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2章
2話 頑張りましょう
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その後,坊ちゃんはダイニングに行くまで何にも話さなかった。
ただ,黙って今日のことを考えているようだった。
ダイニングに着くと,僕がドアを開けて坊ちゃんは下を向いて黙ったまま中へと入っていく。
なんと声をかけようそんなことを考える。でも一向に出てこなくて沈黙は続いたままだった。
「…ねぇ,レオ…。僕がいけないのかな?」
食事をし始めて少ししてから坊ちゃんが呟く。
「どうしてそう思ったのですか?」
坊ちゃんの後ろから僕は尋ねた。
「なんとなく…。みんなは当たり前のようにできていることが僕は苦手なのがいけないのかなと思ったんだ…」
俯きながら,言葉を紡いでいる。こちらには目もくれずに。
この時,坊ちゃんはそんな想いを1人でずっと抱えていたんだと感じた。
言える人もいなくて,誰に言ったらいいのかもわからなくて不安でいっぱいだったんだと。
「坊ちゃん…」
何か助けになることをしたいと思った。少しは自信を持つことができるように。
誰だって苦手なことも,嫌なこともある。
けれど,坊ちゃんにとってこの世界はそんなものばかりで溢れている。
でもさすがに,それでは将来が心配になる。
「坊ちゃん,それでは,本日,私と少しお話をいたしませんか?」
「…?」
理解できないのか顔をこちらに向けて不安そうな顔をした。
「いえ,特に理由はないのです。ですからそのような顔をなさらないでください」
「…うん…なら,急にどうして?」
「そうですね…。強いていえば,この1週間,お供しておりますが,初日以外,まともに会話ができておりませんので,お話をしたいと思ったのがきっかけです」
坊ちゃんとは食事の時間以外で,会話をすることがこの1週間ほとんどなかった。食事中も話すことも話題も一切なくほとんど無言という状態だった。
それに日中は,坊ちゃんが習い事,勉強をしていて忙しく,夜はまだ幼いので寝るのが早いと言ったように,話す機会が必然的になくなっている。
だから約束でもしないと,ちゃんと話せなかったりする。
「僕もね。レオとお話ししたい。もっと,レオのこと…知りたいから」
「ええ,そう思っていただけるのは嬉しいです」
「ほんと?」
「ほんとですよ。では,本日のご予定が終わり次第お部屋に伺いますね」
「う,うん…今から…じゃないの?」
こちらにどうにかして欲しいというような顔をしている。
「ダメですよ。本日,坊ちゃんのために予定を開けてきてくださるのですから。それに,今から断るのができないのは坊ちゃんもお分かりでしょう?」
「わかってはいる…けど…」
渋々そう答える。これはどうにかしないといけない。
「坊ちゃん,どうしたら,頑張れそうですか?」
頑張ってもらえるのであれば僕はなんだってしようと決めている。僕が必要といて欲しいと他人にこんなふうに求められたのはこれが初めてだったから。
「…わからない。けど,レオがいま抱きしめてくれたら,頑張れるかも…」
少し考えて,最後の方はモゴモゴとしながら言った。
「ほんとうですか?」
あの時,ハグしてよかったと心の底から思った。そして,少しは僕のこと信頼してくれているのだと感じた。
「うん。ほんと。この間,レオに抱きしめてもらったら心がポカポカして落ち着いて,それで,僕,頑張ろうっと思ったから」
「それは,嬉しいです。でも,まずは朝食を終えましょうね」
「うん…。そうする」
もぐもぐと食べ始めた。
まだ,テーブルの上にはパンとスープ,それにちょっと主菜が残っている。
「ごちそうさま」
そうして,全て食べ終わった。
「美味しかったですか?」
「美味しかった…。ね,だから」
椅子に座ったままズボンの裾を引っ張られる。
「わかっておりますよ」
僕は坊ちゃんと同じ視線にするためにしゃがんだ。
「坊ちゃん,こちらへ」
手を伸ばして手招きをすると,坊ちゃんは,僕の胸に勢いよく飛びこんでくる。
そんな坊ちゃんの身体を包み込み,ぎゅっと抱きしめる。
「きっと,坊ちゃんなら,大丈夫です」
「…大丈夫じゃない…と思う。僕,やっぱり,今日…」
声がか細く,少し震えている。
よほど,今日の予定が嫌なのだろう。
「…ダメですよ。なぜなら,私は坊ちゃんのこと応援しているのですから。それに坊ちゃんはさぞかし,頑張ってもいるのでしょう?」
実際,まだ出会って1週間。なので,どのくらい頑張っているのか詳しくは知らない。けれど,様子を見る範囲では,努力を惜しんだりしているようには到底見えない。
「そうだけど…」
「なら,いいのです。もし努力をしておられないのであれば,問題です。けれど,そうではないのであれば坊ちゃんは素晴らしいですよ」
「…んっ…レオ,ありがとう」
「いえ,大丈夫ですよ」
「…ねぇ,離れたくない…。今日はずっと一緒にいてくれる?」
僕をより強く抱きしめてくる。
「…そうですね。本日は,一緒にいれるようにします」
というのも,この1週間はまずは仕事を覚えるということ,人に顔を覚えてもらうということでほとんど坊ちゃんとは一緒にいることもなく,僕自身もいい加減ご一緒したいと思っていたところだった。
「なら,今日は僕が頑張っている姿,ちゃんと見てて。レオがいたら僕,もっと頑張れる気がするから」
「はい,楽しみにしていますね」
「ありがとう…」
「いえ,私は何もしてないですよ」
「レオは僕に元気を勇気をくれているよ。今だって頑張ろうって思えているもん」
「それは嬉しいです」
こんなに,僕を早く信頼してくれるなんて思ってもいなくて,顔に出そうになってしまう。けれど,なるべく平常心を保っておかなければと思う。
お世話係兼執事として。
「僕も嬉しい…レオほんとありがとう。僕もう大丈夫な気がする…」
ぎゅっとより強く抱きしめられて坊ちゃんが僕から離れていった。
ただ,黙って今日のことを考えているようだった。
ダイニングに着くと,僕がドアを開けて坊ちゃんは下を向いて黙ったまま中へと入っていく。
なんと声をかけようそんなことを考える。でも一向に出てこなくて沈黙は続いたままだった。
「…ねぇ,レオ…。僕がいけないのかな?」
食事をし始めて少ししてから坊ちゃんが呟く。
「どうしてそう思ったのですか?」
坊ちゃんの後ろから僕は尋ねた。
「なんとなく…。みんなは当たり前のようにできていることが僕は苦手なのがいけないのかなと思ったんだ…」
俯きながら,言葉を紡いでいる。こちらには目もくれずに。
この時,坊ちゃんはそんな想いを1人でずっと抱えていたんだと感じた。
言える人もいなくて,誰に言ったらいいのかもわからなくて不安でいっぱいだったんだと。
「坊ちゃん…」
何か助けになることをしたいと思った。少しは自信を持つことができるように。
誰だって苦手なことも,嫌なこともある。
けれど,坊ちゃんにとってこの世界はそんなものばかりで溢れている。
でもさすがに,それでは将来が心配になる。
「坊ちゃん,それでは,本日,私と少しお話をいたしませんか?」
「…?」
理解できないのか顔をこちらに向けて不安そうな顔をした。
「いえ,特に理由はないのです。ですからそのような顔をなさらないでください」
「…うん…なら,急にどうして?」
「そうですね…。強いていえば,この1週間,お供しておりますが,初日以外,まともに会話ができておりませんので,お話をしたいと思ったのがきっかけです」
坊ちゃんとは食事の時間以外で,会話をすることがこの1週間ほとんどなかった。食事中も話すことも話題も一切なくほとんど無言という状態だった。
それに日中は,坊ちゃんが習い事,勉強をしていて忙しく,夜はまだ幼いので寝るのが早いと言ったように,話す機会が必然的になくなっている。
だから約束でもしないと,ちゃんと話せなかったりする。
「僕もね。レオとお話ししたい。もっと,レオのこと…知りたいから」
「ええ,そう思っていただけるのは嬉しいです」
「ほんと?」
「ほんとですよ。では,本日のご予定が終わり次第お部屋に伺いますね」
「う,うん…今から…じゃないの?」
こちらにどうにかして欲しいというような顔をしている。
「ダメですよ。本日,坊ちゃんのために予定を開けてきてくださるのですから。それに,今から断るのができないのは坊ちゃんもお分かりでしょう?」
「わかってはいる…けど…」
渋々そう答える。これはどうにかしないといけない。
「坊ちゃん,どうしたら,頑張れそうですか?」
頑張ってもらえるのであれば僕はなんだってしようと決めている。僕が必要といて欲しいと他人にこんなふうに求められたのはこれが初めてだったから。
「…わからない。けど,レオがいま抱きしめてくれたら,頑張れるかも…」
少し考えて,最後の方はモゴモゴとしながら言った。
「ほんとうですか?」
あの時,ハグしてよかったと心の底から思った。そして,少しは僕のこと信頼してくれているのだと感じた。
「うん。ほんと。この間,レオに抱きしめてもらったら心がポカポカして落ち着いて,それで,僕,頑張ろうっと思ったから」
「それは,嬉しいです。でも,まずは朝食を終えましょうね」
「うん…。そうする」
もぐもぐと食べ始めた。
まだ,テーブルの上にはパンとスープ,それにちょっと主菜が残っている。
「ごちそうさま」
そうして,全て食べ終わった。
「美味しかったですか?」
「美味しかった…。ね,だから」
椅子に座ったままズボンの裾を引っ張られる。
「わかっておりますよ」
僕は坊ちゃんと同じ視線にするためにしゃがんだ。
「坊ちゃん,こちらへ」
手を伸ばして手招きをすると,坊ちゃんは,僕の胸に勢いよく飛びこんでくる。
そんな坊ちゃんの身体を包み込み,ぎゅっと抱きしめる。
「きっと,坊ちゃんなら,大丈夫です」
「…大丈夫じゃない…と思う。僕,やっぱり,今日…」
声がか細く,少し震えている。
よほど,今日の予定が嫌なのだろう。
「…ダメですよ。なぜなら,私は坊ちゃんのこと応援しているのですから。それに坊ちゃんはさぞかし,頑張ってもいるのでしょう?」
実際,まだ出会って1週間。なので,どのくらい頑張っているのか詳しくは知らない。けれど,様子を見る範囲では,努力を惜しんだりしているようには到底見えない。
「そうだけど…」
「なら,いいのです。もし努力をしておられないのであれば,問題です。けれど,そうではないのであれば坊ちゃんは素晴らしいですよ」
「…んっ…レオ,ありがとう」
「いえ,大丈夫ですよ」
「…ねぇ,離れたくない…。今日はずっと一緒にいてくれる?」
僕をより強く抱きしめてくる。
「…そうですね。本日は,一緒にいれるようにします」
というのも,この1週間はまずは仕事を覚えるということ,人に顔を覚えてもらうということでほとんど坊ちゃんとは一緒にいることもなく,僕自身もいい加減ご一緒したいと思っていたところだった。
「なら,今日は僕が頑張っている姿,ちゃんと見てて。レオがいたら僕,もっと頑張れる気がするから」
「はい,楽しみにしていますね」
「ありがとう…」
「いえ,私は何もしてないですよ」
「レオは僕に元気を勇気をくれているよ。今だって頑張ろうって思えているもん」
「それは嬉しいです」
こんなに,僕を早く信頼してくれるなんて思ってもいなくて,顔に出そうになってしまう。けれど,なるべく平常心を保っておかなければと思う。
お世話係兼執事として。
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ぎゅっとより強く抱きしめられて坊ちゃんが僕から離れていった。
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