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3章
4話 ご挨拶
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少しして,大きなテントが見えてくる。
「大きなテントですね…」
そんな大きなテントを見たことがなかったので,つい声に出てしまった。
「そうでしょ。それで,今僕たちが向かっているのはあのテントだよ。ね,メアリ」
「はい,あのテントでまずは用事を済ませてからお祭りですね」
2人は楽しそうにそう話している。
僕には用事がわからなかったのでどんな用事だろうとそんな疑問が脳内を横切っていた。
「ところで,どんな用事なんですか?」
「だから,それは内緒だって言っているでしょ」
「わかりました…では,楽しみにしていますね」
どこか仲間外れにされているみたいで,おとな気なく悲しくなった。
「そんなに拗ねないでよ…」
「拗ねていませんよ…」
と言いつつ,自分でも拗ねているようだと思う。
「ほんと?」
「ほんとですよ。それより,その用事は大切なものだと思うのですが,私はこんな感じで大丈夫ですか?」
特に何にも用意もしていない。わからないという事によっての不安が,押し寄せてくる。
「大丈夫。別に,そんな大切なことじゃないから」
「そうですね。大丈夫だと思いますよ」
メアリさんもそう言った。坊ちゃんだけが大丈夫といえば不安は払拭されないが,メアリさんもいうならと思い一安心する。
次第にテントに近づくと入り口に男の人たちが,左右を守っていた。
「えっと…本当にここで大丈夫なのですか?」
2人は,顔色すら変えずにその前に立つ。
「大丈夫ですよ。というかさっきから思っていたんですが,レオさん本当にここがどこかわからないのですか?」
メアリさんに不思議そうに聞かれてしまう。
「わからないです…」
僕がそう戸惑っていると坊ちゃんは男の人たちに話しかけた。
「カインです。父に会いに来ました」
「えっ?もしかして…」
ある考えが僕の脳内を駆け巡った。
「そのもしかしてですよ。それにしても,本当にわからなかったんですね」
驚いた僕の顔を見てメアリさんはそう言った。
「そうですね…本当にわからなかったです…」
ほんの少し恥ずかしくなる。すぐにでも考えればわかることなのに…。
「ねぇ,テント開いたからもう行くよ」
坊ちゃんは僕たちの会話を聞きながら,手を引っ張ってくる。
「申し訳ありません。では,行きましょう」
坊ちゃんにつられるがまま僕たちはテントの中へと入る。
テントの中はやはり広くていろんな準備ができるようになっていた。知っている顔もいたりして,懐かしいなと感じる。
「坊ちゃん,旦那様はどこにいますかね?」
あたりを見渡しながら旦那様を探す。パレードに出る人たちの控え室とあって騎士団以外の人たちもたくさんいる。
これは探すのが大変だなと思う。
「ねぇ,レオ,レオのお兄さん見つけたよ」
坊ちゃんは兄さんの方を指さして僕にいった。
「ほんとですね…」
正直,今日は兄さんに会いたくないと思っていた。
「どうしたの?」
「いえ,ちょっと兄さんとは会いたくないなと思っていたので…」
「えっ…そうなの…ごめん」
すでに,兄さんは坊ちゃんの声でこちらを向いていた。
“あっ…これは,バレたな…”
逃げたいと思っても,坊ちゃんの手を振り解いて逃げるわけにもいかず、兄さんが来てしまった。
「…レオ…」
有無を言わせぬ顔と声色で僕の名前を呼んだ。
「に、兄さん…その…これは…」
ここに来ることをよしとはしないだろうと思ったので,誤解をどうにか解こうと言い訳を考える。
それでも,すぐに兄さんはこちらに寄ってきて僕の前にくる。
「来ていたんだな。体調は大丈夫なのか?」
兄さんは口を開くなり僕が思っていたこととは違うことを話し始めた。
「えっ…うん。体調は大丈夫。具合も悪くとかもなってない。だから,安心して」
「そうか、ならよかった。レオ,お前、あれから一切街には行ってなかったからな,心配してたんだよ」
“そうだったんだ”「…知らなかった…兄さんがそんなこと考えているなんて…」
どちらかというと兄さんは僕に行くべきでないと思っているのだろうと感じていた。
「そうだ。だから,今日も誘おうか迷ったんだ。だが,どうせ行きたくないだろうと思って誘えなかった…」
きっと,僕に晴れ舞台を見て欲しかったんだろうと思う。昔2人で憧れたその舞台に兄は立っているから。
「兄さん,誘ってくれてもよかったし,僕はもう大丈夫だから,いくらでもなんでも言って欲しい」
兄さんの抱えているものは僕にはわからないから,こういう時くらいはっきりと言っておきたいと思った。
「そうだな…でも俺は本当に今レオがここにいることが嬉しいと思っている」
いつも口下手な兄さんが真剣にそう言っているとつい照れてしまう。
「あ,ありがとう…それに僕も嬉しいよ。兄さん」
「俺は何にもしてないぞ,したのはそこにいる坊ちゃんだ。ありがとうな」
頭を撫でながら,坊ちゃんにそう言った。
坊ちゃんは嬉しそうにしている。
「あ,あの,それで僕の父はどこにいるか知りませんか?」
「そうだな,さっきまではあそこにいたんだが…」
兄を見る方には旦那様はいない。
「きっと,今挨拶しにいっているんだと思う。だから,もう少ししたら帰ってくると思うから,ここで待っていたらどうかな?」
「…うん。そうします。ありがとうございます」
坊ちゃんはどうするか少し考えてそう言った。
「坊ちゃん,本当にいいんですか?」
僕は坊ちゃんの耳元で一応聞いてみる。お祭りを回る時間が少なくなる可能性は十分に考えることができたから。
「うん。お父様に会うことも大切なことだと思うから大丈夫」
「いい心構えだと思います」
僕がそう感心しているとメアリさんも隣で「そうですね」と言っていた。
「でも,本当は早く周りたい…」
ポツリと小さな声で呟いた。本当は,挨拶もしないで,たくさん周りたいのだなと思う。
「それは…そうですね。僕も早く坊ちゃんとたくさん周りたいです。早く旦那様がきてくれるよいですね…」
坊ちゃんは悪いことだと思ったのか呟いた瞬間に,下を向いていた。だから,僕はそう言った。
「私も早く坊ちゃんと決めたところまわりたいと思っていますよ」
「うん…メアリもレオもそう思うなら仕方ないのかなぁ…?」
「仕方ないですね」
僕たちはそうして,旦那様が戻ってくるのを待っていた。
そんな時,テントの入り口が開き,重々しい空気へとテントの中が変わった。
入ってきたのは,旦那様で,いつもの柔らかい雰囲気とは違い,重圧を嫌でも感じた。
“いつもは,このような空気を纏っていらっしゃるのか…”とどこか関心もしてしまう。
「お父様…」
坊ちゃんは僕たちの手を振り解き,旦那様の方へと向かった。
「…おぉ,カインか…どうした?」
旦那様は坊ちゃんに気づかれるとすぐに家にいるような物腰の柔らかい空気を纏って話し始めた。
「お父様が,パレードに出られると聞いたので,挨拶をしにしました」
「そうか,えらいぞ。じゃあ,カインのことちゃんと見つけないといけないな」
「はい,僕もお父様のことちゃんと見ます。ですから,頑張ってください」
坊ちゃんは旦那様と喋る時は,ほんの少し大人に見える。きっと,敬語を使っているからだろうけれど…。
「うん,カインありがとう。でも,今日は思いっきりお祭りを楽しんで欲しいから,もう行ってきなさい」
「うん,わかりました」
坊ちゃんはそう言って,再び僕たちの方へきて再び手を握った。
「では,お父様、いってきます」
坊ちゃんはそういうと、テントの入り口の方へと歩き始める。
「失礼します」
僕とメアリさんは旦那様にそれだけ言って,テントの外へと向かった。
「大きなテントですね…」
そんな大きなテントを見たことがなかったので,つい声に出てしまった。
「そうでしょ。それで,今僕たちが向かっているのはあのテントだよ。ね,メアリ」
「はい,あのテントでまずは用事を済ませてからお祭りですね」
2人は楽しそうにそう話している。
僕には用事がわからなかったのでどんな用事だろうとそんな疑問が脳内を横切っていた。
「ところで,どんな用事なんですか?」
「だから,それは内緒だって言っているでしょ」
「わかりました…では,楽しみにしていますね」
どこか仲間外れにされているみたいで,おとな気なく悲しくなった。
「そんなに拗ねないでよ…」
「拗ねていませんよ…」
と言いつつ,自分でも拗ねているようだと思う。
「ほんと?」
「ほんとですよ。それより,その用事は大切なものだと思うのですが,私はこんな感じで大丈夫ですか?」
特に何にも用意もしていない。わからないという事によっての不安が,押し寄せてくる。
「大丈夫。別に,そんな大切なことじゃないから」
「そうですね。大丈夫だと思いますよ」
メアリさんもそう言った。坊ちゃんだけが大丈夫といえば不安は払拭されないが,メアリさんもいうならと思い一安心する。
次第にテントに近づくと入り口に男の人たちが,左右を守っていた。
「えっと…本当にここで大丈夫なのですか?」
2人は,顔色すら変えずにその前に立つ。
「大丈夫ですよ。というかさっきから思っていたんですが,レオさん本当にここがどこかわからないのですか?」
メアリさんに不思議そうに聞かれてしまう。
「わからないです…」
僕がそう戸惑っていると坊ちゃんは男の人たちに話しかけた。
「カインです。父に会いに来ました」
「えっ?もしかして…」
ある考えが僕の脳内を駆け巡った。
「そのもしかしてですよ。それにしても,本当にわからなかったんですね」
驚いた僕の顔を見てメアリさんはそう言った。
「そうですね…本当にわからなかったです…」
ほんの少し恥ずかしくなる。すぐにでも考えればわかることなのに…。
「ねぇ,テント開いたからもう行くよ」
坊ちゃんは僕たちの会話を聞きながら,手を引っ張ってくる。
「申し訳ありません。では,行きましょう」
坊ちゃんにつられるがまま僕たちはテントの中へと入る。
テントの中はやはり広くていろんな準備ができるようになっていた。知っている顔もいたりして,懐かしいなと感じる。
「坊ちゃん,旦那様はどこにいますかね?」
あたりを見渡しながら旦那様を探す。パレードに出る人たちの控え室とあって騎士団以外の人たちもたくさんいる。
これは探すのが大変だなと思う。
「ねぇ,レオ,レオのお兄さん見つけたよ」
坊ちゃんは兄さんの方を指さして僕にいった。
「ほんとですね…」
正直,今日は兄さんに会いたくないと思っていた。
「どうしたの?」
「いえ,ちょっと兄さんとは会いたくないなと思っていたので…」
「えっ…そうなの…ごめん」
すでに,兄さんは坊ちゃんの声でこちらを向いていた。
“あっ…これは,バレたな…”
逃げたいと思っても,坊ちゃんの手を振り解いて逃げるわけにもいかず、兄さんが来てしまった。
「…レオ…」
有無を言わせぬ顔と声色で僕の名前を呼んだ。
「に、兄さん…その…これは…」
ここに来ることをよしとはしないだろうと思ったので,誤解をどうにか解こうと言い訳を考える。
それでも,すぐに兄さんはこちらに寄ってきて僕の前にくる。
「来ていたんだな。体調は大丈夫なのか?」
兄さんは口を開くなり僕が思っていたこととは違うことを話し始めた。
「えっ…うん。体調は大丈夫。具合も悪くとかもなってない。だから,安心して」
「そうか、ならよかった。レオ,お前、あれから一切街には行ってなかったからな,心配してたんだよ」
“そうだったんだ”「…知らなかった…兄さんがそんなこと考えているなんて…」
どちらかというと兄さんは僕に行くべきでないと思っているのだろうと感じていた。
「そうだ。だから,今日も誘おうか迷ったんだ。だが,どうせ行きたくないだろうと思って誘えなかった…」
きっと,僕に晴れ舞台を見て欲しかったんだろうと思う。昔2人で憧れたその舞台に兄は立っているから。
「兄さん,誘ってくれてもよかったし,僕はもう大丈夫だから,いくらでもなんでも言って欲しい」
兄さんの抱えているものは僕にはわからないから,こういう時くらいはっきりと言っておきたいと思った。
「そうだな…でも俺は本当に今レオがここにいることが嬉しいと思っている」
いつも口下手な兄さんが真剣にそう言っているとつい照れてしまう。
「あ,ありがとう…それに僕も嬉しいよ。兄さん」
「俺は何にもしてないぞ,したのはそこにいる坊ちゃんだ。ありがとうな」
頭を撫でながら,坊ちゃんにそう言った。
坊ちゃんは嬉しそうにしている。
「あ,あの,それで僕の父はどこにいるか知りませんか?」
「そうだな,さっきまではあそこにいたんだが…」
兄を見る方には旦那様はいない。
「きっと,今挨拶しにいっているんだと思う。だから,もう少ししたら帰ってくると思うから,ここで待っていたらどうかな?」
「…うん。そうします。ありがとうございます」
坊ちゃんはどうするか少し考えてそう言った。
「坊ちゃん,本当にいいんですか?」
僕は坊ちゃんの耳元で一応聞いてみる。お祭りを回る時間が少なくなる可能性は十分に考えることができたから。
「うん。お父様に会うことも大切なことだと思うから大丈夫」
「いい心構えだと思います」
僕がそう感心しているとメアリさんも隣で「そうですね」と言っていた。
「でも,本当は早く周りたい…」
ポツリと小さな声で呟いた。本当は,挨拶もしないで,たくさん周りたいのだなと思う。
「それは…そうですね。僕も早く坊ちゃんとたくさん周りたいです。早く旦那様がきてくれるよいですね…」
坊ちゃんは悪いことだと思ったのか呟いた瞬間に,下を向いていた。だから,僕はそう言った。
「私も早く坊ちゃんと決めたところまわりたいと思っていますよ」
「うん…メアリもレオもそう思うなら仕方ないのかなぁ…?」
「仕方ないですね」
僕たちはそうして,旦那様が戻ってくるのを待っていた。
そんな時,テントの入り口が開き,重々しい空気へとテントの中が変わった。
入ってきたのは,旦那様で,いつもの柔らかい雰囲気とは違い,重圧を嫌でも感じた。
“いつもは,このような空気を纏っていらっしゃるのか…”とどこか関心もしてしまう。
「お父様…」
坊ちゃんは僕たちの手を振り解き,旦那様の方へと向かった。
「…おぉ,カインか…どうした?」
旦那様は坊ちゃんに気づかれるとすぐに家にいるような物腰の柔らかい空気を纏って話し始めた。
「お父様が,パレードに出られると聞いたので,挨拶をしにしました」
「そうか,えらいぞ。じゃあ,カインのことちゃんと見つけないといけないな」
「はい,僕もお父様のことちゃんと見ます。ですから,頑張ってください」
坊ちゃんは旦那様と喋る時は,ほんの少し大人に見える。きっと,敬語を使っているからだろうけれど…。
「うん,カインありがとう。でも,今日は思いっきりお祭りを楽しんで欲しいから,もう行ってきなさい」
「うん,わかりました」
坊ちゃんはそう言って,再び僕たちの方へきて再び手を握った。
「では,お父様、いってきます」
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