坊ちゃんと執事の日々のお話

紫雲もか

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4章

1話 目が覚めない side坊ちゃん

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レオが目を覚まさなくなってから,1ヶ月の月日が過ぎようとしていた。
1レオと出会ってからその月日はいつも楽しくて早く過ぎていた。それなのに,今は1どころか1すらもとっても長かった。
何度も呼びかけても返事がなく,たまに顔色が悪くなって苦しそうにしている。
家に帰ってくるまではちゃんと話すことはできるくらいは元気だった。それなのに…。
僕の視界はその日からいつもぼやけて,裾は涙で濡れている。
「レオ…起きてよ…」
手を握って,何度も何度も願って声に出す。
それでも,いつもみたいな優しい声色の返事は来ない。
手が温かいから生きている,息をしているから生きている。そう感じて,“よかった”と思うけれど,話せないのが辛くて辛くて仕方がない。だから,よかったなんて気持ちは本当はほとんどない。
「坊ちゃん,あまりご無理をなさらないようにしてくださいね」
そんな様子を見ていたメアリが部屋に入ってくるなり言った。
「無理なんて,してない。してないから,だから…」
僕の隣に来たメアリの服の裾を引っ張って,否定する。
「いいですから,本日はもうお休みになってください」
朝起きてから今日はずっとこの部屋にいる。今は,もう寝る時間へとなっている。
「…嫌だ…。ここにいる。ここにいて,レオがいつ起きてもいいようにする」
毎日こんな会話をする。それでも,無理矢理にでも自分の部屋のベッドで寝かされる。
初めはしかなく自分で向かっていたけれど,最近はここでも寝れると思い始めたからメアリにはよく引っ張られるようにして部屋に向かわされる。
「…それではダメですよ。坊ちゃんの身体も大切なのですから。それに,全ての習い事も休んでいるようではないですか?」
僕が部屋から出てこないことをメアリは知っていてそう言った。
「そ,それは,レオが心配だから…それならいいでしょ?」
ここ1ヶ月は,何にも手につけれなくて,ぼーっとレオのいるベッドの傍でご飯やトイレ以外の時は生活をしている。
本当は,ご飯もここで食べれたらなと思う。でも,誰もそれは許してくれない。お父様もお母様も,メアリもみんな。
「よくありません。レオさんならきっと,坊ちゃんにはちゃんとしてほしいと思いますよ。ですから,明日からはちゃんとやってください」
「わかってる…わかっている…けど…っ」
僕だって,今のままじゃいけないなんてわかっている。ちゃんとレオを守れるように強くなりたいと思っている。でも、いざ現実を見ると何もできなくなる。いなくなるかもしれない恐怖で。
「…そうですね…」
メアリは僕の顔を見ると悲しげにそう言った。
「わかっている。ちゃんとメアリのこともわかっているから…ごめん…なさい」
「坊ちゃんが謝られることじゃないですよ…私が…ちゃんとちゃんと…」
いつも凛々しいくらいの顔は今は,苦しそうにしている。
「メアリ,そんな顔しないで…。メアリは今も昔もずっとちゃんとしている。僕は,そんなメアリがずっとすごいって思っているから,だから,メアリもそんなに悲しまないで…」
僕とメアリは最近こんな会話しかしない。お互い,傷の舐め合いをして慰め合って,それ以外何にも喋れなくなる。
「だ、だから。今日だけはお願い。今日までは一緒にいさせて」
沈黙が怖くて,僕は雰囲気を変えるために声色を明るくして言う。
メアリに対して申し訳ないことをしている自覚は当たり前のようにある。たまに,僕の習い事を断ってもらったり,僕を励ますようにしてくれたりしている。それでも,レオ好きな人と離れたくなかった。
もうこのまま,目を覚まさないとしても僕は…。そう考えても,諦めることはできなかった。
「はぁ…仕方ないですね。今日は私の負けです。本日だけですからね。ここでお休みになるのは」
メアリもさっきまでよりも一段と元気に振る舞っている。
「わかっているよ。ありがとう」
「…はい,ではおやすみなさい」
メアリはそう言って,渋々部屋を出ていった。
レオは相変わらず,目を覚ますことはない。いい加減覚悟もしなきゃいけないのかな…。そんな考えが脳裏に浮かんだ。
“ダメダメ”自分にそう言い聞かせる。でも,最近はそれにも限界を感じてきている。
「…っ…ぅっ…レオ.起きて…ぼく伝えたい言葉…いっぱいあるんだよ…」
また,涙が頬を伝っていく。
何度拭いても,何度止まっても溢れては止まらない。もう,嫌だ…。
それでも,僕はいい加減,前に進んでいくしか無いんだろうな。もうとっくにそんなことわかっているのに…。
僕は手を握って,何度も握り返してくれることを願う。
そうしていくうちに,いつのまにか眠りにおちていた。。
朝日がカーテンの隙間から差し込んできて,今日も天気のいい1日が始まることを暗示している。
「んっ…朝…」
眩しいと思いながら僕は目を覚ます。
握られているレオの手はまだ暖かく,息もしている。
毎朝,起きてからすぐに確認することはこれでいつのまにか日課になってしまったように思う。
「ねぇ,レオ,いつまで寝ているの?」
僕はレオに向かって呟いた。
「…ん…坊ちゃん?」
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