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1章
3話 落ち着いてください
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どのくらい時間が経ったのかわからない。けれど,時間が経つにつれて、次第に坊ちゃんは落ち着きを取り戻し始めた。
「あ,うっ,えっと…。レオ…さん…?」
周りを見渡し,僕を見つけて言う。
「えぇ,そうですよ。…ところで坊ちゃんは大丈夫でしょうか?」
少しは動けるようになった身体を動かして,坊ちゃんの方へと近づく。
「だ,大丈夫…うっ,かわからない。自分が,何をするかわからなくて…っ怖いんだ…」
「怖いですか…そうですね。私の身体は大丈夫ですからどうか怖がらないでください」
自分が誰かを苦しめているそんなふうに思っているんだとしたら,僕にはそうは思わなくていいとはっきり言わないとと思った。
これから,仮にだけれどもプレイをしないといけない関係になるのだから。
「だいじょうぶには、見え、ない…。だって,うっ,辛そうに,見えたもん」
「…そうですね…辛いというよりは驚いたと言う方が正しいですね。それに怖くもありませんでした。だから,本当に身体は大丈夫なのです。それより,坊ちゃんの方が大丈夫でしょうか?」
僕よりも落ち着きはないように見えている。
「…僕は,僕が怖いんだ。怖いのに,どうすればいいのかも,その,ぅっ,わから…なくて,でも,どうにかしないと,いけないのは,うっ,わかっていて…」
うずくまって,泣きながらどうにか声を出しているような状況だった。
その様子を見ていると昔の自分にどことなく似ていると思った。不安で心配でたまらなかったあの頃に。
それでも僕には,兄がいて兄が色々考えてくれた。だから,どうにか今まで自分の性を呪わず,受け入れることができている。けれど,坊ちゃんにはそんな人がいない。両親はダイナミクスを持っておらず,周りにもほとんど持っている人はいないから。
だから,僕がどうにかしないといけない、そんな責任感は必然的に湧いてきた。
「あ,あの,坊ちゃん触れても,よろしいでしょうか?」
坊ちゃんに触れられる距離まで近づいて,聞いてみる。
本当は了承がなくても触れたいと思った。落ち着かせるために。
「え……嫌じゃ,ないの?」
顔を少し上げ,不思議そうな様子で僕に言った。
「嫌,じゃないですよ」
「ぇっ…」とびっくりした表情になりながらも,こくりと頷いて了承してくれた。
僕はうずくまっている坊ちゃんの手に触れて坊ちゃんの手を両手で挟むようにしてぎゅっと握った。
「ほら,大丈夫ですよ。触っても何も起こりませよ。それに,私が辛くも見えないと思いますよ?」
「で,でも,さっきは…」
下を向いていた顔は,上がり僕と目が合った。
「…大丈夫ですから,ほら」
その手を自分の方へと持ってきて,坊ちゃんを抱きしめる形にして落ち着かせることにした。
兄が昔やってくれて安心したことを思い出して。
「僕のこと,怖く…ないの?」
「怖くないですよ。私の兄も坊ちゃんと同じ性を持っておりますから。それに,坊ちゃんがお優しいことはお話をしているとわかりましたから。私は怖くありませんよ」
正直,突然コマンドを使われて身体は気持ちが悪かった。けれど,坊ちゃんの方が辛そうに見えたから、どうにか普通を保っていないといけないと脳が言っていた。
「ほんと…?」
「ほんとですよ」
不安にさせないように,笑顔で応える。
「…みんな,僕のことを嫌な目で見るんだ。嫌な目で見て,そして近づいてもこないんだ」
僕は黙って坊ちゃんの話を聞いた。
坊ちゃんがDomだと分かってから今日までのこと。
坊ちゃん曰く,坊ちゃんがDomだと分かってからは,みんな坊ちゃんと距離を取るようになっていったらしい。
他の人よりもずっと早くにダイナミクスが出てしまったから。
「そうだったのですね。坊ちゃん,頑張りましたね」
僕は,坊ちゃんの頭を撫でて落ち着かせる。
「僕,がんばった…の?」
「はい,がんばりましたよ。お一人で。さぞ辛かったでしょう」
自分は1人じゃなかった。それがどんなに良かったのか今改めて知った。
「僕,本当に辛かった…。自分が自分じゃないみたいで…」
そう言うと,僕の胸にしがみついて,声をあげて泣き始めた。
まだ10歳の子ども。なのに,悩みを1人で抱えながら生きていたのだとこの時知った。僕は坊ちゃんになるべく幸せを感じられる生活が送れるようにしないとなと思った。
僕の二の舞にならないように。
「…レオ,さん,あの,ありがとうございます」
「私は,何にもしてないですよ。それより,坊ちゃん,落ち着きましたか?」
「うん…もう,大丈夫だと,思う」
泣き腫らした目は赤く,まだ涙は出ていた,それでも,少しは顔色も良くなっているように見えた。
「良かったです」
「そ,それで,レオ…さんはこれから僕と一緒にい,いてくれるの?」
嫌だと言ってしまったからなのか、それとも無意識に命令を使ってしまったからなのか。不安そうに聞いてくる。
「えぇ,もちろん一緒におりますよ。坊ちゃんのお世話係兼執事なのですから」
「ほんと…に一緒にいてくれる?」
「本当ですから、そんなご心配になさらないでくれると嬉しいです」
精一杯の笑顔になって言う。心を閉ざされないように。安心してくれるように。
「…それなら,僕も嬉しい」
坊ちゃんは笑顔になって応えた。
この笑顔を僕は守っていかなければそんなふうに思う。
「あ,うっ,えっと…。レオ…さん…?」
周りを見渡し,僕を見つけて言う。
「えぇ,そうですよ。…ところで坊ちゃんは大丈夫でしょうか?」
少しは動けるようになった身体を動かして,坊ちゃんの方へと近づく。
「だ,大丈夫…うっ,かわからない。自分が,何をするかわからなくて…っ怖いんだ…」
「怖いですか…そうですね。私の身体は大丈夫ですからどうか怖がらないでください」
自分が誰かを苦しめているそんなふうに思っているんだとしたら,僕にはそうは思わなくていいとはっきり言わないとと思った。
これから,仮にだけれどもプレイをしないといけない関係になるのだから。
「だいじょうぶには、見え、ない…。だって,うっ,辛そうに,見えたもん」
「…そうですね…辛いというよりは驚いたと言う方が正しいですね。それに怖くもありませんでした。だから,本当に身体は大丈夫なのです。それより,坊ちゃんの方が大丈夫でしょうか?」
僕よりも落ち着きはないように見えている。
「…僕は,僕が怖いんだ。怖いのに,どうすればいいのかも,その,ぅっ,わから…なくて,でも,どうにかしないと,いけないのは,うっ,わかっていて…」
うずくまって,泣きながらどうにか声を出しているような状況だった。
その様子を見ていると昔の自分にどことなく似ていると思った。不安で心配でたまらなかったあの頃に。
それでも僕には,兄がいて兄が色々考えてくれた。だから,どうにか今まで自分の性を呪わず,受け入れることができている。けれど,坊ちゃんにはそんな人がいない。両親はダイナミクスを持っておらず,周りにもほとんど持っている人はいないから。
だから,僕がどうにかしないといけない、そんな責任感は必然的に湧いてきた。
「あ,あの,坊ちゃん触れても,よろしいでしょうか?」
坊ちゃんに触れられる距離まで近づいて,聞いてみる。
本当は了承がなくても触れたいと思った。落ち着かせるために。
「え……嫌じゃ,ないの?」
顔を少し上げ,不思議そうな様子で僕に言った。
「嫌,じゃないですよ」
「ぇっ…」とびっくりした表情になりながらも,こくりと頷いて了承してくれた。
僕はうずくまっている坊ちゃんの手に触れて坊ちゃんの手を両手で挟むようにしてぎゅっと握った。
「ほら,大丈夫ですよ。触っても何も起こりませよ。それに,私が辛くも見えないと思いますよ?」
「で,でも,さっきは…」
下を向いていた顔は,上がり僕と目が合った。
「…大丈夫ですから,ほら」
その手を自分の方へと持ってきて,坊ちゃんを抱きしめる形にして落ち着かせることにした。
兄が昔やってくれて安心したことを思い出して。
「僕のこと,怖く…ないの?」
「怖くないですよ。私の兄も坊ちゃんと同じ性を持っておりますから。それに,坊ちゃんがお優しいことはお話をしているとわかりましたから。私は怖くありませんよ」
正直,突然コマンドを使われて身体は気持ちが悪かった。けれど,坊ちゃんの方が辛そうに見えたから、どうにか普通を保っていないといけないと脳が言っていた。
「ほんと…?」
「ほんとですよ」
不安にさせないように,笑顔で応える。
「…みんな,僕のことを嫌な目で見るんだ。嫌な目で見て,そして近づいてもこないんだ」
僕は黙って坊ちゃんの話を聞いた。
坊ちゃんがDomだと分かってから今日までのこと。
坊ちゃん曰く,坊ちゃんがDomだと分かってからは,みんな坊ちゃんと距離を取るようになっていったらしい。
他の人よりもずっと早くにダイナミクスが出てしまったから。
「そうだったのですね。坊ちゃん,頑張りましたね」
僕は,坊ちゃんの頭を撫でて落ち着かせる。
「僕,がんばった…の?」
「はい,がんばりましたよ。お一人で。さぞ辛かったでしょう」
自分は1人じゃなかった。それがどんなに良かったのか今改めて知った。
「僕,本当に辛かった…。自分が自分じゃないみたいで…」
そう言うと,僕の胸にしがみついて,声をあげて泣き始めた。
まだ10歳の子ども。なのに,悩みを1人で抱えながら生きていたのだとこの時知った。僕は坊ちゃんになるべく幸せを感じられる生活が送れるようにしないとなと思った。
僕の二の舞にならないように。
「…レオ,さん,あの,ありがとうございます」
「私は,何にもしてないですよ。それより,坊ちゃん,落ち着きましたか?」
「うん…もう,大丈夫だと,思う」
泣き腫らした目は赤く,まだ涙は出ていた,それでも,少しは顔色も良くなっているように見えた。
「良かったです」
「そ,それで,レオ…さんはこれから僕と一緒にい,いてくれるの?」
嫌だと言ってしまったからなのか、それとも無意識に命令を使ってしまったからなのか。不安そうに聞いてくる。
「えぇ,もちろん一緒におりますよ。坊ちゃんのお世話係兼執事なのですから」
「ほんと…に一緒にいてくれる?」
「本当ですから、そんなご心配になさらないでくれると嬉しいです」
精一杯の笑顔になって言う。心を閉ざされないように。安心してくれるように。
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この笑顔を僕は守っていかなければそんなふうに思う。
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