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4章
【118】
しおりを挟む連休も残り3日。
アタシは今、ガイウス邸の塀の上を走ってる。
「外には出て無いみたいだから茂みに隠れているのかもだって」
「了解。ぐるっと見渡してみるわね」
ダンスレッスンが始まって一週間くらい、ついにカシウスが逃げ出した。
ダンスの先生はお年のわりにスラっとしていて、姿勢の良い女性だった。
その界隈では有名な方らしく、厳格な雰囲気で接してくる。
ことカシウスに関しては特に厳しく、それは彼がへこたれるくらいに。
まぁ、先生とエイミラットにずっと厳しく当たれれてたら逃げ出したくもなるかな。
「見つけたわよ」
正直、超簡単にカシウスは見つかった。
体は茂みに隠れてるけど、足が出ちゃってるのよね。
身長もだいぶ高くなって体付きも大人になって来てるのに、そう言う所はまだまだ子供なのが愛らしい。
「カシウス様、戻りましょう」
連れ戻しに来たのはルーシとハマール。
ガイウスさんとテルティアは見つかったと分かって練習に戻ったみたい。
構って欲しくて隠れてた訳じゃ無いから甘やかすのはアタシ達だけで充分ね。
「カシウス様は良くやってるだよ。どんどん上手くなってるし」
「ハマールにダンスが分かるのか?何であんなにダメ出しされんだよ」
上達してるのはホントで、自負もあったんでしょう。
でも先生は褒めないから自信を失ったんでしょう。
「ハマールにあたるのは良くないよ」
「‥‥そうだね。ごめん」
「そんなの良いだ」
「ボクにも厳しいけど、ボクより上手なカシウスにも厳しいのは期待されてるから何だと思うよ」
成り行きでルーシも一緒に練習してる。
ルーシは動きを覚えるのは早かったけど情緒的じゃないと言うか、音に合ってるけど乗ってないみたいな。
間違えないし、ぎこちなく無いけど向いてないって感じ。周りと比べるとね。
今後はもっと音楽にも触れさせてあげた方がいいかしら。
それに比べてカシウスは間違えるけど、全身が音に合っている様になって来ている。
披露する場が場だからハイクオリティを求められてるから厳しいんだろうなぁ。
そこまでの伸び代があるから何だったら、『期待されてる』って表現も外れてはいない。
「ミュー」
カシウスの頭の上に乗ってあげる。
「ナナチャも頑張ってって」
「‥‥分かったよ。ルー兄も関係ないのに付き合ってくれてんだしな」
おっと、いつもより視界が高いから急に立たれるとびっくりしちゃう。
リビングを片付けて練習場にしている。
床は元々フローリングの上に全面カーペットを引いていたらしく、今は板目。
家具などは取り敢えずダイニングに移動したちゃってるので当分お客さんは呼ばないのかな。
「1、2。1、2」
ガイウスさんとテルティアが先生の手拍子に合わせて踊っている。
先生はカシウスが戻って来たのに特段反応なし。視界には入ってるだろうけど。
「はい、そこまで。御二人は休憩なさって下さい」
そう言って先生はカシウスを見つめる。
貴方を待ってますよって感じなので、カシウスはちょっと覚悟を決めて前に出た。
「カシウス様、無断で御休憩されたのですから、まずは一言御挨拶されるのが筋ではありませんか?」
間違った事言って無いけど、エイミラットより厳しいくて愛の感じない怒られ方って、カシウスされた事ないんじゃないかな。
「ああ、ごめん‥‥」
「私は貴方程高貴な身分ではございませんが今は貴方の師です。それに迷惑が掛かったのは私だけではございませんので、言葉をお選びになって下さい」
「‥‥ゴメンなさい」
いつにも増して怖い。
プットリーも彼女に師事しているらしいけど、泣かしちゃってるんじゃない?
「はい。ではエイミラット様をリードなさって下さい」
ここから夕食時までみっちりカシウスの練習。当然の様にしごかれちゃってる。
テルティアは傍でちょこちょこルーシと練習してて楽しそう。
ガイウスさんはもうやる気がないわね。ずるい。
後2日はこれに付き合うのかぁ。早く学園始まらないかなぁ
「カシウスってそんな学園スキスキだったっけ」
連休後の登校初日の放課後、リドーが1日の思いの丈を口にする。
「別にそんな事ねぇし」
カシウスは表に出さない様にしていたのに、まさかのリドーに指摘されて動揺が隠せない。
「そうか?何だかすごく楽しそうに見えたけどな」
「そう言う訳じゃないよ」
「カシウスは連休中の習い事でしごかれてたから、学園のお陰で解放されたから嬉しいんだよ」
これからも休日はレッスン漬けらしいけどね。
「習い事って俺の修行と似た様なものか?」
平民のリドーには『習い事』って習慣はないのでしょうね。
「似てるかもな。でもお前と違って望んでやってるわけじゃないかな」
「なるほど。そりゃぁしんどいな」
そんな話をしながらアル達が来るのを待っていると、スフインが近寄って来た。
何ヶ月ぶりだろう、彼が話し掛けてくるなんて。
「おう、どうした?」
リドーも驚いているだろうに、至って普通に接している。
こう言う機会を待っていたのだものね。
「僕、べネルに行って来たんだ」
「マジか」
「ああ。bクラスになったお祝いに親父が連れてってくれたんだ」
「買ったのか?」
「もちろん」
「おお、すげーな! どうだった?」
盛り上がって声が大きくなってるのもあるのと、会話の内容からクラスの注目を集めている。
男子は興味津々で、女子は嫌悪感を抱いている様子。
それもそうね。べネルはダンジョン街だけど、色街なのも有名。
そんな街で『買った』なんて男が言ったらアレなのは思春期の子供が分からない訳が無い。
「べネルって夜も明るいよね」
ルーシが言う。
「ルーシ、べネルに行った事あるのか?」
「うん。2回くらいかな」
「買ったんか?」
「買うって何を?」
居たわ、分からない子がここに。
ルーシが理解していない事に胸を撫で下ろしてるクラスメイトがチラホラ。
「買うってほら、女をだよ」
「女の人を買う?雇うって事?」
「いや、それはな」
リドーも流石に周りが気になる様で、ルーシに耳打ちで説明してる。
そう言う話はアタシは関与しない方がいいかな。その方が健全だし。
「‥‥それって、雇わないと行けないの?ボク、お金払ってないや‥‥」
「そう言うわけじゃないけど‥‥ ってかルーシ、経験あるのか?」
「‥‥うん、まぁ」
「何人?」
「‥‥2人?」
ただ2人共、良い思い出とは言えない。
「おお!ルーシすげーな」
クラスがルーシを見る目が変わった様に思えた。
それが気に食わなかったのか、スフインは何も言わずに立ち去った。
怖い顔しながら‥‥
「あ、スフイン行っちゃった‥‥」
「ルー兄に話題取られて怒ったんじゃないか?」
「そんなつもりじゃなかったんだけど」
カシウスの言う通り、マウント取りたかったんでしょうね。
でもその方法近づいてくるのは願い下げだわ。
「そんな事より、ルー兄の相手って誰だよ。知っている人か?」
「ううん。カシウスの知らない人」
ルーシが嘘をついた。
1人は本当だけど、もう1人の事は言うべきじゃないってルーシでも分かる。
「なんか今、スフイン君すごい顔してたけど」
スフインと入れ違いでアル達が教室に入って来た。
「なにかあったの?」
「スフインが話し掛けて来たんだけどさ」
「え、ホント?」
「自慢しに来たんだけど、ルー兄にお株獲られて怒って行っちゃったんだ」
カシウスはスフインと仲良くなれなくても良いと思ってる節がある。
リドーの幼馴染だから口に出しては言わないけど。
「どんな自慢だったの?」
「連休中にべネル行って女買ったんだってさ」
「え‥‥」
シェルシエルが居るのにリドーは無配慮で話す。
彼女が嫌そうな顔をしたのも、アルも同じ様な顔をしたのもリドーは気付いてないみたい。
結構気の付く子だと思ってたけど、まだまだだった様ね。
「良いよなぁ。俺もそんな連休過ごしたかったなぁ」
「何言ってるの?自分で望んで修行してるんでしょ?」
「お、おお」
予想外なアルの激怒にリドー以外も面食らう。
「なのに、そんな邪な事思うなんて最低。リドーの変態、嫌い!」
そう言ってアルは先に出て行ってしまった。
そこまで怒るとは流石にアタシも思わなかった。
「追いかけたら?」
とシェルシエル。
「え、なんで」
「こう言う時、男は追いかけるものでしょ」
「え、でもアイツも男じゃん」
「あんた、まだそんな事言ってるの?いいから追いかけなさい!」
シェルシエルに蹴り飛ばされてリドーが教室を出る。
彼女の言う通りにアルはそちらに目覚めたのかしら。
その後、リドーとアルの間に何が合ったかは分からないけど、その後は普段通りに見えた。
ただ、シェルシエルがあんな事言うものだから着替えの時に、ただでさえ意識していたリドーとカシウスがより意識する様になってしまったじゃない。
アルも心なしか前より恥じらいがある気がする。
そん位のドキドキを抱きながら年度末試験を終え、休み明けにはルーシ達は2年生になる。
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