坊ちゃんと執事の日々のお話

紫雲もか

文字の大きさ
上 下
18 / 73
3章

1話 お祭りに行きますか?

しおりを挟む
坊ちゃんに出会ってから1年が過ぎようとしていたある日のこと。
「だから,どうしても行きたいの」
坊ちゃんはこちらを真剣な眼差しで見ている。
「そう言われましても…。旦那様の許可も取らないといけませんよ」
坊ちゃんがどこに行きたいかというと,街の中心部で行われる予定のパレード。
パレードはお祭りと同じ日に行われる予定でパレードには旦那様と僕の兄さんが出る予定だったりする。
実際,僕も少しは気になっていた。
兄さんの晴れ舞台,それから旦那様の晴れ舞台の日である。
「じゃあ,お父様に確認すればいいの?」
「そう…ですね…」
「なら,ちゃんと話はするから」
今回は譲らないと言わんばかりにそう話す。
「…わかりました。では,私がお願いしに参ります」
どうしても坊ちゃんに言わせたくないと思った。
僕は行くことに、ほんの少し躊躇しているから。それに、不安がそこにはたくさん付き纏っているのもある。
「ちゃんと聞いてね」
僕が躊躇しているのを感じ取っているのか言われてしまう。
「えぇ,わかっております」
そうして僕は、今旦那様の部屋へと向かっている。
“それにしてもどうしようかな”
僕も行きたくないわけではなく、むしろ行きたいという気持ちの方が大きい。
それでも、坊ちゃんと2人というのはどこと言えぬ不安が付きまとう。もう1人誰かいれば安心するなと。
「旦那様…レオになります。お話があり、伺いました」
いまだにこういう場面は慣れないなと思う。流石に坊ちゃんの部屋に入るのは慣れてきた。
けれど、他の部屋はどことなく坊ちゃんの部屋よりも緊張感を放っているように感じてしまう。例外なく坊ちゃんの部屋も緊張感は漂ってはいる。ただ,慣れの方が最近は強くなってきた。
「入ってきていいよ」
「失礼します」
僕がドアを開けると,旦那様が机で色々な作業をしているのが見えた。
「…あの,日にちを改めた方がいいでしょうか?」
机には資料がたくさんあり,決して今日で片付けられる量には思えない。話すことはたいしたことじゃないけれど,邪魔になるんじゃないかと不安になる。
「いや,大丈夫だよ。ところで,どうしたんだい?」
「その,カイン様がどうしてもお祭り,パレードを見に行きたいと申しておりまして…。それの許可をもらいにきました」
一瞬の沈黙でも緊張してしまう。やはり,騎士団長は違うなと思う。
「…そんなことかい?」
旦那様は,机の上で作業をしてこちらには目もくれずにそう言った。
「やはり無理でしょうか?」
「いや,違うよ。そんなこと聞きにこなくても大丈夫なのにと思ってね」
「あ,ありがとうございます。カイン様もお喜びになります…」
嬉しいような,どうすればいいんだろうというような不安が入り混じった。
「ん?どうしたんだい」
僕がそう答えたきり,動かないのを不思議に思ったのか旦那様はこちらを向いた。
「いえ,なんでもありません…」
「ほんとかい?レオくん,今目を逸らしたね。本当のことを言って欲しい」
「…はい…。すいません」
Domでもないのに,騎士団長になっただけあって,目力が強く,どこか怖さがあった。
「大丈夫だから,本当のことを教えて欲しい…。息子が何かしたのかな?」
「いえ,カイン様は何もされておりません。ただ,私が坊ちゃんと2人なのが少し,不安と言いますか…」
坊ちゃんに何か起こったら自分が守れるか,動けるかそれが不安で仕方がなかった。
「そうか。そういうことなら,メアリと3人で行くのはどうかな?メアリも行きたがっていてね。仕事があるからと諦めていたからね。僕からのめいなら行けるから喜ぶと思うよ」
「…メアリ…さんと一緒?」
ここ一年でメアリさんとは,従業員の中では1番話すようになっていた。
正直,メアリさんならと僕は思っていた。頼りになるし,何より僕と坊ちゃんのことも割と知っているから一緒に行っても割と楽にいれたりするから。
「そうそう。あとで,聞いてみるといいよ。それとも僕からお願いした方がいいかな?」
「…そうですね。そちらの方でお願いいたします」
僕からいうのもいいなと思ったけれど,旦那様が話した方が絶対に行ってくれそうだなと思う。
「うん。わかった。楽しむんだよ。それと,僕も出るから楽しみにしていてね」
ニコニコの笑顔で話す。
「ありがとうございます」
僕は一礼をした。
「いや,いいよ。それより,レオくん,君がこの家に馴染んでくれて嬉しいよ。息子もいつも楽しそうにしている。そんなこと今までなかなかなかったからね。こちらこそありがとう」
こんな話を旦那様とするのは初めてだった。そう思ってもらえているのは正直嬉しくてにやけそうになる。
「いえ,私は何も。むしろ,毎日カイン様には助けられています。私も毎日楽しいです」
「それは,よかった。これからもよろしくね」
手を差し出され僕は握手をする。
「はい,よろしくお願いします…」
「うん。よろしく」
そうして,手を離される。
「…では,失礼させていただきます」
「うん。他に何かあったらまたちゃんと言うんだよ」
「はい…では,失礼しました」
僕は,特にもう話すこともなかったので部屋を出る。
“緊張した…”
旦那様はやはり優秀なお方であると感じる。僕よりも何手も先に行って物事を考えている。それが,嬉しいような正直,凄すぎてたまに怖くなったりする。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

モテ男×盲目ボーイ

おもち
BL
クラスのカーストトップのイケメンモテ男×盲目ボーイのBL。 イケメンくんが盲目くんに猛アタックしてほしい。

処理中です...