黒猫の王と最強従者【マキシサーヴァント】

あもんよん

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第五章 闇ギルドと猫耳の姫君(プリンセス)

第一話「辺境の二人」

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そこはとある国の外れにある鬱蒼とした森の中で、整備されていない簡易な道や獣道が入り混じった場所…つまり辺境であった。

突然、ぽっかりと木々が無くなった空間が現れるかと思えば、空を覆いつくすほどに茂った木々で日差しも遮られ、日中であってもうす暗い場所もある。

そんな場所にその主従はいた。

「……タロ様、聞いてもいいですか?」

先に声を発したのは、この場にはそぐわない黒を基調としたフリルやリボンをあしらったメイド服を身につけた銀髪の少女だった。

その容姿を見れば、10人中10人が振り向くような美少女…アリスはやや俯き加減で彼女の主人に問いかけた。

彼女の視線の先には一匹の黒猫が自らの進む先を見つめるように佇んでいた。

その黒くしなやかな体の後方には異様に長いしっぽが宙を舞っており、アリスに話しかけられたその時一瞬動きが止まったものの、再びゆっくりとその尻尾は揺れ動いていた。

その黒猫こそ、アリスが主人と慕うかつての神:アスタロト…今はただの黒猫タロであった。

『……なんだ?』

アリスの方に視線を向ける事無く不機嫌そうに返した主人の言葉も意に介さず、アリスは言葉を続けた。

「……道、迷いましたよね?」

中空をゆらゆらと動いていた黒猫のしっぽは、その瞬間完全に動きを止めたが、改めて左右への動きを開始した。

『……そんな事はないぞ』

黒猫の言葉に抑揚は無く、ただ事実を単純に伝えただけのようであった。

しかし、長く彼の従者をしていた彼女にとって、その受け答えこそがすべての答えだった。

自分とも目を合わせようとせずに短く答え、この問答を終わらせようとする姿勢。

それは彼女の主人が何か不都合な真実を隠そうとする際によくする行動だった。

その事に彼の従者が気づいているとは知らない黒猫は、内心の不安を気取られないようボーカーフェイスを決め込んでいた。

その実、アリスには伝えていない不都合な真実は確かに存在したが、タロはまだリカバリーの可能性を捨ててはいなかった。

この事実が明るみに出れば、彼の従者にどんな罵詈雑言を浴びせられるかと考えただけで身震いがしてくる思いだった。

何が何でも隠し通す。それが目下のタロに与えられた至上命題であった。

「……あそこに見えるあの岩。もう3回ほど見てますが?」

『……あんな岩、似たようなものは幾らでもあるだろう…』

「先程見た小川の岸辺に群生していた花も4回程見たような気がしますが?」

『川辺に花なんてどこにでもある!』

ちゃんとその問いかけには的確に応えているのに、何故か追い詰められている感覚に陥ったタロは、思わず強い口調で言葉を返しアリスへとその視線を向けた。

そこでタロが目にしたのは、いつものアリスとは明らかに違う雰囲気を醸し出す一人の少女だった。

その顔は能面のように無表情であり、射すくめるようなその視線にタロは思わず固まった。

そんなタロの変化に頓着する事もなく、アリスは最後の問いを主人に投げかけた。

「……じゃ、この足下に転がってる木の棒は何ですか?」

見れば確かにアリスの足元には1本の木の棒が落ちている。

『木の棒なんてどこにでも落ちてるだろう!!』

そんなもの、どこにでもあると言ったタロの強気の言葉を聞いたアリスの顔は、ゆっくりと口の端を上げて妖しい笑顔に変わった。

「でもこれ、先程タロ様が分かれ道で行き先を決めるために使った木の棒ですよね?ここにタロ様が引っ掻いた傷がありますよ?」

『えっ!?……あれ?……えーと……』

アリスの表情の変化に嫌な予感を感じていたタロは、アリスの指摘に思わずその棒を確認してしまう。見れば、確かに先程自分が付けた矢印のキズが残っていた。

内心、冷汗をかきながらアリスに目を向ければ、先程までとは打って変わった満面の笑みでタロを見つめていた。

そして……決定的な問いが投げかけられる。

「道に、迷いましたよね?」

『……迷いました』

ことここに至っては事実を認めるしかなく、黒猫は従者の問いを肯定した。

主人の返答を聞いたアリスは、一瞬の間を置いたのちに表情を一変させると、自身の主人を生ゴミを見るような視線で見つめた。

「やっぱりですか。こんな辺鄙な場所で何のイジメですか?私のようなか弱い少女をいたぶる様なマネをするなんて、タロ様は鬼畜ですか?」

『いや、そんなつもりは毛頭なかったが、ゴフカイニカンジタナラ、フカクオワビイタシマス』

アリスの歯に衣着せぬ物言いに内心傷つきつつも、主人の威厳を損なわない程度の謝罪で何とか切り抜けようとしたタロだったが、やはりアリスには通じない。

「そんな事務的な謝罪で私たちの関係を終わらせようとしてるんですね?タロ様、サイテーです」

『……ちょっと待て。道に迷ったぐらいで、なんで鬼畜だの不倫関係を終わらせようとしてる野郎のような文句を言われなきゃならないんだ!?』

段々と発言の内容がおかしな方向に向き出した事に気付いたタロは反論を試みるが、

「そもそも、そこです。道に迷ったぐらいでという安易な考えが、タロ様のトラブル猫生活を助長してるんですよ?もう少し危機感をお持ちください。」

と、寧ろ発言を逆手に取られ更に追い詰められる羽目に陥ったのだった。

『なんか普通に説教された!?…だが、まあ、そうだな。済まなかったな、アリス』

素直に頭を下げるタロの姿を見たアリスは、苦笑を浮かべてタロに話しかけた。

「分かっていただければ良いのです。まぁ、こんな場所でそうそうトラブルもないでしょうし……」

「うわぁー!!」

そんなアリスの言葉が終わらないうちに、辺りには何者かの悲鳴が響き渡った。

「『………』」

お互いに見つめ合ったタロとアリスは、ゆっくりと声が聞こえた方へ顔を向けるとあからさまに落ち込んだ声でタロが呟いた。

『……何か言いたきゃ言っていいんだぞ?』

そんな事を言い出した自身の主人をいたわるような視線で見やった黒猫の従者は、ゆっくりと首を横に振ると、慈愛に満ちた笑顔を主人に向けた。

「いえ、タロ様の体質があまりに不憫で…思わず大笑いしそうです!」

『同情されるのかと思えばすごくバカにされた感じだな!?おい!』

思わずいつもの馬鹿なやり取りに戻りそうになった二人だったが、

「たすけてー!!」

という叫びにお互い軽くため息をつくと、

『まぁ、ほっとくわけにもいかんだろうし、行ってみるか…』

「……そうですね」

そう言って、声の方向へと走り出したのだった。
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