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女子高生、異世界へ行く。
本から飛び出て、なんとやら。3
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そんな会話の後、ゲートを使いお店まで戻ってきた。次の日からはすぐにバイト復帰である。久しぶりのお店、久しぶりのホール仕事、久しぶりのお客さん達。「少しだけ魔術使えるようになったんですよー」なんて言うと「良かったね~」「やっとかー!」などとお祝いの言葉をもらった。みんな私が遅い上に修行に出されていたので心配してくれていたらしい。いつになったらできるようになるかと思った。1年かかるに掛けてたのに。という声を聞こえた時には殴ろうかと思ったけども。
彼方さんはいつも通り調理場での仕事を悠々とこなしているし、ほかのメンバーも相変わらずだ。少し違うのはレジ横に錬金術師が設置した物販ができてる事、忙しい時にその錬金術師が思う存分こき使われていることくらいだ。
「もォ~ワタクシ、足が棒です!元から長くて細いですけど!」
とかなんとか騒いでいた。スルーしておいた。
魔術の練習は継続で一人もそもそと休憩時間やお店の閉店後に続けている。花火もいい感じに線香花火っぽく作れるようになったし、コツを掴んできたのだと思う。そろそろ他の属性の練習にも移って良いのかもしれない。
だけれど、相変わらずここは夜になればオルが外を徘徊しているし、夜に出て練習しようという気にはなれない。お店を閉めたあとは皆帰ってしまうし、錬金術師などいつの間にか居なくなっている。テレビもあるし、読まなきゃいけない本もあるので特に暇ではないけれど、少しこの静かさが寂しくなるところはある。昼間騒がしいので余計にだ。
実際には、魔術書があるし、呼び出せばターニャちゃんも出てきてくれるのは分かっているのだが、何の用事もないのに呼び出すのもどうかなと思ってしまうのである。気遣いという日本人の悲しい性なのだろう。この思考がなければ秒で呼び出してた。
「日本人って悲しい性背負ってんな……」
それは違うよ!と言われそうな気もする結論をボソリと呟くと机に突っ伏した。目の前には魔術書の背表紙がドアップで映っている。無性につつきたくなって、ツンツンツンツンとつつき続けると本が触るなと言うように震えた。
どうやら、この本には意思がある、と言うのは本当の様で、話しかけたりつついたりするとこうやって反応が返ってくる。ターニャちゃんは呼び出せないが本はつつけるし、つつくと反応があるのでついついつつくし、話しかけたりもする。人語も理解しているようなので、イエスノーで答えられるものならイエスの時に震えるとか条件を固定すれば意思の疎通はできる。ただ話せないので一方的に私が話しかけているだけなのだが。
「お店の人達みんな帰ったあとって暇だな……ひとりだし。一人暮らしとかさぁ、アニメとかだとよくあるけどこの状態でしょ?しかも買い物とかもひとりかぁ……よくできるな……」
私だったら寂し過ぎて家に帰っちゃうね!
そこまで考えて、はた、と気がついた。
何故私は家に帰らなかったのだろう?
「いやいや、ファンタジーの世界ってよくね?ってなって……それで……それで……?」
漠然とした違和感だった。
言うなら、本当に小さな、そう、とても小さな見逃しの存在のみに気がついたかのような。
何故、
何故私は、
帰るという選択肢をいとも簡単に捨てた?
いつでも帰れるから?
あちらではどれほど時間が経っているかも分からないのに?
ここは現代日本じゃない。いつ何があるか分からない。
それなのに何でここに。
小さな疑問は波紋のように広がる。それがたまらなく気持ち悪くて、不安を誘う。
どうしようもない不安にある種の焦りのようなものを覚え始めた時、一階の調理場の方から物が倒れるような音が聞こえたのだ。
さて、問題は今ここには私一人しか居ないことである。
外は既にオルがうろついているので逃げると死ぬ。下に居るのが不審者でも死ぬ。私はそっと今までつついていた本を手に階段を降りることにした。
彼方さんはいつも通り調理場での仕事を悠々とこなしているし、ほかのメンバーも相変わらずだ。少し違うのはレジ横に錬金術師が設置した物販ができてる事、忙しい時にその錬金術師が思う存分こき使われていることくらいだ。
「もォ~ワタクシ、足が棒です!元から長くて細いですけど!」
とかなんとか騒いでいた。スルーしておいた。
魔術の練習は継続で一人もそもそと休憩時間やお店の閉店後に続けている。花火もいい感じに線香花火っぽく作れるようになったし、コツを掴んできたのだと思う。そろそろ他の属性の練習にも移って良いのかもしれない。
だけれど、相変わらずここは夜になればオルが外を徘徊しているし、夜に出て練習しようという気にはなれない。お店を閉めたあとは皆帰ってしまうし、錬金術師などいつの間にか居なくなっている。テレビもあるし、読まなきゃいけない本もあるので特に暇ではないけれど、少しこの静かさが寂しくなるところはある。昼間騒がしいので余計にだ。
実際には、魔術書があるし、呼び出せばターニャちゃんも出てきてくれるのは分かっているのだが、何の用事もないのに呼び出すのもどうかなと思ってしまうのである。気遣いという日本人の悲しい性なのだろう。この思考がなければ秒で呼び出してた。
「日本人って悲しい性背負ってんな……」
それは違うよ!と言われそうな気もする結論をボソリと呟くと机に突っ伏した。目の前には魔術書の背表紙がドアップで映っている。無性につつきたくなって、ツンツンツンツンとつつき続けると本が触るなと言うように震えた。
どうやら、この本には意思がある、と言うのは本当の様で、話しかけたりつついたりするとこうやって反応が返ってくる。ターニャちゃんは呼び出せないが本はつつけるし、つつくと反応があるのでついついつつくし、話しかけたりもする。人語も理解しているようなので、イエスノーで答えられるものならイエスの時に震えるとか条件を固定すれば意思の疎通はできる。ただ話せないので一方的に私が話しかけているだけなのだが。
「お店の人達みんな帰ったあとって暇だな……ひとりだし。一人暮らしとかさぁ、アニメとかだとよくあるけどこの状態でしょ?しかも買い物とかもひとりかぁ……よくできるな……」
私だったら寂し過ぎて家に帰っちゃうね!
そこまで考えて、はた、と気がついた。
何故私は家に帰らなかったのだろう?
「いやいや、ファンタジーの世界ってよくね?ってなって……それで……それで……?」
漠然とした違和感だった。
言うなら、本当に小さな、そう、とても小さな見逃しの存在のみに気がついたかのような。
何故、
何故私は、
帰るという選択肢をいとも簡単に捨てた?
いつでも帰れるから?
あちらではどれほど時間が経っているかも分からないのに?
ここは現代日本じゃない。いつ何があるか分からない。
それなのに何でここに。
小さな疑問は波紋のように広がる。それがたまらなく気持ち悪くて、不安を誘う。
どうしようもない不安にある種の焦りのようなものを覚え始めた時、一階の調理場の方から物が倒れるような音が聞こえたのだ。
さて、問題は今ここには私一人しか居ないことである。
外は既にオルがうろついているので逃げると死ぬ。下に居るのが不審者でも死ぬ。私はそっと今までつついていた本を手に階段を降りることにした。
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