坊ちゃんと執事の日々のお話

紫雲もか

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5章

1話 誕生日おめでとう

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坊ちゃんと出会ってからあっという間に5年の歳月は流れていった。

「坊ちゃん,お誕生日おめでとうございます」

部屋に入るなり僕はそう言った。
今では,完璧に僕が起こしに来なくても自身で起き,僕がくる時にはすでに着替えている。
成長したなと感じる。そんな坊ちゃんが今日で15歳の誕生日を迎えた。

「ありがとう,レオ」
「あっという間に15歳ですね」

やはり,考え深いものがある。あんなに幼かった坊ちゃんが今やすっかりと大人になっているから。
でも,それと同時に,僕が居なくならないといけないと言うことが現実的にもなっている。

「う,うん。それでさ…」

言いづらそうに,重たい口を開いた。

「はい…?」
「その坊ちゃんって呼ぶのもうやめてくれない?」
「…はぁ,嫌でしたか?」

とここ5年間ずっと言ってきたので,今更変えろと言われても変えづらいななんて思う。

「いやってわけではなくて,なんかもう15歳だし,来年からは学校にも行くからなんか,名前の方がいいかなと思ってさ…」
「では,とか…どうですか?」

さすがに主人を呼び捨てにするのはいけないと思ったし,坊ちゃんが嫌なのだとしたらこれくらいしか案は出てこなかった。

「う,うん…」

自分から言っていたのに,坊ちゃんは少し戸惑っている。

「嫌でしたか?」

坊ちゃんに触れられる距離まで近づいて聞いてみる。

「そうじゃなくて,なんかレオに言われると照れるなって思って…」

頬を赤く染めていた。まだまだ、可愛いところがあるななんて当たり前のように思う。
いつの間にか、背丈は僕を越して、勉学では大体の教科で満点を取るようになり,さまざまなコンクールでも良い成績を取るようになっていた。これで,学校も安泰だろうと言われている。
そんな坊ちゃんだからこそ,そんな一面を見ると懐かしいと感じてしまう。

「ふふっ…本当ですか…?でも,嫌じゃなくてよかったです。

僕はわざとらしく付け加えた。まだまだ,かわいい坊ちゃんを見たいと思って…。

「だから、レオ,僕をからかわないでよ」
「ダメですか?」
「ダメ…恥ずかしい…それに今日は僕の誕生日なんだよ」

そう言われてしまうと僕は何にも言い返すことができなくなってしまう。そう,いつのまにか坊ちゃんの誕生日は,坊ちゃんが望むことを聞くという日に変わっていたから。

「わかりましたよ。もうちょっと,戸惑っているカイン様見たかったのに…でも今日は、坊ちゃん…いえ、カイン様が主役の日なのですから。願い事は聞かないといけませんね」
「そうだよ…でも,そう言われるのは嫌いじゃないからいいけど…本当は呼び捨てで読んで欲しい…なんて…」
「それはできませんよ」

これだけは僕が譲らない譲る気がないと知っているのか坊ちゃんはそれ以上そこには触れなかった。 

「それで,今年はどうしよっかな…?」 

僕よりも高い目線から、幼い表情で考えている。

「…その,私ができることならなんでもいいですよ…」

毎度どんなことを言われるのか身構えてしまう。それは,段々と難しいことを言われるのではないかと僕が考えてしまっているから。

「心配しないでよ。そんな無理難題なことは言わないよ」
「それなら嬉しいです。ところで願い事はなんですか?もうとっくに決まっているんでしょ?」

ここ数年一緒に過ごしていく中で坊ちゃんの考えていることが少しずつだけど分かるようになった。

「なんでわかるの?」
「だって,坊ちゃん顔に出やすいんですもん」
「そっか…でも,レオよりはポーカーフェイスできると思うけど…」
「それはないと思いますよ。それで,願いごとは,なんなのですか?」
「それは…」

ゆっくりとしっかり言葉を紡ごうとしている。

「それは?」
「なんでもない。もう少し考えてみるよ。ごめんね」

僕の肩に手を置き,パッと明るい表情になる。

「本当ですか?」

どこか、嘘をついているように見えたというより嘘をついていると思う。

「本当だよ。今日中にはちゃんとなにして欲しいか考える。今日しか願えないと思うから…」
「…では、待っていますね。まあ,願いは一つじゃなくてもいいですから。その代わり今日だけですけど…」
「知ってるよ。だから,ちゃんと待っていて。ってもうご飯の時間だよね」

僕はそう言われて時間を確認する。確かに,もう時間が過ぎていた。

「ほんとですね。では,行きましょうか?」
「うん…今日は何かな…?」

坊ちゃんは誕生日なだけあって今日は少し浮かれている。まだまだ誕生日は楽しいお年頃なんだと思う。
僕はというと最近は,坊ちゃんと話していると時間があっという間に過ぎていく。それだけ,僕にとっては坊ちゃんとお話をすることが大切で楽しい時間なのだと自覚しないわけにはいかなかった。

「今日の夜は坊ちゃんのために色んな人たちが集まってきてくださいますよ。楽しみですか?」

ダイニングに向かう途中そんな話をする。

「楽しみより緊張しているかも。たくさんの人に挨拶しなきゃだし,初めて会う人もたくさんいるから」
「ふふっ,そうですか。まだまだ,かわいいところありますね。それに,特訓の成果を見せないといけませんよ」
「…うん。でも…」

坊ちゃんの声がいつもよりも低く僕の耳に届いた。

「どうかしましたか?気に触るようなことでも…」

機嫌を損ねたのかと思い,すぐに謝罪をする。

「違う。まだまだ,僕はレオに子どもに見られているんだなと思うと,もっと頑張らないといけないなって思っただけ」
「それは違いますよ。もうすでに坊ちゃんは子どもではありません。もうすっかり,かっこよくなられて,私との練習もしなくてもコンクールで優勝できるくらいになっているではないですか」

この5年で坊ちゃんは飛躍的な成果を遂げている。最初出会った頃とはまるで別人で僕もずっと一緒にいたはずなのに,驚いてしまう。

「それは,レオが,いつも僕のこと応援してくれているからで…。
「どうかしましたか?」

坊ちゃんがボソリと何かを言っていたのが聞こえてそう聞き返す。

「なんでもないよ。それよりお腹空いたから早く行こ」
「そうですね」

僕は何を言ったか気になりながら,ダイニングへと向かった。
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