黒猫の王と最強従者【マキシサーヴァント】

あもんよん

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第四章 神々の邂逅と偽りの錬金術師(アルケミスト)

第十四話「神と神」

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「俺に応えられるかなぁ??」


 そうおどけた口調の男の事は気にせず、タロは話を続ける。


『例のあの男爵に賢者の石を渡したのはなぜだ?錬金術はまだ人間には与えない事になっていたはずだが?』


 そのタロの言葉を聞いたベリトは、やれやれと言う素振りを見せて黒猫の問いに答える。


「まぁ、錬金術を人間に授ける云々は置いといて、あの男爵の話はしてもいいぞ。傑作だからな!」


 そう言って語ったベリトの話の内容に、タロは胸糞の悪くなるのを感じた。


 今の男爵は名をクラウスと言ったが、クラウスの周りにいた人々、彼の母親と父親である先代男爵、そして先代男爵の正妻である女性とその息子である二人の兄は、皆とてもやさしい人達で、特に兄達と兄達の母親はクラウスにとても良くしてくれたそうだ。


 だが、当のクラウスは劣等感の塊であり、心の奥底で常に兄達や兄の母は自分の事を裏では蔑んでいるのではないか、と考えていたのだという。


  実際、母親は平民の出である事から、その劣等感は日に日に強くなっていくばかりだったらしい。その事をある事情で知ったベリトは、錬金術師・フラメルとして密かにクラウスと知己を得たのだそうだ。


 その後は、ベリトの闇魔法を使い、クラウスの潜在的な不安と劣等感を増大させた上で、賢者の石とその使い方を教えたという。


 その後の展開は意外と早かったとベリトは笑いながら話した。


 表向きは病死という事になっているが、実は父親も二人の兄も“石”の糧にされたと言うのだ。初めに父親が、次いで二人の兄たちが石の糧にされた。そこまで来ると、元々そうだったのかは分からないが、クラウスの嗜虐性が表に顔を出し、次々と残忍な行いもやっていたとベリトは話した。


 先代男爵の二人の妻がどうしているのかは知らないが、推して知るべしだろうと言ってベリトの話は終わった。


「あの男爵は自らの猜疑心で周りのすべてを失くしましたとさ」


 そう笑いながら話すベリトを見ながら話を聞き終わったタロは、深く息を吐くと鋭い視線をベリトに向けて、


『ベリト、もう一度聞く。何故あの男爵に【賢者の石】を渡した?』

と静かに問うた。


 笑っていたベリトもタロのその様子に真顔に戻り、頭を掻きながら渋い顔でその問いに答えた。


「まぁ、ある意味実験かな?強大な力を手に入れた人間が、どう行動するのか?心の弱い人間に力を与えるとどうなるのか?そういう意味では、これ以上ない素材だったよ」


 そう言ってニヤリと笑うベリトを心底嫌そうな目で見るタロは、


『貴様のそんな実験に付き合わされた人間はたまらんな。まだ、その実験とやらを続けるつもりか?』


 そう言うと鋭い視線をベリトに向けた。


 対するベリトは、特にタロの視線を避けることも無くまっすぐにタロの目を見ると、


「ある程度満足できる結果は得られたし、取りあえず今回は終了だな。お前にも会えたことだしな?」


 そう言って不敵な笑みを浮かべた。


 タロはそんなベリトと視線を交わしたまま、最後の問いを投げかけた。


『貴様、あいつがどうしているか知っているか?』


 そう問われたベリトの片眉が一瞬ピクリと動いた。


「あいつ?」


 そうベリトに問われたタロは、


『俺達の共通の知り合いで、俺が今一番会いたいやつさ』


 そう言って獰猛な表情を見せた。


 その言葉と表情で誰の事を言ってるのか察したらしいベリトは、


「……さぁ?俺はあれ以来会ってないが?」

とだけ返した。


 そのやり取りを聞いていたアリスがおもむろにベリトに声をかける。


「ベリト様、知ってることがあれば、ここでお話しください。こちらもあまり手荒な真似はしたくないのですよ?」


 そう言って改めてハルバートをその手に握り、ベリトに突きつけた。


「ほう……しばらく見ない間に随分と勇ましい事が出来るようになったのだな?小娘」


 そう答えたベリトは、アリスを小馬鹿にするような笑みを浮かべて、


「その手荒な真似というのはどういうのを指すのか、私に教えてくれんかね?」

と声をかけた。


『アリス!!よせ!!』


 反射的にそうアリスにタロが叫んだが、アリスは既に動き出した後だった。


 大きく振りかぶったハルバートをベリトに向けて振り下ろしたが、ベリトは最小限の動きでその刃を避けると、一瞬でアリスに肉薄した。


 だが、アリスもその事は織り込み済みだったようで、振り下ろしたハルバートは既にその手を離れ、スカートの下に隠し持ったナイフをその両手に握っていた。肉薄したベリトに二本のナイフで息をもつかせぬ連続の斬撃を放つが、アリスの卓越したナイフさばきも舞うような身のこなしでベリトは躱していった。


「……っく!」


 自分が仕掛けているはずなのに、次第に追い詰められていく感覚がアリスを襲う。


 ベリトはしばらくアリスのナイフ攻撃を間一髪で躱し続けていたが、その回避運動を突然止めた。


 アリスは、自分の攻撃がベリトを捉えたと感じた……が、その瞬間アリスのナイフは空を切った。


 自分の目を疑うアリスは次の瞬間、首筋に冷たい感触を感じた。


 アリスがそちらに視線を向けると、いつの間にか手にしたベリトの剣が自分に首筋に当てられている事に気づいた。


『ベリト!アリスを離せ!』


 タロのその叫びを聞いたベリトは、


「今のはこのお嬢ちゃんが仕掛けてきたんだから、不可抗力だろう?」


 そうニヤけた顔でタロに話しかけるが、


『ぬかせ!貴様がそうなるように挑発しただろうが!いいからアリスを離せ!』


 そう言う黒猫の抗議にやれやれと肩をすくめると、アリスに突きつけていた剣を収めアリスとタロから少し距離を取った。


「小娘、私に手荒な真似をするには、今少し力をつける必要があるようだな?」


 面白そうにそう言葉をかけるベリトにアリスは鋭い視線を投げるが、


『アリス!今はよせ!』


 そう言う主の言葉に従い、後ろに下がった。


 タロは再びベリトと対峙すると、


『貴様にはまだ、色々と聞きたいところなんだが?』


 そうベリトに問うたが、


「あいにくこちらにも予定があってな。いつまでも付き合ってやるわけにもイカンのだよ」

と、素っ気なく返された。


『貴様、まだ今回のような事を繰り返す気か?』


 そう問いかける黒猫に視線を向けた虚偽の魔王はこう答えた。


「だとしたらどうする?貴様には関係ないと思うのだが?」


『確かに関係は無いな。だが、元とは言え俺も貴様も神の一員だった。どんな意味のある実験かは知らんが、むやみに人間に犠牲を強いるような真似は許容できんのだが?』


 そんなセリフを吐く、今は何の力も無い獣に堕したかつての同胞を見て、


「相変わらずの単純正義感馬鹿だな、お前は」

とベリトが何気に呟いた瞬間、アリスは手をポンとたたき、タロは目を見開いて同時に叫んだ。


「この人です!」


『貴様かー!!』


 いきなり目の前の二人が大声を出した事で驚かされたベリトは、


「おっとと!?いきなり大声出したらビックリするじゃねーか。何なんだよ」

と不平の声を上げたが、


『貴様、影で俺の事をそう呼んでたのか!』

とタロに問い詰められると、


「あ?ああ、それ?あっはっは。言い得て妙だろ?」

と、悪びれずに笑い声をあげた。対したタロは、


『あっはっは、じゃねーよ!』

と返したが、横でそのやり取りを聞いていたアリスは、


「え?まんまタロ様にぴったりだと思いますけど?」

と自身の感想を述べた。


『えっ!?アリスさん、まさかの裏切り!?』


 タロはそう言ってアリスにジト目を向けるのだった。


 そんなタロ達主従のやり取りを聞いていたベリトは、


「お前らはいつまで経っても変わらんな……」

と静かに呟いた。そして、タロにこう切り出した。


「アスタロト。取りあえずさっきの問いにだけは答えてやるよ。今回のような実験はこれで終わりだ。少なくとも、賢者の石が今後人間界に出回る事は無い。少なくとも俺経由ではな」


 ベリトがそう言った次の瞬間、


《ヴォン!》


 という音と共に、ベリトの背後の空間に亀裂が入り、次第にその亀裂が広がり始めた。


「スマンな、時間切れだ。」


 そう言うとベリトは空間に空いたその亀裂の中に体を潜り込ませていく。


『待て!ベリト!貴様にはまだ聞くべきことがある!』


 そうタロが叫ぶが、


「こちらには答える義務は無いのでね」


 そう言ってベリトは話を一方的に打ち切ろうとしたが、ふと思いだしたようにタロ達に言葉を投げる。


「そう言えば、その小娘。なかなか面白い成長をしている。それならば私のコレクションに加えても面白いかもしれんな?」


 そう言うベリトの言葉にタロは反射的に答えていた。


『ふざけるな!誰が貴様のあの悪趣味なコレクションにアリスを加えさせるか!アリスは誰にも渡さん!永遠に俺の傍にいるんだよ!』


「ほう……益々、その小娘が欲しくなったな」


 そう言って剣呑な視線をタロ達主従に向けたベリトだったが、二人から視線を外すと


「とりあえず、今日のところは退散させてもらおう。正直、お前とやりあう気は今のところ無いしな。」

そう言って完全に空間の向こう側へ姿を消した。


「機会があればまた会おう」


 その言葉を最後に再び


《ヴォン!》


 という音と共に空間に空いた亀裂は跡形も無く消え去っていた。


 その場に残されたタロとアリスは、しばらくベリトの消えた空間を見つめていたが、


『……思った以上の面倒ごとに巻き込まれる予感がぬぐえない』


 タロはそう言ってため息をついた。


 若干黄昏気味のタロだったが、ふと横に目を向けるとアリスが何やらモジモジしている事に気づいた。


『アリス、どうした?何か問題でもあったか?』

と問いかけた。すると、若干頬を桜色に染めたアリスがタロの問いかけに応えてこう言った。


「……タロ様。お願いがあるのですが……先ほどのセリフを……もう一度言ってもらえませんか?」


『え?さっきのセリフ??俺、なんか言ったっけ?』


「先ほどベリト様がコレクションが云々って言ってた時に、タロ様が返したあの言葉を……もう一度聞きたいなぁ、なんて……」


 さっきは思わず反射的に言葉を返してしまったが、アリスにそう言われて自分が何を言ったかよくよく思い出してみたタロは、思わず顔が赤くなるのを感じた。そして、アリスが何を求めているのかは分かったが、素面ではとても口に出来るセリフでは無かった。


『……その事はもういいだろう?ほら、町に戻るぞ』


 強引ではあったが、その事にはもう触れないようにしようとした黒猫の主に、


「タロ様!お願いします!あと一回だけ!」

としつこく言い募る従者に、思わずタロは


『もう、うら若い娘でもあるまいし、そんなに……』


 そこまで言った所でハッとしたタロだったが、既に空気が凍り付く程の悪寒を感じて、ゆっくりとアリスの方を振り返ると、三白眼になったアリスの顔が目に入った。


「……タロ様?先日からどうも私の年齢が気になるようですが、わたくしがBBAだとでも?」


『……イエ、ケッシテソンナコトハアリマセンヨ?』


「……覚悟はいいですね?」


 結局、従者からの折檻を受けたタロとその従者が町の宿屋に戻ったのは、翌朝早くだった。


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