坊ちゃんと執事の日々のお話

紫雲もか

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1章

2話 初めまして

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そうして,正式にお屋敷で働くことになってから3日の月日が過ぎていった。
いよいよ,今日から本格的に働き始めるそんな日。
「いってきます」
当分は戻らない自分の家に名残惜しさを感じつつ,頑張らないといけないと意気込んで家を出る。
これまでは兄に頼ってばかりで,兄にはたくさんの心配をさせてきている。だから,これで少しは安心してくれるといいなとも思う。
お屋敷までは,家から馬車に乗って30分。
お屋敷の前まで行くと,どこか緊張した。
違う家行くということをほとんどしたことが無かったし,働くということに関してはそもそも初めてだったから。
「ふぅ…」と深呼吸をしてドアをノックする。
少ししてからドアが開いて,前回とは違う女性が僕を出迎えてくれた。
「はい…」
「…こ、こんにちは,本日からお世話になります、レオと申します」
緊張で噛んでしまって恥ずかしいと思ったけれど,その方はそれを気にしてないかのように振る舞う。
「はい。レオさんですね。お待ちしておりました。私はメイド長をしております,メアリ,と申します。以後、よろしくお願いします」
笑顔が素敵で感じのいい人だなと思った。
「よろしくお願いします」
僕は敬意をこめて深々と頭を下げた。
「はい,ではご案内しますね」
「ありがとうございます」
今回は正式に従業員になるので,僕が生活する部屋へと案内してもらう。
従業員の部屋はお屋敷の奥に位置しており,玄関からは一番遠いところにあった。
「こちらになります」
そう案内された部屋は、1人部屋で家で暮らしていた部屋よりかは多少狭いものの,生活するには十分な広さの部屋だった。
「ありがとうございます」
「いえ,大丈夫ですよ。いつでもこれからは頼ってくださいね」
「…ありがとうございます」
「…では、私はこれで失礼しますね」
メアリさんはそう言って,自分の仕事へと戻っていった。忙しそうにしていたので,やっぱり申し訳ないなと思った。
僕は部屋に入るとすぐにトランクをベッドに置き,持ってきた服をクローゼットに入れて,他にも本などを机の上に置いた。
さっきまでは何にもない殺風景な部屋が自分の部屋へと変わっていく。そこにはどこか楽しさを感じた。
そして,ベッドには蝶ネクタイとシャツ,燕尾服が置かれていたのでそれに着替えた。
着替え終わるとどこか自分じゃないみたいに見えて,ワクワクする。
そう思いながら,部屋でくつろいでいると,コンコンとドアの方が鳴る。
「はい」
ドアを開けるとそこには旦那様と奥様が来ていた。
何かしたのか,挨拶を最初にしないといけなかったのかとふと不安になる。
「あ,あの,挨拶が遅れて申し訳ありません」 
「挨拶…?…あぁそれなら大丈夫だよ。それより,息子と会ってほしくてね。息子のお世話係…?いや執事ともいうかな…」
になるのかと改めて聞いて不安になる。僕は,そこに関してしっかりとした教育を受けてはいない。だから,どんな仕事をするのかいまいちよく分かってなかったりする。
「その…僕で本当に大丈夫でしょうか?」
「大丈夫かどうか今はわからない。けど,レオくん,君が大丈夫にしてくれるとは思っているから,そんなに不安そうな顔しないで欲しいな」
そこまで言われると不安があっても腹を括るしかないと思った。
それに,坊ちゃんはどんな人物なんだろうとワクワクしたりもしている。このご両親によって育てられた方だから,さぞかしお優しい方なのだろうと思った。
「…わかりました。精進させていただきます」
「うん。では,息子の部屋に案内するね。僕たちについてきてくれればいいから」
「はい」  
旦那様たちが進む方へとついて行くと,大きな豪華な部屋へとやってきた。
「ここにいるんだけど,ほんの少しここで待っていてもらってもいいかな?」
「はい。こちらでお待ちしております」
僕はドアの前に立って待ち,旦那様と奥様は部屋へと入っていった。
何を話しているのだろうと思いながら,待つ時間はほんの少し長く感じた。
「お待たせ,待たせてごめんね。今,息子も色々とあってね。塞ぎ込みがちなんだよ。でも,入っても大丈夫だから挨拶はして欲しい」
「はい,ご挨拶。ぜひさせていただきます」
僕はそう言って,旦那様,奥様に続いてその部屋へと入った。
部屋には,顔色が悪く,体調も良くなさそうな10歳の男の子がいる。
この方が,ご子息なのかと少し驚く。もっと,元気なものだと思っていたから。
普通10歳と聞いたらパワフルで元気いっぱいというイメージ。というか,僕はそうだった気がする。
「初めまして,レオと申します」
旦那様の後ろに隠れている坊ちゃんの目線に合わせてほんの少ししゃがんで挨拶をした。それを知ってか坊ちゃんはちゃんとこちらを覗いてくる。
「ほら,今日からお前のお世話係兼執事になるレオくんだよ。挨拶しなさい」
後ろに隠れていたけれど,旦那様の前へと連れてこられて,挨拶をする。
「え,僕は…,カインと言います。えっと,よろしくお願いします」
「はい,これからよろしくお願いしますね」
そうして,膝まずき,坊ちゃんと目を何にも隔てないで合わせた。
「う,うん」
坊ちゃんは返事をしながらも浮かない顔をしている。
何か嫌なことでもあるのかと思ったけれど,すぐに戻ったのでただ緊張しているだけだとこの時僕は思った。
そんな会話を見ている旦那様と奥様は「では,僕たちはもう行かせてもらうね。これから仲良くね」とだけを言い残し,部屋を出ていった。
ここには坊ちゃんと僕の2人。
特に話すこともなく,そこから少しの間,無音な時間が続いた。
「え,あ,あの,レオさんは,これから僕とずっと一緒にいるの?」
「そうですね。お世話係兼執事ですので,坊ちゃんとなるべく一緒におりますよ。それと,レオとお呼びください」
一緒にいるのが嫌なのか暗い顔になる。
「そ,その,僕は人を傷つけるような人間だから,い,一緒にいない方がいいと思う…だだから,これ以上は近づかないで」
自分がDomだとわかってそんなに時間が経っていないということは知っていた。
でも,こんなに自分の性を怖がっているということは聞いてなかったし,知らなかった。それに,Domはどこかそんな気持ちになるなんてことないと思っていた。
「その,坊ちゃん…」
僕は大丈夫だという意味を込めて,坊ちゃんの肩に手を置いた。
「いや…だから…その,こっちに来ないで。そこから動かないで…」
僕の手を退けて,勢いよく言い放った。
「あ,申し訳ありません」
僕はそれをコマンドだと認知して,動けなかなる。
どうしようと悩んでいると,坊ちゃんの方から声が聞こえてきた。
「…え,ごめんなさい。ごめんなさい」
僕の異変を察知したのかパニックに陥って,うずくまってしまっている。
どうにか僕がしないといけないそんなふうに頭では考えているのに,身体はやはりコマンドを突然使われて動けなくなっている。
「はぁ…,あの,坊ちゃん,大丈夫でしょうか?」
どうにか言葉を声にした。
けれど,声は坊ちゃんの耳には響いてなくて,僕は坊ちゃんが落ち着くのを待つ以外の方法が見つからなかった。
僕はというと割と落ちついて今のことを対処することができていた。というのも,今までのことがあったから。


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