女子校教師俺、S級美少女の教え子に弱みを握られダメ教師にされる

紅ワイン

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第1章 凪音ちゃんと能登先生

第8話 女子校生「ほんとうはダメなのに……」

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 一人、二人……一人マイナス。

 改札口に入る人はプラス、出る人はマイナス。
 愛宕女学院前駅に併設される喫茶店の窓際席にて、所在なく利用者をカウントする。

 愛宕女学院前駅はその名の通り、愛宕女学院の最寄駅なので乗客は愛宕生が圧倒的に多い。他方、隣接する住宅エリアの人達も利用するため、愛宕生だけでなくスーツを着た大人や他校の生徒も頻繁に行き交っている。

 時刻は十九時手前。
 この時間は下校する愛宕生と帰宅する社会人の数が逆転する潮目の時間帯だ。
 完全下校時刻は過ぎたため、愛宕生の姿が見当たらなくなり、代わりに大人達が増えていく。

 ストローでまったく口をつけてないアイスティーを一かきする。氷は全部溶けて、上澄みの方は心なしか水っぽい色をしていた。

 能登先生に帰るよう促され、咄嗟に駅まで早足で来た。しかしそのまま帰るのがなぜか名残惜しく、誰に意地を張るでもないのに喫茶店で粘っている。

 また能登先生に助けられた。

 嬉しいこと、感謝すべきことなはずなのに、なぜか胸にものがつっかえたモヤモヤ感がある。

 胸がチクチクして、でもポカポカする。
 相反する感覚だからモヤモヤする。

 モヤモヤするから、先生に会いたい。

 会ってどうするかなんて考えてない。
 お礼を言いたい気もするし、五木くんのことを説明したい気もする。
 でも本当はどちらも違う。

 ただ顔を見れればそれでいい。

 最後に優しいのと先生の顔が見られれば、私はそれでいいのだ。

「あっ――」

 窓の向こうを光が横切る。

 会いたくて仕方なかった能登先生。でもその顔は一日分の疲れを溜め込んでいて、萎れた花のよう。

 私が見たかったのはそんな顔じゃない。

 あのふんわりした、学校では見せてくれない能登先生の顔。
 あの夜、私をナンパから救ってくれた時に見せてくれた優しい顔。
 先生の、先生じゃない顔。

 それが見たかった。
 どうしたら笑ってくれるかな?
 いや、そもそも私にあんな風に笑いかけてはくれない気がする。

 長く知っている間柄とはいえ、所詮私は一介の生徒に過ぎない。だから先生はどこまでも先生の顔であり続ける。
 私に垣間見せたのは、緊張の糸が緩んだせいの偶然に過ぎないのだ。

 私には見せない素顔。
 心を許せる人にしか見せない、知られざる顔。

 多分、奥さんの前ではずっとあんな風に笑ってるんだろうな。

 奥さんが羨ましい。

 これから家に帰って、奥さんに出迎えられると、ふにゃっと緊張感が抜けてあの笑顔になっちゃうんだろうな。

 その顔を見てみたい。

 衝動に駆られた私は頭が真っ白になってて、忘我のまま喫茶店を飛び出した。

 *

 気がつくと私は先生と同じ電車に乗り、同じ駅で降り、同じ改札を抜けていた。

 幼い頃、車の中で居眠りして、起きたら部屋のベッドで寝ていた経験に似た記憶の欠如。それに戸惑うことなく、私は能登先生の背中を一心不乱に追い続けた。

 来たことのない郊外の駅。北斉市郊外に位置する愛宕女学院から下方面の電車で運ばれて辿り着いたこの駅は市の境目にあった。
 降車客の影もまばらで、振り返った拍子に見つかるんじゃないかとハラハラしている。しかし見失うわけにはいかないので一定距離を保ったまま影のようについていく。

 この辺りは一戸建てが多いようだ。愛宕女学院の周辺と異なるのは、こぢんまりした家が多く、一つ一つが古い。

 先生のお家もこんな一軒家なのだろうか?
 結婚して、奥さんと暮らすために借りた、あるいは購入したのか。

 夫婦二人暮らしには広過ぎる気もする。
 子供が生まれることを見越しているのかな。それとも奥さんが犬好きとか?

 そんなことを考えているうちに一軒のアパートが視界に入った。外壁がレンガ風のタイル張りでおしゃれな外観なので、そこの景色だけ色を塗ったように綺麗に見えた。

「え――?」

 先生が路地から外れ、そのアパートに向かっていった。
 まさかと思ったが先生は迷いなく一階の部屋のドアの前に立ち、鍵を開けて中に入っていった。

「ここが……先生の家?」

 こぢんまり、どころじゃない。見たところワンルームか1Kの部屋のアパートで、どう考えても夫婦二人で暮らすには狭過ぎる。
 結婚すれば住人が一人増えるのだから広い住まいに引っ越すはずだ。広くなれば家賃は当然高くなるが、愛宕の教師なら夫婦二人が住む部屋くらい借りられるだろう。

「どういうこと……」

 頭の中で見たことと考えたことがぐるぐる回り、私は道路の脇に立ち尽くした。

 その時、突然先生の部屋のドアが開いた。中からワイシャツ姿の先生が出てきて、鍵もかけずこっちに向かってくる。

「やばいっ」

 咄嗟に電柱の影に隠れる。背中に嫌な汗がつたい、心臓が早鐘を打った。
 幸い先生は私に気づくことなく駅に続く道を戻っていった。

 ほっと安堵する。同時に悪い考えを浮かべていた。

「先生、不用心だな……」

 あの人、鍵もかけずに飛び出していった。泥棒が入ったらどうするつもりなんだろう。

 いや、奥さんがいるから中から鍵をかけてもらったのか。
 ……奥さん、いるんだよね?

 ……ちょっと確かめるくらい、いいよね?
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