坊ちゃんと執事の日々のお話

紫雲もか

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5章

17話 またね

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「なんですか?」

「やっぱり,レオの体温は,落ち着く」

ゆったりとした時間が過ぎていく。
外はすっかり,日が高くなり始めていた。

「カイン様,やっぱり寂しくなりますね」

坊ちゃんの腕の中にいると離れたくないそんなことを思った。
明日から,いや今日の昼過ぎから,この温もりをすぐには感じられなくなってしまう。
昨日までは,きっとそんなことを思わなかっただろう。けれど,今はそんなことを考えてしまう。

「寂しくなるけど,待っててよ。ちゃんと,レオのこと守れるように強くなるから」

「……待ってますよ。当たり前じゃないですか。立派になってくださいね」

なるべく,前向きに明るく僕たちは話した。離れることが辛くないかのように。
それに,会えなくなるなんて言っても,休みの日は坊ちゃんはこの家に帰ってくる。だから,何年も会えないとかじゃない。
なのに,離れたくはなかった。

「うん」

坊ちゃんは,希望に満ち溢れた,返事をする。

「頑張ってください。私はちゃんと待っておりますから」

心配させないように、僕は付け加えた。
そして,離れ難くもなりながら,するりと坊ちゃんの背中にある手を離し,立ち上がる。
流石に,もう起きなくてはいけない時間になってしまっていたから。

「レオ,なんで…もう少しだけなら」

手を引っ張り僕を引き止めようとする。

「だ、ダメですよ。これ以上は……」

「なんで?」

下から顔を覗き込まれてる。
これ以上は,離れたくなくなるから。なんて,言葉恥ずかしくて言えなかった。

「ダメなものはダメなんです。ほら,カイン様も準備始めてください」

「わかっている。けど…」

布団から顔を出して,坊ちゃんがいった。

「いいですから。僕は,朝食の準備に行きますね」

もうすでに坊ちゃんの荷造りは終わっているらしく,あとは馬車へと運ぶだけのようだった。けれど,僕はすぐにでもその場から離れたくなり,逃げるようにしてその場を去った。

そうして,朝食の準備を済まして,坊ちゃんを呼びにいく。

「カイン様,朝食の準備が終わりましたよ」

いつも通り,扉の前で伝える。

「あ,うん。今行くから,先レオ行ってて」

「わかりました」

僕はそう言って,ダイニングで坊ちゃんのことを待った。

「お待たせ」

ダイニングへと入ってくるなり,すぐに席につき,ご飯を食べ始める。

これが寮に入る前の坊ちゃんがここで食べる最後の食事。
だから,今日は,シェフにもお願いして,僕も少し作らせてもらった。

「美味しいですか?」

「うん。美味しい。あとは,馬車をくるのを待つだけだね」

坊ちゃんは,小さい声でつぶやいた。

「そうですね。また,すぐに会えますから。心配なさらないでください」

めいいっぱいの強がりと自分に言い聞かせるための言葉だった。

「うん」

そうして,馬車が来るまでの時間2人で過ごした。
いつもは長く感じる時間がとてつもなく,早く過ぎていった。

「カイン様では,お気をつけて」

「レオも健康には気をつけてね。あと,何かあったらすぐに知らせてね」

馬車に乗って,もうすぐ出発する間際にそんな話する。

すぐに休みがやってくると信じて。
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