坊ちゃんと執事の日々のお話

紫雲もか

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6章

2話 向かいます

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部屋へ着くと,坊ちゃんは荷物をベッドに置き、すぐに僕の部屋へと向かう。
僕の部屋は,従業員部屋ではなく坊ちゃんたちと同じような部屋へと変えてもらった。実際のところ、前のままでもいいと僕は主張したけれど,パートナーになるのにそれは良くないだろうということで変わった。
「カイン様は部屋の前で待っていてください。僕は着替えてきますから」
僕の部屋の前に着いてそう言った。
「えっ,やだ。だから,一緒についていく」
一歩も譲らないその目で僕を見つめる。
「ですから…」
「どうして嫌なのか教えてよ。そしたら,考える」
「嫌ではないです。ただ,何となく着替えを見られるのはちょっと…」
「もしかして,まだキズのこと気にしているの?」
「ち、違います…」
気にしていないわけではない。けれど,それよりも坊ちゃんに見られるのはどこか恥ずかしい。
恋人になったからには,きっと恋人らしいこともこれからしていく。好きな人カイン様とそんなことするのは初めてで,やっぱり羞恥心があって,着替えるだけでも余計なことを考えてしまう。
「なら,いいでしょ?」
「別にいいですけど,じっと見つめたりしないでくださいね」
何となく,人の視線を感じると嫌な記憶を思い出す。でも,今は何より坊ちゃんに見つめられるとドキドキする方が勝つかもしれない。
「それは,やって欲しいの?」
「だから…」
「わかっているから,早く着替えよ。それとも,僕に着替えさせて欲しい?」
「……っ」
「何にもしないから,部屋に入ろ。ここじゃどっちみち着替えられないし…」
「わかってますよ」
ドアを開けて,僕たちは部屋の中へと入る。
「うっ…んっ…あ,あの…坊ちゃん…んっ…あっ」
ドアに背中を押しつけられてキスをされる.
突然のことで,頭が回らなかった。
「ねぇやっぱり,僕が着替えさせてあげよっか?」
真っ直ぐに僕の顔を見つめている。
「そっそれは…」
嫌だとも言う前に坊ちゃんは僕の胸の前に手を添える。
「ほら,ボタンもこうやって…外せるんだよ」
坊ちゃんは丁寧に僕のベストのボタン,シャツのボタンを外していく。
「…っ」
「嫌なら,ちゃんと嫌だって言わないと…」
いつものふわふわとした優しい雰囲気ではなく,Domならではの雰囲気へと変わっていた。
全てボタンを外されると,ゆっくりと脱がされる。
「レオ,kneelおすわり
急な 命令コマンドに驚きつつも従ってしまう。
「いい子だね。じゃあ,そこで待っていて」
坊ちゃんは僕の頭を撫でてそう言って,僕のクローゼットの中から着替えを持ってくる。
「これでいい?」
手には,いつも坊ちゃんが着ている服があった。
「…えっ…どうして?」
「いや?」
「いや,じゃない…でも…」
「いいから,手を通して…そうそう上手」
坊ちゃんは,僕と同じ視線にするためにしゃがんだ。僕はというと言われるがまま,服の袖に手を通す。
「ボタン,今度はかけないとね…」
ゆっくりとボタンをかけていく。
「…ズボンはどうする?そのままでも大丈夫かなとは思うけど…」
ズボンは別に僕も着替える気はなかった。急いでいたのもあったけれど,ズボンくらいはあたり見た目に差異は生じすらないから。
「そのままで大丈夫…。だから,その…」
「ねぇ,ごめん。僕さ,やっぱり…」
力が抜けている身体を抱き抱えられて,ベッドに近づいていく。
「ダメですよ。だから…
「やっぱり、許してくれないの?」
「許しません。これは,僕と坊ちゃんで決めた約束ではないですか?」
坊ちゃんが学校を卒業するまでは、恋人らしい大人なことはしないと決めている。もちろん,命令コマンドを使ったプレイは欲求解消のためにしないといけないからするけれど,それ以上のことは大人学校を卒業する年齢になるまではしないと2人で決めた。
半ば強引に僕が決めたけれど…。
「うぅ…許してくれてもいいのに…」
「もう少しじゃないですか…だから今日は我慢してください…ちゅっ」
僕は坊ちゃんの頬にキスをする。
「…我慢できそうになくなるよ。そんなことされると余計」
「そっ…それは…」
確かに僕もそうだと思って,坊ちゃんの顔を見ることができなくなる。
「大丈夫,何にもしないから。じゃあ,行こっか」
「このままでですか?」
このまま…。それは,坊ちゃんにお姫様抱っこされたまま馬車に向かうということ。
別に嫌なことじゃない。安定しなくて怖いわけでも,落とされるんじゃないかという恐怖も全くない。
ただただ,誰かに見られると恥ずかしいと思うだけ。
「そうだよ。いやなの?」
「そうじゃないです。恥ずかしいなって…思った…のと驚きました…」
「そっか,なら,これで行こうね」
いい感じに言いくるめられる。
「だから…」
それ以上言おうとしたけれど,部屋から廊下に出るところだったので黙ることにした。
「なんか,急に喋らなくなったね」
「音を立てなければ,誰にもバレないかなって…。成人男性がこんなふうにお姫様抱っこされて,恥ずかしくないわけないでしょ?」
「でも,いやじゃないんでしょ?」
「いやじゃないですよ…。むしろ…いえ,なんでもありません」
坊ちゃんの顔が妙に近くて,話そうと思ったことも話せなかった。
「なんで,教えてよ」
「いやですよ」
坊ちゃんの口に手を当てて,もう何にも話せないようにする。そうしないと,どうなるか予想ができるから。
「なら,say教えて
手は簡単にどけられて坊ちゃんはそう話した。
「そっそれは…むしろ…嬉しいというか幸せだなって…坊ちゃんが僕の前にちゃんといるんだなって…安心するなって…」
自分が思っていたことを全て言ってしまう。はぁ、昔はあんなに使うの嫌がっていたのに,今やこうやって簡単に使う。一体何があったんだろうと一緒に生活してきたはずなのに感じる。
「そっか,とっても嬉しい。レオ,ありがとう」
僕の方を見て優しく微笑んでいる。さっきまでの緊張が嘘みたいに和らいで,心が満たされていった。
「カイン様…好き…」
「うん。僕も大好きだよ…というか顔色良くなったね。よかった…」
「えっ…?」
「だって,レオ帰ってきた時から顔色が悪かったでしょ?最近,会えてなかったから欲求消化もできなくてごめんね」
会えなかったのは坊ちゃんが悪いわけではない。学校があったから,寮生活になって会うにも会えなかっただけのこと。だから,僕はその間は薬を飲んでどうにかすると決めていた。なのに…最近確かに具合が悪くなっていた。
自分でもどうすることもできなくて,でも誰かに頼ることもできなかった。だから,ずっと坊ちゃんが帰ってくるのを待っていたりした。
「…ごめんなさい。体調管理すらうまくできなくて…」
「どうして,謝るの?謝るくらいなら,辛かったら辛いって僕に教えて欲しい欲しいかなって思う」
さっきまでそんな心配されていると思って無かったせいで,今の坊ちゃんの顔を見ると余計に申し訳なくなる。
「……っごめんなさい」
「だから,謝らないでよ」
「でも…」
「って,頭気をつけてね」
いつのまにか,玄関を出て馬車の近くまで来ていた。
「う,うん。気をつける」
馬車に乗るまで結局坊ちゃんにお姫様抱っこされたまま来てしまって,しまいに馬車にそのまま乗せられる。
「坊ちゃん,ありがとうございます。僕重くなかったですか?」
下ろされた途端にそんな不安がやってきた。
「重くないよ。心配してくれてありがとう」
「なら,いいのですが…」
「それより,早く着くといいね。楽しみだな…」
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