黒猫の王と最強従者【マキシサーヴァント】

あもんよん

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第四章 神々の邂逅と偽りの錬金術師(アルケミスト)

第四話「シャルロッテ・ウィンザード」

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 結局、当初の予定よりだいぶ遅れて宿を決めた一匹と一人は、代わり映えのしない安宿の侘しい食事でとりあえず腹を満たし、部屋へとおさまった。


 考えるべき事は多いが判断するには材料が少ない現状では、やれる事は限られていた。


「あの魔法の件ですが……」


 口火を切るようにアリスがタロに問いかけた。


『あぁ、あの死んだ兵士の様子からしても、間違いなく闇魔法のライフ・ドレインだろう』


「でも、あの男は別の魔法の名前を叫んでいましたが……。それに、呪文の詠唱をしていませんでした」


『確かにな。だが、ネガティブ・レインなんて言う魔法は聞いたことが無い。そして何より……闇魔法を使える人間は存在しない』


 タロの言葉を聞いて、アリスも頷く。


 魔法には、火・風・水・土の属性魔法の他に、聖(光)と闇の魔法が存在する。


属性魔法はそれぞれの精霊が持つ力に特化した魔法だが、聖魔法は特に回復や癒しといった事に特化した魔法だった。


 また、闇魔法は記憶や精神に働きかける魔法が多く存在し、マナ・ドレインやライフ・ドレインのように相手から魔力や生命力を奪い自分のものにするドレイン系の魔法もこの系統に属していた。


 神たちは、すべての種類の魔法を使う事が可能ではあったが、当然、得手不得手はある。


 秩序の神々は、属性魔法の他には比較的聖魔法を得意とする者たちが多く、反対に混沌の神々は闇魔法を得意とするものが多かった。


 神であった頃のタロはその点優秀で、すべての種類の魔法をある程度同じように扱う事が出来ていたのだ。


 先の戦いで勝利した秩序の神達は、人間に信仰と恩恵を与える際に魔法の知識も与えたが、闇魔法の知識だけは一切与えなかった。それは、闇魔法の持つ効果の特性を恐れての事か、または混沌の神達が得意とした魔法への忌避であったのか、本当の事は分からない。一つ確実なのは、地上において闇魔法は存在しない、という事だけだった。


『ホントは錬金術の話の真偽を確かめるためにここへ来たはずなんだが、何だかうさん臭い話になって来たな』


「そうですね。せっかくエセ錬金術師の悪事を暴いて、ため込んだ金品をせしめるつもりだったのに!」


『……ゴメン、お前が言うとホントにやりそうで怖いから、そういうの止めてもらえるかな?』


 小さくため息をつきながら、タロは従者を窘めた。もちろん、そんな事を本気で考えているとは思っていないから、軽い気持ちで言ったのに、


「えっ!?タロ様、せっかくのお宝が目の前にあったら懐に入れますよね??」


『めちゃめちゃガチじゃねーか!!しかも表現がエグイです!アリスさん!』


 どこまでも真意の読めない従者とご主人様の夜は更けていった……。




翌朝




 生活の糧を稼ぐついでに情報収集をと、例のごとく宿屋の軒先を占いの場所として確保した二人は、当面の生活費と共にいくつかの気になる情報を得ることに成功していた。


 お昼を少し回り、そろそろ店じまいをしようとしていた矢先、アリスは通りをこちらに向かってくる一人の人物に気づいた。


 その人物が近づくにつれ、その異様な出で立ちに目を奪われる。


 美しくウェーブのかかった長い黒髪をたなびかせながら近づくその人物は、真っ赤な口紅が厚く塗られた口元と化粧で美しく強調された目元とは裏腹に、ギリシャ彫刻を思わせる彫りの深いかおだちと、何より二つに割れたアゴの奥にはっきり見える喉仏が人物の性別をハッキリと表していた。身にまとった鎧の上からでも分かるほど鍛え抜かれた体躯は2メートル近くあり、決して不細工ではないその容姿と相まって、普通にしていれば逞しい一人の騎士として皆の羨望の眼差しを受けたであろうに、その顔に施された化粧と髪型が全てを台無しにしていた。


 身につけた銀色に輝く鎧と白いマントをなびかせながら歩くその人物にしばし視線を奪われたアリスであったが、ハッと我に帰ると件の人物と目を合わせないように慌てて目を伏せるのであった。もちろん、タロもそれに倣ったのは言うまでもない。


「『あれは絶対に関わり合いになったらダメな奴!』」


 二人の認識は一致していたため、行動には少しの遅滞も無かった…はずなのに。


 ふと、自分を大きな影が覆っている事に気づいたアリスが恐る恐る顔を上げると、目の前には先ほどの人物が自分を見下ろすように見つめていた。


「やっぱり!あなた、すごく奇麗な娘ね。あたしの次ぐらいにあなた奇麗よ。見ない顔だけど、初めましてかしら?」


 見た目にそぐわない可愛い声で問いかけられたアリスは、若干引き気味に


「は、はい。私、旅の占い師をしておりまして昨日この街にやってきたのです。申し遅れました。アリスと申します」


 慌てて立ち上がったアリスは、お辞儀をしながら簡単に自己紹介を済ませたのだが、顔をあげて改めて目の前の人物を見た時に、その鎧の胸に刻まれた三本の稲妻が目に入った。


「……もしや教会騎士団の方ですか?」


「あら?よくご存知ね。まぁ、この紋章を見れば分かるわよね~」


 そう言って不気味(?)な笑みを浮かべる人物に、


「はい、少し前にお仲間のソフィア様に助けていただいたことがあるので」


 アリスがそう答えると、目の前の人物の目つきが一気に変わり


「あぁ!?ソフィアだぁ!?お前、あの変態女の仲間かなんかか!?ごるぁ!!」


と、先程とは打って変わった野太い声でアリスに詰め寄った。


「い、いえ!!違います!たまたま私が困っているところを助けていただいただけで、その際に初めてお会いしたのです!」


 目の前の人物の豹変に若干ドギマギしながら事の経緯を話すと、


「なあ~んだ、それならそうと早く言ってよー。あたし、ちょっと動揺しちゃって暗黒面が出ちゃったじゃない。ゴメンねぇ~」


 そう言って可愛く愛想を振りまく目の前の化けも…人物に改めて距離感を掴みかねるアリスであった。


「その、お名前をお伺いしてもよろしいですか?」


 と、問いかけたアリスに


「ああ、まだ名前を言ってなかったわね。私の名前はシャルロッテよ。よろしくね、アリスちゃん」


 そう言って軽くウィンクをする姿は、普通の少女であれば可愛い仕草に見えるのだろうが、今見せられた光景は拷問以外の何物でも無く、タロはアリスの影に隠れて軽くえづいた。


 シャルロッテの視線を一身に受けるアリスは、その内心を何とか覆い隠し笑顔で話を続ける。


「それでシャルロッテ様、なぜこの町に?」


「ああ、職務上の秘密だからホントは言っちゃダメなんだけど、アリスちゃん可愛いから教えてあげる」


 そうにこやかに返答を返す姿を見ながら、それで良いのかよ!?と心の中でツッコム二人をよそに、シャルロッテは簡単に事の経緯を話し出した。


 実は最近、このアラゴン周辺で複数の行方不明事件が発生しているらしいのだが、警邏隊の捜査が一向に進まない為、業を煮やした一部の関係者が教会に訴え出た事が発端だとシャルロッテは語った。しかも、どうもその行方不明事件に関連して怪しげな術の噂も聞こえてくるため、騎士団の一員である自分が調査に来たのだと付け加えたのだが……。


「それがね、ここの領主様がどうも協力的じゃないのよね」

と渋い顔をしてシャルロッテは不平を漏らした。


「どういうことですか?」


「聖王国だけじゃなくって、教会の教えを国教に掲げている国では、教会騎士団は自由な調査権が認められてるのよ。だから調査は勝手に出来るんだけど……」


 シャルロッテの話では、なるべく無用の軋轢を生まないように調査に入る際にはその地を治める領主に話を通してから調査を行う事が通例となっている為、ここアラゴンを治める領主の元を訪ねたところ、


「自分達で解決できるから介入は不要!」

と、けんもほろろな対応だったという。


「結局、領主であるリッテンハイム男爵には会えずじまいってわけなのよ」

シャルロッテはウンザリした表情で話すと、


「そうこうしてたら昨日の騒動でしょう?だから、もう、勝手に調査しちゃおうかと思って町を歩いていたら、かわいい美少女を見つけたってわけ。何か知ってることがあったら教えてね」


 そう言ってアリスに微笑みかけた。


 アリスは苦笑を浮かべながら、


「私たちも昨日この町に着いたばかりなので、特に情報も持ち合わせませんが、何かあればお知らせしますね」


 と返し、暇乞いをすると宿の部屋へと引っ込んだ。


 別れ際、シャルロッテは、


「ああ、ソフィアには気を付けなさい。あいつ真性のバカだから、気を許すとどんな目に合うかわかったもんじゃないわよ?それじゃあね」


とアリスに告げた。


『なんだか、えらいものを見た気がするが……』


「そうですね。びっくりしました。でも……」


 黒猫と少女の主従は今まで目の前にいたバケモ……人物を思い起こしていたが、以前入手した情報と照らし合わせ、その真実を正確に理解したのだった。


『あぁ、アレが噂の“血濡れのシャルロッテ”って事だな』


「そのようです。あまり騎士団のメンバーについては情報が無いんですが、あの方は特殊ですからね」


 従者の言葉を聞きながらタロは記憶を手繰ると、


『そうだな。確か…ウィンザード家だったか?聖王国の四大貴族の一つだったな?』


 そうアリスに問いかけた。


「はい。一時期、すごい噂になりましたからね。ウィンザード家歴代最強の当主になると思われていたディゴリー・フォン・ウィンザードが突如出奔して教会騎士団に入団、しかも名前をシャルロットに変えていたとか、武辺一辺倒の家系であるウィンザード家は大騒ぎになったと聞いた事があります。どう言う事かと思っていましたが、納得です」


 うんうんと何度も頷く従者を横目に見ながら独り言ちるタロは、


『いや、あんまり納得は出来ないんだが……て言うか、この前のキチガ◯女といい、あそこの組織は変態しかいないのか?大丈夫なのか教会騎士団?』


 と、若干心配になるのであった。


 それでも、先程のシャルロッテの黒髪を思い出し、


『だが、黒髪はやっぱり以前のアリスの黒髪の方が良いな』


 と、タロが感慨深げにのたまうと、


「はぁ!?あんなのと比べ無いでもらえますか!タロ様サイテー!!」


『エェーッ!?』


 タロは従者に散々に詰られ、平謝りする羽目に陥ったのだった。
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