坊ちゃんと執事の日々のお話

紫雲もか

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1章

4話 大丈夫です

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その時,部屋の外からメアリさんの声が聞こえてきた。
「坊ちゃん,夕食の準備が整いました」
これで一旦は坊ちゃんと離れられる良かったと思った。もう一度トラウマを植え付けずに済むと。
「夕食ができたようですよ」
坊ちゃんにそう促し,坊ちゃんを夕食に向かわせようとする。
「レオ,は今日,来ないの?」
「私は,本日は遠慮させていただきます」
「どうして…?」
また不安そうな顔をしている。
本当は,僕も行きたいと思った。けれど,身体がそれを許さない。
「色々とありまして…。その,明日からはご一緒させて頂きますから」
坊ちゃんは納得しない顔をしながらも,僕の様子を見て「分かった,今日は諦める」と言い残し部屋を出ていった。
「あの…」
まだメアリさんがいることを願って声を出してみる。
「どうかなさったのですか?」
メアリさんの返事が聞こえてきてホッとする。これでどうにかなると。
「その,少しこちらに来ていただけませんか?」
「え,はい」
戸惑いながらも部屋に入ってくれた。
「あ,ありがとうございます。その…」
「どうしたのですか?」
不思議そうに座っている僕を見た。
「その,僕を部屋まで送ってくれませんか?」
さっきまで,坊ちゃんがいたからどうにかなっていた身体の力も坊ちゃんがいなくなってしまっている今はどうにもならなくなっている。
それに何より命令コマンドに逆らったような感じもあって余計に辛さがやってきていたりする。
「大丈夫ですか?」
「その,実は…」
僕は坊ちゃんと2人きりになってから今起きていることまでの経緯を話した。
「そ,それは本当に大丈夫ですか?」
「……はい,まぁ,慣れているので,どうにかなるかなという状況です。薬飲めば少しは落ち着くと思うので…」
「ほんと…ですか?」
メアリさんは僕の顔を見るとひどく心配した。先ほどよりも悪くなっているのだろう。
「…大丈夫です。ただ,部屋まで,1人で行けそうにないという感じです…。すいません」
「それは…。肩を貸せばいい感じですか?それとも誰か呼んできた方がいいですか?」
「…どちらでも大丈夫…です。ただ…」
「ただ?」
「坊ちゃんには見せないようにしたいと思いまして…。こんな姿見せたら,またトラウマになってしまいかねないなと…」
だから,すぐにでも坊ちゃんの部屋から出ないといけないと思った。
「そうですね…。では,私が肩を貸しますから,行きましょう」
メアリさんは僕の腕をとって肩に回した。
「あ…ありがとうございます」
「いえ,いいんですよ。大変な時は,助け合うそれはここでは大切なことなのですから。では、立てますか?」
メアリさんはしゃがんだ状態で僕に聞いてくれた。
「立ちます」
ゆっくりとメアリさんは立ち上がってくれた。
「メアリさん,ありがとうございます」
「いえいいんですよ。それより,歩けますか?」
「なんとか…」
足をふらつかせながらもどうにか一歩を前に出した。
「では,お部屋に向かいましょう」
メアリさんは僕が倒れないように支えてゆっくりと進み出してくれる。
そうして,坊ちゃんの夕食が終わるくらいの時間にようやく自分の部屋へと着いた。
「どうにか,なりましたね」
「はい,本当にありがとうございます。もう大丈夫です」
今日出会ったばかりなのに優しくしてくれる。そんな人がいる職場でよかったと思った。自分の性も理解してくれている人ばかりとは限らないと思っていたから。
「では,私は仕事に戻りますね」
「はい。本当に今回はありがとうございます」
どうにか1人で立って,頭を下げた。これ以上心配させないように。
「いいんですよ。これからも頼ってくださいね。それに,もう座ったほうがいいですよ」
僕の肩に手を置きベッドに座らせた。
「はい…ほんともう大丈夫ですから。仕事戻ってください」
これ以上メアリさんの仕事を邪魔してはいけないそう思った。
「では,本当に仕事戻りますね」
メアリさんはそう言って部屋から出ていった。
部屋には僕1人。そう思うと急に体調が悪くなってきた。
“…はぁ,薬探さないといけないな”と思いながら身体をどうにかこうにか起き上がらせる。
けれど,1人になってすっかり気が抜けているので,そんなことできず,ただ,具合が悪くなっていく。
ダメだと分かっているから手探りで,カバンの中から薬を取り出した。
起き上がることも水で飲むこともだるくて,薬を2、3個出して噛み砕いて喉に通す。
当たり前だけど薬が効くまでに時間が少しかかるから毎回早く効けなんて思う。
次第に,薬が効いてきたのか起き上がるということはできるようになっていった。
けれど,夜もすっかりと更けていたことからその日は寝ることにした。

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