坊ちゃんと執事の日々のお話

紫雲もか

文字の大きさ
上 下
5 / 73
1章

3話 落ち着いてください

しおりを挟む
どのくらい時間が経ったのかわからない。けれど,時間が経つにつれて、次第に坊ちゃんは落ち着きを取り戻し始めた。
「あ,うっ,えっと…。レオ…さん…?」
周りを見渡し,僕を見つけて言う。
「えぇ,そうですよ。…ところで坊ちゃんは大丈夫でしょうか?」
少しは動けるようになった身体を動かして,坊ちゃんの方へと近づく。
「だ,大丈夫…うっ,かわからない。自分が,何をするかわからなくて…っ怖いんだ…」
「怖いですか…そうですね。わたくしの身体は大丈夫ですからどうか怖がらないでください」
自分が誰かを苦しめているそんなふうに思っているんだとしたら,僕にはそうは思わなくていいとはっきり言わないとと思った。
これから,仮にだけれどもプレイをしないといけない関係になるのだから。
「だいじょうぶには、見え、ない…。だって,うっ,辛そうに,見えたもん」
「…そうですね…辛いというよりはと言う方が正しいですね。それに怖くもありませんでした。だから,本当に身体は大丈夫なのです。それより,坊ちゃんの方が大丈夫でしょうか?」
僕よりも落ち着きはないように見えている。
「…僕は,僕が怖いんだ。怖いのに,どうすればいいのかも,その,ぅっ,わから…なくて,でも,どうにかしないと,いけないのは,うっ,わかっていて…」
うずくまって,泣きながらどうにか声を出しているような状況だった。
その様子を見ていると昔の自分にどことなく似ていると思った。不安で心配でたまらなかったあの頃に。
それでも僕には,兄がいて兄が色々考えてくれた。だから,どうにか今まで自分の性を呪わず,受け入れることができている。けれど,坊ちゃんにはそんな人がいない。両親はダイナミクスを持っておらず,周りにもほとんど持っている人はいないから。
だから,僕がどうにかしないといけない、そんな責任感は必然的に湧いてきた。
「あ,あの,坊ちゃん触れても,よろしいでしょうか?」
坊ちゃんに触れられる距離まで近づいて,聞いてみる。
本当は了承がなくても触れたいと思った。落ち着かせるために。
「え……嫌じゃ,ないの?」
顔を少し上げ,不思議そうな様子で僕に言った。
「嫌,じゃないですよ」
「ぇっ…」とびっくりした表情になりながらも,こくりと頷いて了承してくれた。
僕はうずくまっている坊ちゃんの手に触れて坊ちゃんの手を両手で挟むようにしてぎゅっと握った。
「ほら,大丈夫ですよ。触っても何も起こりませよ。それに,私が辛くも見えないと思いますよ?」
「で,でも,さっきは…」
下を向いていた顔は,上がり僕と目が合った。
「…大丈夫ですから,ほら」
その手を自分の方へと持ってきて,坊ちゃんを抱きしめる形にして落ち着かせることにした。
兄が昔やってくれて安心したことを思い出して。
「僕のこと,怖く…ないの?」
「怖くないですよ。私の兄も坊ちゃんと同じ性を持っておりますから。それに,坊ちゃんがお優しいことはお話をしているとわかりましたから。私は怖くありませんよ」
正直,突然コマンドを使われて身体は気持ちが悪かった。けれど,坊ちゃんの方が辛そうに見えたから、どうにか普通を保っていないといけないと脳が言っていた。
「ほんと…?」
「ほんとですよ」
不安にさせないように,笑顔で応える。
「…みんな,僕のことを嫌な目で見るんだ。嫌な目で見て,そして近づいてもこないんだ」
僕は黙って坊ちゃんの話を聞いた。
坊ちゃんがDomだと分かってから今日までのこと。
坊ちゃん曰く,坊ちゃんがDomだと分かってからは,みんな坊ちゃんと距離を取るようになっていったらしい。
他の人よりもずっと早くにダイナミクスが出てしまったから。
「そうだったのですね。坊ちゃん,頑張りましたね」 
僕は,坊ちゃんの頭を撫でて落ち着かせる。
「僕,がんばった…の?」
「はい,がんばりましたよ。お一人で。さぞ辛かったでしょう」
自分は1人じゃなかった。それがどんなに良かったのか今改めて知った。
「僕,本当に辛かった…。自分が自分じゃないみたいで…」
そう言うと,僕の胸にしがみついて,声をあげて泣き始めた。
まだ10歳の子ども。なのに,悩みを1人で抱えながら生きていたのだとこの時知った。僕は坊ちゃんになるべく幸せを感じられる生活が送れるようにしないとなと思った。
僕の二の舞にならないように。
「…レオ,さん,あの,ありがとうございます」
「私は,何にもしてないですよ。それより,坊ちゃん,落ち着きましたか?」
「うん…もう,大丈夫だと,思う」
泣き腫らした目は赤く,まだ涙は出ていた,それでも,少しは顔色も良くなっているように見えた。
「良かったです」
「そ,それで,レオ…さんはこれから僕と一緒にい,いてくれるの?」
嫌だと言ってしまったからなのか、それとも無意識に命令コマンドを使ってしまったからなのか。不安そうに聞いてくる。
「えぇ,もちろん一緒におりますよ。坊ちゃんのお世話係兼執事なのですから」
「ほんと…に一緒にいてくれる?」
「本当ですから、そんなご心配になさらないでくれると嬉しいです」
精一杯の笑顔になって言う。心を閉ざされないように。安心してくれるように。
「…それなら,僕も嬉しい」
坊ちゃんは笑顔になって応えた。
この笑顔を僕は守っていかなければそんなふうに思う。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

モテ男×盲目ボーイ

おもち
BL
クラスのカーストトップのイケメンモテ男×盲目ボーイのBL。 イケメンくんが盲目くんに猛アタックしてほしい。

処理中です...