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3話 踊れないので詳しい人に聞いてみた
しおりを挟む「あのー、ダンス教えて欲しいんですけど」
俺は町外れにあるダンススクール「踊りゃな歌歌」に来ていた。
赤髪に褐色の肌、紫の口紅を塗ったオーナー、フミカ・エスワルトは、この街の住人ではなく冒険者つまり現世の人間だと聞きつけ、ここまでやってきたのだ。
はだけた浴衣に短めのスカート、足元は素足。和風ポップという言葉がお似合いな格好をしている。
「いいけど、そこのお姉さんは無理」
「えっ、どうして!?」
「いや、なんとなく。生理的に無理」
「あわわわわわわわわわわ」
今にも泣き出しそうな顔でわなわなと震えるシール。
流石冒険者、俺と同じ感想を抱いている。
「だから、どうしてもそこのお姉さんに踊りを教えたいなら、まずは私からあんたが覚えてそれを教えな。教え方を教えるよ」
「なんだそりゃ……」
「見てやるだけいいと思いな。その代わり条件。あんたは私の踊りを録画してくれ」
「録画……?」
「そう、持ってんだろ?アイフォン」
「またかよ!どんだけアイフォン出てくんだよ!ファンタジー返せよ!!」
「ははは、気持ちはわかるけど、その代わりいいもん見せてやるからさ」
「はぁ、わかった。じゃあ、シール。しばらく外で待っててくれ」
「えっ、私本当にこのまま放置なの!?」
「おお、今回の話でのお前の登場シーンは終わりだ」
「一応私がアイドルになるまでの話だよね!?」
「いや、俺がイケメンになるまでの話だ。じゃあな」
バタン。
障子のようなデザインの鉄製の扉で固く閉ざされた、神女。
「えええええええん!私が踊れるようになりたいのにぃ!!!!」
ドアに泣きつくシール。
そんなシールのことを思い、
カチャ。
そっと鍵をかけたのだった。
☆★☆
教室内は木製の床以外全面鏡張りの不思議な場所だった。
床も鏡張りならいいのに。
期待を裏切られため息をつく男の顔があったので、慌てて元の顔に戻す。
「何してんの気持ち悪い」
「何でもないです。他に誰もいないんですね」
「まぁね。ちょくちょく生徒とか来るけどさ。今日は誰も来ない」
「そんなもんなんですね」
「早速やるよ、あたしはせっかちなんだ」
「よ、よろしくお願いします」
──3時間後。
フミカさんの熱心な指導のおかげで持ってきていたノートはびっしりと埋まっていた。
「よし、なんとなくできそうな気がしてきた」
「まぁ、タネを明かせば簡単な事だろ?なんでも組み合わせってわけさ」
「あいつバカだから伝わるかなー、またわかんなくなったら来ますね」
「直接教えんのは嫌だけど、あんたにならいいよアイフォン持ってるしね」
「どこでそれ知ったんです?」
「ああ、有名だったよ。あの子がアイフォン持ってるの」
「そんなに広まるほどなんですか?シールって」
「ああそりゃもう。世界で1人だけの神女?を名乗る、頭の悪い魔女だって」
関わりたくないですよね、わかります。
「あんたはなんであんなのと仲良くしてんのさ」
「呪い解いてもらうためですよ」
「呪い?」
「はい、俺レベル1から上がらない呪いにかかって」
「なるほど。戦えないから色んな所でマネジメントしてるわけか」
「生きるためですよ」
「そんなあんたに一つ花向けかな、約束通りそれで撮ってくれよ」
タタン、タタン。
目をつぶり早いテンポで足を鳴らす、全身を紫色の燐光が覆っていく。
アイフォンを向ける手を固定したまま、目の前にいるフミカさんを目に焼き付ける。
優雅に舞うその姿を見ていると、不思議な感覚が体を包んだ。
確かに彼女が踊っているのは踊りのはずだ。けれど、激しく細かくヒップホップのように踊ったかと思えば、ゆっくりと両膝をつき悲しみに顔を歪ませ空を掴もうとするその姿はある意味正反対にも思え、まるで劇を見ているようだった。
燐光の輝きは増していく。幾重にも映る鏡の中の踊り子達は華麗に美麗に妖艶に舞踏し、魅了する。
見ていると体が熱を持ち、何かが繋がったような感覚を覚える。
細胞一つ一つが意思を持ちお互い手を握りあったかのような、噛み合った感覚。
体を一瞬オレンジの光が包み込んだと思ったが、夢のように消えていく。
「これは!?めっちゃ光った!」
「踊り子のスキル、激励の舞。攻撃力を一時的にあげたり、状態異常を回復できたりする」
踊り子!ファンタジーおかえりなさい!
「踊りにはステータス付与の力もある……か」
「そう、何かの役に立てばいいけど」
「ありがとうございます!踊りも素敵でした」
「あっ、それと」
「なんです?」
「エッチな夢見るようになるから気をつけて」
「えっ♡」
「うそだよ、ばか、引くわ……」
「……意地でもエロい夢みてやるからな!!」
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