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2章
6話 話す時
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「坊ちゃん,レオです」
壁を一枚隔てている,坊ちゃんに声をかける。
「レオ,待ってた」
ドアを自ら開けに来て,坊ちゃんは僕の方を見上げる。
「待っててくださったのですね。ありがとうございます」
「ね、それで何を手に持ってるの?」
「あぁ,これですか?」
坊ちゃんに僕の持っているものを見せる。
「なんか,美味しそう…」
「えぇ,特別に作ってもらったのです」
これは朝食の片付けをした時に,一応ダメ元で頼んでおいていたもの。頑張った坊ちゃんに何かあげたいので,甘いものをと。
こんなに喜んでくれるとは思っていなくて正直驚いている。“これは,作ってくれた方にも言わないとな”と思う。
「早く食べたい」
腕を掴まれて部屋の中へと引っ張られる。
「はい,ちょっと待ってくださいね」
部屋に入ってテーブルの上にクッキーと紅茶を置いた。
「食べていい?」
テーブルの前に行って一応聞かれる。
「もちろんいいですよ。それで,坊ちゃん,お話というのは…」
正直,切り出し辛い。これから,ダイナミクスについて話さなければならないから。
プレイをしなければならないと伝えることも全てが話しづらい。
自分から啖呵を切っておきながら,こんなにも躊躇することになるとは思っても見なかった。
先生たちってすごいんだなとその時知った。
「話?なんの話?」
僕に聞いてくる瞳は素直で純朴そのものだった。
「…ダイナミクスについてです。坊ちゃんはご自身がDomであるということはご存知ですね?」
急に話を切り込んだので,坊ちゃんは黙ったまま動かなかった。
「…どうしても話さないといけない?」
嫌な顔をして,僕を見つめる。
「…そうですね。仕組みくらいは知っておいてもらいたいなとは思います。欲求は薬でも抑えることはできますから。プレイをしないといけないと言うものでもありません。けれど,ダイナミクスについて知っておくことは大切だとは思いますよ」
「…それは…そうだと思うけれど…」
「怖くありませんよ。坊ちゃんが思っているよりもずっと,怖くありません。むしろ,知らないことで人を傷つけてしまうことの方が怖くないですか?」
僕はなるべく,優しく,冷静に声をかけた。
「…うん。怖いと思う。嫌だって思う。けど,聞いたらなんかもっと嫌になるかもって思うから…」
「大丈夫ですよ。全く嫌にならないというわけではないですが,きっと自分のことを嫌いになることはないと思います」
「…じゃあ,聞いてみる」
恐る恐るそう言った。
「ありがとうございます。まずは,ダイナミクスについてですが,坊ちゃんはどこまで知っておりますか?」
「…僕がDomで,人に命令を使うと,その人がその通りに動かないといけなくなるってことは知っている。けど,それ以外分からない…」
「そうなのですね」
少し驚いた。そんなに何にも知らなかっただなんて。てっきり病院で説明されていると思っていた。僕の先生はそうだったから。
けど,僕に話が来た時も知ってから数日とのことで,みんな驚き,しっかり教えることなんてできなかったんだろうなと想像は容易くできてしまう。
それに早かったから,先生もどこまでいうべきかなんて分からなかったのだろう。Subだったり,Domだったりしない限りは余計なことは言えないだろうから。
「…わかりました。では,まずはDomという性がどのようなものか教えますね」
「…う…ん」
それでも,聞きたくないんだろうなと思う返事だった。
そうして,僕は,坊ちゃんの性であるDomについて話し始めた。
どんな欲求があるのか、他にどんな性があるのかについて説明をした。
プレイについては若干こんなコマンドがありますよというように比較的楽なやつは話した。
自分で言いながら,気恥ずかしくなる。それがまだ同年代だったら少しは良かっただろう。齢10歳の子に話すのはやはり神経を使う。DomもSubもいろんな関係を持っている人たちが存在しているから。
「…というような感じなのです。怖かったですか?それとも,知らない方が怖いと思いましたか?」
「…っ分からない…けど,少しだけ自分の性が怖くなくなった…。それに,Sub?の人たちの方が怖い思いしているんだろうなと思った…」
しっかり聞いていた坊ちゃんはそう言葉を紡いだ。あまり聞きたくなかっただろうなと僕は感じた。知らない方が良かっただろうなと。
「そうですね…。急に話してしまって申し訳ありません…この続きはまた今度坊ちゃんが聞きたいと思いましたら,お話ししたいます。それまでは,お話ししませんから,心配なさらなくて大丈夫ですよ」
「えっ…どうして?」
目をしっかりと開けて驚いている。
「坊ちゃんが,辛そうだったので。私は坊ちゃんが辛い思いしているのを見るのは嫌なのです。いつも笑っていてほしいそう思っておりますから」
これの他にも,言わない理由はいくつもある。
「わかった…。聞きたくなったら,言う」
きっともう聞かれないだろうと思った。
それでも,いざとなったら自分から話してしまおうとも思っていた。
それから,数ヶ月の月日があっという間に過ぎていく。
壁を一枚隔てている,坊ちゃんに声をかける。
「レオ,待ってた」
ドアを自ら開けに来て,坊ちゃんは僕の方を見上げる。
「待っててくださったのですね。ありがとうございます」
「ね、それで何を手に持ってるの?」
「あぁ,これですか?」
坊ちゃんに僕の持っているものを見せる。
「なんか,美味しそう…」
「えぇ,特別に作ってもらったのです」
これは朝食の片付けをした時に,一応ダメ元で頼んでおいていたもの。頑張った坊ちゃんに何かあげたいので,甘いものをと。
こんなに喜んでくれるとは思っていなくて正直驚いている。“これは,作ってくれた方にも言わないとな”と思う。
「早く食べたい」
腕を掴まれて部屋の中へと引っ張られる。
「はい,ちょっと待ってくださいね」
部屋に入ってテーブルの上にクッキーと紅茶を置いた。
「食べていい?」
テーブルの前に行って一応聞かれる。
「もちろんいいですよ。それで,坊ちゃん,お話というのは…」
正直,切り出し辛い。これから,ダイナミクスについて話さなければならないから。
プレイをしなければならないと伝えることも全てが話しづらい。
自分から啖呵を切っておきながら,こんなにも躊躇することになるとは思っても見なかった。
先生たちってすごいんだなとその時知った。
「話?なんの話?」
僕に聞いてくる瞳は素直で純朴そのものだった。
「…ダイナミクスについてです。坊ちゃんはご自身がDomであるということはご存知ですね?」
急に話を切り込んだので,坊ちゃんは黙ったまま動かなかった。
「…どうしても話さないといけない?」
嫌な顔をして,僕を見つめる。
「…そうですね。仕組みくらいは知っておいてもらいたいなとは思います。欲求は薬でも抑えることはできますから。プレイをしないといけないと言うものでもありません。けれど,ダイナミクスについて知っておくことは大切だとは思いますよ」
「…それは…そうだと思うけれど…」
「怖くありませんよ。坊ちゃんが思っているよりもずっと,怖くありません。むしろ,知らないことで人を傷つけてしまうことの方が怖くないですか?」
僕はなるべく,優しく,冷静に声をかけた。
「…うん。怖いと思う。嫌だって思う。けど,聞いたらなんかもっと嫌になるかもって思うから…」
「大丈夫ですよ。全く嫌にならないというわけではないですが,きっと自分のことを嫌いになることはないと思います」
「…じゃあ,聞いてみる」
恐る恐るそう言った。
「ありがとうございます。まずは,ダイナミクスについてですが,坊ちゃんはどこまで知っておりますか?」
「…僕がDomで,人に命令を使うと,その人がその通りに動かないといけなくなるってことは知っている。けど,それ以外分からない…」
「そうなのですね」
少し驚いた。そんなに何にも知らなかっただなんて。てっきり病院で説明されていると思っていた。僕の先生はそうだったから。
けど,僕に話が来た時も知ってから数日とのことで,みんな驚き,しっかり教えることなんてできなかったんだろうなと想像は容易くできてしまう。
それに早かったから,先生もどこまでいうべきかなんて分からなかったのだろう。Subだったり,Domだったりしない限りは余計なことは言えないだろうから。
「…わかりました。では,まずはDomという性がどのようなものか教えますね」
「…う…ん」
それでも,聞きたくないんだろうなと思う返事だった。
そうして,僕は,坊ちゃんの性であるDomについて話し始めた。
どんな欲求があるのか、他にどんな性があるのかについて説明をした。
プレイについては若干こんなコマンドがありますよというように比較的楽なやつは話した。
自分で言いながら,気恥ずかしくなる。それがまだ同年代だったら少しは良かっただろう。齢10歳の子に話すのはやはり神経を使う。DomもSubもいろんな関係を持っている人たちが存在しているから。
「…というような感じなのです。怖かったですか?それとも,知らない方が怖いと思いましたか?」
「…っ分からない…けど,少しだけ自分の性が怖くなくなった…。それに,Sub?の人たちの方が怖い思いしているんだろうなと思った…」
しっかり聞いていた坊ちゃんはそう言葉を紡いだ。あまり聞きたくなかっただろうなと僕は感じた。知らない方が良かっただろうなと。
「そうですね…。急に話してしまって申し訳ありません…この続きはまた今度坊ちゃんが聞きたいと思いましたら,お話ししたいます。それまでは,お話ししませんから,心配なさらなくて大丈夫ですよ」
「えっ…どうして?」
目をしっかりと開けて驚いている。
「坊ちゃんが,辛そうだったので。私は坊ちゃんが辛い思いしているのを見るのは嫌なのです。いつも笑っていてほしいそう思っておりますから」
これの他にも,言わない理由はいくつもある。
「わかった…。聞きたくなったら,言う」
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