33 / 73
4章
3話 先生と僕
しおりを挟む
天井を見上げながら,一年以上前のことを思い出してしまった。怖くて怖くてたまらなかった日々のことを。どこか今の状況があの時と似通っていたから。
確か,あの時は…。
「レオくん,そんな顔しないでね。前のことも今回のこともレオくんが悪いわけじゃないんだから」
「そ,それは…わかってます。けど…」
今回は,坊ちゃんにとってトラウマを植え付けるものになっているかもしれない。それに,自分がこの性じゃなければ,こんなこと…。
これは,思っちゃいけないって知っているのにこんなことが起こるたびに思ってしまう。
「…あっ…っ」
頬を涙が伝う。
(あぁ,まだ成長できてない。こんなこと慣れないといけないのに…)
「大丈夫だから。落ち着いて…」
先生が優しく,僕の身体に触れようとした。
「…っ…いやっ」
条件反射のように先生の手を振り払う。
「…ぁ,あ…ごめんなさい…」
「いいんだよ。気にしないで。それより,無理になったらいつでも僕を呼ぶんだよ。君は,無理することがあるから」
もう一度,僕の手に触れて落ち着かせる。
「…そんなの…わかってます。わかっているけど…」
今自分が動揺していることがすごくわかる。どうにか落ち着かないとと思うのに,どうしようもない恐怖がすぐそこにあるみたいに落ち着くことなんてできなかった。
「大丈夫…」
頭を撫でられて,先生の手からの体温を感じる。そうして少しずつ心が落ち着いていくことがわかる。
「…うっ…先生…ごめんなさい」
「いいんだよ。怖かったよね?」
「ま,まあ…怖かったです…でも,坊ちゃんには…そんなそぶり見せることなんて…できないので…」
坊ちゃんが怖いわけではなかった。ただほんの少し,びっくりしたというか驚いている。
「うん。そうだね。では,一旦君が家に戻るのはどうかな?」
先生の言っていることが最初理解できなくて,僕の頭はこんがらがってしまった。
「……?」
「君が,お兄さんがいる家に戻るということだよ。そうすれば,少しは落ち着く可能性があるから。どうかな?」
「…あ,あの,それは絶対ですか?」
「別に,絶対ではないけれど,ここだと君の気持ちも休まらないこともあるからね。だから,そっちの方がいいと思ってね。どうかな?」
「……それは…いやです。いやです」
僕はそう口に出していた。
「いや…なのかい?」
「…なんか,それだけはしたくないって思って…」
理由なんてそこにはなくてただ,坊ちゃんのそばをこんなことで離れたくないそう思った。
「…うん。なら,その方がいいね。でも,無理は良くないからね。いつでも,自分がしたいように楽なようにだけを今は考えるんだよ」
「はい…それで,僕は,どのくらい…寝ていたんですか?」
怖くなる。
「…君は1ヶ月ほど眠っていた」
聞いた瞬間,どこか納得すると同時に坊ちゃんの顔を思い浮かべた。
(だから,あんなに辛そうかな顔していたんだ…)
そう思うと,すぐにでも坊ちゃんに会いたいと思った。
「あの…」
「驚くのも無理はない。でも,君の周りはきっと助けてくれるから,そんなに気負う必要はないよ」
僕の顔が不安に染まっていたように見えたのか先生はそんなことを言った。
「そうではなくて…坊ちゃんに申し訳ないことしたなと思って…それで…すぐにでも会いたいなと…」
「…うん。少し話しすぎてしまったね…ごめんね。でも,もう少し僕とお話をして欲しい」
「お話…?」
もう十分,お話はしたように感じていた。
「君に,何が起きたのかとか君がその時に何を感じていたのかとか教えて欲しいと思っていてね。もし嫌だったら,話さなくていい。ただ,思い出したくないことかもしれないけれど,話してくれるとありがたい。君をどう支えればいいかわかるから」
先生の話を聞いて,1ヶ月前のこと,僕にとっては昨日のようなことを思い出す。
「…あの時は,ただ嫌で嫌でたまらなかった…記憶があります。それ以外は…」
思い出そうとしても,思い出せる気配はなかった。むしろ,思い出したくもないそんなふうに思った。
(なんで,そんなこと聞かれないといけないんだろう…?)
「やっぱり,いやかな?」
僕の考えが,顔に出ていたらしい。
「…いやです。思い出したくないですし…」
「それでも,少しずつでもいいから話して欲しい。君のために」
「僕のため…?」
先生の言いたいことが,よくわからず固まってしまう。それに,僕のためというより,先生のためのように聞こえた。
「うん,君が生きやすくするためだよ。いろいろ知っていると,気をつけることができるからね」
「気をつけても…何にも,何にもできなかった…と思うし…人に心配させたし…そんな…」
「ごめんね。もう少し落ち着いたらまた聞くことにするね」
先生はもう一度,僕の手を握り直す。
「…わかりました」
どこか落ち着かない気持ちでそう答えた。
「では,僕はもう今日は帰るね。何かあったら必ず言うんだよ」
「はい」
「じゃあね」
先生はそう言って部屋を出て行った。
確か,あの時は…。
「レオくん,そんな顔しないでね。前のことも今回のこともレオくんが悪いわけじゃないんだから」
「そ,それは…わかってます。けど…」
今回は,坊ちゃんにとってトラウマを植え付けるものになっているかもしれない。それに,自分がこの性じゃなければ,こんなこと…。
これは,思っちゃいけないって知っているのにこんなことが起こるたびに思ってしまう。
「…あっ…っ」
頬を涙が伝う。
(あぁ,まだ成長できてない。こんなこと慣れないといけないのに…)
「大丈夫だから。落ち着いて…」
先生が優しく,僕の身体に触れようとした。
「…っ…いやっ」
条件反射のように先生の手を振り払う。
「…ぁ,あ…ごめんなさい…」
「いいんだよ。気にしないで。それより,無理になったらいつでも僕を呼ぶんだよ。君は,無理することがあるから」
もう一度,僕の手に触れて落ち着かせる。
「…そんなの…わかってます。わかっているけど…」
今自分が動揺していることがすごくわかる。どうにか落ち着かないとと思うのに,どうしようもない恐怖がすぐそこにあるみたいに落ち着くことなんてできなかった。
「大丈夫…」
頭を撫でられて,先生の手からの体温を感じる。そうして少しずつ心が落ち着いていくことがわかる。
「…うっ…先生…ごめんなさい」
「いいんだよ。怖かったよね?」
「ま,まあ…怖かったです…でも,坊ちゃんには…そんなそぶり見せることなんて…できないので…」
坊ちゃんが怖いわけではなかった。ただほんの少し,びっくりしたというか驚いている。
「うん。そうだね。では,一旦君が家に戻るのはどうかな?」
先生の言っていることが最初理解できなくて,僕の頭はこんがらがってしまった。
「……?」
「君が,お兄さんがいる家に戻るということだよ。そうすれば,少しは落ち着く可能性があるから。どうかな?」
「…あ,あの,それは絶対ですか?」
「別に,絶対ではないけれど,ここだと君の気持ちも休まらないこともあるからね。だから,そっちの方がいいと思ってね。どうかな?」
「……それは…いやです。いやです」
僕はそう口に出していた。
「いや…なのかい?」
「…なんか,それだけはしたくないって思って…」
理由なんてそこにはなくてただ,坊ちゃんのそばをこんなことで離れたくないそう思った。
「…うん。なら,その方がいいね。でも,無理は良くないからね。いつでも,自分がしたいように楽なようにだけを今は考えるんだよ」
「はい…それで,僕は,どのくらい…寝ていたんですか?」
怖くなる。
「…君は1ヶ月ほど眠っていた」
聞いた瞬間,どこか納得すると同時に坊ちゃんの顔を思い浮かべた。
(だから,あんなに辛そうかな顔していたんだ…)
そう思うと,すぐにでも坊ちゃんに会いたいと思った。
「あの…」
「驚くのも無理はない。でも,君の周りはきっと助けてくれるから,そんなに気負う必要はないよ」
僕の顔が不安に染まっていたように見えたのか先生はそんなことを言った。
「そうではなくて…坊ちゃんに申し訳ないことしたなと思って…それで…すぐにでも会いたいなと…」
「…うん。少し話しすぎてしまったね…ごめんね。でも,もう少し僕とお話をして欲しい」
「お話…?」
もう十分,お話はしたように感じていた。
「君に,何が起きたのかとか君がその時に何を感じていたのかとか教えて欲しいと思っていてね。もし嫌だったら,話さなくていい。ただ,思い出したくないことかもしれないけれど,話してくれるとありがたい。君をどう支えればいいかわかるから」
先生の話を聞いて,1ヶ月前のこと,僕にとっては昨日のようなことを思い出す。
「…あの時は,ただ嫌で嫌でたまらなかった…記憶があります。それ以外は…」
思い出そうとしても,思い出せる気配はなかった。むしろ,思い出したくもないそんなふうに思った。
(なんで,そんなこと聞かれないといけないんだろう…?)
「やっぱり,いやかな?」
僕の考えが,顔に出ていたらしい。
「…いやです。思い出したくないですし…」
「それでも,少しずつでもいいから話して欲しい。君のために」
「僕のため…?」
先生の言いたいことが,よくわからず固まってしまう。それに,僕のためというより,先生のためのように聞こえた。
「うん,君が生きやすくするためだよ。いろいろ知っていると,気をつけることができるからね」
「気をつけても…何にも,何にもできなかった…と思うし…人に心配させたし…そんな…」
「ごめんね。もう少し落ち着いたらまた聞くことにするね」
先生はもう一度,僕の手を握り直す。
「…わかりました」
どこか落ち着かない気持ちでそう答えた。
「では,僕はもう今日は帰るね。何かあったら必ず言うんだよ」
「はい」
「じゃあね」
先生はそう言って部屋を出て行った。
0
お気に入りに追加
88
あなたにおすすめの小説


男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。


塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる