坊ちゃんと執事の日々のお話

紫雲もか

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3章

11話 レオのこと side坊ちゃん

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馬車に乗り込んだレオは心が少し落ち着いたのか余計にぐったりとしているように見えた。
「…レオ」
ボソッと誰にも聞こえないように呟く。
“僕は何で何にもできなかったんだろう?”“僕が強かったらレオは苦しまなかったかもしれない”そんな後悔ばかりがレオを見ると余計に浮かんできた。それでも…メアリが僕に言ってくれたことを思い出して,頑張ろうと決める。
そうして,僕も馬車に乗ろうと思っていると,後ろから声が聞こえてくる。
「カインくん」
レオのお兄さんである,リアンさんが僕を呼んでいる。
「どうしたんですか?リアンさん」
「君がどうにかレオを落ち着かせてやってほしい。俺では,できそうにないから…」
先ほどに付け加えてそう言った。
「……」
勢いよく“はい”と言いたいと思った。けど,今までちゃんとケアをすることができているか不安で確信を持って言うことはできない。
「大丈夫です。レオはああ見えてカイン様あなたには信用をしっかりおいています」
「それは…」
「大丈夫」
リアンさんは,はっきりと僕に言う。僕は,同じDomであるリアンさんに言われるとどこか大丈夫な気がした。
「…頑張ります」
「うん。ありがとう」
そう言って,リアンさんは頭を下げた。
「そんな,僕は何にも…」
「カインくん,君はそれでいいんだ。そのままでいて欲しい…では,失礼させていただく」
忙しいのかそう言い残してリアンさんは居なくなってしまう。
馬車に乗り込むとレオの隣に座った。
「レオ,大丈夫?」
「まぁ,どうにか…という感じですね…」
辛そうなのに,口角は上がっていた。
「どうすればいい?僕にできることある?」
この時だけは,Domでよかったと思った。レオを助けることができると思ったから。
「…では,少しの間手を握っておいてくださいませんか?」
「そんなことでいいの?」
「はい,いいのです。坊ちゃんの体温を感じると安心できるように思いますので…」
いつものレオとは少し違うと思った。
言っている言葉や言い方はいつもと同じ。だけど,いつもよりも僕に甘えているように見える。
「手,繋ぐね」
「はい」
その言葉を聞いてから僕はレオの手を取り,しっかりと絡める。
「安心、する?」
「はい…安心します」
「よかった…」
ホッとした。これで少しでもレオの苦しみを和らげることができているのであればと。
しばらくすると,「そのっ…私は少々、お休みしてもよろしいでしょうか?…」と僕に聞いてくる。
そんなに辛いのなら,聞かなくてもいいのになんて思った。けれど,レオにとったら僕もDomであることは変わりないんだと理解する。
「う…うん」
目を閉じて,少しするとすっかり眠ってしまう。こんなに無防備に寝ているレオを僕は見たことがなかった。
だから,相当さっきの出来事が尾を引いているのが痛いほど伝わった。
この馬車には僕とレオだけが乗っている。
特に何にもすることがない帰り道。
レオは僕が襲われた時に守ってくれた。命令コマンドにも逆らいながら。
夕日に照らされているレオの顔は,段々と悪くなっているようにも見えて,話しかけて大丈夫か確認したくなる。
でもせっかく落ち着いて寝ているのだからと口には出せない。
ガタガタと揺られながら帰る帰り道はどこか虚しかった。本当は,今日のことをたくさん話して帰るつもりだった。
「…レオ」
レオのことを見上げながら小さい声で呼んでみる,聞こえないように…。起こさないように…。
じっとレオを見つめていると離れたくない,ずっと一緒にいて欲しいとそう思った。
じっとレオを見つめているとふと声が漏れた。
「…好き…」
自分でも思っても見ない言葉で少し驚きながらも,僕がレオに対しているこの気持ちがなんだったのか今はっきりとしたように感じた。
今まで,離れたくない,ずっと一緒にいて欲しいとどうして思っていたのか。
でも,今はそれを伝えない。伝えられない。
もっと強く,もっと勉強やいろんなことできるようにならないといけない。レオに相応しい人間になるために。
そう決意をしながらも,家に着くまでの時間は行く時よりも何倍も長く感じた。
「レオ…起きて…」
結ばれた手を離さないように僕はレオの身体を揺さぶる。
「レオ…?」
いくら揺すっても起きる気配がまるでなかった。
「ねぇ…ねえってば…」
いつの間にか,僕は両手でレオの肩に手を置いていた。
「坊ちゃんどうなさったのですか?」
馬車からなかなか降りない僕たちに,使用人が聞いてくる。
「どうって…レオが起きないの。返事も全くなくて,息はしているけれど,反応もない…」
僕がずっとそばにいたのに,どうして気づけなかったんだろう…。どうにかしないと…。でも,どうすればいいのかわからない…。
「ねぇ…レオ。レオって…」
どんなに叫んでも起きる気配はなく,結局馬車からは意識がないまま降ろされることになった。
僕は,背負うことも抱き抱えることもできないので先に降ろされた。
それから,すぐにレオのかかりつけの病院の先生に連絡をする。先生とは連絡がすぐについたらしく,今日中にはきてくれると言うことになった。
“コンコン”
ドアを叩く音が聞こえる。
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