坊ちゃんと執事の日々のお話

紫雲もか

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2章

1話 日々の始まり

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坊ちゃんに出会ってから1週間が過ぎようとしていた。
未だに,ダイナミクスについて話すことはできていなかったりする。
したいと思っても言いづらいし,何よりいきなり話しても聞く耳なんて持ってくれないだろうと思った。
だから,まずはちゃんと信頼関係を築かなくてはいけない。そう思って,坊ちゃんの前ではなるべく表情を柔らかく,笑顔でいることを心掛けた。
「坊ちゃん,朝食のご用意ができましたよ」
坊ちゃんの部屋のドアの前に立って建前上,一応聞く。けれど,当たり前のように返事はない。
この1週間でわかったこと,それは坊ちゃんは朝にめっぽう弱く,今まで自分から起きれたことがないということだった。
まだまだ幼いなと感じつつも自分で目覚めることができるようにしていかなければなとも思う。
「失礼しますね」
一応そう言って,坊ちゃんのベッド脇に行き、身体をゆすり起こす。
まだ,10歳,幼くかわいい顔で寝ていた。
「朝ですよ…坊ちゃんがこんなに朝が弱いなんて知りませんでしたよ」
どこか微笑ましく思って眺めていると,坊ちゃんが目を覚ました。
「んっ…朝?」
まだ,意識がはっきりとしない。
「朝ですよ。起きれますか?」
「うん…レオ…?」
寝ぼけているのか,起き上がり目をこすりながら聞いてくる。
「そうですよ。何かありましたか?」
「ん?…レオ…おはよう」
ニコリと笑顔になって挨拶をする。
「はい,おはようございます」
僕が返事をすると坊ちゃんは,すぐに着替えを始めようとした。
着替えは,ベッド脇に置いてあり、寝起きがよくない坊ちゃんでもすぐに着替えられるようになっている。
本当は,クローゼットから自分で着替えを持ってきて着替えて欲しいと思う。
「1人で着替えられますか?」
「…ぅ…ん」
よたよたしながら立ち上がり、毎朝,着替えを始める。いつか倒れるのではないかと毎度,不安になるので,倒れてもいいように部屋を出て行かず,そばにいる。
「…坊ちゃん,ちゃんと着れてないですよ」
シャツのボタンを掛け違えて,左右のバランスが整っていなかった。まだまだ,かわいいなと思う。
「ん…?」
理解していないらしく不思議そうな顔で僕の方を見つめる。
「仕方ないですね。私が直しますから,じっとしていおいてくれませんか?」
「…うん。分かった」
じっとしている坊ちゃんの前でしゃがんでボタンをかけ直した。小さな身体で手だなと思う。
「ここからは自分でできますか?」
焦点のあっていない坊ちゃんの目はこちらを向いた。
「…レオ,やってくれないの?」
坊ちゃんの幼く,潤んだ瞳で僕を見つめている。
やはりその顔はずるいと心が言っている。そんなのやりたくないなんて言わせることができないと思う。
「はぁ…仕方ないですね。では,ズボンを履きましょう。足,あげてください」
「ん,わかった」
坊ちゃんは僕の肩に小さな手を置き,素直に足を上げてサスペンダー付きのズボンを履いた。そして,最後に肩にサスペンダーをかけると着替えが終わる。
「できましたよ。違和感などはないですか?」
「うん…ない。レオ,ありがとう」
いつもの笑顔になって僕に言う。
「大丈夫ですよ。ですが,明日からは1人で着替えれるように頑張りましょうね」
僕が来るまで一体どうしていたのか不思議になる。気にしない方がいいとは思うけれど…。
「うん,頑張る。それで…レオ…今日は何があるの?」
まだ眠いのか,はっきりとしない意識の中で僕に尋ねた。
「本日は,剣術とピアノの先生が来てくださいますよ」
坊ちゃんは,名家のご子息なので毎日いろんな勉強をしなければならなかったりする。
僕もある程度は勉強をしないといけない家だったから少しはその苦労がわかるけど,坊ちゃんほどやらないといけないわけではなかった。
「本日も頑張りましょう」 
そう毎度励ますようにしている。習い事は全般的に苦手らしいから。
そんな坊ちゃんは今日の予定を聞いて意識がはっきりとしたのか,明らかに嫌な顔をしながら僕の方を向いている。
「……僕,両方苦手だし,やりたくない」 
この調子で毎日のように僕にとずっと言っている。
「…難しいですからね…。では,どうして苦手なのか考えてみてはどうですか?そうすれば少しはできるようになるかもしれないですよ」
僕はどちらかというと勉強や習い事は嫌いではなかった。
そうなった理由は特にない。けど,強いていうなら,兄たちがかっこよくて自分もああなりたいそんふうに思っていたからだと思う。
少しの沈黙が続いて坊ちゃんが口を開く。
「…ピアノは,器用じゃなくて上手く弾けないからだと思う。先生は,別に怖くないけどなんか怖くて…。それに,僕コンクールでもいい成績とれたことないからやりたくないの」
口調はいつもよりも強かった。
「そうですか…」
坊ちゃんは,良家の子だから普通の子の家よりも格段に厳しく,期待されているのだろうなと思う。
僕はそんなこと言われたことなかったから。
ちなみに,コンクールというのは定期的に,家同士で子どもたちを競わせるもので他にもいろんなもので競わされている。
これは僕も嫌だったなと思う。
どんなにいい家の子でもよくないとよくないという烙印を押され,ある程度の家でもいい子はいいとされる烙印を押される。そんなものだったから,上にいる家の子たちはさぞかし大変なんだろうなと思ってはいた。
親のプレッシャーというやつは。
実際そうだと聞いたのは今日が初めてだけど。
「それに,剣術は…。その,人を傷つけるのが嫌なのに,人に向かって,傷つけないにいかないといけない…。それが,いや…なの」
剣術は確かに,人を傷つけるそんな行為をする。僕はこの歳でそんなこと考えなかった。
やはり,優しすぎると思う。それにDomである。人を傷つけるわけではないけれど,支配するという形ではある。これは…Domであるということを受け入れるのに時間が大分かかるだろうと思わずにはいられない。
「…そうですね…。では,まず朝食にいたしましょう。料理が冷めてしまいますから」
話題を変えるために僕はそう促した。
これ以上,その話をしてしまうとキリがなくなってしまう。そう感じたから。
「…いや…だけど,お腹は空いたから食べる…」
話題を変えられたのはわかった上でそう答えた。
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