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女子高生、異世界へ行く。
魔術師と一般人とそれから錬金術師
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結局、フィールドワークは当初の予定の半分で引き返す事になったもんで、ダレンさんは残念そうな顔をしていた。胡散臭いイケメンは特に関係ある訳ではなく、ただ単にスコールによって進むのが困難になったためだ。防水ローブに身を包み、ダレンさんの家へ戻る。
「いやー……だいぶ酷い雨でしたね」
「ほんとですよ、おかげで靴が浸水してます」
フリーズする私を他所にダレンさんに「呼んでねぇのに入ってくるな!」「いいじゃないですか減るもんじゃなし!」と玄関ではなく窓から出されそうになりながら必死で抵抗するイケメンの攻防が繰り広げられる。
「そう思いません?!お嬢さん!」
「いや……勝手に人の家に入るのは如何なものかと……」
「ウゥン、シビア!」
私は極々当たり前のことを言ったまでである。シビアとかなんかそういうものでは無いと思う。
「実の所言いますと、ローブ濡れて服まで水が浸透して気持ち悪いのでハンガーとか服を干すスペースとかもお借りしたいんですよね」
「だいぶ自由ですね?」
ここは人の家だということを理解しているだろうか。そもそも私の家でもないが。
「ダレンさん、そもそもこの人誰なんですか」
「トンチキ錬金術師だ」
「トンチキ錬金術師とは失礼ですねェ。ワタクシはしがない錬金術師ですし、そもそもトンチキではないです」
「トンチキ呼びされたのだいぶ根に持ってますね」
「ワタクシの事はルベドとお呼びくださいな」
ルベドと自己紹介したその人はウインクを一つ寄越してきた。
「して、あなたのお名前は?お嬢さん」
「私は」
名前を言おうとした口をダレンさんの手で急に塞がれる。わりと力が強かったのでベチン!と音がした。だいぶ痛い。
「やめとけ、そいつに真名を言うんじゃない」
「あ、え、じゃあ山田花子で……」
「清々しさすら感じる偽名ですねぇ。久しぶり聞きましたよそんなザ!偽名です!って感じの偽名」
堂々と目の前で話をしているのだからもうこの際どうでもいいのではなかろうか。偽名は偽名なのだ。
「まぁ良くないですか?目の前で話してる訳ですし、偽名ですし」と言えばこれまた大袈裟な仕草と共に「開き直りが素早いですね!良いと思います。そういうの」と楽しげに言った。どうやらこの人には皮肉は通じなさそうだ。
彼が言うには、この迷宮内で迷っていた訳では無いらしい。
「いやはや、ワタクシとしてはさっさと通り抜けて南へ行きたかっただけなんですよねぇ。ハイ」
「それならさっさと通り抜けたら良かったじゃないですか」
「それが出来てたらあんなところで木になんてぶら下がってませんよ」
「じゃあなんであんなとこにぶら下がってたんです」
「いえ、帝国軍を見かけましてねェ」
ハーブティーを眺めながら「面倒なんですよね、あの連中」とルベドさんはひとりごちる。
帝国、正式名称はホアンジン帝国。この大陸の中では王国とそう変わらない領土を持つ国で、軍事国家だ。北の大地との境界線に近くにあり、魔術が発達している王国とは反対に科学技術が発達しているらしい。授業でやったのでなんかそこだけ覚えた。
「この迷宮は王国領土なんだがな。あやつら何を考えとるんだか」
「不法侵入的なやつなんですね?」
「まぁそうなんですけども、ちょっときな臭いんですよねぇ。一小隊、しかもこんな迷宮に送り込んでくるなんて。というかアナタ、ここに住んでるのに何も気が付かなかったんですか?」
「住んどるがこんなクソでかい迷宮の事を隅々まで知っとるわけあるか。数日前に黒玄の連中に冒険者組合経由で依頼がいっとる。だがな、異変を嗅ぎとった蜥蜴共が縄張りを広げようと別階層にも出てき始めててそっちの対応に追われとるわ」
彼らの話によれば帝国はあまりよろしい動きはしない国らしい。
ホアンジン帝国という国は、機械化学が発達した国ではあるが、一年中寒く、また天候もあまりよくないため、軍事力で成り立っている国……らしい。なんか元の世界でもそんな話聞いたな、なんて思いながら話を咀嚼する。
「つまり、帝国はあまりよろしい動きはしない国で、この迷宮は王国領土にあるから来ること自体がおかしいから、何か企んでいるのでは?という事ですかね?」
「まぁ大体そういう事ですね」
「儂としてはあまり面倒ごとに首は突っ込みたくないが、今回ばかりはな」
「まぁ自宅の周りに不審者みたいなもんですもんね」
「そうなんだよなぁ」とため息をつくダレンさんの眉間には普段見かけないシワが寄っていた。
「いやー……だいぶ酷い雨でしたね」
「ほんとですよ、おかげで靴が浸水してます」
フリーズする私を他所にダレンさんに「呼んでねぇのに入ってくるな!」「いいじゃないですか減るもんじゃなし!」と玄関ではなく窓から出されそうになりながら必死で抵抗するイケメンの攻防が繰り広げられる。
「そう思いません?!お嬢さん!」
「いや……勝手に人の家に入るのは如何なものかと……」
「ウゥン、シビア!」
私は極々当たり前のことを言ったまでである。シビアとかなんかそういうものでは無いと思う。
「実の所言いますと、ローブ濡れて服まで水が浸透して気持ち悪いのでハンガーとか服を干すスペースとかもお借りしたいんですよね」
「だいぶ自由ですね?」
ここは人の家だということを理解しているだろうか。そもそも私の家でもないが。
「ダレンさん、そもそもこの人誰なんですか」
「トンチキ錬金術師だ」
「トンチキ錬金術師とは失礼ですねェ。ワタクシはしがない錬金術師ですし、そもそもトンチキではないです」
「トンチキ呼びされたのだいぶ根に持ってますね」
「ワタクシの事はルベドとお呼びくださいな」
ルベドと自己紹介したその人はウインクを一つ寄越してきた。
「して、あなたのお名前は?お嬢さん」
「私は」
名前を言おうとした口をダレンさんの手で急に塞がれる。わりと力が強かったのでベチン!と音がした。だいぶ痛い。
「やめとけ、そいつに真名を言うんじゃない」
「あ、え、じゃあ山田花子で……」
「清々しさすら感じる偽名ですねぇ。久しぶり聞きましたよそんなザ!偽名です!って感じの偽名」
堂々と目の前で話をしているのだからもうこの際どうでもいいのではなかろうか。偽名は偽名なのだ。
「まぁ良くないですか?目の前で話してる訳ですし、偽名ですし」と言えばこれまた大袈裟な仕草と共に「開き直りが素早いですね!良いと思います。そういうの」と楽しげに言った。どうやらこの人には皮肉は通じなさそうだ。
彼が言うには、この迷宮内で迷っていた訳では無いらしい。
「いやはや、ワタクシとしてはさっさと通り抜けて南へ行きたかっただけなんですよねぇ。ハイ」
「それならさっさと通り抜けたら良かったじゃないですか」
「それが出来てたらあんなところで木になんてぶら下がってませんよ」
「じゃあなんであんなとこにぶら下がってたんです」
「いえ、帝国軍を見かけましてねェ」
ハーブティーを眺めながら「面倒なんですよね、あの連中」とルベドさんはひとりごちる。
帝国、正式名称はホアンジン帝国。この大陸の中では王国とそう変わらない領土を持つ国で、軍事国家だ。北の大地との境界線に近くにあり、魔術が発達している王国とは反対に科学技術が発達しているらしい。授業でやったのでなんかそこだけ覚えた。
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「不法侵入的なやつなんですね?」
「まぁそうなんですけども、ちょっときな臭いんですよねぇ。一小隊、しかもこんな迷宮に送り込んでくるなんて。というかアナタ、ここに住んでるのに何も気が付かなかったんですか?」
「住んどるがこんなクソでかい迷宮の事を隅々まで知っとるわけあるか。数日前に黒玄の連中に冒険者組合経由で依頼がいっとる。だがな、異変を嗅ぎとった蜥蜴共が縄張りを広げようと別階層にも出てき始めててそっちの対応に追われとるわ」
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「まぁ大体そういう事ですね」
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「まぁ自宅の周りに不審者みたいなもんですもんね」
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