坊ちゃんと執事の日々のお話

紫雲もか

文字の大きさ
上 下
30 / 73
3章

13話 2日目の朝 side坊ちゃん

しおりを挟む

 ユーグリッドとレオンが結婚して番になったのは三年前だ。

 18歳で上級学校を卒業し、レオンはすぐにクリスタニア家の研究所員となった。学校でも無事に生活し、Ωであるという認識が、危機感が無くなっていた。薬でフェロモンも発情期もコントロール出来ていると思っていた。
 その過信が良く無かった。
 セルトレインのように少なくとも番を作ってから勤めればよかったと、後悔しても遅い。

 レオンは研究所内で予期せぬ発情を迎えた。

 二週間前に発情期は終わっていた。三か月周期のそれが起こるはずがなかったのだ。
 混乱した。
 とにかく一緒に居たβの研究員に両親のどちらかを呼んでもらうようお願いして、身を隠せる場所を探した。

 番のいるΩは不特定多数のαを惑わせるフェロモンを出すこともなければ、番以外のαから発情を誘発されることもない。だが番のいないレオンのフェロモンは不特定多数のαを惑わすし、αからの発情期の誘発も受けた。

(誰かがΩを発情させようとしたのかな?)

 誤ってそれが自分に起きてしまったのかもしれない。
 第二性を扱う研究の多い場所だ。αも多いためその扱いは慎重に行われているが、番のいないΩの研究員はレオンだけだった。
 そもそもΩの研究員は数が少ないので、今までの設備ではこういった抜けが出来てしまっているのかもしれない。

(原因追求はとりあえず後回しだ。今は隠れないと……)

 他の研究員、特に優秀なαに迷惑がかかってしまう。
 そんな突然の発情期や、αの傲慢にΩが利用されないよう、カトラシアは法律で建物内に一定間隔でΩが逃げ込める避難場所を作る様に定められている。
 それらは不備がないように、抜き打ちで国家組織が点検をするくらい徹底したものだ。

 研究所にもΩが避難できる場所があることを小さい頃から出入りしているレオンは当然知っていた。
 だが、その入り口のことごとくにαがいた。

 そのうちの一人の顔を見た時に、数日前の会議を思い出す。

(そうか! 俺は実験に利用されてるんだ!?)

 今、レオンは首にフェロモンの消臭が期待できる素材で作ったネックガードを嵌めている。その素材の効果をどのように確認するか、先日話し合っていた。この技術が進めば急なΩの発情が起きても、理性を失ったαに襲われる確率はさらに下げることができる。

 番夫婦に頼んで発情期に検証してもらうということで決まったが、その話し合いの中で「番ったΩではフェロモンが変わってしまっているから、番ってないΩで試さなければ意味がないんじゃないか」という意見も出た。
 
 十数名居た会議室の中、数名のαがレオンを見た。その視線にゾワリと背筋が凍る。αの威圧を感じたからだ。

「それは時期尚早だろう。番のいるΩで効果の確認が取れてからでなければ無駄な実験になる」

 そのレオンにとっては気持ちの悪い空気を吹き飛ばすように、静かな声が会議室に響く。会議に参加している中で一番上役であるユーグリッドが否と言えばその話は無効になった。
 会議の後、せっかくだから使ってみたらどうかとβの研究員に渡されたネックガードを、レオンは身に着けていた。

 実験をするにしても、Ωに手出しが出来ないようにαを拘束した状態で行ったり、フェロモンに影響を受けないβを同席させるべきだ。
 もしネックガードの効果がなく、発情中のΩのフェロモンが作用してしまえばαは欲望を止めることが出来ない。発情し運動機能を低下させたレオンにも抗う術がない。

 そんなことは考えたくなかったが、避難場所に行ったが最後、どうなるか判ったものじゃない。

 研究所内でレオンは顔は悪いが優秀なΩと認識されていた。
 αばかりの学校を優秀な成績で卒業した事実は大きい。

 顔が悪くて魅力が無かろうが、番のないΩのフェロモンはαを強制的に発情させるのだ。レオン相手でも発情し、優秀な子どもを産ませることができる可能性は高い。

(いやそんな事じゃなくて、ネックガードの効果実験……だ、間違いない)

 自分が狙われるなんて思えなかったが、震える身体を叱責しながらどうにか足を進める。
 フェロモンを消臭するネックガードはきちんと効果があったのだろう。αに捕まることなく、気付けばユーグリッドの執務室の前にたどり着いていた。

 扉をそっと開ければふわりと大好きなユーグリッドの匂いがする。
 レオンはふらふらと室内に入り執務机の足元のスペースに身を隠した。そのままユーグリッドの匂いの濃い椅子へ頭を乗せる。

 レオンの記憶がはっきりしているのはここまでだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

モテ男×盲目ボーイ

おもち
BL
クラスのカーストトップのイケメンモテ男×盲目ボーイのBL。 イケメンくんが盲目くんに猛アタックしてほしい。

処理中です...