坊ちゃんと執事の日々のお話

紫雲もか

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1話

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検査結果の紙を見た瞬間。
言葉を失ったかのように,全く声が出なかった。
周りに人がいたからバレないようにといつも通りをどうにか装う。けれど,心の中はぐちゃぐちゃで気持ちが悪かった。

この世界は男女の他に,第二の性と呼ばれるダイナミクスが存在する。
ダイナミクスというのはNormal,Dom,Subに大きく分けられ,ほかにもswitchが存在する。
家族や親戚のみんなは、Normalという特に何にも特性を持っていない人たちであり,その人たちがこの世の中で一番多い。
唯一兄だけがDomとよばれる特性を持っている。
Domというのは,人を支配したいという欲求があり,それを消化しないとさまざまな症状が出てしまう。
というような感じで,自分もNormalかもしくはDomなんだろうと勝手に思っていた。
けれど,目の前にある検査結果には,Subと書いてある。
SubというのはDomと反対に位置されていて,人に支配されたいという特性を持っている。
それを消化しないとこれもまたさまざま症状が出てくる。
switchというのは両方の特性を持っている人。僕は,まだ出会ったことがないから詳しくは知らない。
目の前の紙に書いてあることを見て,どうして,そんな結果になったのだろうと思った。
けれど,どうすることもできないそんな当たり前のことは理解していた。と言うよりどこか諦めに近かったように思う。
そして,確かにその瞬間,心はずしりと重くなった。
「あの,僕…」
「ん,どうした?」
リビングでソファーに座っている,兄に話しかける。
どうにかしてくれるかもしれない。そんなふうに思って。
「これ…」
自分では言葉に出したくなくて,紙だけを渡した。
兄は紙を見てうなづく。
「うん…これがどうした?」
僕の言わんとしていることが,わからないのか気にしてないと言うようなそんなそぶりを見せる。
「どうした?って,検査結果。僕,Subなんだって。どうして…なんで?僕が…って嫌だって…思った…だから,兄さんに相談して,それで…」
自分が思っているよりも声が出て,震えているのがわかった。
ものすごく動揺していたんだとはっきり理解した。
「どうして…か…。それは,わからない。ただ、向き合って行くしかないのは確かなことだと思う。受け入れるのは難しいかもしれないけどな。受け入れるしかないことではあるからな」
まるで子どもを諭すかのようにポンと僕の頭に手をおいて話す。
兄だって、それなりに苦労をしているのだろうとその話を聞いて思った。
僕としたら,subよりはよく見えたけど…。
「じゃあ…どうすればいい?」  
なるべく落ち着きを保ちながら言う。受け入れるしかない事実だとちゃんとちゃんと頭では理解して。
「あぁ,そう言うことか…。明日,時間あるか?」
明日なにかあったけ?と一瞬考えた。
「特に,何にもなかったと思う」
「そうか.なら,明日,医者に診てもらって薬もらいにいこうな」
「あ,うん」
そんなふうにとんとん拍子で決まっていく。
自分が,ダイナミクスを持っていると知ってすぐに。
けれどこの時ほど,兄がダイナミクスを持っていてよかったと思ったことはなかった。自分1人だとどうすることもできなかったように思うから。
それでも,辛さと怖さは消えない。別に医者に診てもらいたくないわけでも薬を飲みたくないわけでもない。
ただ、今まで誰かに支配されたいと思ったことも,欲求不満を感じたこともなかった。だから,こんな結果になるとは思っておらず心が一向に追いついてこなかった。
「大丈夫か?」
僕が相当ひどい顔をしていたのだろう。
兄は僕の顔を覗き込んで心配そうな顔をした。
「…うん。大丈夫…では,ないと思う」
「そうか…。だよな。ごめんな。気のいい言葉かけたりすること、俺ができなくて。ただ,不安なのはなんとなくわかるからいつでも相談してくれていいからな」
兄は兄なりに心配をしてくれているのはわかった。
兄もDomだってわかったとき,家族や親戚中がすごく驚いて動揺していたように思うから。
でも,まだDomだったからコマンドの使い方を気をつければ一旦はどうにかなった。
もちろんすぐに,医者に行って,薬ももらっている。
けれど,Subはそれだけではいけない。コマンドを使われる可能性が社会にはいくらでも転がっているからだ。
そのコマンドの前ではどうすることもできなく,自制だけではどうにかすることは無理がある。
「ありがとう」
「ん…。じゃあ,明日行くからな」
兄はそう言って,自分の部屋へと引き上げた。
兄と僕の歳の差は4歳。
兄は,現在18歳やっぱり大人だなと思う。
次の日の朝,いつもとなんら変わらない日だった。
日が昇り,カーテン越しからでも日が入ってきていることがわかるくらいにいい天気。
なのに,心の中はずっと雨が降っているかのように暗い気分。
「おはよう」
兄は昨日と同じようにリビングで座っていた。
「おはよう。準備できたか?」
振り返り聞いてくる。
兄はすでに着替えを済ませており,いつでも出かけられるそんな格好だった。
「準備はできたけど…どうしても今日行かないとダメ?」
「ダメではないが,早く行ったほうがいいとは思う」
「わかってる…けど…」
「まだ受け入れられないのか?」
「そ,それは…」
否定したいと思った。
昨日,十分,頭では考えたから。でも,否定できなかった。
「なら,余計に行ったほうがいい」
「…どうして?」
不思議だった。行ったほうが不安が増大するように感じたから。
嫌なことも説明されるだろうと。
「DomやSubについて説明してくれるから丁寧に。いいと思ったんだ」
「…わかった…今日,いく」
兄がそんなに言うならと思い,結局行くことにした。



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