9 / 73
2章
2話 頑張りましょう
しおりを挟む
その後,坊ちゃんはダイニングに行くまで何にも話さなかった。
ただ,黙って今日のことを考えているようだった。
ダイニングに着くと,僕がドアを開けて坊ちゃんは下を向いて黙ったまま中へと入っていく。
なんと声をかけようそんなことを考える。でも一向に出てこなくて沈黙は続いたままだった。
「…ねぇ,レオ…。僕がいけないのかな?」
食事をし始めて少ししてから坊ちゃんが呟く。
「どうしてそう思ったのですか?」
坊ちゃんの後ろから僕は尋ねた。
「なんとなく…。みんなは当たり前のようにできていることが僕は苦手なのがいけないのかなと思ったんだ…」
俯きながら,言葉を紡いでいる。こちらには目もくれずに。
この時,坊ちゃんはそんな想いを1人でずっと抱えていたんだと感じた。
言える人もいなくて,誰に言ったらいいのかもわからなくて不安でいっぱいだったんだと。
「坊ちゃん…」
何か助けになることをしたいと思った。少しは自信を持つことができるように。
誰だって苦手なことも,嫌なこともある。
けれど,坊ちゃんにとってこの世界はそんなものばかりで溢れている。
でもさすがに,それでは将来が心配になる。
「坊ちゃん,それでは,本日,私と少しお話をいたしませんか?」
「…?」
理解できないのか顔をこちらに向けて不安そうな顔をした。
「いえ,特に理由はないのです。ですからそのような顔をなさらないでください」
「…うん…なら,急にどうして?」
「そうですね…。強いていえば,この1週間,お供しておりますが,初日以外,まともに会話ができておりませんので,お話をしたいと思ったのがきっかけです」
坊ちゃんとは食事の時間以外で,会話をすることがこの1週間ほとんどなかった。食事中も話すことも話題も一切なくほとんど無言という状態だった。
それに日中は,坊ちゃんが習い事,勉強をしていて忙しく,夜はまだ幼いので寝るのが早いと言ったように,話す機会が必然的になくなっている。
だから約束でもしないと,ちゃんと話せなかったりする。
「僕もね。レオとお話ししたい。もっと,レオのこと…知りたいから」
「ええ,そう思っていただけるのは嬉しいです」
「ほんと?」
「ほんとですよ。では,本日のご予定が終わり次第お部屋に伺いますね」
「う,うん…今から…じゃないの?」
こちらにどうにかして欲しいというような顔をしている。
「ダメですよ。本日,坊ちゃんのために予定を開けてきてくださるのですから。それに,今から断るのができないのは坊ちゃんもお分かりでしょう?」
「わかってはいる…けど…」
渋々そう答える。これはどうにかしないといけない。
「坊ちゃん,どうしたら,頑張れそうですか?」
頑張ってもらえるのであれば僕はなんだってしようと決めている。僕が必要といて欲しいと他人にこんなふうに求められたのはこれが初めてだったから。
「…わからない。けど,レオがいま抱きしめてくれたら,頑張れるかも…」
少し考えて,最後の方はモゴモゴとしながら言った。
「ほんとうですか?」
あの時,ハグしてよかったと心の底から思った。そして,少しは僕のこと信頼してくれているのだと感じた。
「うん。ほんと。この間,レオに抱きしめてもらったら心がポカポカして落ち着いて,それで,僕,頑張ろうっと思ったから」
「それは,嬉しいです。でも,まずは朝食を終えましょうね」
「うん…。そうする」
もぐもぐと食べ始めた。
まだ,テーブルの上にはパンとスープ,それにちょっと主菜が残っている。
「ごちそうさま」
そうして,全て食べ終わった。
「美味しかったですか?」
「美味しかった…。ね,だから」
椅子に座ったままズボンの裾を引っ張られる。
「わかっておりますよ」
僕は坊ちゃんと同じ視線にするためにしゃがんだ。
「坊ちゃん,こちらへ」
手を伸ばして手招きをすると,坊ちゃんは,僕の胸に勢いよく飛びこんでくる。
そんな坊ちゃんの身体を包み込み,ぎゅっと抱きしめる。
「きっと,坊ちゃんなら,大丈夫です」
「…大丈夫じゃない…と思う。僕,やっぱり,今日…」
声がか細く,少し震えている。
よほど,今日の予定が嫌なのだろう。
「…ダメですよ。なぜなら,私は坊ちゃんのこと応援しているのですから。それに坊ちゃんはさぞかし,頑張ってもいるのでしょう?」
実際,まだ出会って1週間。なので,どのくらい頑張っているのか詳しくは知らない。けれど,様子を見る範囲では,努力を惜しんだりしているようには到底見えない。
「そうだけど…」
「なら,いいのです。もし努力をしておられないのであれば,問題です。けれど,そうではないのであれば坊ちゃんは素晴らしいですよ」
「…んっ…レオ,ありがとう」
「いえ,大丈夫ですよ」
「…ねぇ,離れたくない…。今日はずっと一緒にいてくれる?」
僕をより強く抱きしめてくる。
「…そうですね。本日は,一緒にいれるようにします」
というのも,この1週間はまずは仕事を覚えるということ,人に顔を覚えてもらうということでほとんど坊ちゃんとは一緒にいることもなく,僕自身もいい加減ご一緒したいと思っていたところだった。
「なら,今日は僕が頑張っている姿,ちゃんと見てて。レオがいたら僕,もっと頑張れる気がするから」
「はい,楽しみにしていますね」
「ありがとう…」
「いえ,私は何もしてないですよ」
「レオは僕に元気を勇気をくれているよ。今だって頑張ろうって思えているもん」
「それは嬉しいです」
こんなに,僕を早く信頼してくれるなんて思ってもいなくて,顔に出そうになってしまう。けれど,なるべく平常心を保っておかなければと思う。
お世話係兼執事として。
「僕も嬉しい…レオほんとありがとう。僕もう大丈夫な気がする…」
ぎゅっとより強く抱きしめられて坊ちゃんが僕から離れていった。
ただ,黙って今日のことを考えているようだった。
ダイニングに着くと,僕がドアを開けて坊ちゃんは下を向いて黙ったまま中へと入っていく。
なんと声をかけようそんなことを考える。でも一向に出てこなくて沈黙は続いたままだった。
「…ねぇ,レオ…。僕がいけないのかな?」
食事をし始めて少ししてから坊ちゃんが呟く。
「どうしてそう思ったのですか?」
坊ちゃんの後ろから僕は尋ねた。
「なんとなく…。みんなは当たり前のようにできていることが僕は苦手なのがいけないのかなと思ったんだ…」
俯きながら,言葉を紡いでいる。こちらには目もくれずに。
この時,坊ちゃんはそんな想いを1人でずっと抱えていたんだと感じた。
言える人もいなくて,誰に言ったらいいのかもわからなくて不安でいっぱいだったんだと。
「坊ちゃん…」
何か助けになることをしたいと思った。少しは自信を持つことができるように。
誰だって苦手なことも,嫌なこともある。
けれど,坊ちゃんにとってこの世界はそんなものばかりで溢れている。
でもさすがに,それでは将来が心配になる。
「坊ちゃん,それでは,本日,私と少しお話をいたしませんか?」
「…?」
理解できないのか顔をこちらに向けて不安そうな顔をした。
「いえ,特に理由はないのです。ですからそのような顔をなさらないでください」
「…うん…なら,急にどうして?」
「そうですね…。強いていえば,この1週間,お供しておりますが,初日以外,まともに会話ができておりませんので,お話をしたいと思ったのがきっかけです」
坊ちゃんとは食事の時間以外で,会話をすることがこの1週間ほとんどなかった。食事中も話すことも話題も一切なくほとんど無言という状態だった。
それに日中は,坊ちゃんが習い事,勉強をしていて忙しく,夜はまだ幼いので寝るのが早いと言ったように,話す機会が必然的になくなっている。
だから約束でもしないと,ちゃんと話せなかったりする。
「僕もね。レオとお話ししたい。もっと,レオのこと…知りたいから」
「ええ,そう思っていただけるのは嬉しいです」
「ほんと?」
「ほんとですよ。では,本日のご予定が終わり次第お部屋に伺いますね」
「う,うん…今から…じゃないの?」
こちらにどうにかして欲しいというような顔をしている。
「ダメですよ。本日,坊ちゃんのために予定を開けてきてくださるのですから。それに,今から断るのができないのは坊ちゃんもお分かりでしょう?」
「わかってはいる…けど…」
渋々そう答える。これはどうにかしないといけない。
「坊ちゃん,どうしたら,頑張れそうですか?」
頑張ってもらえるのであれば僕はなんだってしようと決めている。僕が必要といて欲しいと他人にこんなふうに求められたのはこれが初めてだったから。
「…わからない。けど,レオがいま抱きしめてくれたら,頑張れるかも…」
少し考えて,最後の方はモゴモゴとしながら言った。
「ほんとうですか?」
あの時,ハグしてよかったと心の底から思った。そして,少しは僕のこと信頼してくれているのだと感じた。
「うん。ほんと。この間,レオに抱きしめてもらったら心がポカポカして落ち着いて,それで,僕,頑張ろうっと思ったから」
「それは,嬉しいです。でも,まずは朝食を終えましょうね」
「うん…。そうする」
もぐもぐと食べ始めた。
まだ,テーブルの上にはパンとスープ,それにちょっと主菜が残っている。
「ごちそうさま」
そうして,全て食べ終わった。
「美味しかったですか?」
「美味しかった…。ね,だから」
椅子に座ったままズボンの裾を引っ張られる。
「わかっておりますよ」
僕は坊ちゃんと同じ視線にするためにしゃがんだ。
「坊ちゃん,こちらへ」
手を伸ばして手招きをすると,坊ちゃんは,僕の胸に勢いよく飛びこんでくる。
そんな坊ちゃんの身体を包み込み,ぎゅっと抱きしめる。
「きっと,坊ちゃんなら,大丈夫です」
「…大丈夫じゃない…と思う。僕,やっぱり,今日…」
声がか細く,少し震えている。
よほど,今日の予定が嫌なのだろう。
「…ダメですよ。なぜなら,私は坊ちゃんのこと応援しているのですから。それに坊ちゃんはさぞかし,頑張ってもいるのでしょう?」
実際,まだ出会って1週間。なので,どのくらい頑張っているのか詳しくは知らない。けれど,様子を見る範囲では,努力を惜しんだりしているようには到底見えない。
「そうだけど…」
「なら,いいのです。もし努力をしておられないのであれば,問題です。けれど,そうではないのであれば坊ちゃんは素晴らしいですよ」
「…んっ…レオ,ありがとう」
「いえ,大丈夫ですよ」
「…ねぇ,離れたくない…。今日はずっと一緒にいてくれる?」
僕をより強く抱きしめてくる。
「…そうですね。本日は,一緒にいれるようにします」
というのも,この1週間はまずは仕事を覚えるということ,人に顔を覚えてもらうということでほとんど坊ちゃんとは一緒にいることもなく,僕自身もいい加減ご一緒したいと思っていたところだった。
「なら,今日は僕が頑張っている姿,ちゃんと見てて。レオがいたら僕,もっと頑張れる気がするから」
「はい,楽しみにしていますね」
「ありがとう…」
「いえ,私は何もしてないですよ」
「レオは僕に元気を勇気をくれているよ。今だって頑張ろうって思えているもん」
「それは嬉しいです」
こんなに,僕を早く信頼してくれるなんて思ってもいなくて,顔に出そうになってしまう。けれど,なるべく平常心を保っておかなければと思う。
お世話係兼執事として。
「僕も嬉しい…レオほんとありがとう。僕もう大丈夫な気がする…」
ぎゅっとより強く抱きしめられて坊ちゃんが僕から離れていった。
0
お気に入りに追加
88
あなたにおすすめの小説



男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。


飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる