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第四章 神々の邂逅と偽りの錬金術師(アルケミスト)
第五話「笑う共謀者」
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タロ達が旅するこの世界は、大まか三つの大陸で構成されている。大きい方から、アルタニス大陸、ラドムコス大陸、オキメニス大陸という。他にも大小様々な島嶼が存在してこの世界は成り立っていた。近づく事が出来ないため人に知られる事はないが、ドラゴンが住まう島も現実に存在する。
その中で、現在タロ達がいるアルタニス大陸には、人族を中心とした多くの人々が生活を営んでおり、また多くの国家が乱立していた。
その中でも力を持っていたのは、二つの大国家と一つの都市国家だった。
そのうち、最大の領土を持ち最も歴史のあるとされているのが、大陸の中心から南方にかけて広大な領土を有する【ティラーナ聖王国】である。建国王の妃が神の一柱であった事から聖王国を冠する様になった、との伝説を持っているこの国は、それ故に教会の教えを国教とし世界の盟主を自任していた。
大陸に存在する多くの国と親交を結び、教会の教えである【秩序】を守るため、外交による融和を目指していた。
対して、大陸の北方に建国後、急速に勢力を伸ばしてきたのが新興の【神聖ミケーネ帝国】であった。強大な軍事力を背景に近隣の小国を瞬く間に統合し現在の国土を築き上げた軍事国家である。
帝国も教会の教えを国教としていたが、聖王国の方針とは異なり一国による支配によって安定した秩序の構築を是としていた。そして今から十数年前、帝国の領土拡大に伴い考え方の異なる二つの大国が大陸の中程で国境を接する事となった時、二つの国の緩衝材となったのは小さな都市国家だった。それこそが多くの国で国教とされる【セントーリ教】の総本山、【セントーリ教国】である。
教国は小さな都市国家ではあるが、その影響力は聖王国や帝国のそれをも凌駕するものであった。宗教的な発言力や影響力は言うに及ばず、単独の都市国家ながらその戦闘力も二大国に匹敵すると謳われた。
その力の源は【教会騎士団】と呼ばれる組織にあった。かつて、教国を自らの傘下に収めようとした隣国の軍隊は、僅か十余名の教会騎士団に壊滅の憂き目に遭い撃退された。その後、その国は間をおかず帝国に攻められ地図からその名を消したのだが、この活躍で教会騎士団の名は一気に大陸全土へ広がり、近隣諸国は戦慄をもってこの事実を受け止めた。
それ故、教会騎士団は羨望と一方では畏怖の対象として多くの人々の心に刻まれていた。
地理的には聖王国と帝国を含む三国の国境が接する場所に位置するセントーリ教国は、二大国を含む近隣諸国に教会を多く建設し、セントーリ教の教えを、ひいては神の教えを説いていった。
神が望む秩序を持ってこの世の安寧を図る、それこそが教国の教国たる使命であり、教国の働きによってしばしの安息の時間が作られたのだが、帝国が不穏な動きを見せ始めた今、時代は再び戦乱の時代へと歩みを進めようとしていた……
そんな中……
アラゴン一帯を治める領主であるリッテンハイム男爵の屋敷では、当主である男爵その人が怒りをあらわにしていた。
「まだ見つからんのか!!」
その叱責を受けている領軍の指揮官と思しき人物は、苦り切った表情で報告を続けた。
「はっ!先日の騒ぎの際に首謀者が手にしていた石こそが、例のものだと思われます。現在、鋭意捜索中で……」
「そんな話はさっきも聞いた!!足取りは掴めたのかと聞いとるんだ!!」
真っ赤な顔をして怒りの言葉をぶつけてくる領主にいささか辟易しながら、指揮官はまだ足取りもつかめていない現状を報告し、再び無能呼ばわりされた挙句にようやく解放されたのだった。
指揮官の去った部屋に残っているのは、男爵その人と男爵の補佐を一手に引き受けている執事のブレンターノのみであった。
「閣下、先日は教会騎士団が訪ねてきましたし、そろそろ危ない真似はおやめになった方が良いのではありませんか?」
恐る恐るそう進言する執事の言葉を聞いた男爵は、何を馬鹿なことをという眼差しをブレンターノに向け、
「何を言うか!せっかくあそこまで準備をしておいて、むざむざと成果を横取りされてたまるものか!何としてもあの石は取り返すのだ!!」
そう男爵が叫んだ時、扉近くからパンパンパンと手を叩く音が聞こえてきた。
反射的にその音の方を向いた男爵と執事の目には、フード付きのローブをすっぽりと頭からかぶった人物が拍手をしている姿が映った。
「!!貴様!フラメル!!一体どこに姿をくらませていた!例の石が何者かに盗まれたのだぞ!どうするつもりだ!」
続けざまに捲し立てる男爵の言葉を聞いているのかいないのか、フラメルと呼ばれた表情の見えないその人物は
「盗まれたのはそちらの警備体制の問題じゃないのかなぁ~?それを僕に言われても、ねぇ?」
と、男爵の手前勝手な言い分を軽くいなしながら、部屋の中央付近に据えられたソファーに腰掛け足を組んだ。
そんな人を小馬鹿にしたようなフラメルの言い草に男爵は、
「何を他人事のように言っている!そもそもこの話を持ってきたのは、お前じゃないか!」
と、先程までの怒りを言葉に乗せて、そのままそのフードの人物に投げつけるが、
「確かにそうだけど、まさか大事なアイテムを盗まれるような間抜けとは思わなかったからね?」
とフラメルは心底失望したとの雰囲気で言葉を返す。
その物言いに怒りで我を忘れた男爵は、
「貴様~!言うに事欠いて貴族たる私に間抜け呼ばわりとは、死ぬ覚悟は出来ているんだろうな!」
と、一気に剣呑な雰囲気を醸し出した。だが、当のフラメルはその様子を気にした風でもなく、、
「あのさぁ、あんたそんな事言っていいの?そもそも、最後の手順教えてないから、僕殺したら全てがパーになるよ?」
相変わらず場の空気を読まないノーテンキな口調で返答を返した。
その言葉聞いた男爵は歯ぎしりをして件の人物を睨みつけ、
「おのれ!姑息な手段を取りおって!! 目にものを見せてくれる!!」
と言ったものの、確かにフラメルの言う通り、現時点ではこの人物を処分する事など叶わない事は自明の理であった。
「とりあえず、そこでカッカしてても始まんないから、座って話しようよ。対策を練らないと、教会騎士団が来てるんだからさ。教会騎士団が来てる意味、分かってるよね?」
怒り心頭の男爵ではあったが、教会騎士団の名前が出た段階で、やや自制心を取り戻しつつあった。
「それは……」
先程部下に言われた時はさほど気にもかけなかったが、よくよく考えればかなりマズい事は男爵にもわかっている事であった。
フードの人物もその点を踏まえた上で、
「あいつらの信条は『神が望めば神をも殺す』って言われてるの知ってる?今回の件の真実があいつらにバレたら、あんた速攻で処分されると思うけどいいのかな?」と告げた。
その言葉を聞いた男爵は、教会騎士団とは言えまさか聖王国の貴族である自分に対して強硬な手段に出るとは思っていなかったため、「私は聖王国の高貴な貴族の身だぞ?そんな簡単に…」
とフラメルの言葉を否定しようとししたが、「さっき僕が言った言葉、聞いてた?『神が望めば神をも殺す』ってのは伊達じゃないんだよ?まぁ、あんたが気にしないって言うのなら、僕は別に構わないんだけど?」と言葉を返され、二の句が継げなくなった。しばしの逡巡の後、男爵はフードの人物に言葉を返した。
「……それで、どうすればいい?」
ここに至って、ようやく事態がかなりマズい状態になっている自覚を持った男爵をフラメルは見上げ、
「そうそう。人間素直が一番だよ。じゃ、話を始めようか?」と切り出した。
その夜、遅くまで二人の話は続いた。
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その中でも力を持っていたのは、二つの大国家と一つの都市国家だった。
そのうち、最大の領土を持ち最も歴史のあるとされているのが、大陸の中心から南方にかけて広大な領土を有する【ティラーナ聖王国】である。建国王の妃が神の一柱であった事から聖王国を冠する様になった、との伝説を持っているこの国は、それ故に教会の教えを国教とし世界の盟主を自任していた。
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帝国も教会の教えを国教としていたが、聖王国の方針とは異なり一国による支配によって安定した秩序の構築を是としていた。そして今から十数年前、帝国の領土拡大に伴い考え方の異なる二つの大国が大陸の中程で国境を接する事となった時、二つの国の緩衝材となったのは小さな都市国家だった。それこそが多くの国で国教とされる【セントーリ教】の総本山、【セントーリ教国】である。
教国は小さな都市国家ではあるが、その影響力は聖王国や帝国のそれをも凌駕するものであった。宗教的な発言力や影響力は言うに及ばず、単独の都市国家ながらその戦闘力も二大国に匹敵すると謳われた。
その力の源は【教会騎士団】と呼ばれる組織にあった。かつて、教国を自らの傘下に収めようとした隣国の軍隊は、僅か十余名の教会騎士団に壊滅の憂き目に遭い撃退された。その後、その国は間をおかず帝国に攻められ地図からその名を消したのだが、この活躍で教会騎士団の名は一気に大陸全土へ広がり、近隣諸国は戦慄をもってこの事実を受け止めた。
それ故、教会騎士団は羨望と一方では畏怖の対象として多くの人々の心に刻まれていた。
地理的には聖王国と帝国を含む三国の国境が接する場所に位置するセントーリ教国は、二大国を含む近隣諸国に教会を多く建設し、セントーリ教の教えを、ひいては神の教えを説いていった。
神が望む秩序を持ってこの世の安寧を図る、それこそが教国の教国たる使命であり、教国の働きによってしばしの安息の時間が作られたのだが、帝国が不穏な動きを見せ始めた今、時代は再び戦乱の時代へと歩みを進めようとしていた……
そんな中……
アラゴン一帯を治める領主であるリッテンハイム男爵の屋敷では、当主である男爵その人が怒りをあらわにしていた。
「まだ見つからんのか!!」
その叱責を受けている領軍の指揮官と思しき人物は、苦り切った表情で報告を続けた。
「はっ!先日の騒ぎの際に首謀者が手にしていた石こそが、例のものだと思われます。現在、鋭意捜索中で……」
「そんな話はさっきも聞いた!!足取りは掴めたのかと聞いとるんだ!!」
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指揮官の去った部屋に残っているのは、男爵その人と男爵の補佐を一手に引き受けている執事のブレンターノのみであった。
「閣下、先日は教会騎士団が訪ねてきましたし、そろそろ危ない真似はおやめになった方が良いのではありませんか?」
恐る恐るそう進言する執事の言葉を聞いた男爵は、何を馬鹿なことをという眼差しをブレンターノに向け、
「何を言うか!せっかくあそこまで準備をしておいて、むざむざと成果を横取りされてたまるものか!何としてもあの石は取り返すのだ!!」
そう男爵が叫んだ時、扉近くからパンパンパンと手を叩く音が聞こえてきた。
反射的にその音の方を向いた男爵と執事の目には、フード付きのローブをすっぽりと頭からかぶった人物が拍手をしている姿が映った。
「!!貴様!フラメル!!一体どこに姿をくらませていた!例の石が何者かに盗まれたのだぞ!どうするつもりだ!」
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そんな人を小馬鹿にしたようなフラメルの言い草に男爵は、
「何を他人事のように言っている!そもそもこの話を持ってきたのは、お前じゃないか!」
と、先程までの怒りを言葉に乗せて、そのままそのフードの人物に投げつけるが、
「確かにそうだけど、まさか大事なアイテムを盗まれるような間抜けとは思わなかったからね?」
とフラメルは心底失望したとの雰囲気で言葉を返す。
その物言いに怒りで我を忘れた男爵は、
「貴様~!言うに事欠いて貴族たる私に間抜け呼ばわりとは、死ぬ覚悟は出来ているんだろうな!」
と、一気に剣呑な雰囲気を醸し出した。だが、当のフラメルはその様子を気にした風でもなく、、
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と言ったものの、確かにフラメルの言う通り、現時点ではこの人物を処分する事など叶わない事は自明の理であった。
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「それは……」
先程部下に言われた時はさほど気にもかけなかったが、よくよく考えればかなりマズい事は男爵にもわかっている事であった。
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