黒猫の王と最強従者【マキシサーヴァント】

あもんよん

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第四章 神々の邂逅と偽りの錬金術師(アルケミスト)

第三話「まだ見えぬ影」

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 人通りも疎らな裏通りを、男は気配を隠しながら急ぎ歩いていた。先程までの逃走で乱れた呼吸を整えるように、しかし目的の場所に少しでも早く辿り着けるように男は急いで歩をすすめる。


 通りの外れにある古びた建物の前まで来た男は、一度大きく深呼吸をし辺りの様子を伺ってからゆっくりと扉をひらいた。


 建物の中は外観相応の質素な家具類が乱雑に置かれ、とても人が日常的に生活を送っているとは思えなかったが、男は慣れた足取りで中へ入り、一つのソファーに腰を下ろした。男の顔は蒼白で、何事かを思い詰めるように足元へ視線を落とした。


 どれ程の時間が流れただろう。再び扉が開く音がすると、灰色のローブで全身を覆った人物が中へ入ってきた。


「あれは一体どういう事だ!?」


 ローブの人物が部屋に入るや先に部屋に入っていた男……ハンスが声を荒げて立ち上がり、件の人物を睨みつけた。


「あれって?」


 ハンスの激昂ぶりにも特に気を留めた様子も見せず、ローブの人物は被っていたフードを外しながら答えた。フードを外した金髪を軽く振って、いつぞや見せたような人の良い笑顔を見せる若い男に、


「あの魔法の事に決まってるだろう!!人に当たっても暫く痺れるだけで、死にはしないと言ったじゃないか!!それなのに……」


 そう言い放ったハンスは、先程自分が使った魔法……ネガティブ・レインの威力を思い出し、頭を抱えてその場に崩折れた。


「あんなに威力があるとは思わなかったんだよね~。悪い悪い」


 悪びれもせずそう言う男を再び睨みつけたハンスは、


「貴様~、分かってて嘘を教えたな!」


 と、能天気に返事を返す人物に怒りを込めて言葉をぶつけた。


 そんなハンスの苦悩を知ってか知らずか、件の人物は軽い口調で


「有象無象が多少死んだところで問題無いよね?第一、あれ、例の男爵の部下だよ?それとも、もう気持ちは無くなっちゃったかなー?」


 そうハンスに問いかけた。


「ふざけるな!何があっても俺の気持ちは変わらん!あの男に復讐する迄は何があっても……」


「なら結構。良いデモンストレーションになったって事だと思えば良いんじゃ無い」


 金髪の男はハンスの答えを聞いて満足げな声を上げたが、続けてハンスに苦言を呈す。


「それはそうと、少し気をつけてね。さっきも誰かにつけられていたようだから」


 ハンスはフードの人物の言葉を聞いた瞬間、


「なにっ!?では、この場所が知られてしまったのか!?」


 そう焦りと共に叫んだが、


「安心していいよ。そちらの方は何とかなったみたいだから」


 と、相変わらず軽い口調でその男はハンスの焦りをいなした。


 当のハンスもその言葉を聞いて安堵に胸を撫でおろしたのだが、


「他の連中はどうした?」


 バラバラに逃走した他のメンバーの動向が気になりハンスが問うと、その事も分かっていたらしく、


「そちらも心配しなくていい。みんな無事に逃げおおせたみたいだ」


 と返答を返した。目的を一にした仲間の無事を確かめ、


「そうか……で、これからどう動く?兵士が死んだんだ、本格的な捜査が始まるだろう?」


 幾分落ち着いたハンスは、不機嫌そうな表情を隠そうともせずに金髪の男に問いかけた。


「そうだね、捜査は始まるだろうね~。しかも、演説の内容が内容だけに、教会騎士団も動くかも?」


 まったく緊張感のない言葉で言われたので一瞬なんの事か頭に入ってこなかったが、言葉の意味が理解できた瞬間、ハンスは驚愕に顔を青くしながらその男に詰め寄った。


「教会騎士団だと!?貴様、どういうつもりだ!?あんな連中に出てこられては計画が頓挫してしまうぞ!!」


 教会騎士団にまつわる話は枚挙に暇がない。但し、正式にその事を記録する文献も書類も存在はしない。その存在が確認できるのは、退屈な日々の訓練の報告書や、当たり障りのない些細な事件への関与のみであったが、誰もが記録に残らない騎士団の働きを知っていた。知っていたからこそ、今、自分がその標的になる可能性が厳然と浮上した時に、言いしれない不安と絶望を感じたハンスは正常な判断力を持った普通の人物だと言えた。


 ただ、これから自分たちがやろうとしている事はそう言った常識の外にある行為であり、普通の精神状態ではとても耐える事は出来ないであろうと思っていた。


「当然、そうさせない為には……」


「……くっ!そんな事は分かっている。どちらにしろ、俺にはこの闘いを止めるつもりは無いんだ……」


 力無くそう答えるハンスの言葉に、話を振った人物は満足げに頷き相変わらずの軽い口調で応じた。


「だよね~。きっと君のその気持ちも彼女に伝わってると思うよ~」


 そう気楽に告げるフードの人物を瞬間睨んだハンスは、


「エルミーナの事をその汚い口で話すな!!」


 と怒気を孕んだ言葉で一喝した。


「おぉ~怖い怖い。まぁ、そんなに怖い顔しないでよ。計画は順調に進んでるんだし、君の願いが叶うのも時間の問題だよ」


 憎々しげな視線を向けたハンスは、


「例の約束、絶対に違えるなよ!俺の願いはそれだけだ」


 そう告げるとその場から外へ出ようとしたが、ふと思い出したように男に問いかけた。


「前々から思っていたんだが、お前の名前も知らないんだがな?」


 不機嫌そうな声音を隠そうともせず聞くハンスに、男は苦笑しながら


「それ、必要かな?もしもの時はお互い、何も知らない方が良い場合もあるんだよ?」


 そう言う男の声を聞くと、元々あまり期待をしていなかったのかハンスは特に落胆した風もなく、


「まぁ、俺も名乗ってないし、そういう事もあるのかもしれんな……」


 と言って今度こそ、その部屋から姿を消した。


 それを見送った男は


「約束は守るさ。しっかりとね。それが本当に君の望んだものかどうかは神のみぞ知る……ってところかな?」


 そう言って改めてフードでその金髪を覆い隠すと、ハンスの後を追うように外へと姿を消した。辺りは既に夜の帳に包まれていた。
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