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2章
3話 始めますか?
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「それはよかったですが…本当に大丈夫ですか?」
離れた坊ちゃんの顔からはまだ不安が消えていなかった。
「うん…」
こちらを見ようとはしなかった。
「本当のことおっしゃってください。どうなさったのですか?」
こちらも心配になってしまう。
「その,ほんとに…今日ずっと一緒にいてくれるのか,不安になって…」
チラチラこちらを見ながら聞いてくる。
「そんなに心配なさらなくとも,本日は,一日中,一緒におりますよ」
坊ちゃんとしっかりと目を合わせる。信じてもらえるように。
「わかってる。レオが嘘つかないことは…でも、やっぱり今日までは一緒じゃなかったから…その…ごめんなさい」
疑念を抱いたことに対して,罪悪感を抱いているのか僕に頭を下げて謝ってきた。そんなこと気にしなくて良いのになんて当たり前のように思う。けれど,それが坊ちゃんでもあるのだと感じた。
「気にしているのですか?」
「だって,嫌かなって思ったから」
「嫌ではないですよ。むしろ,そんなに私といたいと思ってくださっていることがそれはそれは嬉しいですよ」
頭を撫でながら,僕は言った。
「そう?」
「不安にならずとも,嬉しいですよ」
「僕もね,レオといたらなんか,僕元気になるし頑張ろうって思うんだよ。だから,とっても嬉しい」
今までで一番元気良く話していた。
“よかった…”と心の中で呟く。
「では,本日は一層の事頑張ってくださいね」
もう先生が来るのではないのかという時間になっていた。
「…うん。頑張る」
安心したのか,前を向いているように見えた。
「いい返事ですね。では,坊ちゃんは先に向かっておいてください。私は片付けをしてから参りますから」
そう言って,僕は立ち上がった。
「うん…じゃあ,待ってるね」
バイバイと手を振って坊ちゃんは部屋から出ていく。
「ふぅ…」
緊張感が抜けて,肩の力も抜けた。
それにしても、坊ちゃんにはたくさんの問題があるなと改めて感じる。どうにかするのも、どうにかさせないといけないのも分かっているのにとても難しい。それに,一人で考えてもいけないこともわかっているのに,人にどう相談すればいいかも分からない…。
“なんてダメなんだろう?”
坊ちゃんの食べた食器などを片付けながらそんなことを考える。
「これお願いいたします」
キッチンまで運んで,そうお願いをする。
「了解,ここおいておいて」
キッチンの中から言われ,僕は素直にそこにおいておく。
「あともう一つお願いが…」
無理だと思って一応お願いする。
「…うーん,できたら,やっておくよ」
「ありがとうございます」
そうして,片付けを終えると僕は急いで,坊ちゃんのいる部屋へと向かう。
どうにかお屋敷の配置は頭に入れていた。
“ここか…?”
微かにピアノの音が壁を隔てたところからでも聞こえた。
ゆっくりとドアを開け、坊ちゃんがいるかを確認する。
“あ,いる…”
「失礼します」
なるべく声を抑えて,一応そう言って部屋に入った。
部屋の中では,ピアノの先生と坊ちゃんがいて,坊ちゃんは絶賛演奏中だった。
奏でられる音色は綺麗で,決して下手というわけではない。
一つ言うとすれば,どこか自信のないような演奏に聞こえる。間違ったらどうしようとか不安に押し潰されながら弾いているそんな感じ。
それをみている先生も怖いと言う印象はなく,むしろ優しい…という印象を受ける。
その後も,黙って僕は坊ちゃんたちの様子を見る。
“なんか,いいな”と昔を思い出す。
「そうですね。今日は,調子がいいですね」
そんな中,坊ちゃんの演奏が終わり,先生が感想を述べ始めた。
「ほんと?」
「えぇ,ほんとですよ。頑張ったのですね」
「う,うん。わかる?」
嬉しそうに話している。
「わかりますよ。ですが,もっと自信を持ってください。坊ちゃんは,お上手なのですから…」
「そっそんなことない…と思う」
「ありますよ。ね,えっと…」
僕の方を向いて感想を尋ねられる。
「レオ,と申します。よろしくお願いします」
「そう,レオさん,そうは思いませんか?」
こんなことを聞かれたことはないので,どう言えばいいか戸惑った。
「えっと…なんというか…」
「なんでもいいのです。感想を…」
先生は戸惑っている僕にそう言って,坊ちゃんは「…やっぱり,悪かった?」と心配そうに聞いてくる。
「いえ,そのようなことは,ありません。そうではなくてですね。お上手だなと思ったのですが,先生が言う通り,どこか自信なさげに聞こえるなと思いました…」
素直にいうしかないと思って,僕は思ったことを言った。
「…やっぱり…」
坊ちゃんは残念そうに肩を落とした。
「いえ,お上手ではあったのですから。そんなに気を落とさないでください」
「そうです。いつも私が言っている通り,自信をお持ちになればきっといい演奏がコンクールでもできるのですから」
先生は,坊ちゃんにそう諭した。
これがいつものことなのだろうなと感じる。そして,坊ちゃんがどうしてこれが怖いと感じているのかもなんとなく分かってきた。
「…うん。わかった。頑張る」
「そうですね。では,また次回会う時までには,できるように頑張りください」
先生は,そう言って帰りの支度をして,部屋を出ていく。
坊ちゃんはピアノを前に座ったまま,じっとピアノを見つめていた。
離れた坊ちゃんの顔からはまだ不安が消えていなかった。
「うん…」
こちらを見ようとはしなかった。
「本当のことおっしゃってください。どうなさったのですか?」
こちらも心配になってしまう。
「その,ほんとに…今日ずっと一緒にいてくれるのか,不安になって…」
チラチラこちらを見ながら聞いてくる。
「そんなに心配なさらなくとも,本日は,一日中,一緒におりますよ」
坊ちゃんとしっかりと目を合わせる。信じてもらえるように。
「わかってる。レオが嘘つかないことは…でも、やっぱり今日までは一緒じゃなかったから…その…ごめんなさい」
疑念を抱いたことに対して,罪悪感を抱いているのか僕に頭を下げて謝ってきた。そんなこと気にしなくて良いのになんて当たり前のように思う。けれど,それが坊ちゃんでもあるのだと感じた。
「気にしているのですか?」
「だって,嫌かなって思ったから」
「嫌ではないですよ。むしろ,そんなに私といたいと思ってくださっていることがそれはそれは嬉しいですよ」
頭を撫でながら,僕は言った。
「そう?」
「不安にならずとも,嬉しいですよ」
「僕もね,レオといたらなんか,僕元気になるし頑張ろうって思うんだよ。だから,とっても嬉しい」
今までで一番元気良く話していた。
“よかった…”と心の中で呟く。
「では,本日は一層の事頑張ってくださいね」
もう先生が来るのではないのかという時間になっていた。
「…うん。頑張る」
安心したのか,前を向いているように見えた。
「いい返事ですね。では,坊ちゃんは先に向かっておいてください。私は片付けをしてから参りますから」
そう言って,僕は立ち上がった。
「うん…じゃあ,待ってるね」
バイバイと手を振って坊ちゃんは部屋から出ていく。
「ふぅ…」
緊張感が抜けて,肩の力も抜けた。
それにしても、坊ちゃんにはたくさんの問題があるなと改めて感じる。どうにかするのも、どうにかさせないといけないのも分かっているのにとても難しい。それに,一人で考えてもいけないこともわかっているのに,人にどう相談すればいいかも分からない…。
“なんてダメなんだろう?”
坊ちゃんの食べた食器などを片付けながらそんなことを考える。
「これお願いいたします」
キッチンまで運んで,そうお願いをする。
「了解,ここおいておいて」
キッチンの中から言われ,僕は素直にそこにおいておく。
「あともう一つお願いが…」
無理だと思って一応お願いする。
「…うーん,できたら,やっておくよ」
「ありがとうございます」
そうして,片付けを終えると僕は急いで,坊ちゃんのいる部屋へと向かう。
どうにかお屋敷の配置は頭に入れていた。
“ここか…?”
微かにピアノの音が壁を隔てたところからでも聞こえた。
ゆっくりとドアを開け、坊ちゃんがいるかを確認する。
“あ,いる…”
「失礼します」
なるべく声を抑えて,一応そう言って部屋に入った。
部屋の中では,ピアノの先生と坊ちゃんがいて,坊ちゃんは絶賛演奏中だった。
奏でられる音色は綺麗で,決して下手というわけではない。
一つ言うとすれば,どこか自信のないような演奏に聞こえる。間違ったらどうしようとか不安に押し潰されながら弾いているそんな感じ。
それをみている先生も怖いと言う印象はなく,むしろ優しい…という印象を受ける。
その後も,黙って僕は坊ちゃんたちの様子を見る。
“なんか,いいな”と昔を思い出す。
「そうですね。今日は,調子がいいですね」
そんな中,坊ちゃんの演奏が終わり,先生が感想を述べ始めた。
「ほんと?」
「えぇ,ほんとですよ。頑張ったのですね」
「う,うん。わかる?」
嬉しそうに話している。
「わかりますよ。ですが,もっと自信を持ってください。坊ちゃんは,お上手なのですから…」
「そっそんなことない…と思う」
「ありますよ。ね,えっと…」
僕の方を向いて感想を尋ねられる。
「レオ,と申します。よろしくお願いします」
「そう,レオさん,そうは思いませんか?」
こんなことを聞かれたことはないので,どう言えばいいか戸惑った。
「えっと…なんというか…」
「なんでもいいのです。感想を…」
先生は戸惑っている僕にそう言って,坊ちゃんは「…やっぱり,悪かった?」と心配そうに聞いてくる。
「いえ,そのようなことは,ありません。そうではなくてですね。お上手だなと思ったのですが,先生が言う通り,どこか自信なさげに聞こえるなと思いました…」
素直にいうしかないと思って,僕は思ったことを言った。
「…やっぱり…」
坊ちゃんは残念そうに肩を落とした。
「いえ,お上手ではあったのですから。そんなに気を落とさないでください」
「そうです。いつも私が言っている通り,自信をお持ちになればきっといい演奏がコンクールでもできるのですから」
先生は,坊ちゃんにそう諭した。
これがいつものことなのだろうなと感じる。そして,坊ちゃんがどうしてこれが怖いと感じているのかもなんとなく分かってきた。
「…うん。わかった。頑張る」
「そうですね。では,また次回会う時までには,できるように頑張りください」
先生は,そう言って帰りの支度をして,部屋を出ていく。
坊ちゃんはピアノを前に座ったまま,じっとピアノを見つめていた。
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