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4章
【116】死亡認定
しおりを挟む降りてきた有翼者は教会のローブを着ている。
ローブの中に何か防具を着ているようなゴワツキが見て取れるわ。
有翼者なんて言い方初めてしたけど、リネットみたいに翼の生えた人達ね。
「我々は本教会所属の者です」
有翼者の1人が言う。
並びからしてリーダーかな。
「私達はサンペリエ教会所属の異端審問官です」
「ええ。知っています」
リーダーが突然踵を返してしまったので、サブリーダーっぽい人が代わりに応えた。
リーダーは何やら何処かの誰かと通信している模様。
突然現れた本山の教会人なんて偽物感半端無いし、本物だとしたら上位階級だろうからか、ナミルとコリティスから警戒と少しの緊張が見える。
「知っている?私達は高位の神官では有りませんし、本教会の方と面識は無いはずですが」
「我々はメルヴィル大司教様の命でやって来ました」
そう言えばメルヴィルさんは本山の人になるんだっけ。
「確かにメルヴィル様とは面識がありますが、皆様に私共の話をする糸が見えません。そもそもどう言ったご用件でサンペリエに入らしたのですか?」
「その男達を引き取りに来ました」
「引き取りに?そんな話しは聞いていませんが」
「急遽、メルヴィル大司教様が下した判断です」
あまりにも淡白な返答しかしない副リーダー。
見下してんかしら。
「途中で外してしまい、申し訳ありません」
リーダーが戻って来た。こっちの人の方が話しやすそう。
「この魔信具で連絡を取って下さい。大司教様がお待ちです」
「なら私が」
コリティスがビー玉みたいなそれを受け取り、魔力を注いで黙り込む。
「でもどうしてここでこの者共と鉢合わせていると分かったのですか?」
「大司教様の従者のスキルで大体の位置は把握しておりました」
鳩が1羽、鷲の様に旋回して飛んでいる。
「もう少し早く辿り着いていれば全員捕縛出来たかも知れないのに。申し訳ありません」
アタシ的には仲間に致命傷も損傷も無いから問題無いと思うのだけど。
「声と口調もそうですが、合言葉が合っていたのでメルヴィル様に間違い無い様です」
合言葉なんて決めてたのね。
それに、いつも通信してたコリティスが言うのだから間違い無いのでしょう。
「女の事は、正当防衛による不慮の事故にしてくれるそうです」
あ、アタシがやらかしちゃったヤツだ。
今更だけど、あの女って雑魚な男共より重要人物だったりして。
メルヴィルさんも大目に見てくれるって言うし、他の奴らは生かしておけたから良しとしとく?
「確認出来たのでしたら、私達で拘束し直させて下さい」
有翼者達が4人を普通の縄で縛り終えるのを確認してから魔法を解除する。
「これが例のポーションですか‥‥」
「はい。効力は実験済みで、メルヴィル様も見ていらしたそうです」
「分かりました。では全て持ち帰ります」
男4人に死体が1つ。それに100近い量の瓶詰めポーションをいったいどうやって持ち帰るかと観察していると、1人が唱えた魔法で凧が5つ現れそれにくくりつけてる。
「『豪風』」
また別の人がそう唱えると凧の下だけに気流が発生し空高く浮き上がった。
便利な方法ね。あれなら逃げられないし重くもない。
ただ二手に別れて魔法使ってるって事は相当魔力消耗するのかも。
「我々はこのまま本教会に戻ります」
リーダーが会釈し合図すると有翼者達は一斉に飛び立ち、凧の綱を引きながら凄い速さで去って行った。
アタシやリネットより全然速い。あれなら1日でサンペリエ国内縦断も出来そう。
「なんだったんだにゃ」
ナミルが呆けている。
確かに風の様に現れ、去って行ったって感覚。
手柄も横取りされたような‥‥
「偽ポーションがサンペリエ以外でも出回り出したらしいですよお」
とコリティス。
メルヴィルさんと話した時に聞いた様。
「それで参考人は本山で聴取するんですってえ」
「何だか大事になってるんだにゃ。まぁナミル達が聴取しないで済むなら楽で良いかもにゃ」
「そうなんですかねえ」
「とりあえず今日の所は帰ろうかにゃ」
「そうですねえ」
何だかなぁって感じのまま、アタシ達は王都に帰還する。
「それじゃぁルーシ、またにゃ」
「ありがとうございましたあ」
2人と挨拶を交わして別れてからトーラカフェ。
「あらルーシ君、お帰り。早かったね。もういいの?」
セルヴィが接客がてら出迎えてくれる。
「うん。何だか早く済んだから」
「そうなんだ。なら明日にでもアルちゃんの所に顔出してあげて。とても心配していたから」
「うん、わかった」
それなら明日はカタスティマ・ジューイットに寄ってからガイウス邸に行こうかしらね。
翌日、カタスティマ・ジューイットの開店直後位に足を運ぶ。
「いらっしゃいませ。あ、ルーシ君!」
客が居ないからか1人で何やら作業をしていたアルが直ぐに気が付いて駆けて来た。
「お帰り。早かったね。大丈夫だった?」
「ただいま。うん、大丈夫だよ」
「あ、ルーシじゃないか」
いつもより騒々しいアルに何かあったのかと思ったのか、奥からリドーとジューイット夫妻がこぞって現れる。
ルーシが来からだと分かった夫妻は、「お客様が来たらちゃんと対応してね」と言ってリドーとアルを残してすぐに奥に戻って行った。
そんな気遣いしてくれる2人の元で修行出来るなんてリドーは幸せ者だね。
「アルがエロい格好の女にルーシが連れてかれたって騒いでたけど」
「騒いでないし、そんな言い方してない!」
「言ってたじゃないかよ」
「嫌らしい格好って言ったの!」
ナミルの事だろう。
彼女って布面積すくないけど、手足は虎の毛で覆われてるから肌はそこまで見えて無いのよね。
まぁ、男は好きそうだなとは思うけど。
「同じじゃないのか?で、ルーシどんな格好してたんだよ」
「んーと‥‥ 布が少なくて毛が沢山?」
「何だそれ、エロいどころじゃないじゃないか。そりゃぁ確かに嫌らしいだは」
アタシの思考が少し伝わってたのかな?
でもルーシ、その表現は悪いわ。絶対リドーは違う想像しちゃってる。
「なにそれヤらし。リドー嫌い」
まるで痴話喧嘩での女子の様な態度を取るアルに困惑したリドーがルーシに助けを求める様な目線を送って来た。
「エロいとか嫌らしいとかって何?」
リドーが絶望的な表情をする。
ルーシはそう言う知識には疎いのよ。
思春期真っ最中の男子なんだけどね‥‥
「とっ、とにかく、どんな仕事だったんだ?」
結局自分でフォローせざる負えないリドー。
『仕事』って言ったって事はある程度はちゃんと知ってるって事ね。
連れてかれたって聞いたってのは茶化して言ったのか。
そりゃぁアルも怒るわ。
「詳しくは言えないんだ。教会の仕事だから」
「教会?お前、教会で仕事してるのか?」
「うん。お手伝いだけど」
これには怒るの忘れてアルまでビックリしてる。
元冒険者で教会から直接仕事の依頼が来る小さな少年て、そうそう居るもんじゃないか。
ただ同時は小さな少年だったなんて大きくなれば想像付かなくなってくれるでしょう。
このまま背が伸びてけばガイウスさんと同じ位にはなれるだろうし。
あの人は175センチ位だったかな。
教会の仕事ならある意味安心だろうってのと、突っ込んで聞いちゃいけなそうなのは子供でも薄々分かっている様で、みんな無言の間が出来てしまった。
その間、何となくお店を見渡すと手配書が貼られているのに目が行った。
魔女や犯罪者の指名手配書ね。
国の決まりでお店、特に接客を伴う店舗には貼らなくちゃいけないらしい。
ただ、客も見える所なら何処でもいいので、トーラ・カフェなんかは雰囲気壊さない様にってカウンターの下に貼ってるわ。
ここもそれに近い形で、店の隅っこに貼ってあったから今まで気が付かなかった。
それじゃぁ貼る意味無くないかなぁとか思いながらぼんやりと見る。
イプノシーの手配書は無くなっている。死んじゃったからね。
ニコラのがあるってのが何だか心を締め付ける。
アタシ達と別れてから何があったのかしら‥‥
ニコラの似顔絵はかなり似ていて、鮮明に覚えている人の記憶を絵の上手い人に見せてるんじゃないかとアタシは考えている。
メルヴィルさんが間に入ってれば造作もないでしょ。
因みに、コピー機や所定の所にしか送れないけどファックスみたいな魔巧具が存在しているらしいので、こう言った情報は直ぐに出回る。
そんなのあるならカメラや写真があっても良さそうなんだけどね。
コピーする魔巧具をアタシは見た事無いんだけど、聞いた話しから想像すると、セットした魔石からレーザー見たいのが出て紙を焦がして文字を書くみたいな感じ何だと思う。
だから文字の外側が焦げが薄くて何となくぼんやりした感じに‥‥
「ミュー!!」
「ナナチャどうしたんだ?」
アタシの大きな鳴き声でみんなを驚かせてしまったけど、そんなのどうでもいい。
「ナナチャ、どうしたの?」
「ルーシ、あそこの張り紙の文字読んで見て!」
「なんか張り紙読んでって言ってる」
「張り紙ってあの手配書とかか?」
「そうみたい‥‥ その隣にある文字だけの方だって」
アタシが何で騒いだのか説明してくれたから3人で同じ物を読み出した。
「『行方不明者一覧』」
教会が把握している全世界の行方不明者リスト。
名前の横に性別、生年月日、出身国、特徴と消息をたった場所が記載された行が羅列している。
流石に一覧は読み上げずに流し読む。
「『死亡認定者』」
行方不明扱いの期間が終わり死亡した事なったり、旅先の事故や災害で死亡した人が書かれている。
今、書かれているのは1人だけ‥‥
「セドリック・ウィンゲート‥‥」
「知り合い?」
「うん‥‥」
「行方不明だったの?それとも旅に出てだとか‥‥」
セドリックはここに記載されてる様な死に方じゃなかったはずなのに。
旅先っちゃ旅先で、遺体が行方不明だけども‥‥
ジークリットさんなら何か知ってるかな。
「‥‥ごめん、帰るね」
ルーシはお店を出て、ギルド本部に向かった。
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