黒猫の王と最強従者【マキシサーヴァント】

あもんよん

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第四章 神々の邂逅と偽りの錬金術師(アルケミスト)

第六話「違和感と正義感」

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『話を聞くほどにロクな奴じゃないな、ここの領主は……』


 この町に来て数日、いつもの手段で情報収集をした二人だったが、その情報の内容にタロは気色ばんだ。


主人のそんな様子を窺いながら、アリスはいつもの調子で茶々を入れる。


「そうですね。タロ様のような人でなしに言われるぐらいですからね」


『お前、猫なんだから人でなしとか言ったら、猫パンチ食らわすぞ?』


「えぇ~っと……」


 主人の言葉を聞いた少女は、言葉を濁しながらそのまま視線を横に逸らした。


『やっぱり獣だから人でなしとかいう落ちにもっていこうと思ってたんだろ!?』


 従者の発言を窘めながら、タロは今後の方針を決める為に話を進める。


『とりあえず、集まった情報の整理をするか。んっ?どうした、アリス?』


 気づけばアリスは床に伏して顔を覆っている。不思議に思ったタロがそう尋ねると、


「先程ご主人様に虐待を受けたのをお忘れですか?乙女の柔肌に傷をつけるなんて、ご主人様はなんて非道な……」


 そう宣う従者に、平たんな視線を返して言葉を返した。

『おい、俺は猫パンチ食らわすって話をしただけだよね?いいからこっちの話に参加してくれ』


 いい加減疲れを感じ始めたタロは、早々に話を切り上げるべくアリスの挑発に乗らない作戦を決行したのだが、


「や!です。お詫びにご主人様をモフモフさせてくれたら、参加します」


『いきなり拒否!?しかもなんでお詫び!?俺、お前のご主人様だよね!?断固拒否の方向で!』


 結果、アリスの望むリアクションを取ってしまうのは、何となくアリスのタロを気遣う気持ちを察してしまったからだろうか。


 この町に来てからのタロは、いつになくナーバスな感じがあった。それは、アリスにもタロ本人にも理由は分からなかった。


 ただ、この町にはタロの心を逆なでする何かが存在する。だから、いつものタロとはどこか様子が違った。


 アリスが彼女の主との愚にもつかないいつものやり取りを敢えて続けるのは、アリスが主人を信じている証であり、その事によっていつもの飄々とした主がまた戻ってくると思われたからだった。


 実際、タロはアリスとのやり取りで、自分の心のありようを知る事が出来たのであり、いつもの自分というものをようやく思い出した感じであった。


「ちぇー、タロ様のケチ!」


 アリスは口ではそう言ったものの、ご主人様にいつもの調子が戻ってきたことを感じ笑顔でタロを見つめた。


「心配しなくても、私がタロ様をお守りします」


 そう囁くようにつぶやく従者の言葉に少し照れたタロだったが、軽く咳ばらいをすると、


『……じゃ、本題に入ろうか』


「はい、ご主人様」


 そう言って、主従は集めた情報の整理にかかった。



 二人が集めた情報は、大まか二つの系統に分かれた。


 一つは、どうやら錬金術を使うと吹聴している人間が居るという事。そして、人集めをしているらしいこと。


 その集められた人はいずれも行き方知れずになっているというものであった。


 もう一つは、この町周辺を治める領主の悪行についてだった。


 先代の領主はとてもできた人だったらしく、決して楽では無い領民の生活が少しでも良くなるように税率を下げたり、金のない者でも無料で治療をしてくれる治癒術師院を開設したりするよう人であったと言う。だが、その先代領主が先年急逝した後、状況は一変した。


 実は先代領主には三人の息子がおり、長男がその後を継ぐべく準備が進んでいたらしいのだが、先代領主の死に前後して、長男と次男も相次いで亡くなったため、後を継いだのは三男であったという。そして、その跡を継いだ三十代の現領主は、先代の真逆をいく悪徳領主だと巷で噂されていた。


 まず税率が引き上げられた。しかも、自分の父親が割り引いていた分の税金も納めるのが当然だとして、更に上乗せして取り立てた。


 税金が払えない者に対しては、家財の没取は言うに及ばず、若い娘がいるところにはその娘を差し出すように強要した。


 拒めば領兵がやってきて無理矢理領主の元へ連れ去った。連れ去られた娘は、散々領主に弄ばれた後、奴隷商人に売られた。


 年若い嫁をもらっているところも同じような目にあっているとの事だった。

他にもこの領主についてはロクな噂は無かったわけだが、ある時を境にして その行動が鳴りを潜めたと言う。


 話を総合すると、どうやら行方不明事件が起こるようになった頃と前後して領主の行動が変わってきているようだった。


『まぁ、普通に考えて両方の話は関係してるよなぁ……どう思う?アリス』


 そう話を振られたアリスは、「そうですね。私もそれは同意します」と答えた上で、


「それと、私は領主とその息子二人が死んだ事も気になるんですが…」


 と続けた。


『……だよなぁ~』


 そう呟きながら、タロは巷でささやかれている噂話を思い出していた。


 表向き、領主とその息子たちは病死という事になっていたが、実は全員三男に毒殺されたという噂が巷に流れていた。


 そればかりか、二人いる先代領主の妻も併せて毒殺されているという事もまことしやかに囁かれていた。


 事実、上の二人の子息の母親である正妻と三男の母である側室は、最近公の場に姿を現すことは無くなっていた。


 元々、上の二人の息子は母親が中央の貴族の出であった事から生粋の貴族であったが、三男の母親は町娘が領主に見初められて側室になったものだった。


 その為、上の兄弟にその出自の卑しさを蔑まれて今のようなゆがんだ性格になったのではないかと噂で締められていたが、真実は本人にしか分かりようのないものだった。


『……どんどん深みにはまってる感じがするのは俺だけかな?』


「さすがタロ様です。想定通り、厄介ごとに巻き込まれる匂いがプンプンします!」


『想定通りなの!?俺、そんなに厄介ごとを引き寄せてるかな!?』


 何気に呟いた一言を従者にDisられ、若干落ち込むタロだったが、


『まぁ、そっちもなんだが、錬金術の方こそ話の大元を見つけ出さないとな。闇魔法と一緒で、まだこの地上で名前を聞くはずのない禁術を使う男がいるんだから、その正体を見極めることが先決だな』

と従者に話し、アリスもまた主人の話に頷くのであった。


 実は闇魔法と同じく、錬金術という技術もまた、まだ地上にはもたらされていない知識であった。

いずれ人間に恩恵としてもたらされる予定の知識、と言ったところだろうか。


 神々は人々の生活をより豊かにするための礎として、錬金術という技術と知識をいずれ人間に与える事としていたが、現時点では時期尚早として凍結されている。


 かつて神であったタロもその事を知っていた。


『闇魔法と錬金術が出てきてるんだから俺達の古なじみが関係してるのは明らかだが、誰がどういう関わりをしてるかによって対処が変わるんだがなぁ……』


 そう独り言ちると、アリスに視線を向けて、『どちらにしろ何かを判断するには材料が乏しいし、もう少し情報を集めるか』と従者に告げた。


 それを聞いたアリスは、


「それは構いませんが、ここの領主、そのままでよろしいのですか?先程はタロ様もここの領主のやり様を非難なさっていたではありませんか」


 と主に問うた。その問いに答えたタロは、


『積極的に物事に首を突っ込むつもりはないよ。俺達のスタンスは変わらない、だろ?』

と言ってさっさと寝る態勢に入ったが、その姿を見ながらアリスは何かを思い出すように呟いた。


「そう言えば昔、誰かがタロ様の事を“単純正義感馬鹿”って言ってましたよね?こういう理不尽な事に対してすごくお怒りになるって言うか、そういう感じだったの覚えてますよ」


 そう昔を懐かしむように語るアリスの言葉を聞いたタロは、ガバッと跳ね起き、


『……アリスさん?今、何と?……“単純正義感馬鹿”とか聞こえたが?……』


 そう聞かれたアリスは悪びれもせず、


「言いましたよ。確かにご主人様は正義感強いですから言いえて妙ですよね」


 などと、どちらかと言えば誇らしげに主を見ながら言葉を述べた。だがタロは受け取り方が違ったらしく、


『誰だ!それを言ってやがった奴はー!?』


 予想外のタロの反応に若干引き気味に


「さぁ?……昔、タロ様を訪ねてきていた方のどなたかだったとは思いますが、覚えてませんね」


 そう答えたアリスの言葉も耳に届いていないのか、


『クソッ!どこのどいつだ!』


 タロの怒りは収まる気配が無かった。そんな様子のタロを


「まぁ、もう、昔の話ですし、気にしなくていいんじゃないですか?」


 となだめつつ、アリス的にはそう悪い呼び名でもないと思ったが、その事は言わずにおこうと密かに心に決めるのだった。


 結局、おおまかの方針は決まったものの、まだ大事なピースを見つけられないもどかしさを抱えつつ、二人は就寝するのであった。
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