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 砂漠の国ルータパの第二王子だった僕が隣国の第一王子と結婚してから、はや一年。今だに夫の考えてる事がよくわからない。

「お前達はいつ子供を作るつもりなんだ」
「そんなの知りませんよ。自分の息子なんだから、直接聞いて下さい」
「私が聞いて答えてくれる訳ないだろう。アイツといつから口を聞いてないと思っている」
「それ、偉そうに言う事じゃないでしょう」

 何故か知らないが、最初はオメガだからと冷遇してきた義父の国王陛下の方が先に打ち解けてしまっている。陛下は性格は悪いが、思った事を全て口に出すタイプだからだろう。それに反抗していたら、いつ間にやら、だ。

 反対に夫のジークベルトは必要最低限しか話さない。無視や嫌がらせはしてこないが、とにかく口数が少なくて考えが読み取りづらい。陛下に幼少期から厳しく教育されたせいで、表情も乏しいし。歳を重ねても端正な顔立ちをしてるのは親子そっくりだが。

「………まったく、可愛げのないやつだ」

 文書整理の仕事がひと段落ついたあと、こうして庭園でお茶を飲みながら陛下と世間話するのがもはや日課になってきている。王妃は既に他界し、気難しい性格だから話す相手が居ないんだろう。僕も僕で、この国で気軽に話せる友人が少ないから助かっているが。

「そんな調子じゃ浮気されてしまうぞ」
「………………浮気、ですか」

 ジークベルトは僕の二つ年上で、まだ二十二歳と若い。その上、顔が良くて、仕事もそつなくこなす完璧アルファだ。生まれつき魔力量も高く、剣術にも優れており、貴族や騎士団からの支持も厚い。

 当然だがモテる。愛想は良くないが、僕に対してのように無視はしないから。

 僕はというと………祖国のルータパでは第二王子として教育を受けていたため、王太子妃として最低限の仕事くらいは出来る。ただ、魔力量は平均的で、水魔法しか使えない。

 ルータパは砂漠に囲まれており、水魔法の需要は高かったが………この国、サングリフでは緑や水源が多い。要するに、僕の水魔法はあまり役に立たなかった。

 それでも干ばつした地域に足を運ぼうとした事もあるが、いつもジークベルトに止められる。他の水魔法使いに任せるからって。僕には王宮で仕事してて欲しいと。余計な事するなという意味だろうか。

 それに、周囲は口を揃えて「子供は」と急かしてくるが、そもそも夜をともに過ごす事がないのだ。三ヶ月に一度やってくる発情期ですら。最後にしたのは、形式的に番となった時だけである。

「………………もう、浮気していてもおかしくないかもしれませんね」

 オメガは番相手以外と交われないが、アルファは複数の番を持てる。夜を過ごしたがらないのも、他に相手が居るからと考えれば納得がいく。

 今までその考えに至らなかったのは、ジークベルトが浮気するような人間ではないと勝手に思い込んでいたからだ。
 それに気付いたら、胸がぐっと苦しくなる。

 僕はジークベルトの事が好きだった。
 オメガの偏見が強く残るこの国に慣れないうちから、僕に不当な扱いもせず、優しくしてくれていたから。その優しさはきっと『愛』ではなく『情』だったはずなのに、勘違いしてしまった。

 浮気しているかは定かではないけれど、ジークベルトと離婚した方がいいのかもしれない。その方が彼のためになるんじゃないか。



 ジークベルトに離婚したいと言ったら、どんな反応をされるのだろう。けど、その前に彼の気持ちを一度確かめたい。

 そう思った僕は、その日の夜に遅く帰ってきたジークベルトの部屋へと訪れた。

「……………あの、お時間よろしいですか」
「………何だ?」

 ジークベルトはやや疲れた顔をしていた。

 一ヶ月半後には、催しとして規模が大きい『ヌールミエ』が行われる。他国からも大勢の人々がやってくるため、その準備に忙しいのだろう。話は手短に済ませた方がいい。

「部屋に入っても?」
「………ああ、構わないが」

 不機嫌そうにジークベルトの眉間に皺が寄った。部屋に入ってもソファに座った僕からは距離を取ってわざわざ立っている。

「ジークベルト様も座ってくれませんか」
「………いや、いい。ここで」

 そんな露骨に避けなくてもいいのに、と内心傷付きながら、仕方なくそのまま話をする事にした。

「………先月で、結婚して一年経ちましたけど」
「…………そうだな」
「子供を作る気ってあるんですか?」
「………………それはいつか………」
「いつかって、いつですか」
「…………………」

 鬱陶しい妻だとでも思っているんだろうか。僕だってこんなこと言いたくて言ってる訳じゃない。不安な気持ちを伝えたいだけなのに、どうしてみじめな思いをしなくてはならないのか。

「…………僕なんて抱きたくないですよね。色気ないし。チビだし」
「………………えっ、いや、そんなことは………」

 卑屈に言うと、ジークベルトは焦ったように否定してきた。心無いことを言わせて申し訳なくなってくる。今は彼の優しさが痛い。

「………あー……なんか、もう、いいです。変なこと言ってごめんなさい」

 耐えきれなくなった僕はソファから立ち上がった。

「…………アルルは、」

 いつもは『君』としか呼ばないのに、珍しく『アルル』と呼んだ。たったそれだけなのに何故嬉しく感じてしまうのか。

「………………俺との子供、欲しいのか?」

 けど、なんて質問をするんだ、この男は。
 明らかに望んでいない相手に、首を縦に振る人間がどこに居る。

「……………ッ別に………欲しくないです」

 そんな強がりを言った僕は、逃げるように部屋から出て行った。
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