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2章
4話 坊ちゃんと一緒に
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「何を眺めていらっしゃるのですか?」
今まで先生がいた場所に座って聞いてみる。
「別に,何にも見てないよ」
「なら,どうしたのですか?」
「…どうもしていない」
「そうですか。なら,少し私がピアノをお弾きしてもよろしいでしょうか?」
久しぶりにピアノを前にして心が踊っていた。
「いいよ」
「では,弾かせていただきます」
いざピアノを弾くとするとどこか緊張感に駆られてしまう。それでもやっぱり,昔を思い出し高揚感が沸いていて,とても気持ちが良かった。
「…レオ…レオは,楽しそうにピアノ弾くんだね」
僕が演奏を終えると,坊ちゃんがそう言った。
「まあ,好きですから」
「そっか…とってもかっこよかった。それに,レオみたいな人がコンクールでいい成績取るんだろうなって思った」
「そうですね…そんなこともありました…」
つい口が滑ってしまう。
「えっ…?レオ,コンクールでいい成績とったことあるの?」
「…まぁ,多少なりとも…」
恥ずかしくなって,僕も坊ちゃんの方ではなく,違う方向を向きたくなる。
けれど,「やっぱり,レオはすごいんだね」と坊ちゃんはこちらをキラキラとさせた目で見てきた。僕は,そんなに褒められたことがここ最近なかったので,正直喜んでしまう。
でも,それは過去の栄光なだけあって今の自分とは到底離れすぎている。
「凄くはないですよ。坊ちゃんは繊細で美しい演奏をなさっておりますから,そちらも十分に素晴らしいと思います」
「そう,だと、いいな」
「そうです。絶対そうですから」
「うん。ありがとう」
そう言いながらも,心はここにはないように見える。
「…では,私と練習をするというのはいかがでしょうか?」
「レオと練習?」
「はい,私と練習です」
自分でも突飛な考えだなと思う。けれど,人に聞いてもらう,それを意識したら少しでも自信が持てるのではないかと考えた。
「いやですか?」
沈黙が続いて我慢できず声を出した。
「…いや,じゃない。ただ,レオに申し訳ないなって…思っただけ…」
「申し訳ない?」
何が申し訳なくさせているのか全くわからなかった。それよりも,僕の方が差し出がましいとすら感じ,申し訳ないなと思っていた。
「だって,レオはピアノの先生じゃないのに,僕と練習するから…なんか…」
「気になさらないでください。私は気にしてませんよ。それに,提案したのは私です。ですから」
強く主張する。
僕はここ1週間で決意が固まっていた。坊ちゃんには,しっかりとしてもらえるように,立派な大人になれるように僕がお手伝いできることはすると。
たったの,5年だけど,坊ちゃんにとっては大切な5年間になる。僕はそれを潰したくない。
「…じゃあ,お願いしてもいい?」
少し考えてから坊ちゃんはそう言ってくれた。
「はい,もちろんです。では,この後の予定まで練習なさいますか?」
「うん。せっかくだからやる」
「では,ここから弾くのはどうですか?」
僕は楽譜を指差し,坊ちゃんに聞いた。
「レオ,もしかして僕がここが苦手だってわかってる?」
「まぁ,何となくですが…」
本当に何となくだった。ここが自信なさげだなと思っていたのはあったけれど,それよりも僕がここからが苦手だったという記憶を呼び起こして,聞いただけのこと。
「すごいね。僕本当にここ苦手なんだ…」
「そうですか?」
「そうだよ。レオはすごい」
こんなに純粋に褒められると照れてしまう。
「ありがとうございます。では,弾きましょう」
そうして,僕と坊ちゃんはピアノの練習を始める。
「…やはり,坊ちゃんの音色は綺麗ですね。僕は好きですよ」
「なら,いっぱい聞かせてあげる。レオに。だから,これからもずっと聞いてくれる?」
「もちろんです。いっぱい聞きますよ」
「ありがとう」
坊ちゃんは,そう言って片付けを始めた。
お昼も近くなっていっていたから。
昼食後は,剣術ということもあってなるべくご飯はしっかり食べてもらう。
そんなこんなで,先生も来て,いよいよ剣術の時間へとなった。
「うわぁぁぁぁ」
剣術の時間へとなり坊ちゃんは先生の方へ木でできた剣を振りかざしに行く。
けれど,掛け声だけが立派なだけで,力はそこには全くと言っていいほど入っていなかった。
「坊ちゃん,それでは僕を倒せないと言ったではありませんか…」
先生は,呆れた様子で坊ちゃんの剣を退けた。
「そんなこと…わかっているけど…僕,人に剣を向けるとか嫌だし…」
「それは,知っていますが,将来は騎士になる予定ではないんですか?どうするんですか?」
旦那様が騎士団長なだけあって坊ちゃんもそうなることを当たり前のように期待されている。もちろん,この僕も期待してしまっていた。
でも今は,プレッシャーになっているとわかっているから,今後は口に出したりはしないでおこうと今朝のことで決めた。
「そんなの,知らないっ。僕は人を傷つけたいなんて思ってないもん」
「…坊ちゃん,それでは強くなれません。それでいいんですか?」
先生は,坊ちゃんのためを思って語彙を強くする。
「別に…僕は強くなれなくてもいい…強くなくても,きっと困らないから…」
「…わかりました…ですが,一応僕もお金をもらっている身,ちゃんと稽古はつけさせてもらいますよ。まずは,体力作りからですね」
それから,先生は坊ちゃんと一緒に筋トレをしたりしていた。
「…では,僕はこれで失礼します…」
特訓を終えると先生はそう言って,部屋を後にする。
「…うん」
坊ちゃんは終始先生の方を見ずに別れを告げた。
「坊ちゃん,お疲れ様です。それで,この後のことですが,坊ちゃんは,お先にお部屋に戻っておいてください」
僕はしゃがんで目線を合わせてから坊ちゃんに言う。
「…う,うん,わかった」
「ありがとうございます」
本当は嫌なんだろうなと思いながら,僕は部屋を出た。
「…あ,あの…」
急いで,先生のところに向かって話しかける。
「…ん?どうかしましたか?」
今まで先生がいた場所に座って聞いてみる。
「別に,何にも見てないよ」
「なら,どうしたのですか?」
「…どうもしていない」
「そうですか。なら,少し私がピアノをお弾きしてもよろしいでしょうか?」
久しぶりにピアノを前にして心が踊っていた。
「いいよ」
「では,弾かせていただきます」
いざピアノを弾くとするとどこか緊張感に駆られてしまう。それでもやっぱり,昔を思い出し高揚感が沸いていて,とても気持ちが良かった。
「…レオ…レオは,楽しそうにピアノ弾くんだね」
僕が演奏を終えると,坊ちゃんがそう言った。
「まあ,好きですから」
「そっか…とってもかっこよかった。それに,レオみたいな人がコンクールでいい成績取るんだろうなって思った」
「そうですね…そんなこともありました…」
つい口が滑ってしまう。
「えっ…?レオ,コンクールでいい成績とったことあるの?」
「…まぁ,多少なりとも…」
恥ずかしくなって,僕も坊ちゃんの方ではなく,違う方向を向きたくなる。
けれど,「やっぱり,レオはすごいんだね」と坊ちゃんはこちらをキラキラとさせた目で見てきた。僕は,そんなに褒められたことがここ最近なかったので,正直喜んでしまう。
でも,それは過去の栄光なだけあって今の自分とは到底離れすぎている。
「凄くはないですよ。坊ちゃんは繊細で美しい演奏をなさっておりますから,そちらも十分に素晴らしいと思います」
「そう,だと、いいな」
「そうです。絶対そうですから」
「うん。ありがとう」
そう言いながらも,心はここにはないように見える。
「…では,私と練習をするというのはいかがでしょうか?」
「レオと練習?」
「はい,私と練習です」
自分でも突飛な考えだなと思う。けれど,人に聞いてもらう,それを意識したら少しでも自信が持てるのではないかと考えた。
「いやですか?」
沈黙が続いて我慢できず声を出した。
「…いや,じゃない。ただ,レオに申し訳ないなって…思っただけ…」
「申し訳ない?」
何が申し訳なくさせているのか全くわからなかった。それよりも,僕の方が差し出がましいとすら感じ,申し訳ないなと思っていた。
「だって,レオはピアノの先生じゃないのに,僕と練習するから…なんか…」
「気になさらないでください。私は気にしてませんよ。それに,提案したのは私です。ですから」
強く主張する。
僕はここ1週間で決意が固まっていた。坊ちゃんには,しっかりとしてもらえるように,立派な大人になれるように僕がお手伝いできることはすると。
たったの,5年だけど,坊ちゃんにとっては大切な5年間になる。僕はそれを潰したくない。
「…じゃあ,お願いしてもいい?」
少し考えてから坊ちゃんはそう言ってくれた。
「はい,もちろんです。では,この後の予定まで練習なさいますか?」
「うん。せっかくだからやる」
「では,ここから弾くのはどうですか?」
僕は楽譜を指差し,坊ちゃんに聞いた。
「レオ,もしかして僕がここが苦手だってわかってる?」
「まぁ,何となくですが…」
本当に何となくだった。ここが自信なさげだなと思っていたのはあったけれど,それよりも僕がここからが苦手だったという記憶を呼び起こして,聞いただけのこと。
「すごいね。僕本当にここ苦手なんだ…」
「そうですか?」
「そうだよ。レオはすごい」
こんなに純粋に褒められると照れてしまう。
「ありがとうございます。では,弾きましょう」
そうして,僕と坊ちゃんはピアノの練習を始める。
「…やはり,坊ちゃんの音色は綺麗ですね。僕は好きですよ」
「なら,いっぱい聞かせてあげる。レオに。だから,これからもずっと聞いてくれる?」
「もちろんです。いっぱい聞きますよ」
「ありがとう」
坊ちゃんは,そう言って片付けを始めた。
お昼も近くなっていっていたから。
昼食後は,剣術ということもあってなるべくご飯はしっかり食べてもらう。
そんなこんなで,先生も来て,いよいよ剣術の時間へとなった。
「うわぁぁぁぁ」
剣術の時間へとなり坊ちゃんは先生の方へ木でできた剣を振りかざしに行く。
けれど,掛け声だけが立派なだけで,力はそこには全くと言っていいほど入っていなかった。
「坊ちゃん,それでは僕を倒せないと言ったではありませんか…」
先生は,呆れた様子で坊ちゃんの剣を退けた。
「そんなこと…わかっているけど…僕,人に剣を向けるとか嫌だし…」
「それは,知っていますが,将来は騎士になる予定ではないんですか?どうするんですか?」
旦那様が騎士団長なだけあって坊ちゃんもそうなることを当たり前のように期待されている。もちろん,この僕も期待してしまっていた。
でも今は,プレッシャーになっているとわかっているから,今後は口に出したりはしないでおこうと今朝のことで決めた。
「そんなの,知らないっ。僕は人を傷つけたいなんて思ってないもん」
「…坊ちゃん,それでは強くなれません。それでいいんですか?」
先生は,坊ちゃんのためを思って語彙を強くする。
「別に…僕は強くなれなくてもいい…強くなくても,きっと困らないから…」
「…わかりました…ですが,一応僕もお金をもらっている身,ちゃんと稽古はつけさせてもらいますよ。まずは,体力作りからですね」
それから,先生は坊ちゃんと一緒に筋トレをしたりしていた。
「…では,僕はこれで失礼します…」
特訓を終えると先生はそう言って,部屋を後にする。
「…うん」
坊ちゃんは終始先生の方を見ずに別れを告げた。
「坊ちゃん,お疲れ様です。それで,この後のことですが,坊ちゃんは,お先にお部屋に戻っておいてください」
僕はしゃがんで目線を合わせてから坊ちゃんに言う。
「…う,うん,わかった」
「ありがとうございます」
本当は嫌なんだろうなと思いながら,僕は部屋を出た。
「…あ,あの…」
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