坊ちゃんと執事の日々のお話

紫雲もか

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5章

13話 ちゃんと伝えたい気持ち

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ベランダに出てみると星がキラキラと輝いている。

(明日,明日で坊ちゃんが学校へ行ってしまう…)

まだ返事はできていなくて,しなければと思いながら,答えは出そうで出ていない。
旦那さまには,一応,明日までに答えを出すとお願いをしておいた。

本当は,とかとかそんな言葉で片付けてしまうこともできる。そんなことわかっているのに,どうしても僕はその言葉が出ない。むしろ出したくないとすら思う。
けれど,とっくに答えは見つかっている。
本当の気持ち。そう言っている。それでも…この想いは…。
そうして,ぼーっと外を眺めていると,庭で星を観察している坊ちゃんを見つける。
坊ちゃんを見つけるなり,僕はどうしてだが,坊ちゃんのいるところまで駆け出していた。

「カイン様…?」

「ん?レオ,どうしたの?」

僕の方を向きながら,言った。

「カイン様が,どこか遠くに行ってしまうように思って…」

本当は,“明日から慣れない生活が始まるから,もうお休みになった方がいいのではないですか?”と言うつもりだった。
けれど,僕が出した言葉は全く違かった。

「そうだね。明日,僕は寮に入るから本当に遠くに行くよ。レオも知っているでしょ?」

何言っているの?とでも言うような顔をしている。

「…はい。知っています。突然,すいません。僕は,部屋に戻りますね」

頭が真っ白になって,落ち着くために僕は部屋に戻ろうとする。

「待って…」

坊ちゃんはそう言って,僕の裾を引っ張り離さなかった。

「どうしましたか?」

振り返り何にもなかったかのようする。

「ねぇ,レオ,僕が言いたいことわかっているでしょ?どうしてそんなふうにいなくなろうとするの?はぐらかそうとしているの?僕,待った方だと思うよ。ねぇ…」

「……坊ちゃん…」

当たり前だけど,坊ちゃんが何を言おうとしているのか,どうして僕を引き留めたのかわかる。

「ねぇ,いなくならないでよ」

そう言って,僕は後ろに力強く引っ張られて後ろから逃げられないようにハグをされる。

「……っ」

「レオが本当にどう思っているか教えて…」

耳元でそう囁かれる。

「そ,それは…」

もう一層のこと僕は本当のことを言ってしまおうそう思っていた。
坊ちゃんの人生を傷つけたりなんて決してしてはいけないのはもうずっと前からわかっていて,こんな想い捨てていたのに…。それなのに…。
坊ちゃんのこの間の言葉で思い出して,諦めなくていいかもなんて心の底から思ってしまっている。

「ねぇ,これが最後だから…最後にもう一度だけ聞くね。レオ,レオは僕のことどう思っているの?」

そんな言葉が頭の中で何度も往復する。
最後それなら,言ってしまおう。そんな思いと最後なのだから隠し通そうそんな反対の思いが何度も何度も頭の中で駆け巡った。
声が出ない。出したくない。そんなふうに思いながらも僕は素直に思っていることを口に出した。

「え,っと……私は,坊ちゃんのこと,す…好きです。お慕いもしております。けど,これ以上は何にもしません。そして,坊ちゃんには僕以外のパートナーを見つけてもらう。これはもう決めております。決められております。そして,それを覆せるほどの力は私にも坊ちゃんにもありません。だから,どんなに想っておりましても,伝えてはいけないことだと知っておりました。だから,もう…」

もう逃げてしまおう。そう思った。
言い逃げでもすれば,何にもなかったことになる。

「では,私はこれで」

僕は,そう言って目の前にある坊ちゃんの手を払いのける。

“あぁ,離れたくない…”そう思いながらもどうにか一歩を踏み出し,坊ちゃんから早く離れようとした。
辛いなと思いながら,涙も出てくる。
泣いてるのがバレてないといいななんて思う。それは,恥ずかしいからとかじゃない。ただ離れたくないことが泣いていることによってバレてしまいそうだと思ったから。

「待って…」

坊ちゃんの声と同時に手が伸びてきて,僕は動けなくなった。その瞬間、コマンドをつかわれたと気づく。

「えっ…なんで…今,使うんですか?」

「ごめん,そんなつもりなかった。ごめんなさい。けど,どうしても,レオが僕にそう思っているのならちゃんとパートナーになって欲しいって思ったから」

顔を見られたら,泣いていることがバレてしまう。
振り払ってでも逃げないといけない。
逃げないと,きっと,坊ちゃんと生きれるかもなんていう淡い期待を抱いてしまうだろうから。

「あ,あの…離してもらえませんか?」

「離さないよ。だって,僕と一緒にいたくないってわけでも,嫌いってわけでもないんでしょ?」

「そうですが…ダメなんです。坊ちゃんにとっても,社会的に見てもダメなんです」

この社会は,優しくない。
それに,坊ちゃんは1人っ子それに将来が有望なお方。パートナーが男なんて絶対に許されない。

「そんなこと,僕もわかってる。わかってるけど…どうしてもいなくならないで欲しいって思う。だから,こっちを向いてよ。ねぇ…⁇」

「無理ですよ。無理なんです。そんなこと私ができたら,しておりますよ。だから,離してください」 

勢いよく手を揺さぶって振り解こうとした。

「嫌だ。絶対,離さない。離さないから絶対に」

強く腕を引っ張られて無理やり,顔を見られる。

「ほら,やっぱり,泣いている」

「泣いておりませんよ」

「ならなんで,涙が出ているの?」

瞳からこぼれ落ちていく,雫を拭き取りながら聞かれる。

「それは…」

「やっぱり泣いているの?」

知っていてそんなこと言わないで欲しいと思う。
それでも,僕の心はどこか楽になってきたような気がした。バレたくないなんて思っているのに、やっぱりその手は暖かくて好きで,離れなくてもいいことがわかると安心する。

「泣いて…いるのかもしれないです」

恥ずかしくなって,目線を下に逸らした。
すると,坊ちゃんは僕の頬を両手で挟んで目線を合わせて言う。

「そうだね。それで、レオ,僕は,レオのことが,大好きだよ。レオは僕のこと好き?」

幼い声を出し、昔のように無邪気な顔をしながら聞いてくる。
目の前に,坊ちゃんの顔があると恥ずかしくて,でも嬉しくなってしまう。これは…,きっとと言うやつなんだともう認めるしかなかった。

「……好き…です」

「顔赤くなってる。それに耳も」

耳を触られながら言われるので,少し驚いてしまう。
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