黒猫の王と最強従者【マキシサーヴァント】

あもんよん

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寄り道Ⅲ(ノーコンティニュー)

第界話「異世界へ転生したチートの独白 Ⅲ」

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 そうだ、俺はいつでもこの状況を逆転できる。


 とっておきのこの力は、何といっても“神”から授かったものなんだ!



 だけど、その前に、あのスカしたメガネ野郎に一発かまさないと気が済まない!!!!!!


「テレポート!」


 高速移動なんかと比べ物にならない、正真正銘の瞬間移動!

 これで捉えきれないものなんかないんだ!更に!


「風の聖霊よ、我が剣に宿れ!」


 剣の周りに起こる竜巻と稲妻。

 完全に背後を取ったうえ、一撃必殺の電撃剣。

 一切の隙なくメガネの背中にたたきつける。


 肉を切り裂き、そこから高出力の雷撃を放出する。

 これで黒焦げにならなかった魔物はいねえ!


 プスプスと焦げ臭い音をたてながら消し炭になったメガネ野郎はその場に倒れ込んだ。おれは直後に残りの敵に刃を向ける。エミーナの魔法を食らったトロールを合わせれば二人を倒した。残りはあの三人だ。これで形勢は一気に逆転する!!


「刻々と刻む心音、太陽と月の逆転、生と死の交換、時を支配する御業、全ての理を覆せ!!!!!!“クロノス・ジ・エンド”」


 世界が回る。


 比喩ではなく、恐らく俺を中心に全ての時が止まり、世界が回っている。

 目が回るようなグニャリとした風景が徐々に元へ戻り再び静寂が訪れる。


 元に戻ったのは風景だけじゃない。

 アイネ、イチカ、ウルオネ、エミーナ、そして自失していたオルファまでもが元の戻っている。


 この時間を逆流させる技は、俺と契約した人間だけを好きな時間に戻すことが出来る。

 これで何度倒されても俺が死なない限り何度でも蘇る。


 これで五対三。しかも奴らの手は分かってる。今度はその対抗策でフォーメーションを組む。みんなもそれが分かっているはずだ。


 アイネの力で戦闘力のブースト、ウルオネのナイフで先制、すべての攻撃を跳ね返すオルファの魔法防御に俺とイチカの速攻、そしてエミーナの魔法で援護。まずは一人ずつだ!


「ヘイ!下がお留守ですヨ?」


《ザシュ!》


 地中から幾数もの弦が突き出し、俺達の足場を崩していく。さすがに警戒していただけに、それ自体にやられる事はなかったけど。


「あはーん?崩れたね?」


 まるで空を走るように、目付きの悪い男とバカ女は空中で俺の仲間を蹂躙する。

 一人、また一人と元の死体へと姿を変えられていく。


そんな……なんで。


 俺は再度、クロノス・ジ・エンドを唱え、体制を整える。だけど何度やってもその度に奴らは攻め方を変え他の仲間を倒していく。

 バリエーションの対策を立てようにも、あいつらの攻撃バリエーションには“限度”がない。


「マジかこいつチョーうける!まるっきり分かっちゃいねぇわ」


「イグザクトリィ!確かにカナタ、ユーは珍しい能力を持ってマース。でもそれはユーだけの事」


「えーとねー、分かりやすく言うと、君以外はザコちゃんってことー」


 何だと?みんながザコだって?違う!断じて違う!!俺たちはこれまでもこのパーティーで戦ってきた!このやり方で負けなかった!誰にも何にも!


 俺の魔力は無限だ!何回だってやってやる!!何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でもーーーーーーーーー。


《ザクッ》


 一瞬何があったのか理解できなかった。

 熱い憎悪と悔しさで煮えたぎった血が次々と放出されていく。


 痛てぇ、痛てぇよ……なんだよコレ?俺の腹から……血が止まらねぇよ……。

 誰が……どいつが、いったい?


 顔を上げた俺の目には信じられないものが映っていた。

 そこには短剣を振るえる両手で持つオルファの姿があった。


「も……もうお止め下さいカナタ様。一体……何度、私たちを惨たらしい目に合わせれば気が済むんですか!」


 オルファの目はさっきまで俺を見る目じゃなくなっていた。それはまるで目の前の敵に、いやそれ以上の憎しみの目を向けている。


 他の皆も同じ……か。

 誰もが一様に目で訴えかけていた。


 何度苦しい目に合わせるのか?

 何度辱めを受けさせるのか?

 何度絶望を体に刻めばいいのか?


 そこには、俺を慕い追いてきてくれた仲間はいない。

 この場所で、俺は孤立していた。


「へへへっ何だよ……何なんだよ、俺が何したってんだよ……今まで俺を信じてくれてたんじゃないのかよ!?俺を好きだったんじゃないのかよ!!!!!!」


 状況を受け入れられない俺はかつての仲間に怒鳴り散らした。


「あんたがやりなさいよ!!何度も痛い思いして!何度も苦しんで!何が最強よ!チートよ!そんなのあなた一人でやりなさいよ!!!!!!」


 イチカは涙を流しながら叫ぶ。その横でウルオネは這うようにその場を離れ、エミーナは動こうとしない。アイネは……命を絶っていた。自ら毒を飲んで。


「まったく、やっとか」


 どこからか聞き慣れたムカつく声が聞こえる。

 そいつは確かに俺が頃焦げにした奴だった。


「あの摂政から聞いていた通りの能力だったな。まあ、何度も乱発すれば精神が無事では済まないよ。お前が試せない以上、理解するのは難しいかもしれないがね?」


 なぜだ、何故生きている?そして死体のある場所からでなく俺たちの後ろから近づいてくる?


「ああ、不思議そうな顔をしているね?当然だ。そこの黒焦げにしてくれた体はもちろん私だ。そしてこの体ももちろん私。私はまあ、どこにでもいるしどこにもいない」


 まったく意味が分からねえ、分からねえけど、こうなるって分かってて俺にクロノス・ジ・エンドを繰り返させたって事か!俺から仲間を取り上げるために……。


「テレポート!そして風の聖霊よ我が剣に宿れ!」


 どこにでもいるってんなら、何度でもぶったおしてやらあ!


「まったく」


 一撃必殺であるはずの俺の剣はメガネの剣によってはじかれ、稲妻の光はその衝撃によって吹き飛ばされた。

 何故?間違いなく背中を取って切りつけたはず、なぜ反応できたんだ?


「カナタ。君の能力は確かに素晴らしい。“神がかり的”と言ってもいいだろう。だが……そうだな、もっと練習した方がいい。能力の高さにかまけて、戦闘の駆け引きが足りていない」


 駆け引き……?


「その辺の戦士や騎士になら君のオーバースペックで事足りるだろうが、まあ、相手が悪かったな。我々は教会騎士団だ。戦いの癖、パターン。あとはまあ、“勘”ってやつだよ」



 ふざけるな!俺に駆け引きが足りないって?練習が足りないって?この神様から授かった力が及ばない存在があるって?

 そんなのありかよ。そんなことあってたまるかよ。この異世界で俺は、やっとやっと俺の世界を手に入れたんだ!一緒に進もうって約束した仲間も……。


 気が付くとオルファを残した皆は再び倒れていた。今までよりも惨く、見るも無残に、朽ち果てていた。

 アフロが、目付きの悪い男が、バカ女が、その手を血で染めてこちらを見て笑っていやがる。


「そうかよ……そういう事かよ……だったら全部吹っ飛ばしてやらあ!!!!!!」


 俺はもう全てがどうでも良くなっていた。無くした仲間、信頼、夢、もう戻らない……それならいっそのこと……。


「神様よ!聞こえているか!最後の一つ何でも願いを叶えてくれるんだよな!ならば俺の願いはこれだ!この世界全部ぶっ壊してくれ!!!!!!」


 いつの間にか腹の出血は止まっていた。そして体中にある力が一つに集まっていくのが分かる。それは無限の魔力よろしく留まることを知らずだんだん大きくなり周囲を包んでいく。


 メガネを包み、アフロを、目付きの悪い男を、バカ女を、トロールを。


 アイネを、イチカを、ウルオネを、エミーナをオルファを。


 木を、花を、草を、虫を、動物を……そして俺を。


 これですべてが終わる。


 俺の冒険も、俺自身も。ひょっとしたら元の世界に帰れたりするのかな。もしも帰れたら今度こそしっかり生きよう。学校にも行って働いて親孝行しよう。友達も作る努力をしよう。出来る、きっと出来るさ。異世界で生きた俺ならばきっと。






 そして光が広がり切り、辺りは元に戻った。


 でも何も変わらなかった。


 誰も、何も、この世界は変わらない。


 敵は存在し、仲間は朽ち果てたままだ。


「どういうことだよ?神様!どういう事、グハァ!!」


 メガネの拳が俺の顔面を深くえぐる。


「何だか分からないですが、君の体から魔力が消えています。見たところ剣すら持つ力も無いようですね」


 今まで受けたことのない衝撃に俺の意識が霞んでいく、そうか今までは殴られても、ものともしなかっただけで、それがもう無くなったのか。



 全ての希望が断たれ意識が途絶える寸前、俺の目の前にはメガネじゃなく、あの神様が立っていた。


「いやいや、これで君の冒険はお終い。お疲れ様だったね。しかしまさか君の最後の願いが世界の消失だったとはね。僕はびっくりだったよ?」


 何を……ふざけた事をいってるんだ……こいつは。


「まあ充分この世界で楽しんだでしょ?この世界は君が望んだ世界でもある。まあ、人や神それぞれが望んだカタチでもあるんだけど……」


 だ、から……さっきから何を……。


「だから君が世界の終わりを望んだ時、君の世界チカラは消えてなくなった。まあ、何となくしょんぼりな結末だったけどね。しかしこれもこれで一つの物語、いい本が出来そうだ。ありがとう、本当にお疲れ様。ちなみにもう元の世界には戻れないよ?そんな力僕にはないから。」


 何なんだ……まったくふざけた神様だ……。

 結局俺は何しに異世界へ転生したんだかわからねぇ……な。これじゃあ、俺はどこにいたって……同じ負け犬じゃねーか。


「あ、そういえば自己紹介がまだだったね?僕の名は“ロキ”。まあ楽しめたよ。じゃーね」


 無責任に笑う神は聞いたことがあるような名前を名乗り、光と共に姿を消した。


 そこで俺の意識は消えたんだ。






「オッケー!とりあえずこれでお仕事はフィクスですかネー」


「チッ、何だか締まらねーなコレ、どすんの?」


「ねーハイネ?カナタくんもついでに殺っちゃうー?」


 随分とあっさり終わった戦闘に、教会騎士団の団員は手持無沙汰を隠しきれていない。細い銀縁の眼鏡のズレを直した男は殴りつけたカナタの頭を踏みつける。



「いや、こいつはこのまま地下牢に閉じ込めておく、寂しくないように仲間の女たちの死体も一緒にな」


「あはーん、ハイネったら残酷ー。カナタくん頭おかしくなっちゃいそー」


 先程まで、確かにこの世界で最強クラスの敵と戦っていたとは思えないゆるい雰囲気が辺りを包む。

 傷一つ付いていない騎士団五人は息一つ乱さず撤収の準備に取り掛かった。そしてカナタを場所へ放り込むとハイネははるか遠くカリプソ王国の方向を見つめる。


「この世界に光の神以上の存在など許されない。それが何者の仕業であろうと、誰の意図であろうと、例え神の御業であろうと」




「「「神が望めば神をも殺す!」」」




 騎士団三人は不敵な笑みを浮かべ、今回唯一と言っていい共同歩調を見せた。

 これが中央の教国が誇る“教会騎士団”の狂気。


 光の神の元、一切の慈悲は無かった。



「おいおい、でもよーそのお姫さんヤバくね?穴っちゅう穴から何か垂れ流して、ぶっ壊れてんじゃねーの?」


「ノープロブレム!国王には五体満足で連れて帰る約束はしましたデス。五体は満足ネー」


「えー、それって屁理屈じゃないのー。っていうか、そうするように国民を人質にとって王様脅したんでしょー。あ、これ言っちゃダメだったんだっけ?」



「「バカ女……」」



「どっちでもいい、間もなく結界も切れる。早く撤収するぞ。あといつまで寝てるんだモス!早く起きて王女を運べ!」


 ずっと倒れていた巨漢は、ハイネの言葉に対し俊敏に反応して起き上がり作業に参加する。


「ねーモスちゃんー!食べてすぐに寝たら馬になっちゃうよー?」


「ばーか、そりゃ豚だろ?」


「ホワィ!カタツムリデースヨ!」






 騎士団五人はカナタとオルファ姫、そして三つの屍を馬車に乗せその場を立ち去る。


 それから何かを示し合わせたかの様に、ちらほらと旅の冒険者や商人が通りを行き交い始めた。


 まるで目を覆うような惨劇がその場所であった事も忘れてしまったかの様に。


 日が暮れる直前、夕日が地に染みた血の跡をより赤く照らしていた。






『何を読んでるんだ、アリス?』


「いえ、何だか珍しい本が入荷したとかで」


 先程まで昼寝の真っ最中だった黒猫はふと目が覚めアリスの読んでいる本に興味を持つ。


 アリスは主人の問いかけを面倒くさそうに聞き、さっきまで読んでいた本を主人の方へチラっと向けすぐに読書へ戻る。


『いや、だから表紙だけじゃ分からないんだが?』


 せっかくの読書タイムを邪魔されたと、少し機嫌を損ねながらアリスは主人に本のあらすじを説明する。


「えっとですね。ここではない別の世界から来た主人公が神様みたいな力を持って、あちこちの問題を解決していく物語です。どんな問題も小競り合いから大戦争まであっけなく解決しちゃいます。そして何故だか関わる女の子全員にモテモテです」


『なんだそれ?そんな浮き沈みが無い話が面白いのか?』


 黒猫のとても長い尻尾が“?”のマークになる……なっている様に見える。


「まあ、一部の読者には人気らしいですよ?血の滲む様な努力も、立ちはだかる困難も、涙の止まらない悲劇も無い。そんなジャンルが」


『何が流行るか分からんもんだな』


 黒猫は再び体を丸め、昼寝の時間に入る。


「まあ、ハッピーエンドが確約されているので、大きなストレスが無いからだと……まあ、私には物足りませんがね」


 その数刻後にありえない速さで本を読み終えたアリスは、やはりといった感じで物足りなさを感じ。主人の横でまどろみの中に身を投じた。


 とても気候の良い。

 うららかな午後の陽気だった。





 ピチャン……ピチャンと水の滴が落ちる音だけが聞こえる。


 日の光が一切ささない地下の牢獄で、俺は両手を鎖につながれている。


 目の前には俺を恨むかのように、かつての仲間の頭蓋骨が俺を睨んでいた。


 この地下牢に運ばれた際、件の摂政はひどい拷問を受けて殺されていた。


 誰がこの事件を引き起こしたのか?あの五人の本当の目的は何だったのか?

 本当に王様が依頼したのか?それとも別の勢力の誰か……。


 もう、何も考えられない。


 アイネ……イチカ……ウルオネ……エミーナ……オルファ……。


 でも、まだ俺の独白は終わらない。


 いつかこの体が朽ちるまで、俺の世界くつうは終わらないんだ……。



 俺の名はハナビシカナタ……。何処にでも居る平凡な……。








 第異話「異世界に転生したチートの独白」 ~完~
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