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第三章 新たな力、修行の歌
第四話 言霊使いの力
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「…お前は言霊使いの力についてどの程度知っている?」
押し掛けた上にいきなりトイレへ駆け込むという恥ずかしい出会いからおよそ一時間、ミゲルさんは私の力になることを約束してくれた。
修行をするのに丁度良いので、このまま山小屋へ一週間ほどステイすることが決定した。私としては思いがけず夢のログハウス生活ができることになりちょっとウキウキしている。
ミゲルさんは私の力については万全の状態でチェックしたいとのことで明日に回し(今日はすでにこの小屋を見つけるために力を使っているため)、今日はミゲルさん自身の『言霊使い』の能力について説明してくれるようだ。
「実は何も知らないんです…ストフさんからも、魔法使いよりは私の歌の力に近いのではないかと言っていただけで…」
「…そうか。ストフ自身もオレの力についてはあまり深く知らされてはいないからな。しかし、お前の力に性質が近いことは恐らく間違いないと思う」
「…!」
いきなり朗報だった。異世界で生きていく上で、チートスキルの解明と強化は死活問題なので、ミゲルさんの言葉に希望が湧く。遥々森を抜けて来た甲斐があるかもしれない。
「…お前、感情が顔に出すぎるのは気を付けた方が良い。…魔法使いや言霊使いの基本だ」
ミゲルさんはなぜかプイッと顔を背けてから言った。
希望が見えたようで嬉しくなってしまったのが顔に出ていたのかな。
確かに、ゲームやアニメでも魔法使いって冷静沈着なイメージだし、表情で作戦とか動きがバレたら台無しだ。師匠の言葉をありがたく覚えておこう。
「っはい!気を付けます」
「…ならいい。話を続けるぞ」
ミゲルさんはそれから、言霊使いについてじっくりと説明をしてくれた。難しいところや分からなかったところは聞けば答えてくれるし、事前に聞いていたイメージと違ってめちゃくちゃ親切な人だ。
魔法使いはおよそ一万人に一人と言われているけれど、言霊使いはなんと百万人に一人レベルのレア能力者なんだそうだ。
このセレナド王国の総人口が五万人ほどなので、まさに数十年に一度生まれるかどうかという特殊能力。そんなSS級のレアモンスターみたいな存在が目の前にいることに、ゲーマー魂が疼き、ついつい興奮してしまった。
「…いや、お前分かっているのか?それでも『言霊使い』というのは前例があるが、お前の歌の能力というのはオレでさえ聞いたことがない。百万人にひとりどころか、前代未聞なんだぞ…」
ミゲルさんは私の反応を見て呆れたようにそう言った。
確かに言われてみればごもっともだ。私自身がSSS級の激レアだなんて、考えてみれば不思議な気分だった。
その後もミゲルさんは魔法使いの能力と比較しながら、言霊使いの力について説明してくれて、それを聞けば確かに私の力は言霊使いの方に近いものだと理解できた。
まず、魔法使いと言霊使いのいちばん大きな違いは、「無から有を生み出すことができるかどうか」という点にあるそうだ。
魔法使いは、火種のない場所でも杖の先から火を放つことができるし、砂漠でも水を出すことができる。しかし、言霊使いにはそういった力はない。すでにその場にある火を大きくすることはできるし、小さな池を湖サイズまで広げることも可能だけど、元になるものがない場所では手も足も出ないのだと。
「あ、それ、私の力と似てます!」
ミゲルさんの説明を聞いて思わず私も口を挟んでしまった。
実は私も自分のチートに気付いてから、火や水を出すことができないか試してみたことがある。だって魔法使ってみたかったんだもの。
でも、結果は惨敗だった。手や杖の先から魔法を飛ばすということは何度やってもできなかった。あくまで私の力は「肉眼で見えているもの」にしか効果がなく、その場にないものを生み出すことはできなかった。
その後の検証で、部屋に材料がない状態でカレー食べたいソングを歌ってもカレーを召喚することはできなかったけれど、にんじん・玉ねぎ・じゃがいも・お肉・お米・お皿を揃えた状態で同じ歌をうたったところ、見事にカレーを呼び出す…というか材料をカレーに進化させることに成功した。
肝心のカレールーがどこから来たのかはとても謎だったけれど、具材は確かに自分が用意した分量どおりで、目の前にあるものを応用して何かにするということは可能なんだと理解した。
ついでに、空っぽになってしまったお皿におかわりを出現させることはできないけれど、半分食べた状態で再度お皿いっぱいまでカレーを増やすことはできた。それで、やはり私の力では何かを増やすことはできてもゼロから生み出すことはできないのだと理解した。
同様に、最初は服を手縫いでチマチマと作っていたんだけど、布と型紙と糸を用意して素敵なお洋服作りたいソングを歌うことで簡単に高品質な服がゲットできるようになった。とても便利だし、市販の高い服を買わずに済んでラッキーだと思っている。
それをストフさんに話したところ、なぜかすごく微妙な顔をされた。
「…お前、それほどの力がありながらなんだその気の抜けた使い方は…いや、まあ悪意がある奴じゃなくて良かったのか。それにしてもそんな力の使い方をするとぼけた能力者がいるとは…」
なんだか呆れた顔でブツブツと呟かれたけれどよく聞こえなかったし、なんとなく馬鹿にされた気がしたのでスルーすることにした。
ミゲルさんはわざとらしくゴホンと咳ばらいをしてから、先を続けた。
「まあ良い。そんなわけで、その場にあるものに限り作用させることができるのが言霊使いの能力だ。ゼロから一を生み出すことはできないが、一を百にすることはできる。知っているかもしれないが、魔法というのは扱いが難しくてな。火や水を生み出すと言っても、優秀な魔法使いでさえこぶし大のボールくらいの大きさが限界だ。各国が言霊使いを発見した場合に手厚く保護するのは、魔法使いと組み合わせた場合にとてつもない戦力になるからだ」
これには私も思わず真面目な顔で頷いてしまう。言霊使いだけなら火は出せないし、魔法使いだけなら火の玉程度の魔法にしかならない。でも両者が同じ場所で協力したら、巨大な火の海だって生み出すことができてしまう。
自分でもこのチートの怖さは感じていたけれど、こうして知識のある人から説明されるとさらによく分かる。
「…あの、ミゲルさん。私が自分の力を国に対して隠していた場合、何かの罪に問われたりってするんでしょうか?」
「それは心配しないで良い。言霊使いの能力自体、どの国でも極秘中の極秘だ。下手に話が広まってしまえば、能力者を見つけて悪用しようと考える者がいてもおかしくないからな。魔法使いの存在でさえ、王国中枢の者や、一定ランク以上の騎士や兵士にしか知らされていないから、一般市民ではおとぎ話の中の存在だと思っている者の方が多いんだ。もちろん言霊使いや魔法使いを見つけた場合には全力で国が保護するが、能力者本人に名乗り出る義務はない。安心しろ」
それを聞いてほっとした。ということは、私が申請する必要はないし、もし後々国の偉い人に目を付けられるような事態になったとしても、私が親しくしていた人たちにも危害が及ぶことはないはずだ。
そしてそんな超重要情報を知っていたということは、やはりストフさんて相当階級の高い兵士なんじゃないだろうか。身内にミゲルさんというSS級レア能力者の言霊使いがいたからなのかもしれないけれど。
そしてそこで、私は自分の力についてミゲルさんに口止めなど一切していないことに気付き、バッと顔を上げた。私が口を開く前にミゲルさんが答えた。
「…だから安心しろ。オレはお前のことを国に告げ口する気はない。オレ自身が国からの干渉が面倒でこんな地方暮らしをしてるんだ。わざわざ面倒事を起こしたくもない。…それに、ストフからも絶対に漏らすなと脅しまがいの口止めをされている」
「……え」
思いがけないミゲルさんの言葉に焦る。ちょっと何やってるのストフさん!いや、助かるけど!
「…お前はストフの恩人なのだろう?甥っ子が世話になった相手を国に売ったりはしないさ。あの家の子どもたちも世話になっているそうだしな。それにしても、本当にお前は考えていることが顔に出るな」
「そんなに出てますか?…では、これから気をつけます、師匠!」
「だから師匠はやめろ」
長い前髪でハッキリとは見えないけれど、呆れたように笑うミゲルさんの顔は少しストフさんに似ていて、その笑顔を見たらこの人を信じて大丈夫だという気がした。
親切で頼もしい師匠を紹介してくれたストフさんに、帰ったらきちんとお礼を言わなくては。
押し掛けた上にいきなりトイレへ駆け込むという恥ずかしい出会いからおよそ一時間、ミゲルさんは私の力になることを約束してくれた。
修行をするのに丁度良いので、このまま山小屋へ一週間ほどステイすることが決定した。私としては思いがけず夢のログハウス生活ができることになりちょっとウキウキしている。
ミゲルさんは私の力については万全の状態でチェックしたいとのことで明日に回し(今日はすでにこの小屋を見つけるために力を使っているため)、今日はミゲルさん自身の『言霊使い』の能力について説明してくれるようだ。
「実は何も知らないんです…ストフさんからも、魔法使いよりは私の歌の力に近いのではないかと言っていただけで…」
「…そうか。ストフ自身もオレの力についてはあまり深く知らされてはいないからな。しかし、お前の力に性質が近いことは恐らく間違いないと思う」
「…!」
いきなり朗報だった。異世界で生きていく上で、チートスキルの解明と強化は死活問題なので、ミゲルさんの言葉に希望が湧く。遥々森を抜けて来た甲斐があるかもしれない。
「…お前、感情が顔に出すぎるのは気を付けた方が良い。…魔法使いや言霊使いの基本だ」
ミゲルさんはなぜかプイッと顔を背けてから言った。
希望が見えたようで嬉しくなってしまったのが顔に出ていたのかな。
確かに、ゲームやアニメでも魔法使いって冷静沈着なイメージだし、表情で作戦とか動きがバレたら台無しだ。師匠の言葉をありがたく覚えておこう。
「っはい!気を付けます」
「…ならいい。話を続けるぞ」
ミゲルさんはそれから、言霊使いについてじっくりと説明をしてくれた。難しいところや分からなかったところは聞けば答えてくれるし、事前に聞いていたイメージと違ってめちゃくちゃ親切な人だ。
魔法使いはおよそ一万人に一人と言われているけれど、言霊使いはなんと百万人に一人レベルのレア能力者なんだそうだ。
このセレナド王国の総人口が五万人ほどなので、まさに数十年に一度生まれるかどうかという特殊能力。そんなSS級のレアモンスターみたいな存在が目の前にいることに、ゲーマー魂が疼き、ついつい興奮してしまった。
「…いや、お前分かっているのか?それでも『言霊使い』というのは前例があるが、お前の歌の能力というのはオレでさえ聞いたことがない。百万人にひとりどころか、前代未聞なんだぞ…」
ミゲルさんは私の反応を見て呆れたようにそう言った。
確かに言われてみればごもっともだ。私自身がSSS級の激レアだなんて、考えてみれば不思議な気分だった。
その後もミゲルさんは魔法使いの能力と比較しながら、言霊使いの力について説明してくれて、それを聞けば確かに私の力は言霊使いの方に近いものだと理解できた。
まず、魔法使いと言霊使いのいちばん大きな違いは、「無から有を生み出すことができるかどうか」という点にあるそうだ。
魔法使いは、火種のない場所でも杖の先から火を放つことができるし、砂漠でも水を出すことができる。しかし、言霊使いにはそういった力はない。すでにその場にある火を大きくすることはできるし、小さな池を湖サイズまで広げることも可能だけど、元になるものがない場所では手も足も出ないのだと。
「あ、それ、私の力と似てます!」
ミゲルさんの説明を聞いて思わず私も口を挟んでしまった。
実は私も自分のチートに気付いてから、火や水を出すことができないか試してみたことがある。だって魔法使ってみたかったんだもの。
でも、結果は惨敗だった。手や杖の先から魔法を飛ばすということは何度やってもできなかった。あくまで私の力は「肉眼で見えているもの」にしか効果がなく、その場にないものを生み出すことはできなかった。
その後の検証で、部屋に材料がない状態でカレー食べたいソングを歌ってもカレーを召喚することはできなかったけれど、にんじん・玉ねぎ・じゃがいも・お肉・お米・お皿を揃えた状態で同じ歌をうたったところ、見事にカレーを呼び出す…というか材料をカレーに進化させることに成功した。
肝心のカレールーがどこから来たのかはとても謎だったけれど、具材は確かに自分が用意した分量どおりで、目の前にあるものを応用して何かにするということは可能なんだと理解した。
ついでに、空っぽになってしまったお皿におかわりを出現させることはできないけれど、半分食べた状態で再度お皿いっぱいまでカレーを増やすことはできた。それで、やはり私の力では何かを増やすことはできてもゼロから生み出すことはできないのだと理解した。
同様に、最初は服を手縫いでチマチマと作っていたんだけど、布と型紙と糸を用意して素敵なお洋服作りたいソングを歌うことで簡単に高品質な服がゲットできるようになった。とても便利だし、市販の高い服を買わずに済んでラッキーだと思っている。
それをストフさんに話したところ、なぜかすごく微妙な顔をされた。
「…お前、それほどの力がありながらなんだその気の抜けた使い方は…いや、まあ悪意がある奴じゃなくて良かったのか。それにしてもそんな力の使い方をするとぼけた能力者がいるとは…」
なんだか呆れた顔でブツブツと呟かれたけれどよく聞こえなかったし、なんとなく馬鹿にされた気がしたのでスルーすることにした。
ミゲルさんはわざとらしくゴホンと咳ばらいをしてから、先を続けた。
「まあ良い。そんなわけで、その場にあるものに限り作用させることができるのが言霊使いの能力だ。ゼロから一を生み出すことはできないが、一を百にすることはできる。知っているかもしれないが、魔法というのは扱いが難しくてな。火や水を生み出すと言っても、優秀な魔法使いでさえこぶし大のボールくらいの大きさが限界だ。各国が言霊使いを発見した場合に手厚く保護するのは、魔法使いと組み合わせた場合にとてつもない戦力になるからだ」
これには私も思わず真面目な顔で頷いてしまう。言霊使いだけなら火は出せないし、魔法使いだけなら火の玉程度の魔法にしかならない。でも両者が同じ場所で協力したら、巨大な火の海だって生み出すことができてしまう。
自分でもこのチートの怖さは感じていたけれど、こうして知識のある人から説明されるとさらによく分かる。
「…あの、ミゲルさん。私が自分の力を国に対して隠していた場合、何かの罪に問われたりってするんでしょうか?」
「それは心配しないで良い。言霊使いの能力自体、どの国でも極秘中の極秘だ。下手に話が広まってしまえば、能力者を見つけて悪用しようと考える者がいてもおかしくないからな。魔法使いの存在でさえ、王国中枢の者や、一定ランク以上の騎士や兵士にしか知らされていないから、一般市民ではおとぎ話の中の存在だと思っている者の方が多いんだ。もちろん言霊使いや魔法使いを見つけた場合には全力で国が保護するが、能力者本人に名乗り出る義務はない。安心しろ」
それを聞いてほっとした。ということは、私が申請する必要はないし、もし後々国の偉い人に目を付けられるような事態になったとしても、私が親しくしていた人たちにも危害が及ぶことはないはずだ。
そしてそんな超重要情報を知っていたということは、やはりストフさんて相当階級の高い兵士なんじゃないだろうか。身内にミゲルさんというSS級レア能力者の言霊使いがいたからなのかもしれないけれど。
そしてそこで、私は自分の力についてミゲルさんに口止めなど一切していないことに気付き、バッと顔を上げた。私が口を開く前にミゲルさんが答えた。
「…だから安心しろ。オレはお前のことを国に告げ口する気はない。オレ自身が国からの干渉が面倒でこんな地方暮らしをしてるんだ。わざわざ面倒事を起こしたくもない。…それに、ストフからも絶対に漏らすなと脅しまがいの口止めをされている」
「……え」
思いがけないミゲルさんの言葉に焦る。ちょっと何やってるのストフさん!いや、助かるけど!
「…お前はストフの恩人なのだろう?甥っ子が世話になった相手を国に売ったりはしないさ。あの家の子どもたちも世話になっているそうだしな。それにしても、本当にお前は考えていることが顔に出るな」
「そんなに出てますか?…では、これから気をつけます、師匠!」
「だから師匠はやめろ」
長い前髪でハッキリとは見えないけれど、呆れたように笑うミゲルさんの顔は少しストフさんに似ていて、その笑顔を見たらこの人を信じて大丈夫だという気がした。
親切で頼もしい師匠を紹介してくれたストフさんに、帰ったらきちんとお礼を言わなくては。
応援ありがとうございます!
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