黒猫の王と最強従者【マキシサーヴァント】

あもんよん

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第四章 神々の邂逅と偽りの錬金術師(アルケミスト)

第八話「覗く裏の顔」

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 ハンスは足早に人通りも疎らな裏通りを歩いていた。


 午前中にここに来ることはこれまでに無かったが、いよいよ計画の実行段階に入って、他のメンバーとの最終打ち合わせのための緊急招集がかかったのだった。


 いつもはフードを被ってくるのだが、今日は思いがけない出来事で家に取りに帰る暇が無かった為にそのまま来てしまったハンスは、いつも以上に周辺への警戒を払って目的地へ急いだ。


 ハンスがその建物に入ると、先に到着していた五~六人の男女が一斉にハンスに視線を向けた。


「すまない、遅くなった」


 そう言ったハンスに、年嵩の男性が応じた。


「ハンス!いや、俺たちも今揃ったところだ。後はあの男だけなんだが、それよりどうしたんだ?その格好は?……」


 いつものローブを身に付けていない、まるで着の身着のままといった風情のハンスにその男は問いかける。


「いや、ちょっとおかしな奴に絡まれて、家に寄る暇が無かったんだ」


 渋い顔をしながらそう返すハンスを訝しみながら


「……おかしな奴?」


 と男が問いを重ねると、


「……ひょっとしたら男爵の配下かも知れない」


「なにっ!?」


 ハンスの言葉を聞いた男達は一斉に驚愕の表情を浮かべ、部屋中に緊張が走る。


「ハンス!大丈夫なのか!?」


「いや、例の魔法で攻撃してきたから、おそらく無事では済まないだろう……」


 苦い表情でそう言うハンスの言葉を聞いた面々はほっと安堵の胸を撫でおろしたが、ハンスの近くでその表情を見た別の男がハンスに言葉をかける。


「ハンス、お前さんの気持ちは分からんではない。だが、俺達にはどうしても果たさなければならない事がある。その為には……」


「分かってる!分かってるんだ!ただ、俺の狙いは男爵だけだ。出来れば、それ以外の人間の命を奪うような事は避けたいんだ……」


「ハンス……」


 ここに集まっている男女は、ハンスを含め皆、自分の大事な人を男爵に奪われた者たちだった。


 全員の願いはただ一つ、男爵に正義の鉄槌を下すことだった。


 何故、この面々が知り合う事になったのかと言えば……。


「あれぇ~、僕が一番最後?悪いね、待たせちゃって」


 相変わらず軽い口調で話しながら入り口の扉から姿を現したのは、その顔に人を殺すことなんて出来そうもない笑顔をたたえた金髪の若い男だった。


「遅いぞ!お前が呼び出したくせに待たせるとはどういうつもりだ!」


 ハンスは男に対する嫌悪感を隠そうともせず、乱暴に声をかける。


「いやー、悪い悪い。少し準備があってさ。それより、皆、適当に座ってくれるかな」


 しかし男は、そんなハンスの不機嫌な声を聞いてもどこ吹く風といった塩梅で特に気に留めた様子もなく、部屋に居る面々に座るよう促した。


 男の声に従い、皆が思い思いの場所に腰を下ろすと、ハンスも不承不承、例のソファーに収まった。

金髪の男は皆が席についている事を確認すると、


「皆をだいぶ待たせたけど、ようやく準備が整ったよ。今夜実行だ」と告げた。


 その言葉を聞いた瞬間、その場に何とも言えない緊張感が漂った。ようやく自分たちの願いが叶う……誰もがその感慨に浸る中、一人冷静にハンスが口を開いた。


「間違いなく、今夜、奴はあの場所に来るんだろうな?」


 不信感を露に問いかけるハンスを見やった金髪の男は、苦笑を浮かべながらその問いに答える。


「ここで嘘を言っても始まらないしね。君が持っている“それ”がエサなんだ。必ず来るよ」


 そう言いながら、ハンスの手にあるバッグを指さした。


「その“石”はただの石じゃないからね。実際にその“石”の力を使っている君は分かるよね?」


 人畜無害そうな笑みを浮かべて問いかけてくる人物を一瞥して、ハンスはバッグの中からその紫の淡い光を放つ“石を取り出した。


「分かっているさ。魔法が使えないこの俺が魔法を使えるんだからな。“賢者の石”とはよく言ったものだ」


 そう言いながらその手の中にある“石”を眺め何事か考えていたハンスだったが、視線を金髪の男に向けると、


「で、前回話した通り、こいつの魔力を一気に解き放って、来た奴らを一気にやっつける、って事でいいんだな?」


 と尋ねた。


「それで、問題ないよ。この前教えた呪文、それですべてが終わる」


 金髪の男がそう答えたのを聞いた他の男は、


「どうせ、自分の兵隊たちも連れてくるんだろうからそいつらはいいとして、男爵も一瞬で始末してしまうのは面白くないな」


 と、難色を示した。他の面々も同じように考えているようで男の発言に同意を示したが、


「あの男爵の事だから、下手に引っ張って逃してしまったら、もう二度とチャンスはないかもしれないよ?」


 という金髪の男の発言に反論できず、黙ってしまった。するとハンスは、


「みんなの気持ちも良く分かるが、まず、男爵に復讐を果たす事が先決だ。申し訳ないが、確実にいこう」


 そう言って、その場に集まった皆を一様に見た。


 その発言を受けて、他の面々も不承不承ながら、同意を示すのだった。


「じゃ、みんなの気持ちも一つになったところで、今夜、遅れないように現地に集まってね」


 最後にそう告げてこの場から立ち去ろうとする金髪の男に対して、ハンスがおもむろにこれまでの疑問をぶつけた。


「これまでお前が集めたあの人たちはどこへ行ったんだ?それと、お前が俺達に協力する目的は何だ?お前は自分に協力すればと言ったが、俺はまだ、これといった協力をした覚えは無いんだが?」


 そう問われた男は、それまで絶やすことの無かった笑顔を一気に消し去り、無表情のままハンスに答えた。


「それは君の知るところでは無いよ。知ったところで大した意味は無いし。それに、協力についても十分果たしてもらってる。その意味を君らが知る必要はない」


 どこからしら不気味な威圧感を発しながら発言する男の言葉にハンスがたじろいでいると、男は再び笑顔を浮かべ、


「こちらにはこちらの事情があると思ってくれればいいだけだから、気にしなくていいよ。では、今夜」


 そう言うと、さっさと部屋から出て行ってしまった。


 残された面々は幾分毒気を抜かれた表情をしていたが、気を取り直したハンスはすぐに不満を述べた。


「やっぱりあいつは信用できない。そもそも、俺はあいつの名前すら知らないのに……」


 それにはその場に集まった他の者も同意するように、


「ハンスも知らないのか?俺はてっきり、ハンスぐらいは知ってるのかと思ってたんだがな」


と数人が口にしていた。そんな中、一人の女性が


「あたし、実はあの男が他の誰かと話をしてるのを偶然見た事がある。その時に、相手の男があいつを“フラメル”って呼んでるのを聞いたよ」と話した。


「フラメル?じゃ、それがあいつの名前なのか?その時の相手がどんな奴か覚えてないのか?」


 そう別の男に問われたその女性も分からないと答え、男の正体については謎のままであった。


 とは言え、ようやく念願が叶う日が訪れた事はこの集団にとっては大きな意味がある事であり、今夜の集合場所と時間を確認し、一旦解散する事となった。


「エルミーナ、もうすぐすべてが終わる。そしたら……」


 そう呟きながら、部屋を出ていく面々の後を追ってハンスもまたその部屋を後にした。






 ハンスを見失った後、周辺を探索したもののこれといった収穫も無く宿に戻ったタロとアリスは、宿の部屋に入ると机の上に何かが置いてある事に気づいた。


 一瞬、当たりを警戒したが特に他に異変は無く、二人は机に近づいてそれを見た。


「タロ様。どう思われますか?」


 そのモノを見たアリスは、自身の主にそう問うた。


 問われた黒猫もまた机の上のモノを見て、


『罠の可能性もあるが、取りあえず行ってみなければなるまい。虎穴に入らずんばなんとやらってことだな』と呟いた。


 机の上には時間と場所だけが書かれた羊皮紙が置かれていた。
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