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プロローグ
2話
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病院にやってくると,受付で問診票を書いた。
必要なことだとわかっているけれど,ダイナミクスを書く欄を見ると書きたくないという抵抗感がついてまわった。
バラされるとか何か酷いことをされるとかそんなこと当たり前のようにないってわかってる。
けれど,やっぱり恐怖は消えないものだった。
「大丈夫か?」
兄は止まった僕を心配してかそう言った。けれど,兄も見てもらってる病院だったのもあって,兄はいつも通り落ち着いている。
「別に,大丈夫。なんとなく,どんな感じかわからなくて緊張しているだけ…」
怖くなっているとか,不安になっているとかそんな言葉を使ったらどこか本当になってしまうのではないかと思った。
「そうか。まあ,大丈夫だと思う。いい先生だから」
兄がいい先生なんて言うくらいだから,本当にいい先生なんだろう。
そうして,名前が呼ばれ,診察室へと行く。
診察室のドアが開かれると,先生だと思える優しそうな初老の男性が椅子に座っていた。他には看護師さんが1人隣に立っている。
そして,先生の向かい側には椅子が一つ置かれていた。
「レオくんで間違ってないかな?」
入るなり質問をされる。
「あ,はい…間違っていません」
「では,ここに座って少しお話をしようね」
そう言われたので,僕は頷き,椅子に腰掛ける。
「じゃあ一つ目の質問をするね。レオくん,今日が自分のダイナミクスがわかって初めての診察かな?」
優しい口調だった。不安にならないように,ゆったりと僕の耳に届くそんな声で。
「…はい。昨日分かったばかりなので…」
「そうか。それは大変だったね」
「まぁ…はい」
「大丈夫。そんな心配そうな顔しないで。Subだからと言って,普通に生活できないわけではないから」
僕の不安を取り除くかのように丁寧にそこからダイナミクスについての説明をしてくれた。
Dom,Subだからといっても,欲求が溜まるだけで,それを解消していれば普通に生活ができるし,それを今なら薬でどうにかすることもできる。だから,心配する必要はないと。
そして,何より僕の心を軽くしてくれたのは,DomでもSubでもどちらも欲求を消化しないといけないのは一緒で対等であり、どちらも尊重されないといけないこと。
「だから,心配なことはたくさんあると思うけど,向き合っていこうね」
説明を丁寧にされて,僕は心がほんの少し軽くなっていった。
「はい…」
「他に質問はない?」
僕はそう聞かれて少し考えた。
「…一つあります」
「何かな?」
「その,コマンドを何も決めないで突然使われたらどうすればいいですか?」
難しい顔をしながら,先生は口を開く。
「うん…。それがないのが一番だね。だけど,実際,事件として起きているね。もちろん,そんなことがあったらすぐに僕のところにおいで。どうにか薬とかで楽にしてあげることはできるから…。ごめんね。こんなことしか言ってあげられないで。余計に不安にさせちゃったね。ごめんね」
先生は,悲しい顔をしていた。
今までにそんな人たちが何人もいたのだと悟った。同時に自分にも起きないことじゃないのだと感じて,どう反応すればいいかわからなくなる。
言葉をどう出せば,どの言葉を出せばいいのかわからなくなって口は開こうと声は出そうとしているのに全く出なかった。
「…定期的に相談にも乗るから、来てくれて大丈夫だよ」
「ありがとうございます」
そう答えるしかできなかった。先生の表情と想いを聞くと。
「じゃあ,薬は受付でもらってね」
「はい,ありがとうございます」
僕は礼をして診察室から出た。
不安や心配が全部消えたわけではなかったけれど,ほんの少し未来に希望が持てた気がした。
受付で薬をもらい,その日から定期的に薬を飲んでいてお陰で欲求不満になることはなかった。
必要なことだとわかっているけれど,ダイナミクスを書く欄を見ると書きたくないという抵抗感がついてまわった。
バラされるとか何か酷いことをされるとかそんなこと当たり前のようにないってわかってる。
けれど,やっぱり恐怖は消えないものだった。
「大丈夫か?」
兄は止まった僕を心配してかそう言った。けれど,兄も見てもらってる病院だったのもあって,兄はいつも通り落ち着いている。
「別に,大丈夫。なんとなく,どんな感じかわからなくて緊張しているだけ…」
怖くなっているとか,不安になっているとかそんな言葉を使ったらどこか本当になってしまうのではないかと思った。
「そうか。まあ,大丈夫だと思う。いい先生だから」
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そうして,名前が呼ばれ,診察室へと行く。
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「じゃあ一つ目の質問をするね。レオくん,今日が自分のダイナミクスがわかって初めての診察かな?」
優しい口調だった。不安にならないように,ゆったりと僕の耳に届くそんな声で。
「…はい。昨日分かったばかりなので…」
「そうか。それは大変だったね」
「まぁ…はい」
「大丈夫。そんな心配そうな顔しないで。Subだからと言って,普通に生活できないわけではないから」
僕の不安を取り除くかのように丁寧にそこからダイナミクスについての説明をしてくれた。
Dom,Subだからといっても,欲求が溜まるだけで,それを解消していれば普通に生活ができるし,それを今なら薬でどうにかすることもできる。だから,心配する必要はないと。
そして,何より僕の心を軽くしてくれたのは,DomでもSubでもどちらも欲求を消化しないといけないのは一緒で対等であり、どちらも尊重されないといけないこと。
「だから,心配なことはたくさんあると思うけど,向き合っていこうね」
説明を丁寧にされて,僕は心がほんの少し軽くなっていった。
「はい…」
「他に質問はない?」
僕はそう聞かれて少し考えた。
「…一つあります」
「何かな?」
「その,コマンドを何も決めないで突然使われたらどうすればいいですか?」
難しい顔をしながら,先生は口を開く。
「うん…。それがないのが一番だね。だけど,実際,事件として起きているね。もちろん,そんなことがあったらすぐに僕のところにおいで。どうにか薬とかで楽にしてあげることはできるから…。ごめんね。こんなことしか言ってあげられないで。余計に不安にさせちゃったね。ごめんね」
先生は,悲しい顔をしていた。
今までにそんな人たちが何人もいたのだと悟った。同時に自分にも起きないことじゃないのだと感じて,どう反応すればいいかわからなくなる。
言葉をどう出せば,どの言葉を出せばいいのかわからなくなって口は開こうと声は出そうとしているのに全く出なかった。
「…定期的に相談にも乗るから、来てくれて大丈夫だよ」
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「じゃあ,薬は受付でもらってね」
「はい,ありがとうございます」
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