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第二章 はじめての仕事、新たな歌

第五話 トライ&エラー

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 力に気付いてから数日間、自分で何度も検証を重ねた。その結果見えてきた私の力は以下のとおり。

1) 声に出して自作の歌をうたった場合に限り、スキルが発動する。

 そう、私の力は、治癒に特化したものではなかった。発動の鍵になっていたのは自分(もしくは昔お姉ちゃんと一緒に)作った歌。

 既存の歌をうたってみたところで何も起きないので、これまで公園でのストリートライブや宿屋でバルドさんと一緒にうたっていたときには何も気づけなかったようだ。

 一方で、自作の場合には意図してもしなくてもスキルが発動してしまう。今のところ怖いのはこれ。昔から適当な鼻歌をうたってしまうクセがあるので、無意識に変な歌でもうたったら大変なことになるかもしれない。


 これに気付いたのも、まさに変な鼻歌をうたいながら部屋の掃除をしていたときだった。珍しくザーザーと強めの雨が降り続き、鬱陶しい天気が数日続いていたので、つい何気なくこんな歌を口ずさんでしまったのだ。

「雨、止め♪ 雨、止め♪ お部屋ジメジメいやなのよ~♪ 青いお空が見たいのよ~♪」

 部屋をホウキでシャカシャカと掃いていたので最初は雨の音が止んだことには気付いていなかった。でも、ゴミを集めようとしゃがんだ瞬間に、丸い天窓から燦燦と日差しが差し込んできたのだった。

「うそ、晴れた?もしかして…」

 慌てて中庭に面した窓を開けると、雲一つない青空が広がっていた。

 雨が止んだことそのものは良かった。ずっと鬱陶しい天気だったのは事実だし、たぶん私以外の人も喜ぶだろうから。でも、明らかに青空は不自然だった。すでに夕暮れ時に差し掛かる時間帯だったのに、真夏のお昼のような快晴になってしまったから。

 雨が止み、通りに少し人が出始めると、みんな不思議そうに空を見上げていた。私は自分の鼻歌でやっちまったことを悟った。

 この時点で、自作の歌にだけ効果があることは確認できていたんだけど、まさか天候を変えられるほどの力があるなんて思ってもみなかったし、「晴れろーーーーー!」みたいな願いを込めてうたったわけでもなく、本当にただ無意識の鼻歌だったから。


 その後、地球感覚で二~三十分ほど様子を見ても青空が続いてしまったので、今度はよく考えてから、心を込めて慎重に歌った。

「自然な空がいちばん綺麗~♪ 夕焼けも星空も見たいから~♪ どうか戻ってきて~♪ 晴れた日の~いつもと同じあの空よ~♪」

 変なことも余計なことも言わなかったはず。祈るように空を見上げると、サッと一瞬夕焼けが広がり、すぐに夜の紫色が溶け出したような自然な空に色に戻った。まるでタイムラプスの映像を見ているような、早送りの空だったけれど、あのまま青空が続くよりはマシだったと思う。

 自分の力についてもっと深く理解して、注意しなければと心に刻んだ。



2) 使えるのは一日四回まで

 何度も試した結果、この能力を使えるのは一日四回が限度だと分かった。ここで言う一日というのは二十五時間(なんとこの世界は一日が二十五時間だった!)という意味ではなく、深夜零時で日付をまたぐとリセットされることも分かった。

 副作用のようなものはこれまで一度も出たことがないのだけど、使いすぎないよう注意はしている。
 先日ストフさんに魔法使いについていろいろ質問してみたところ、魔法は効果や威力によって疲れの度合いや魔力の消費量が異なるらしく、この魔力というのが枯渇してしまうと回復に時間がかかり、下手をすると生命が危うくなることもあるらしい。

 それを聞いて、私の能力が魔法と関係があるかどうかは不明だけれど、分からないうちはむやみやたらに使わない方が良いと思った。私としても健康第一なので気を付けてないと。
 万が一の事態が起きたときに仕える回数を温存しておくためにも、通常この力を使う場合は一日二回までと決めている。

 そのおかげでうっかり無意識の鼻歌によって天気を変えてしまった日にも対処できたので、今後も極力無駄遣いはしないように気を付けようと思う。



3) 自分が目で見ているものにしか効果がない

 これは街外れの小さな公園で枯れている花やまだ育っていない植物を使って、数日に渡って少しずつ距離を離しながら歌の力で成長させる実験をした。

 効果の発動範囲についてはまだ検証しきれていない部分もあるけれど、概ね自分の視界に入っていることが条件ではないかと考えている。触っている必要はないし、見えていれば大丈夫のようなんだけど、例えその場所にその花があると分かっていても、肉眼で確認できないレベルまで離れてしまうと効果が出ないみたい。

 ついでに、近くにいても花に背を向けて歌った場合には効果が出なかったので、やはり自分の目で見ていることが条件になっている気がする。

 これについては正直ちょっとがっかりもしている。もしかしたら歌の力で日本に帰ることもできるんじゃない?って思ったんだけど、イメージだけではダメだった。見えている範囲内なら瞬間移動的なものはできるんだけど、眼鏡をかけているとはいえ、元々ド近眼の私の見える範囲なんてたかが知れている。そんな移動に力を使うくらいなら普通に歩いたほうが良い。


4) 持続時間が不明

 これもまだまだ検証が必要な部分で、歌による効力の時間的な有効範囲がまだよく分かっていない。ケガに関しては一度治してしまえば、その後効果が切れたら再度逆戻りなんていう酷いことにはならない。一度回復したものはずっと回復した状態になるみたい。

 これは便利でもあれば危うくもあると思っている。

 例えば前の検証で咲かせた花。この花は数日経った今も元気に咲いていて、いつまで咲き続けるのか観察中だけど、もしもずっと咲き続けてしまったら怪しむ人も出てくると思う。そのときには今度は枯らすための歌か、自然のサイクルに戻すような歌をうたった方が良いかもしれない。


 それでも基本的に効力が長続きするというのは便利だ。私は早速、力を使って二つの悩みを解決した。

 一つ目は、言語問題。
 すでに異世界生活開始から数か月経ち、日常会話ならほとんど困らないレベルまでの成長を遂げていたんだけど、本や新聞を支障なく読めるレベルにはほど遠かった。

 そこで生みだしたのが言語理解ソング。この世界の言葉すべて、話す・聞く・読む・書くことが可能になった。これぞチート!と成功したときにはひとりで大はしゃぎしてしまった。
 おかげで今は長編小説だって読めるようになり、自分で得られる情報の範囲も広がってとても便利になった。でも、喋りに関して急に語彙が増えるのはおかしいので、人と話すときは注意している。

 二つ目は、裸眼視力の回復。
 これは思いついて本当に良かったと思う。ずっとこの世界に来たときにかけていたブルーライトカット機能付きの丸眼鏡を使っていたんだけど、外出時はコンタクト派だったから地味に嫌だったんだよね。
 ついでに、この世界にも眼鏡は存在しているんだけど、日本で流通しているような薄型で左右視力の完璧な調整や乱視まで矯正できるような高性能なものは当然存在していないみたいなので、スペアがないことを恐れていた。

 でも、視力回復ソングを作って歌ったことで、今の私は両目とも裸眼で問題なく生活できるようになった。小学生の頃からメガネっ子だった私からすると、これは本当に嬉しい。異世界転移して良かったと思ったことの一つだ。

 そしてこの言語と視力については、歌をうたった日からずっとそのままの状態が維持されている。ケガと同じように一度治ったり身に着いたものは元には戻らないのかなと推測している。


 少しずつ自分のチートの条件や使い方が分かってきたところで、私は人類の夢にチャレンジすることを決めた。

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