お兄さんに拾われた少年のお話

紫雲もか

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出会い

ヒーロー?

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 すっかりと荒れ果てた街並みがあたり一面に広がっている。
 所々に瓦礫の山や人だったものが無惨にも転がっている。その上,異臭もひどく,あまり長くいたくはないような場所だとアクラムは思った。

(やっぱり,息をしている人間はいないか……)

 そうして,アクラムはこの街に生きている人間がいないかと探し,歩き回る。ほぼ絶望に近い状態で。

 ここは,アクラムたちが到着した時にはすでに敵軍にやられてしまっていた場所である。多くの兵士ではない女,子どもが亡くなっている。
 それに,アクラムの顔見知りも大勢亡くなってしまった。たまに見つける,顔見知りの見るも無惨な格好はどうしようもない気持ちへと誘われた。
 それもそのはず,あと数時間でも早く来ていたら助けられたかもしれないそんな命が所々に転がっているのだから。悔やんでも悔やみきれない,そんな絶望を感じながらこの廃墟と化した,街の中を歩く。
 そんな時だった,ひどく傷ついていたが、微かに息をしている子どもを見つけた。

「おい,まだ息をしているぞ」

 アクラムは絶望から救われた気分になった。すぐに,その子どもを抱き抱えて,大声で仲間たちを呼ぶ。

「どうした?」

 仲間の1人である,ルクマーンはアクラムの方へとすぐに駆け寄る。

「だから,子どもがいるんだよ」

 アクラムは,抱き抱えている子どもをルクマーンに見せる。

「うん。子どもだな。息もある。けど,お前,わかってないのか?」

 子どもを確認すると,ルクマーンは冷たくなって言葉を返す。

「わかっている。わかってはいるんだが……」

 子どもはすぐに戦力にはならず,ましてや男児であるので生産性も持ってなどいない。それに,食料も少なく,子どもに与えるなんてことはできるはずもなかった。
 そんなこんなで,子どもはそのままにさせるという選択肢も少なくはなかった。

「だったら……」

 ルクマーンはアクラムから子どもを引き剥がして,すぐに地面に寝かしつけた。
 傷つけないようにゆっくりと下ろしながら。
 ルクマーンが別に子どもが嫌いなわけではないのは一目瞭然だった。それもそのはずで,ルクマーンには家族それも帰りを待っている子どもが2人いる。だから,アクラムもルクマーンが仕事であると割り切っていることを知っている。

 けれど,アクラムはどうしようもなく昔の自分を思い出してしまう。アクラム自身も孤児であり,拾ってもらった立場だ。
 この子どもを1人にさせるなんてそう易々とできなかった。もちろん,ここの人たちを守れなかった罪悪感もあった。

「なぁ,やっぱりその子,俺がどうにかするから助けてやりたい」

 さまざまなことを巡らして,辿り着いた答えがそれだった。

「……そうか,ならちゃんと育ててやれよ」

 ルクマーンは少し考えてから,あっさりと返事をした。
 さっきまでの雰囲気や言葉が嘘かのように。

「ど,どうして?」

 アクラムは,あまりにもすぐに返事をされたので驚く。もっと悩むべき問題であると感じてたから。

「だって,お前が,この子どもを見つけた時心底嬉しそうな顔をしていたから。そうなるだろうなって。でもな,子どもを育てたことのない,お前に,その覚悟がなかったら子どもがかわいそうなんだよ。だから,お前を試した」

 ルクマーンは,真剣な表情になって,アクラムに語った。
 ルクマーンはアクラムにはいない家族を家庭を持っている。そんなからの言葉だから,アクラムは,嬉しくなって,明るい声色で返事をする。

「あ,ありがとう……」

 その時,アクラムの口角は無意識に上がっていた。

「うん。頑張れよ」

 は,そう言い残し,他に生存者がいないか探しに向かった。

 その場に残されたアクラムは,すぐに地面にいる子どもを抱き抱え,息を確認してから馬へと向かった。
 なぜなら,この草原はこれからもっと寒くなる。けれど,子どもは薄い服しか着ておらず,このままでは余計にひどくなることは明確だった。だから,アクラムは,馬の上には野宿をする時用の毛布が積んであったので,それを取りに戻ってきたのだ。
 そのこともあって,アクラムは毛布に優しく子どもを包み込み,抱き抱えたまま,他に生存者がいないかと探す。

(やっぱり,いなかったか……)

 どんなに街を歩き回ってもこの子ども以外,息をしている人間を探すことはできなかった。
 そうして,その子どもを何度も何度も強く抱きしめた。

「おい,アクラム。もう暗くなってきた。行くぞ」

 この隊の隊長である,ダウワースは,そう大きな声を出し,アクラムを呼んだ。
 アクラムは隊長であるダウワースに言われたので仕方なく自分の馬へとまたがり、帰路へとついた。もちろん,子どもを抱き抱えて。

 子どもは,毛布で包み込んだおかげか,見つけた時よりも息がはっきりとし始めていた。それでも,目を覚ます気配がなく,不安は消えることはなかった。

「アクラム,子ども大丈夫か?」

 アクラムの前を行っている,ルクマーンが後ろを向いて聞いてきた。

「大丈夫だとは思うが……」

 改めて子どもの顔を見返して,息をしているのを感じて,一応そう言った。けれど,アクラムの顔は不安そのものを体現していた。

「本当か?」

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