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 イーサンがいずれ側妃になるという話を聞いた僕は、自暴自棄に陥っていた。
 
「こんなの、何も役に立たないじゃないか………」
 
 自室に戻ったあと、一人で飲み慣れないワインを一気に飲み干した。そして、首から下げていた不思議な石のネックレスをわし掴む。

 心が読めたって、僕の感情が揺さぶられるだけで、結局何も変わらない。引きちぎって窓から捨てたくなったが、つい躊躇してしまう。

 これが無くなったら、それこそ僕には何も残らないような気がしたからだ。

(はは、占い師にでもなろうかな……………)

 投げやりな考えを思い浮かべて、ソファに項垂れる。僕にはどうしたらいいかわからなかった。離婚だ何だと騒ぎ立てる気力すらない。心にぽっかり穴が空いたかのような、強い喪失感に襲われていた。



 そもそも、いつからジークベルトはイーサンのことを好きだったのだろう。学年は違うが、同じ魔法学院に通っていたというのと、以前はよく王宮に出入りしていたことしか知らない。

 イーサンはオメガでも珍しい光魔法を扱えるらしく、魔法学院では目立つ生徒だったそうだ。それでジークベルトと接点も多かったのだろうか。

「……………………うっ」

 二人が身を寄せ合う姿を想像してしまい、気分が悪くなってくる。別のことを考えたい。けど、いい考えも浮かばない。



 こうして一人でうじうじと思い悩むのは、僕の悪癖だ。誰かに相談すれば気が楽になるのかもしれないが、その発想がどうしても出来なかった。

 それはきっと、幼少期の記憶のせいだろう。
 
 僕の二つ上の兄は、アルファだった。
 でも生まれつき身体が弱かった。少し動いただけで呼吸困難に陥り、ベッドで寝たきりになるのもしばしばあった。母が付きっきりで看病しているのをよく見かけた。

 反対に、僕はオメガでも健康体だった。十歳まではバース性が判明しないため、その時までは僕が『国王になるかもしれない』と厳しく教育を受けていた。

 せめて僕は両親を心配させないようにと、一人でがむしゃらに努力していたと思う。

 けど、先にアルファだと判明した兄は成長するにつれて体力がつき、元気を取り戻していった。ますます両親の関心は兄に向いた。

 それでも両親なりに僕を愛してくれていたとは思う。オメガだからと虐げられる事はなかったから。

 だけど…………誰かに弱音を吐くことが出来なくなっていた。弱い自分を見せたくなかった。本音を打ち明けるのが怖かった。

 今だにどうやって人に甘えたらいいのか、よくわからなかった。





 

 あれから、どれくらい飲んだのか。理性を失った僕は本能のままに、番の匂いがする部屋に引き寄せられていた。

「……ジークベルトさま……」
「こんな遅くに……どうしたんだ?」

 扉を開けたジークベルトは呂律がまわってない僕を見て、ひどく驚いているようだった。

「…………誰かに酒を飲まされたのか?」

 肩を掴まれて、心配そうに顔を覗き込まれる。

"誰がこんなことを………見つけたら………"

 僕の頭が朦朧としているせいか、聞こえてくる心の声も途切れ途切れだ。

「ちがいます………自分でのみました………」
「自分で? 飲み過ぎだろう。何があったんだ」
「へやに、入れてくれませんか………」
「…………あ、ああ」

 いまいち会話が通じない僕を見かねて、ジークベルトは部屋の中へと入れてくれた。
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