女子校教師俺、S級美少女の教え子に弱みを握られダメ教師にされる

紅ワイン

文字の大きさ
上 下
10 / 14
第1章 凪音ちゃんと能登先生

第10話 女子校生「私のお願い、聞いてくれます?」

しおりを挟む
 終わった、俺の教員人生。

 咄嗟のこととはいえ、五十嵐を無理矢理部屋に連れ込んでしまったことを激しく後悔していた。

 近頃は教員が教え子に不埒な行為を働く事案が相次いでいる。そして社会はそのような教員に対し厳しい。

 そして俺がやったことも、そういう不埒な教員と大差がない。
 未成年を……それも自分の教え子の女の子を部屋に連れ込むなんて。
 同意の上でも問題なのに力ずくで、だなんて……。

 懲戒解雇、あるいは教員免許の剥奪、またはその両方。
 恐ろしい未来のビジョンが脳裏をよぎり、身体中に嫌な汗をかいていた。

「先生、そんなに動揺しないでください。跡をつけ――いきなり声をかけてしまったことは謝ります」

「あ……ありがとう五十嵐……ん? 今、『跡』がどうと言わなかったか?」

「……気のせいです」

「そうか、気のせいか」

「はい。ところで、先生。『座って話そう』と言ってベッドに座らせてくださったことにはお礼を言います。でもどうして先生は床に正座してるんですか?」

 五十嵐は心底不思議そうにそんなことを尋ねる。

 彼女が言った通り、現在俺はベッドに腰掛ける五十嵐に対し、床に正座して向き合っていた。
 位置関係的にスカートの中が見えそうになるので項垂れた姿勢で視線は逸らしている。

「よろしければ隣に座ってください」

 ぽんぽん、とマットレスの自分の横の位置を叩く。

「いや、遠慮する。先生はここでいい」

 五十嵐、君は子供でもないみたいだから分かんないんだね。男と女がベッドに並んで座るというのはすごく深い意味があるんだよ。

「はぁ……。それでは私も床に座ります。先生だけを床に座らせるなんてすごく申し訳ないです」

「いや、五十嵐はそこに座ってなさい。床は冷たくて硬い」

「ありがとうございます。それではこのままで」

 五十嵐は慇懃いんぎんに断りを入れ直し、姿勢を正す。

 その後、不快な沈黙が訪れる。
 俺は彷徨う視線を五十嵐のつま先の辺りに固定し、どうしてこうなったのかとひどく後悔していた。
 しかし後悔するより先にやるべきことがある。

「五十嵐、本当にすまない! 部屋に急に引き摺り込んでしまったことは謝る。怖い思いをさせただろうが、俺は乱暴しようなんてこれっぽっちも思ってない! ただ人に見られてはまずいと思って、それで……」

 俺は土下座した。冷たい床に額を擦り付け、誠心誠意詫びを入れた。

「ちょ!? 先生、土下座なんてやめてください! 別に気にしてませんから!」

「本当か?」

「もちろんです。能登先生が私に乱暴するなんて全く思ってませんし」

「そ、そうか……。それじゃあ……その……重ね重ね申し訳ないが、このことはどうか誰にも……」

「はい、誰にも言いません! ひまわりにも要にも絶対内緒にします」

 五十嵐はウィンクして約束してくれた。
 俺の保身にまみれた汚らしいお願いを、汚れのない笑顔で受け入れてくれた。なんて優しい子なんだ……。

「その代わり、質問させてください」

 ところがどっこい、そんな交換条件を出してきおる。

「質問? なんだ?」

「結婚しているというのは嘘だったんですか?」

「う……」

 あぁ、やっぱりそれか。
 結婚を報告したのに妻がおらず、それどころか単身者向けのアパートに住んでいる状況は矛盾している。

「嘘じゃない。実は……離婚したんだ」

「え……そう……だったんですね」

 ぱっちり大きな瞳がことさら大きく見開かれる。
 結婚したのは二年弱前。二年と経たずではスピード離婚と言えよう。芸能界では頻繁に起こっていることだが身近な大人が同じ末路を辿っていると知れば動揺もするだろう。ましてなんと声をかけてよいかなど、高校生の人生経験で分かるはずがない。

「もう一つ、伺います。離婚の原因は先生にあるんですか?」

 そう問う声はいつになく張り詰めていた。
 その声から五十嵐は、俺が妻を傷つけて三行半を突きつけられたと疑っていると取れる。
 そう考えると、語気は怒りさえ孕んでいるように聞こえる。

「ち、違う! 断じて違う! 離婚したのは妻が不倫したせいで――」

「ふ、不倫ですか!?」

 ゴシップでしか聞かない単語に五十嵐は過剰に反応し、顔を沸騰するヤカンみたいにした。

「そんな反応するくらいなら初めから聞くなよ……」

「すみません。でもまさか不倫されただなんて……。いったいなんと言ってよいやら」

「何も言わなくていい。子供が大人を気遣うもんじゃない」

「むぅ……そんな子供扱いしなくたって……。お辛いなら同情くらいさせてください」

 焼けた餅みたいにぷくーっと頬を膨らませて抗議される。
 気遣いを無碍にしたのは確かに失礼だった。だが、時として気遣いが患部に触ることもある。それが分からないところはまだまだお子様だ。

「最後に一つだけ聞かせてください。他の先生はそのことご存知なんですか?」

「……いや、知らせてない」

 正確には上役の校長と教頭には報告した。結婚式に招待してご祝儀までもらった手前、通す筋がある。
 それはともかく、どうしてそんなことを気にするのだ。

「ふーん、そうですか……。それじゃあ、離婚を知ってるのは私だけか……ふーん」

 五十嵐は何やらぶつぶつ念仏を唱え始めた。なぜか声のトーンがだんだん明るくなっている。

 そして――



「センセイがバツイチなこと……ヒミツにしてほしいですか?」



 瞬間、背中に悪寒が走る。背筋を氷柱つららで撫でられたような急激な怖気で身体が強張る。
 ガラスのような澄んだ瞳は雲隠れし、代わりに妖艶な三日月が二つ俺を見下ろしていた。

「私のお願い、聞いてくれればヒミツにしておいて上げますね」

「お、お願い?」

 それはお願いではなく要求ではないのか?
 金か、テスト問題か、あるいは内申点か……。

 身構える俺だったが、五十嵐の要求は予想外のものだった。

「先生のLINE ID、教えてください!」

「IDって……そんなものでいいのか?」

「はい!」

 五十嵐は興奮気味に頷いた。

 連絡先交換か……。それくらいなら……と言いたいが問題大ありだ。先にも述べた通り、近頃は教師と生徒が不適切な関係になる事案が相次いでいるが、それにはSNSが悪用されている。そのため市の教育委員会からは生徒とSNSで連絡を取り合うことを禁じられているのだ。

「他のものじゃダメか?」

「ダメです。先生の連絡先が知りたいです」

「生徒とそういうのはちょっと」

「どうしても?」

「どうしても……だ」

「じゃあバーキン。いっちばん高いやつで」

 急に具体的!?
 しかも金額エグい! それって五百万くらいするやつだよね?

「冗談です。そんな青い顔しないでください。ブランド品なんか欲しくありません。ただ、先生との繋がれたらそれで満足ですから」

 にっこり笑顔で本音を吐露する彼女は、朝霧に包まれた森林の景色のよう。
 美しいのに儚く、どこか裏寂しい。
 そんな彼女の表情に絆されて、俺は……

「分かった。教えるよ」

 超えてはならない一線を跨いでしまった。

「本当ですか!?」

「あぁ。その代わり、誰にも内緒だぞ。五十嵐だけだからな」

「私だけ……。はい、約束します! 誰にも言いません!」

 こうして俺と五十嵐は校外でも繋がりを持つことになった。
 本当はダメなんだが、たいして中身のある交流には至らないと甘く見ていた。
 どうせお悩み相談と緊急連絡くらいにしか使われないだろうと。

 だがそれは間違いだった。
 このことがきっかけで俺と五十嵐の道ならぬ関係を持っていく。

 そして予想だにしなかった。
 清廉で純真、白百合の妖精のような五十嵐が、本当は魔性の黒百合を携える小悪魔であるなどとは……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

冴えない俺と美少女な彼女たちとの関係、複雑につき――― ~助けた小学生の姉たちはどうやらシスコンで、いつの間にかハーレム形成してました~

メディカルト
恋愛
「え……あの小学生のお姉さん……たち?」 俺、九十九恋は特筆して何か言えることもない普通の男子高校生だ。 学校からの帰り道、俺はスーパーの近くで泣く小学生の女の子を見つける。 その女の子は転んでしまったのか、怪我していた様子だったのですぐに応急処置を施したが、実は学校で有名な初風姉妹の末っ子とは知らずに―――。 少女への親切心がきっかけで始まる、コメディ系ハーレムストーリー。 ……どうやら彼は鈍感なようです。 ―――――――――――――――――――――――――――――― 【作者より】 九十九恋の『恋』が、恋愛の『恋』と間違える可能性があるので、彼のことを指すときは『レン』と表記しています。 また、R15は保険です。 毎朝20時投稿! 【3月14日 更新再開 詳細は近況ボードで】

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

如月さんは なびかない。~クラスで一番の美少女に、何故か告白された件~

八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」  ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。  蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。  これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。  一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。

クールな生徒会長のオンとオフが違いすぎるっ!?

ブレイブ
恋愛
政治家、資産家の子供だけが通える高校。上流高校がある。上流高校の一年生にして生徒会長。神童燐は普段は冷静に動き、正確な指示を出すが、家族と、恋人、新の前では

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...