?」
目を細めて言葉をかけてくるアリスを見ながら、呆れたように口を開いた。
「アリス、そんなに短気じゃ嫁の貰い手無くなるぞ」
”嫁”と言う単語がアリスの心の琴線のいずこかへ引っかかったものか、
「いい度胸をしてますね?命を助けられ、食べ物を分けてもらった相手によくそんな口が利けると寧ろ感心します」
アリスの予想外の反駁に若干引きつつ、イリスは言葉を選びながら弁解した。
「分かったよ!悪かった!……悪気はなかったんだ。ただ、俺が知ってる女の子も周りからそんな事言われてたからさ…そいつは短気じゃ無くて、すごいお転婆だったからなんだけどな…」
最後は口ごもってよく聞き取れなかったが、イリスが本当に反省している事を感じ取ったアリスは、小さくため息をつくと、
「もういいですよ。こちらも少し言い過ぎたようです。こちらの事も許してもらえるとありがたいのですが?」
そう切り出した。
アリスの言葉を聞いたイリスは、ニヤッと笑うと、
「じゃ、お互い様って事で」
そう言ってアリスに笑いかけた。
立ち直りの早さに苦笑しながら、アリスはイリスに問いかけた。
「そもそも、どうしてこんな所に?」
「それは……」
アリスの問いかけに顔を強張らせたイリスが答えようとしたその時だった。
「おう!お嬢ちゃん!こんな所に隠れてやがったか」
その声とともに、怪しげな男たちの集団が森から姿を現したのだった。
「助けてー!落ちるー!!」
声の主を探せば、崖の先端から横に這えた木の枝に何者かがぶら下がっているのが目に入った。
『あれは何をやってるんだ?』
ぶら下がっている本人の悲痛な叫びとは裏腹に、タロは緊張感の感じられない声音でアリスに問いかけた。
「大方、あそこに生えてる木の実を取ろうとして足を滑らせたんじゃないですか?」
見れば、崖の先端には1本の木が生えており、そこには数個の木の実が成っているのが見えた。
「た、助けてー!!」
わざわざあんな所の木の実を取らなくてもと思ったタロとアリスだったが、あまり放っておいて落ちでもしたら寝覚めが悪くなると思い、タロはアリスに指示を出す。
『あんまり悠長にもしてられんようだから、アリス、助けてやれ』
「かしこまりました」
タロの言葉にその人物を助けようと動き出したアリスだったが、当の助けを求めている人物は何を思ったか、目に入ったアリスにこう叫んだ。
「おい!そこの女!!俺を助けろ!!」
そのセリフを聞いたアリスは、ピタリと動きを止め、タロの方を振り向くと、今来た道を引き返しながらタロに話しかけた。
「……タロ様、今日はホントにいい天気ですね。久しぶりに心が洗われるようないい気分です」
方や、今まさに自分の運命が風前の灯になっている人物は、自分の方へ進んでいた少女が踵を返して戻っていく様を目にして慌てふためいて再び叫んだ。
「おい!!聞こえてるんだろ!!俺を助けろって言ってるだろ!!!」
しかし、そんな叫びもどこ吹く風のアリスは、さらにタロに話しかける。
「あぁ、あちらから何だか小川のせせらぎが聞こえてくるようですね。タロ様、あちらへ行ってみましょうか?」
この場からその姿を消そうとしている言葉を聞いた要救助者は、顔面を蒼白にさせながら改めてアリスへ声をかけた。
「……そこの奇麗なお姉さん!!助けてください!!」
その言葉を聞いたアリスは能面のような表情でその言葉を吐いた人物を一瞥すると、
「……初めから素直にそう頼めばいいんですよ」
と言って再び助けに動き出した。
『……お前も大概だな……』
一連のやり取りを見ていたタロは、小さくため息をつくと独りごちた。
「助かったよ!ホントにありがとう」
アリスが助けた人物は、10歳ぐらいと思しき子供で、頭にはターバンのように布を巻きつけ全体的に薄汚れた風貌をしていたが、実際数日は水浴びもしていないであろう臭いが辺りに立ち込めた。
背丈はアリスよりも幾分か低いが、アリス自体もあまり体が大きくない方なので年齢相応と思われた。
自分の鼻をその長い尻尾で抑えながら何気なくその子供を見ていたタロだが、ふと違和感を覚えた。
(んっ?この子供・・・)
訝しげに子供を見ていたタロは、その指に一つの指輪が嵌っている事に気づいた。
(!……なるほど。そういう事か)
自身の疑問が解けたタロは、アリスに何気なく視線で自分が気づいた事を伝えようとした。
視線と尻尾の動きで指輪の事を教えようとしてみたが、アリスは不思議そうに小首を傾げた。
鼻先を子供の指先方向へ向けて声を出さずに『みろ!』と促してみても、猫の微笑ましい姿を愛でるかのごとき笑顔を返すだけである。
若干イラッとしながら、注意を引く意味でウインクをしてみたら、ウインクを返された。
『お前なーっ!』
突然爆発した主人を不思議そうに見つめたアリスは、
「突然怒り出して、どうしたんですか?」
と小さな声で聞いた。
『俺が気づいた事をお前に教えようと……』
「あ、指輪の事なら気づいてます」
タロはアリスにそう返されて一瞬固まると、『俺の苦労はいったい……』と思わず項垂れた。
「猫ちゃん、どうしたの?なんか黄昏てるけど・・・?」
その子供はタロの様子が気になったのか、アリスに問いかけてみたがその返答は淡白なものだった。
「気にしなくて良いですよ。たまにあんな風になるんです」
アリスの言葉に益々うなだれる黒猫を見て、
「あ、そうなんだ・・・なんだか不憫に見えるのは何でかな?」
等と言いながら、その子はアリスに向き直ると改めて礼を述べた。
「まぁいいや。助けてくれて、ほんとにありがとうね。俺はイリス。よろしく」
「イリスと言うのですか?私はアリス、この子はタロです」
『よろしくな』
いつの間にかアリスの肩の上に戻ったタロもニャーと声を上げた。
「アリス?俺の名前と一文字しか違わないんだな」
イリスはそう言って驚きの表情を浮かべたが、アリスもまた、
「イリスというのですか?女の子みたいな名前ですね?」
と、自身の疑問を素直に口にした。
その言葉を聞いたイリスは苦笑を浮かべると、
「ははは、よくそう言われるよ」
そう言って何気なく視線を逸らした。
まだ子供の風貌だが、女の子といっても通用する線の細い見た目と整った目鼻立ちは、アリスには及ばないものの見るものが見れば思わずその視線を奪われる容姿であった。
その様子を見たアリスとタロは無言で頷き合ったのだが、イリスが視線を戻した時には、既に何事もなくいつもの二人だった。
イリスは少しもじもじとしていたが、意を決してアリスに視線を向けるとこう言った。
「それで、もし良かったらなんだけど、何か食べるものを持ってないか?ここ2日程、食事らしい食事をしてないんで……」
それを聞いたアリスは、崖の先端に生えている木とそこに成っている木の実を見やると、
「で、あの木の実を取ろうとして足を踏み外した、という事ですか?」
そう言ってイリスに視線を戻した。
「そうだよ。さっきも言ったように、暫くまともに食ってなかったからさ。危なくあの世行きだったけどね」
アリスの問いに答えた子供は、悪びれもせずアリスにそう答えるとニカッと笑った。
「厚かましいですね。先ほどの物言いと言い、親の顔が見てみたいです」
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その様子を見ていたタロは、苦笑を浮かべるとアリスに、
『アリス、それぐらいでいいだろう。食料を分けてやれ』
と言って取りなした。
主人の言葉に無言でうなずいたアリスは、手持ちの荷物をまさぐり、いくつかの塊を取り出すと、
「こちらも携帯食料はあまり持ち合わせてないので、あまり多くは分けられませんよ」
そう言いながらその子に手渡した。
取り出したのは得体のしれない黒い塊だったが、「アリスバー」と勝手に名付けているアリス特性携帯食だった。
見た目はグロテスクだが、干し肉をベースに様々な野菜や果物のエキスなどを練りこんだ代物で、栄養価は満点で味も良いというモノだった。
いかんせん見た目が悪いのが玉に瑕で、アリスとタロ以外で率先して食べようという奇特な人物はこれまで現れなかったのであった。
「なんだよ、これぇ……食えんの?」
「嫌なら無理に食べなくていいんですよ」
「いやいや、食います!食います!!」
見た目にかなり引いたものの、目をつぶって一口食べると、予想外に旨いという事を知ったイリスは、アリスに手渡されたそれを瞬く間に完食した。
「びっくりした!見た目がヒドイ分、味の衝撃が半端ないよ!」
「見た目が何ですか?」
目を細めて言葉をかけてくるアリスを見ながら、呆れたように口を開いた。
「アリス、そんなに短気じゃ嫁の貰い手無くなるぞ」
”嫁”と言う単語がアリスの心の琴線のいずこかへ引っかかったものか、
「いい度胸をしてますね?命を助けられ、食べ物を分けてもらった相手によくそんな口が利けると寧ろ感心します」
アリスの予想外の反駁に若干引きつつ、イリスは言葉を選びながら弁解した。
「分かったよ!悪かった!……悪気はなかったんだ。ただ、俺が知ってる女の子も周りからそんな事言われてたからさ…そいつは短気じゃ無くて、すごいお転婆だったからなんだけどな…」
最後は口ごもってよく聞き取れなかったが、イリスが本当に反省している事を感じ取ったアリスは、小さくため息をつくと、
「もういいですよ。こちらも少し言い過ぎたようです。こちらの事も許してもらえるとありがたいのですが?」
そう切り出した。
アリスの言葉を聞いたイリスは、ニヤッと笑うと、
「じゃ、お互い様って事で」
そう言ってアリスに笑いかけた。
立ち直りの早さに苦笑しながら、アリスはイリスに問いかけた。
「そもそも、どうしてこんな所に?」
「それは……」
アリスの問いかけに顔を強張らせたイリスが答えようとしたその時だった。
「おう!お嬢ちゃん!こんな所に隠れてやがったか」
その声とともに、怪しげな男たちの集団が森から姿を現したのだった。
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