13 / 16
13
しおりを挟む
夜が更けて、部屋の明かりを落とした僕の心は浮かれていた。いつもは一人だったのに、今日も一人じゃない。たったそれだけなのに、心臓がやけにうるさかった。
「今日は…………何かの記念日だったか?」
後からベッドの中に入ってきたジークベルトは、冷静にそう言った。夕食がいつもより豪華すぎたからだろう。ペネロペの冗談かと思ったが、本当に料理長へと豪華にするよう頼んでいたようだ。
(ただ、ジークベルトが僕のことを好きって言ってくれただけなのに…………)
その事情はもちろん、僕しか知らない。どう説明すればいいかもよくわからなかった。
「さぁ………材料が余ってたんじゃないですかね」
「…………そうかもしれないな」
当たり障りのない返事をしたら、ジークベルトも納得してくれた。
「………………………」
「………………………」
無言のまま仰向けになって天蓋を見つめる彼のきれいな横顔を、僕はじっと眺めた。好きと言われてから少ししか経っていないが、態度の変化は見られない。今もこうして距離を空けているし。
本当に僕のこと、好きなんだろうか。
いつから好きだったのだろう。好きだったのに何故抱いてくれなかったのだろう。
そんな疑問が次々と湧いてくる。
「……………寝ないのか?」
横目で見られて、目が合う。いつもと変わらない表情。意識しているのは僕だけなんだろうか。
「……………僕のこと、いつから好きだったんですか?」
疑問を口に出すと、目を逸らされた。
「……………………」
「何故、僕のことを抱いてくれなかったんです?」
「それは………………」
好きなのに抱かない理由が僕には見当もつかない。ヒートはまだ少し先だし、今すぐ抱いてほしいって訳じゃないけど…………単純にジークベルトの考えを知っておきたかった。
けど、なかなか答えようとしない。
「好きって言ってくれたの…………嘘じゃないですよね?」
「………っ! 嘘なわけない。俺はずっとアルルの事が…………」
焦ったように身体を起こしたジークベルトに見下ろされて、至近距離でまた目が合った。
「………っ、抱かなかったのは……君に選んでもらいたかったからだ」
「…………選ぶ?」
「この国に来たのも、結婚相手も君の意思ではないだろう。俺が仮に君を抱こうとしたら、俺に対して気持ちがあろうがなかろうが、君は受け入れていたはずだ」
ジークベルトの言う通り、もし気持ちがなかったとしても夫婦の務めは拒否しない。政略結婚を受け入れた時点で覚悟していた事だからだ。
「……………そういった義務感ではなく、君の意思で俺を選んで欲しかった。ただ………それだけだ。抱きたくなかったという訳ではない………」
だからといって、ヒート中のオメガを放置するのもどうなのか。エゴと優しさが入り混じった理由に言葉を失ってしまう。
「………逆に嫌われてるかと勘違いしてましたけどね………好きって言ってくれてないし………」
「……………そういう、甘い言葉を口に出すのは柄じゃないというか…………」
「……………恥ずかしかった、とか?」
僕が指摘したら、ジークベルトは気まずそうな顔をして黙ってしまった。どうやら図星らしい。
「ふふっ……………ジークベルト様って不器用ですね?」
「…………………」
完璧なアルファのはずなのに、こういう所がスマートじゃないっていうのが……………何故だか心が惹かれてしまう。
きっと彼が、僕に最初から『好き』とか『愛してる』とか素直に言えるようなタイプだったら、ここまで拗れることはなかっただろう。と同時に、強く惹かれる事もなかったのかもしれない。
「…………俺は一緒に寝ようと言われただけで動揺しているというのに………君は余裕なんだな」
「………? そうは見えませんが…………」
僕だってさっきから心臓が落ち着かない。けど、お互いに表情には出づらいみたいだ。
触れたら、彼の考えがもっとわかるだろうか。そう思った時、手首を優しく掴まれた。
「…………本当は、他のアルファの匂いがした時から落ち着かなかった」
手首に唇が近付き、そっとキスをされる。
「…………君が許してくれるなら、上書きしても良いか?」
反射的に頷いてしまった僕は、肌から伝ってきた彼の思考に身体が熱くなる。
ベッドに入った時に、不思議な石のネックレスを外すのを忘れていた。それを後悔した時には、手遅れだった。もう、何をされるかわかってしまったから。
「今日は…………何かの記念日だったか?」
後からベッドの中に入ってきたジークベルトは、冷静にそう言った。夕食がいつもより豪華すぎたからだろう。ペネロペの冗談かと思ったが、本当に料理長へと豪華にするよう頼んでいたようだ。
(ただ、ジークベルトが僕のことを好きって言ってくれただけなのに…………)
その事情はもちろん、僕しか知らない。どう説明すればいいかもよくわからなかった。
「さぁ………材料が余ってたんじゃないですかね」
「…………そうかもしれないな」
当たり障りのない返事をしたら、ジークベルトも納得してくれた。
「………………………」
「………………………」
無言のまま仰向けになって天蓋を見つめる彼のきれいな横顔を、僕はじっと眺めた。好きと言われてから少ししか経っていないが、態度の変化は見られない。今もこうして距離を空けているし。
本当に僕のこと、好きなんだろうか。
いつから好きだったのだろう。好きだったのに何故抱いてくれなかったのだろう。
そんな疑問が次々と湧いてくる。
「……………寝ないのか?」
横目で見られて、目が合う。いつもと変わらない表情。意識しているのは僕だけなんだろうか。
「……………僕のこと、いつから好きだったんですか?」
疑問を口に出すと、目を逸らされた。
「……………………」
「何故、僕のことを抱いてくれなかったんです?」
「それは………………」
好きなのに抱かない理由が僕には見当もつかない。ヒートはまだ少し先だし、今すぐ抱いてほしいって訳じゃないけど…………単純にジークベルトの考えを知っておきたかった。
けど、なかなか答えようとしない。
「好きって言ってくれたの…………嘘じゃないですよね?」
「………っ! 嘘なわけない。俺はずっとアルルの事が…………」
焦ったように身体を起こしたジークベルトに見下ろされて、至近距離でまた目が合った。
「………っ、抱かなかったのは……君に選んでもらいたかったからだ」
「…………選ぶ?」
「この国に来たのも、結婚相手も君の意思ではないだろう。俺が仮に君を抱こうとしたら、俺に対して気持ちがあろうがなかろうが、君は受け入れていたはずだ」
ジークベルトの言う通り、もし気持ちがなかったとしても夫婦の務めは拒否しない。政略結婚を受け入れた時点で覚悟していた事だからだ。
「……………そういった義務感ではなく、君の意思で俺を選んで欲しかった。ただ………それだけだ。抱きたくなかったという訳ではない………」
だからといって、ヒート中のオメガを放置するのもどうなのか。エゴと優しさが入り混じった理由に言葉を失ってしまう。
「………逆に嫌われてるかと勘違いしてましたけどね………好きって言ってくれてないし………」
「……………そういう、甘い言葉を口に出すのは柄じゃないというか…………」
「……………恥ずかしかった、とか?」
僕が指摘したら、ジークベルトは気まずそうな顔をして黙ってしまった。どうやら図星らしい。
「ふふっ……………ジークベルト様って不器用ですね?」
「…………………」
完璧なアルファのはずなのに、こういう所がスマートじゃないっていうのが……………何故だか心が惹かれてしまう。
きっと彼が、僕に最初から『好き』とか『愛してる』とか素直に言えるようなタイプだったら、ここまで拗れることはなかっただろう。と同時に、強く惹かれる事もなかったのかもしれない。
「…………俺は一緒に寝ようと言われただけで動揺しているというのに………君は余裕なんだな」
「………? そうは見えませんが…………」
僕だってさっきから心臓が落ち着かない。けど、お互いに表情には出づらいみたいだ。
触れたら、彼の考えがもっとわかるだろうか。そう思った時、手首を優しく掴まれた。
「…………本当は、他のアルファの匂いがした時から落ち着かなかった」
手首に唇が近付き、そっとキスをされる。
「…………君が許してくれるなら、上書きしても良いか?」
反射的に頷いてしまった僕は、肌から伝ってきた彼の思考に身体が熱くなる。
ベッドに入った時に、不思議な石のネックレスを外すのを忘れていた。それを後悔した時には、手遅れだった。もう、何をされるかわかってしまったから。
76
お気に入りに追加
1,605
あなたにおすすめの小説
【完結】何一つ僕のお願いを聞いてくれない彼に、別れてほしいとお願いした結果。
N2O
BL
好きすぎて一部倫理観に反することをしたα × 好きすぎて馬鹿なことしちゃったΩ
※オメガバース設定をお借りしています。
※素人作品です。温かな目でご覧ください。
変なαとΩに両脇を包囲されたβが、色々奪われながら頑張る話
ベポ田
BL
ヒトの性別が、雄と雌、さらにα、β、Ωの三種類のバース性に分類される世界。総人口の僅か5%しか存在しないαとΩは、フェロモンの分泌器官・受容体の発達度合いで、さらにI型、II型、Ⅲ型に分類される。
βである主人公・九条博人の通う私立帝高校高校は、αやΩ、さらにI型、II型が多く所属する伝統ある名門校だった。
そんな魔境のなかで、変なI型αとII型Ωに理不尽に執着されては、色々な物を奪われ、手に入れながら頑張る不憫なβの話。
イベントにて頒布予定の合同誌サンプルです。
3部構成のうち、1部まで公開予定です。
イラストは、漫画・イラスト担当のいぽいぽさんが描いたものです。
最新はTwitterに掲載しています。
平凡顔のΩですが、何かご用でしょうか。
無糸
BL
Ωなのに顔は平凡、しかも表情の変化が乏しい俺。
そんな俺に番などできるわけ無いとそうそう諦めていたのだが、なんと超絶美系でお優しい旦那様と結婚できる事になった。
でも愛しては貰えて無いようなので、俺はこの気持ちを心に閉じ込めて置こうと思います。
___________________
異世界オメガバース、受け視点では異世界感ほとんど出ません(多分)
些細なお気持ちでも嬉しいので、感想沢山お待ちしてます。
現在体調不良により休止中 2021/9月20日
最新話更新 2022/12月27日
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。
石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。
ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。
それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。
愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる