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 俺にだって、アルルしか居ない。
 聞き間違えかと思った言葉に、すぐに反応を返せなかった。

「俺に他の相手が居ると思ったのか?」

 ジークベルトからそう聞かれて、ぼうっとしたままの僕は無言で頷いた。

「何故そのような誤解をしたのかわからないが…………不安にさせて悪かった」

 申し訳なさそうに頭を下げられて、ようやく理解が追いついてくる。

 イーサンはあの時、はっきりと『本当に愛されているのは僕なんだ』と口にしていた。側妃の件が本当だったから、その言葉を完全に信じ切ってしまっていたのだ。

「…………じゃあ、側妃の件も、ジークベルト様の意思じゃないってことですか…………?」

 僕が恐る恐る尋ねると、ジークベルトが「ああ」と頷いた。

「父上が勝手に話を進めているだけだ。俺にそのつもりは一切ない」
「……でも、ぼくに話してくれなかったのは……」
「………責任感の強い君が知ったら、変に気を揉むんじゃないかと思って言い出せずにいた。だが、かえって傷付けてしまったみたいだな………」

 涙を拭われて、指先から罪悪感のような感情が伝わってくる。ジークベルトが嘘を吐いてる訳じゃなさそうだ。

「俺は…………大事な番が居るのに、浮気するほど愚かな男じゃない。それだけは信じて欲しい」

 大事な番。
 僕のこと、大事だと思ってくれてるんだ。

「………っ、はい、……よかった……嬉しいです………」

 感極まってしまった僕は笑みがこぼれて、ジークベルトに抱きついた。酔いが完全に冷めきってないせいか、抱いていた願望が我慢しきれずに出てきてしまう。

「………また、俺のせいで泣かせてしまったな……。君にはそうやって笑っていて欲しいのに………」

 そう言ったジークベルトが、抱きしめ返してくれる。服越しに感じる熱と、匂いに、心臓がどきどきした。

「…………気にしないでください………ぼく、いま、すごく嬉しくて………好きな人に『大事な番』って言ってもらえて…………」
「……………好きな人?」
「はい………ジークベルト様のことが、好きです……」
「………っ!」

 本音を口に出したら、より強く抱きしめられて、首筋に顔を埋められた。

「……………俺も、アルルの事が好きだ」

 喜びを噛み締めるように、小さく聞こえてきた言葉にさらに嬉しくなる。

「………………本当、ですか?」
「…………ああ」

 なら、このまま離れたくない。朝まで一緒に居たい。もう一人で寂しく眠りたくない。

「…………じゃあ、今日は……ジークベルトさまと、一緒に寝たいです」
「…………一緒に?」
「………だめ、ですか?」
「…………いや、そんなことは……ない」

 一瞬、ジークベルトの目には焦りの色が見えた気がしたが、すぐに否定してくれた。ひょい、と抱き上げられて、ベッドの方に移動する。

"後でまた………薬を飲んでおかないと………"

 ベッドに降ろされる直前で、心の声が聞こえてきた。何の薬だろう。体調でも悪いんだろうか。忙しいからか顔色が良くない日が多いし、今もそうだ。

 明日、僕にも何か手伝える仕事があったら手伝おう。元気が出そうな料理を作ってみるのもいいかもしれない。

「ジークベルトさま………無理、しないで下さいね…………」
「………? あ、ああ」

 僕が勝手にジークベルトの考えを読んだだけだから、いまいち伝わっていないようだった。このまま心の声が聞こえたままだと眠れないだろうから、不思議な石のネックレスを外してサイドテーブルの上に置いた。

「…………そのネックレス、最近ずっと着けているが…………誰から貰ったんだ?」

 若干距離を取って寝転がったジークベルトの顔には、少しかげりが見えた。首紐以外は服の下に隠していたから、気付かれていないと思っていたのに。

「貰ったんじゃなくて………自分で作ったんです」
「自分で……? そんな事まで出来るのか。器用だな」
「いえ、全然器用では……………」

 そう言いながら、ジークベルトにまたぎゅっと抱きついた。

「………っ、アルルは………酔うとこんなに甘えてくれるのか………」

 酔ってるからこうしたい訳じゃない。普段からそう思っていた。だけど、言い出すことも行動に移すことも出来なかった。ずっとこうやって甘えたかったのに………。

 ジークベルトには愛されていないと思っていたけど…………それも全て誤解だったみたいで安心した。きっと、抱いてくれなかったのも彼なりの事情があったんだろう。別の日にまた聞いてみよう。

(今はただ抱きしめてくれるだけでも、十分幸せだ)

 僕はつかの間の幸せを、ジークベルトの腕の中で噛み締めながら眠った。
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