64 / 71
第四章 修行の成果、戦いの歌
第十六話 火口にて
しおりを挟む
いちばんの大仕事を前に、私の手はいつの間にか震えていたようだ。隣にいるベルリーズ様が私の手をそっと握ってくれて、初めてそれに気付いた。ベルリーズ様の手の温かさで少しだけほっとする。
心配そうな表情のベルリーズ様に、大丈夫だと頷いて見せてから、深呼吸して歌い始める。
「ねーむれ~まーもの~♪ すーやすーやと~♪ ねーむれ~まーもの~♪ いーちじーかん~♪」
「…すごい…山が歌ってる…」
普段は一回歌えば大丈夫なはずなんだけど、少しでもしっかりと声が届くようにと思い、もう一度繰り返してうたった。スピーカーの音量を最大出力にするイメージにした結果、死火山の各所に設置された箱から同時に私の歌声が響き、その声は麓にいる私たちのところにまで届いた。
成功だ。この音量なら火口内部の深い場所にいる魔物にも聞こえたはず。
通信と音量の増幅はミゲルさんにも手伝ってもらっているとは言え、眠りの歌は自分の力で発動させるしかない。三~四割程度の力がごそっと持っていかれた。
<斥候部隊、火口内部への降下開始!他の隊は火口にて待機!>
火口付近の指揮を担当しているストフさんの指示が聞こえる。後はうまくすべての魔物が眠っていることを祈るしかない。
五分ほど待つと、斥候部隊から箱を通じて報告が入ったので、他の箱と音声を繋ぐ。
<こちら斥候、魔物の群れを発見しました!暗くてすべては見えませんが、数百体はいると思われます。そして…見える限り、全部の魔物が深く眠っています…!>
その報告に、火口付近の兵士から一斉に歓声が上がったのが箱を通して聞こえた。
<気持ちは分かるが騒ぐな。魔物を起こしたらここまでの努力が無駄になる。第一から第十二部隊、静かに降下し、討伐を開始せよ。他の隊は次の指示までその場で待機。斥候部隊は続けて奥に向かい、魔力溜まりの場所を探れ。深いところほど音が届いていない可能性がある。警戒は怠るな>
ストフさんが冷静に指示を飛ばした。この後私にできることは、こうして通信の補助を行うことくらいだ。
それからおよそ三十分、火口内部の魔物の討伐完了の報告が届いた。
私としては歌声が届いていない魔物がいる可能性が不安だったため、途中で斥候部隊の持つ箱を通して念のためもう一度眠りの歌をうたった。それが良かったのか不要だったのかは分からないけれど、火口内部で起きている魔物には一体も遭遇することなく、魔物討伐は全員無傷で終了できたと聞いて心底ほっとした。
それは良かったのだけれど、驚いたのはそこにいた魔物の数。
当初の報告では多くても四百から五百体程度だろうと予想されていたところ、火口内部は想像以上に広く、最終的な集計はしていないものの、優に千体を超える魔物がいたそうだ。…うじゃうじゃと集まる魔物の様子を想像するだけで身の毛がよだつわ。
魔物は絶命すると魔核だけ残して消滅する性質があるけれど、今回はその魔核を拾い集めるだけでも一苦労だったらしい。
その間にミゲルさん率いる魔法使いチームも火口に到着し、元々同行予定だったガストンさんの他、体力を温存できていた二つの部隊を加わえて魔力溜まりの冷却へと向かった。
魔物討伐が非常にスムーズに進んだこともあり、体力温存組だったストフさんもここに加わった。その他の兵士は緊急事態に備え三組ほどの部隊を火口付近に残し、大半は下山を開始している。
「はー、緊張したけれど、あとちょっとね。千体以上魔物がいたなんて…この土地での戦いがなかなか終わらなかったわけだわ。モモさんも少し休憩して。彼らが魔力溜まりまで到達したら連絡が来るから」
「はい、ありがとうございます」
ベルリーズ様に声をかけられ、それまでの私はちゃんと呼吸していたのかどうか分からないくらい、ずっと緊張していたことに気付く。
最後まで油断はできないけれど、とにかく第一目標であるこの死火山の塒の魔物討伐は完了できたことに安堵した。
<こちらミゲル。…モモ、リーズ、聞こえるか?>
しばらく待っていると、ミゲルさんから連絡が入った。
「はい、聞こえています」
<魔力溜まりは発見して冷却を行ったんだが…実は少し妙なことがあってな>
「妙なこと?」
ミゲルさんの説明によると、死火山の奥深くにあると思われていた魔力溜まりが、思ったよりも地表に近い場所にあり、規模も小さかったらしい。そしてそのサイズの魔力溜まりから千体を超える魔物が生まれたとは考えにくいと言う。
<幸い、ここにはケガ人もいないし、全員まだ体力や魔力にも余裕があるので、もう少し探索してみる。予定よりも時間がかかる可能性があるから、他の者にも伝えてくれ>
「はい、分かりました。…くれぐれもお気をつけて」
なんとなく不穏な報告だったけれど…大丈夫だよね?
言霊使いのミゲルさんに、王国最強クラスの兵士であるガストンさん、それにストフさんもいるのだから。信じて待つだけだ。
「…遅いわね」
「…そうですね…」
最後の通信から四十分ほど経っても、続報はない。最初に下山を始めた部隊は本陣に到着し始めているけれど、魔力溜まりの調査隊からの連絡がまだ来ないままで、ベルリーズ様と私の間に漂う空気は段々重くなっていた。
単に火口の奥深くを移動するのが大変で時間がかかっているだけなら良いけれど、何かトラブルが発生したのかもしれない。
後から出発したミゲルさんチームは祈りの歌でいろいろ強化しているけれど、最初に出発したストフさんや、火口で合流した兵士さんたちは、そろそろ三時間が経過して歌の効果が切れてしまう。かなり危険な場所にいることは間違いないので、箱を通じてもう一度歌をうたって防御力強化をした方が良いかもしれない。
そう思い、ミゲルさんたちに呼びかけてみようとしたところで、通信が入った。
<モモ、聞こえるか?>
それはストフさんの声だった。落ち着いた様子の声で、問題は起きていないことを感じほっとする。
「はい、ストフさん!ご無事で何よりです」
<ああ…心配させたようですまない。深部へと続く隙間は見つけたんだが、とても狭くてな。魔法使いたちと叔父上の力で通路を広げながら慎重に下っていたために時間がかかった。しかし、ようやく見つけたよ。先ほどの四倍はありそうな大きな魔力溜まりがあった>
「四倍も!?」
<そうだ。ここが魔物の発生源と見て間違いなさそうだ。今、氷魔法で冷却を行っている。兵士たちで手分けして魔力溜まりの周囲に箱の設置も進めているから、間もなくここでの任務は完了するよ>
「そうですか…あ、その周辺に魔物はいなかったんですか?」
<多少はいたが、すべて眠っていたよ。…モモのおかげだ、ありがとう>
「そうですか…良かった」
眠りの歌は死火山の深部までちゃんと届いていたようで一安心だ。これで冷却が完了すれば第二目標も達成する。
「良かったわね、モモさん。私もこれで安心したわ」
ベルリーズ様も表情も和らげ、嬉しそうに笑った。…そのときだった。
<お前たち!!そこから離れろ!下がれ!>
<ストフ、向こうへ回れ!こっちは俺が行く!くそっまださらに下に空間があったのか!?>
「ちょっとガストン!何が起きたの!?」
ストフさんとガストンさんが一斉に指示を飛ばす声は、緊急事態の発生を告げていた。
その向こうでは複数の叫びと魔物の唸り声がかすかに聞こえる。ベルリーズ様も驚いてガストンさんを呼んだけれど、応答する余裕がないようだ。
私は何も考えず、気付けば歌い出していた。
「ねーむれ~まーもの~♪ すーやすーやと~♪ ねーむれ~まーもの~♪ いーますーぐに~♪」
魔力溜まりの周囲の箱の設置が間に合っていれば、声が届く範囲で行けるはず…!お願いだから間に合っていて…!
<良いぞ!今だ、行け!>
<お前たちは魔法の手を止めるな!一気に終わらせるぞ!>
<ミゲル師!このままでは持ちそうにありませぬ!>
<こちらも、です…すべて凍らせるには力が…足りない…>
<さーせん!おれもそろそろ限界っぽいっす!>
<っくそ、あと少しだと言うのに…>
「ミゲルさん!私も冷却を手伝います!魔物はもう大丈夫ですね!?」
<ああ、良いタイミングで眠らせてくれた。そちらは兵士たちが対処しているが、間もなく終わるだろう。…助かるが、倒れるなよ>
「はい!」
私は魔法使いではないから、氷を出すような力はない。でも、ミゲルさんの言霊使いの力を真似して、冷却効果の増幅と維持ならできることは実験済みだ。
先ほど驚いてからずっとうるさい心臓を落ち着かせるために、三度深く深呼吸をして集中する。
「広がれ~魔法~♪ 凍れ~魔力溜まり~♪ 来たれ~真冬~♪ 続け~一か月~♪」
よし、ミゲルさんを見習ってだいぶシンプルな歌にできた気がする。一瞬、調子に乗って「永遠」とか「いつまでも」とか言いそうになったけれど、そんなことしたら私の力の消費量が恐ろしいことになってしまう。
どうせ今後定期的に歌の力で保全する予定になっているし、一か月なら力の分割利用でたぶん大丈夫だろうと踏んで。
歌い終わると、自分の力の残量が一気に持っていかれた感覚があった。かなり大きな魔力溜まりらしいので、その分力の消費も大きかったのかもしれない。
<うおおおー!やったぞ!魔力溜まりが完全に凍った!>
<すげえええええ、なんだ今の!>
<いやいや、すごいけどちょっと待て、寒すぎるぞここ!?凍えちまう>
箱を通してたくさんの声が一斉に聞こえてくる。…成功したんだ。
<モモ、よくやってくれた!おかげでこちらは見事に極寒だけど、魔力溜まりは完全に凍って、氷の膜に覆われた状態だ。この空間の魔物討伐と箱の設置も完了した。すぐに帰還を開始する>
ストフさんの声がする。ちゃんと元気そうな声に、泣きそうになる。
「ストフさん、ご無事ですか…?他のみなさんも、ケガは?」
<全員無事だ。ケガ人もいない。いきなり三十体近くの魔物が地下の一部分を突き破って出て来たときは驚いたが、モモが歌ですぐに眠らせてくれて助かった。…ありがとう、あなたのおかげだ>
ストフさんは無事だった。ミゲルさんやガストンさん、他の魔法使いや兵士たちも全員。
「良かっ…」
「あ、ちょっと!?モモさん…!?」
安心した瞬間に、自分の意識が遠のき、視界が真っ白に染まっていく。
あ、これたぶんあとでストフさんとミゲルさんに怒られるなあ…なんて思ったけれど、体に力が入らない。私の意識はここで完全に途切れた。
心配そうな表情のベルリーズ様に、大丈夫だと頷いて見せてから、深呼吸して歌い始める。
「ねーむれ~まーもの~♪ すーやすーやと~♪ ねーむれ~まーもの~♪ いーちじーかん~♪」
「…すごい…山が歌ってる…」
普段は一回歌えば大丈夫なはずなんだけど、少しでもしっかりと声が届くようにと思い、もう一度繰り返してうたった。スピーカーの音量を最大出力にするイメージにした結果、死火山の各所に設置された箱から同時に私の歌声が響き、その声は麓にいる私たちのところにまで届いた。
成功だ。この音量なら火口内部の深い場所にいる魔物にも聞こえたはず。
通信と音量の増幅はミゲルさんにも手伝ってもらっているとは言え、眠りの歌は自分の力で発動させるしかない。三~四割程度の力がごそっと持っていかれた。
<斥候部隊、火口内部への降下開始!他の隊は火口にて待機!>
火口付近の指揮を担当しているストフさんの指示が聞こえる。後はうまくすべての魔物が眠っていることを祈るしかない。
五分ほど待つと、斥候部隊から箱を通じて報告が入ったので、他の箱と音声を繋ぐ。
<こちら斥候、魔物の群れを発見しました!暗くてすべては見えませんが、数百体はいると思われます。そして…見える限り、全部の魔物が深く眠っています…!>
その報告に、火口付近の兵士から一斉に歓声が上がったのが箱を通して聞こえた。
<気持ちは分かるが騒ぐな。魔物を起こしたらここまでの努力が無駄になる。第一から第十二部隊、静かに降下し、討伐を開始せよ。他の隊は次の指示までその場で待機。斥候部隊は続けて奥に向かい、魔力溜まりの場所を探れ。深いところほど音が届いていない可能性がある。警戒は怠るな>
ストフさんが冷静に指示を飛ばした。この後私にできることは、こうして通信の補助を行うことくらいだ。
それからおよそ三十分、火口内部の魔物の討伐完了の報告が届いた。
私としては歌声が届いていない魔物がいる可能性が不安だったため、途中で斥候部隊の持つ箱を通して念のためもう一度眠りの歌をうたった。それが良かったのか不要だったのかは分からないけれど、火口内部で起きている魔物には一体も遭遇することなく、魔物討伐は全員無傷で終了できたと聞いて心底ほっとした。
それは良かったのだけれど、驚いたのはそこにいた魔物の数。
当初の報告では多くても四百から五百体程度だろうと予想されていたところ、火口内部は想像以上に広く、最終的な集計はしていないものの、優に千体を超える魔物がいたそうだ。…うじゃうじゃと集まる魔物の様子を想像するだけで身の毛がよだつわ。
魔物は絶命すると魔核だけ残して消滅する性質があるけれど、今回はその魔核を拾い集めるだけでも一苦労だったらしい。
その間にミゲルさん率いる魔法使いチームも火口に到着し、元々同行予定だったガストンさんの他、体力を温存できていた二つの部隊を加わえて魔力溜まりの冷却へと向かった。
魔物討伐が非常にスムーズに進んだこともあり、体力温存組だったストフさんもここに加わった。その他の兵士は緊急事態に備え三組ほどの部隊を火口付近に残し、大半は下山を開始している。
「はー、緊張したけれど、あとちょっとね。千体以上魔物がいたなんて…この土地での戦いがなかなか終わらなかったわけだわ。モモさんも少し休憩して。彼らが魔力溜まりまで到達したら連絡が来るから」
「はい、ありがとうございます」
ベルリーズ様に声をかけられ、それまでの私はちゃんと呼吸していたのかどうか分からないくらい、ずっと緊張していたことに気付く。
最後まで油断はできないけれど、とにかく第一目標であるこの死火山の塒の魔物討伐は完了できたことに安堵した。
<こちらミゲル。…モモ、リーズ、聞こえるか?>
しばらく待っていると、ミゲルさんから連絡が入った。
「はい、聞こえています」
<魔力溜まりは発見して冷却を行ったんだが…実は少し妙なことがあってな>
「妙なこと?」
ミゲルさんの説明によると、死火山の奥深くにあると思われていた魔力溜まりが、思ったよりも地表に近い場所にあり、規模も小さかったらしい。そしてそのサイズの魔力溜まりから千体を超える魔物が生まれたとは考えにくいと言う。
<幸い、ここにはケガ人もいないし、全員まだ体力や魔力にも余裕があるので、もう少し探索してみる。予定よりも時間がかかる可能性があるから、他の者にも伝えてくれ>
「はい、分かりました。…くれぐれもお気をつけて」
なんとなく不穏な報告だったけれど…大丈夫だよね?
言霊使いのミゲルさんに、王国最強クラスの兵士であるガストンさん、それにストフさんもいるのだから。信じて待つだけだ。
「…遅いわね」
「…そうですね…」
最後の通信から四十分ほど経っても、続報はない。最初に下山を始めた部隊は本陣に到着し始めているけれど、魔力溜まりの調査隊からの連絡がまだ来ないままで、ベルリーズ様と私の間に漂う空気は段々重くなっていた。
単に火口の奥深くを移動するのが大変で時間がかかっているだけなら良いけれど、何かトラブルが発生したのかもしれない。
後から出発したミゲルさんチームは祈りの歌でいろいろ強化しているけれど、最初に出発したストフさんや、火口で合流した兵士さんたちは、そろそろ三時間が経過して歌の効果が切れてしまう。かなり危険な場所にいることは間違いないので、箱を通じてもう一度歌をうたって防御力強化をした方が良いかもしれない。
そう思い、ミゲルさんたちに呼びかけてみようとしたところで、通信が入った。
<モモ、聞こえるか?>
それはストフさんの声だった。落ち着いた様子の声で、問題は起きていないことを感じほっとする。
「はい、ストフさん!ご無事で何よりです」
<ああ…心配させたようですまない。深部へと続く隙間は見つけたんだが、とても狭くてな。魔法使いたちと叔父上の力で通路を広げながら慎重に下っていたために時間がかかった。しかし、ようやく見つけたよ。先ほどの四倍はありそうな大きな魔力溜まりがあった>
「四倍も!?」
<そうだ。ここが魔物の発生源と見て間違いなさそうだ。今、氷魔法で冷却を行っている。兵士たちで手分けして魔力溜まりの周囲に箱の設置も進めているから、間もなくここでの任務は完了するよ>
「そうですか…あ、その周辺に魔物はいなかったんですか?」
<多少はいたが、すべて眠っていたよ。…モモのおかげだ、ありがとう>
「そうですか…良かった」
眠りの歌は死火山の深部までちゃんと届いていたようで一安心だ。これで冷却が完了すれば第二目標も達成する。
「良かったわね、モモさん。私もこれで安心したわ」
ベルリーズ様も表情も和らげ、嬉しそうに笑った。…そのときだった。
<お前たち!!そこから離れろ!下がれ!>
<ストフ、向こうへ回れ!こっちは俺が行く!くそっまださらに下に空間があったのか!?>
「ちょっとガストン!何が起きたの!?」
ストフさんとガストンさんが一斉に指示を飛ばす声は、緊急事態の発生を告げていた。
その向こうでは複数の叫びと魔物の唸り声がかすかに聞こえる。ベルリーズ様も驚いてガストンさんを呼んだけれど、応答する余裕がないようだ。
私は何も考えず、気付けば歌い出していた。
「ねーむれ~まーもの~♪ すーやすーやと~♪ ねーむれ~まーもの~♪ いーますーぐに~♪」
魔力溜まりの周囲の箱の設置が間に合っていれば、声が届く範囲で行けるはず…!お願いだから間に合っていて…!
<良いぞ!今だ、行け!>
<お前たちは魔法の手を止めるな!一気に終わらせるぞ!>
<ミゲル師!このままでは持ちそうにありませぬ!>
<こちらも、です…すべて凍らせるには力が…足りない…>
<さーせん!おれもそろそろ限界っぽいっす!>
<っくそ、あと少しだと言うのに…>
「ミゲルさん!私も冷却を手伝います!魔物はもう大丈夫ですね!?」
<ああ、良いタイミングで眠らせてくれた。そちらは兵士たちが対処しているが、間もなく終わるだろう。…助かるが、倒れるなよ>
「はい!」
私は魔法使いではないから、氷を出すような力はない。でも、ミゲルさんの言霊使いの力を真似して、冷却効果の増幅と維持ならできることは実験済みだ。
先ほど驚いてからずっとうるさい心臓を落ち着かせるために、三度深く深呼吸をして集中する。
「広がれ~魔法~♪ 凍れ~魔力溜まり~♪ 来たれ~真冬~♪ 続け~一か月~♪」
よし、ミゲルさんを見習ってだいぶシンプルな歌にできた気がする。一瞬、調子に乗って「永遠」とか「いつまでも」とか言いそうになったけれど、そんなことしたら私の力の消費量が恐ろしいことになってしまう。
どうせ今後定期的に歌の力で保全する予定になっているし、一か月なら力の分割利用でたぶん大丈夫だろうと踏んで。
歌い終わると、自分の力の残量が一気に持っていかれた感覚があった。かなり大きな魔力溜まりらしいので、その分力の消費も大きかったのかもしれない。
<うおおおー!やったぞ!魔力溜まりが完全に凍った!>
<すげえええええ、なんだ今の!>
<いやいや、すごいけどちょっと待て、寒すぎるぞここ!?凍えちまう>
箱を通してたくさんの声が一斉に聞こえてくる。…成功したんだ。
<モモ、よくやってくれた!おかげでこちらは見事に極寒だけど、魔力溜まりは完全に凍って、氷の膜に覆われた状態だ。この空間の魔物討伐と箱の設置も完了した。すぐに帰還を開始する>
ストフさんの声がする。ちゃんと元気そうな声に、泣きそうになる。
「ストフさん、ご無事ですか…?他のみなさんも、ケガは?」
<全員無事だ。ケガ人もいない。いきなり三十体近くの魔物が地下の一部分を突き破って出て来たときは驚いたが、モモが歌ですぐに眠らせてくれて助かった。…ありがとう、あなたのおかげだ>
ストフさんは無事だった。ミゲルさんやガストンさん、他の魔法使いや兵士たちも全員。
「良かっ…」
「あ、ちょっと!?モモさん…!?」
安心した瞬間に、自分の意識が遠のき、視界が真っ白に染まっていく。
あ、これたぶんあとでストフさんとミゲルさんに怒られるなあ…なんて思ったけれど、体に力が入らない。私の意識はここで完全に途切れた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
166
1 / 2
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる