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第一章 最初の街、はじめての歌
第五話 どこかに転移させる神あれば、拾う神もまたあり
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宿屋一階のお店の閉店時間になったようで、お客さんたちはそれぞれ帰路に着くか、宿の自分の部屋へと戻っていく。
そうだった。楽しすぎてうっかりしていたけれど、私の今夜の宿問題がまだ残っていた。今なら少なくとも一泊は泊まれるくらいのお金があるはずなので、部屋が空いているかどうか聞いてみないと。
なんて思っていると、ちょうどよくバルドさんと、このお店の女の子が私のところにやってきた。
「~~~~~~!~~~~~~~?」
女の子は私の歌を褒めてくれている様子で、笑顔でにこにこと話しかけてくれた。それから指で上の階を差して、おそらく今晩宿泊する?的な質問をしてくれているようだった。
「えっと、はい。お部屋が空いているなら泊まらせてほしいんですけど…お金、これで足りますかね?」
私も同じように指で上を差してから、手持ちの銀貨を女の子に見せる。すると女の子は首を大きく振った。お金はいらないと言っているようだ。
「え、お金いらないんですか…?でも…」
困惑する私に、女の子は手に持っていた紙に何かを描いている。言葉が通じないと分かったので、絵で説明できるように持ってきてくれたようだ。そしてこの世界、紙とペンはあるのね。羽ペンではなく万年筆に似た形のペンをインク瓶に浸けて使っている。
「えっと…?お金はいらないけれど、泊まって良い。その代わりにここでまた歌ってほしいってことなのかな?」
絵と動作で説明してくれる女の子に対し、私もジェスチャーを交えて確認すると、女の子とバルドさんが大きく頷く。
「それはとっても助かりますけど…そんなうまい話で良いのかな…?珍しくはあるだろうけどド素人の歌だし…」
恐縮していると、女の子は私の手を取って、安心させるようににっこりと微笑む。やっぱり可愛い。
出会ったばかりだけど、バルドさんもめちゃくちゃ気の良いおじいさんだし、そのバルドさんが連れてきてくれたお店で、どう見ても人の好さそうな女の子から提案してもらったこと。こうなったら乗ってみるしかないでしょ。きっと今ならお姉ちゃんの強運が私にもついているような気がするし!
「…じゃあ、お言葉に甘えて。よろしくお願いします!」
私が深く頭を下げると、女の子とバルドさんもほっとしたように笑ってくれた。もしかしたらこのまま私が野宿生活に戻ることを心配してくれたのかもしれない。
その後、女の子に部屋まで案内してもらった。屋根裏に二つあるうちの一部屋で、隣は彼女の部屋のようだ。従業員用の部屋を貸してくれたのかもしれない。
少しでも生活のためにこの世界のお金を貯めていきたい私としては、無料で泊めてもらえるなんて有難すぎる話だし、なんなら物置部屋でも良いくらいだった。しかし、部屋を開けてみると…
「……!素敵なお部屋!えっ、こんなところに泊まって本当に良いの?」
私が驚いていると、女の子はウインクと共に大きくサムズアップをしてくれた。
ベッドは小さめだけど、日本人的には十分問題ないシングルサイズ。薄い水色で統一されたシーツやカバーは見るからに清潔でしわ一つなくピシッとかけられている。
部屋の中央には小さな丸テーブルと椅子が二客。ベッドも家具も、温かい色合いの木製で統一されていて私好みだった。テーブルのそばには出窓があり、薄いレースのカーテンと水色をベースにした小花柄のカーテンがかけられている。ベッドのカバーリングと統一感があってほっとする印象だ。
そして屋根裏部屋だけあって、天井は斜めになっているけれど、中央部に丸型の小窓がある。今は星空が見えるけれど、昼間は日差しが入って気持ちの良い部屋になるだろう。
ついついはしゃいでしまった私を置いて女の子は出て行ってしまったのだが、すぐに戻って来た。手には大量の服やタオルを抱えている。
「~~~~~!」
「え、これも貸してくれるの?…ありがとう…!」
差し出された衣類を受け取る。綿や麻の素材と思われる、この世界の服。おそらく彼女の服を私に貸してくれるようだ。そしてありがたすぎることに、新品っぽい下着もある。ショーツと、カップなしのスポーツブラのようなもの。
「…あなたが神か…!」
「?」
いけない、つい感動して変なことを口走ってしまった。だってあまりにも気が利きすぎだし優しすぎて…!これでノーブラ・部屋着ロンT一枚・薄汚れたパジャマズボン生活から抜け出せるんだもん。嬉しくないはずがない。
「ありがとうっ!本当にありがとう!」
この世界にはハグの文化はあるようだったので、この感謝を伝えるべく、彼女をそっと抱きしめた。気持ち的にはガバッといきたかったんだけど、異世界人で数日お風呂も入っていない女であるということを直前で思い出し、控えめにしてしまった。
「ふふふ、~~~~!」
女の子はそんな私の葛藤はとくに気にもしていないようで優しくギュッと抱きしめ返してくれた。すごいなこの子、もしかして女神か?
そんなこんなで感激しっぱなしの私に、洗面所やトイレの使い方、お風呂の場所なども教えてもらい、就寝となった。
お風呂は時間帯限定で湯舟にお湯を張っているようで、残念ながら今夜の入浴はもう無理だったけれど、幸いなことにシャワーは使えるということでありがたく使わせてもらった。電気やガスががあるわけでもないので仕組みは謎だけれど、ぬるめの温水シャワーだったこともありがたい。
異世界転移四日目。ようやくお腹が満たされ、清潔な服装で整えられたベッドで眠れる。まだまだ不安なことはたくさんあるけれど、本当に幸運な一日だった。
ふわふわの掛布団に包まれた安心感と共に、私はあっさり眠りに落ちた。
そうだった。楽しすぎてうっかりしていたけれど、私の今夜の宿問題がまだ残っていた。今なら少なくとも一泊は泊まれるくらいのお金があるはずなので、部屋が空いているかどうか聞いてみないと。
なんて思っていると、ちょうどよくバルドさんと、このお店の女の子が私のところにやってきた。
「~~~~~~!~~~~~~~?」
女の子は私の歌を褒めてくれている様子で、笑顔でにこにこと話しかけてくれた。それから指で上の階を差して、おそらく今晩宿泊する?的な質問をしてくれているようだった。
「えっと、はい。お部屋が空いているなら泊まらせてほしいんですけど…お金、これで足りますかね?」
私も同じように指で上を差してから、手持ちの銀貨を女の子に見せる。すると女の子は首を大きく振った。お金はいらないと言っているようだ。
「え、お金いらないんですか…?でも…」
困惑する私に、女の子は手に持っていた紙に何かを描いている。言葉が通じないと分かったので、絵で説明できるように持ってきてくれたようだ。そしてこの世界、紙とペンはあるのね。羽ペンではなく万年筆に似た形のペンをインク瓶に浸けて使っている。
「えっと…?お金はいらないけれど、泊まって良い。その代わりにここでまた歌ってほしいってことなのかな?」
絵と動作で説明してくれる女の子に対し、私もジェスチャーを交えて確認すると、女の子とバルドさんが大きく頷く。
「それはとっても助かりますけど…そんなうまい話で良いのかな…?珍しくはあるだろうけどド素人の歌だし…」
恐縮していると、女の子は私の手を取って、安心させるようににっこりと微笑む。やっぱり可愛い。
出会ったばかりだけど、バルドさんもめちゃくちゃ気の良いおじいさんだし、そのバルドさんが連れてきてくれたお店で、どう見ても人の好さそうな女の子から提案してもらったこと。こうなったら乗ってみるしかないでしょ。きっと今ならお姉ちゃんの強運が私にもついているような気がするし!
「…じゃあ、お言葉に甘えて。よろしくお願いします!」
私が深く頭を下げると、女の子とバルドさんもほっとしたように笑ってくれた。もしかしたらこのまま私が野宿生活に戻ることを心配してくれたのかもしれない。
その後、女の子に部屋まで案内してもらった。屋根裏に二つあるうちの一部屋で、隣は彼女の部屋のようだ。従業員用の部屋を貸してくれたのかもしれない。
少しでも生活のためにこの世界のお金を貯めていきたい私としては、無料で泊めてもらえるなんて有難すぎる話だし、なんなら物置部屋でも良いくらいだった。しかし、部屋を開けてみると…
「……!素敵なお部屋!えっ、こんなところに泊まって本当に良いの?」
私が驚いていると、女の子はウインクと共に大きくサムズアップをしてくれた。
ベッドは小さめだけど、日本人的には十分問題ないシングルサイズ。薄い水色で統一されたシーツやカバーは見るからに清潔でしわ一つなくピシッとかけられている。
部屋の中央には小さな丸テーブルと椅子が二客。ベッドも家具も、温かい色合いの木製で統一されていて私好みだった。テーブルのそばには出窓があり、薄いレースのカーテンと水色をベースにした小花柄のカーテンがかけられている。ベッドのカバーリングと統一感があってほっとする印象だ。
そして屋根裏部屋だけあって、天井は斜めになっているけれど、中央部に丸型の小窓がある。今は星空が見えるけれど、昼間は日差しが入って気持ちの良い部屋になるだろう。
ついついはしゃいでしまった私を置いて女の子は出て行ってしまったのだが、すぐに戻って来た。手には大量の服やタオルを抱えている。
「~~~~~!」
「え、これも貸してくれるの?…ありがとう…!」
差し出された衣類を受け取る。綿や麻の素材と思われる、この世界の服。おそらく彼女の服を私に貸してくれるようだ。そしてありがたすぎることに、新品っぽい下着もある。ショーツと、カップなしのスポーツブラのようなもの。
「…あなたが神か…!」
「?」
いけない、つい感動して変なことを口走ってしまった。だってあまりにも気が利きすぎだし優しすぎて…!これでノーブラ・部屋着ロンT一枚・薄汚れたパジャマズボン生活から抜け出せるんだもん。嬉しくないはずがない。
「ありがとうっ!本当にありがとう!」
この世界にはハグの文化はあるようだったので、この感謝を伝えるべく、彼女をそっと抱きしめた。気持ち的にはガバッといきたかったんだけど、異世界人で数日お風呂も入っていない女であるということを直前で思い出し、控えめにしてしまった。
「ふふふ、~~~~!」
女の子はそんな私の葛藤はとくに気にもしていないようで優しくギュッと抱きしめ返してくれた。すごいなこの子、もしかして女神か?
そんなこんなで感激しっぱなしの私に、洗面所やトイレの使い方、お風呂の場所なども教えてもらい、就寝となった。
お風呂は時間帯限定で湯舟にお湯を張っているようで、残念ながら今夜の入浴はもう無理だったけれど、幸いなことにシャワーは使えるということでありがたく使わせてもらった。電気やガスががあるわけでもないので仕組みは謎だけれど、ぬるめの温水シャワーだったこともありがたい。
異世界転移四日目。ようやくお腹が満たされ、清潔な服装で整えられたベッドで眠れる。まだまだ不安なことはたくさんあるけれど、本当に幸運な一日だった。
ふわふわの掛布団に包まれた安心感と共に、私はあっさり眠りに落ちた。
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